ロンドン警視庁特殊犯罪課シリーズとは、ベン・アーロノヴィッチによるファンタジー小説のシリーズである。2011年から刊行され、うち4長編が日本語訳されている。イギリスやアメリカでは同作のTRPGやグラフィックノベルが発売されている。
『ロンドン警視庁特殊犯罪課シリーズ』では現代のロンドンを舞台とし、魔術を使って犯罪を取り締まる警察官を主人公としたモダン・ファンタジーであり、警察小説でもあり、また歴史改変SFの側面も持つ。ロンドンの地理やや歴史や風俗が織り込まれ、『指輪物語』、『ハリー・ポッターシリーズ』、『氷と炎の歌』などの他の魔法ファンタジーなどがジョークの種として言及される。イギリスでの小説シリーズのタイトル『Rivers of London』を日本では『ロンドン警視庁特殊犯罪課シリーズ』と訳している。
シリーズの世界は、表面的には現実世界と何の違いもない。だがその裏には魔術、吸血鬼、妖精、川の神々などの超自然的存在があり、ごく少数の人々には知られている。偉大なる科学者アイザック・ニュートンは魔術を体系化した人物でもあり、彼以後の魔術師は”アイザックス”とも呼ばれている。第二次大戦では、両陣営とも魔術師を動員した殲滅戦を戦ったため、戦後に魔術師の数は大いに減じた。だが大部分の人々はそのような歴史も、現在も残る超自然的な存在も知ることはない。ロンドンで起きる”奇妙な”事件は特殊犯罪課にまわされ、まっとうな警官は常識的な事柄しか報告書に書かない。特殊犯罪課は100年以上を生きる最後の魔術師一人によって運営され、魔術はやがて消えていくものであると、多くの人が信じていた。
だが、突然に”奇妙な”犯罪が増え、特殊犯罪課は50年来で初めての新人課員を加えることになり、魔術師の弟子として訓練を受ける。主人公のピーター・グラントは労働者階級の出身で、黒人の血をひく見習い警官である。ピーターはあまりに世俗的な川の神々、妖精、吸血鬼、トロール、ドリュアスなど、超自然的な存在とかかわりながら魔術の訓練を受け、恐るべき犯罪を解決しなくてはならない。
シリーズでは建築やジャズの蘊蓄が饒舌に語られ花を添える。このシリーズの一方の主役はロンドンであり、その名所や歴史が愛情をこめて描かれる。
2019年にリリースされた中編"October Man""はドイツを舞台とし、先立つシリーズと同じ世界でピーター・グラントと同様の立場の警察官のトビアス・ウィンターを主人公とする。
また2022年にアメリカのケイオシアム社から『Rivers of London』というタイトルで同小説のTRPGが発売された。
2022年7月、イギリスの制作会社”See-Saw”と"Pure Fiction Television"と”Unnecessary Logo”がシリーズのテレビドラマ化が決定したと発表した。2023年11月、ジョン・ジャクソンが思た脚本家になると発表された。
日本では早川書房が4長編小説を出版している。
ピーター・グラント
父は引退した著名なジャズ・ミュージシャン、母親はシエラレオネ出身の黒人で郊外の団地の労働者階級の出身。ロンドン警視庁の見習巡査であったが、書類仕事の職場に回されるところ、幽霊と話すという特殊な才能を発揮して特殊犯罪課に配属され、この50年で初めての魔術師の弟子となる。警視庁に就職する前は建築家を目指したことがあり、建築には造詣が深い。注意力散漫な欠点があるものの、コンピュータなどの現代テクノロジーにも通じており、特殊犯罪課に新風を吹き込む。捜査の過程で大規模な破壊を伴う大騒ぎを引き起こす傾向がある。
トーマス・ナイティンゲール
1900年に生まれた100歳を超える"最後の魔術師"であるが、1970年ごろから若返り始め、40代にしか見えない。特殊犯罪課主任警部かつ唯一の課員でもあり、警視総監に直接報告する。現代のテクノロジーには疎いがジャガーを乗りこなし、ラグビーのテレビ観戦を楽しむ、上品で教養深い英国紳士。愚壮館(ザ・フォリー)は特殊犯罪課があるだけでなく課員の住居でもあり、外界とは接触を絶ってこの館に住む。
レスリー・メイ
ピーターの同期であるが優秀な警官で、一時は殺人課に配属される。幽霊の絡む事件で顔に治療不可能な重傷を負って休職するが、魔術の才能を発揮して特殊犯罪課に加わる。後に特殊犯罪課を裏切り、"顔のない魔術師"の味方となって姿をくらます。
モリー
長年愚壮館に住むメイドであるが、口をきかず、通常より歯の多い謎の妖精。愚壮館を離れることがない。
トビー
幽霊を感じることのできる、愚壮館の飼い犬。
リチャード・”ロード”・グラント
ピーターの父。かつての著名なジャズ・ミュージシャンだが、ヘロイン中毒のために唇を痛め、トランペットが吹けなくなって引退状態となっている。
ミセス・グラント
ピーターの母。シエラレオネ出身の黒人で、掃除婦。
アビゲイル・タマラ
ピーターの従妹の厄介な詮索好きのティーンエージャーであり。魔術の才能がある。
ドクター・アブドゥル・ウォリッド
イスラム教に改宗したスコットランド人で、世界で唯一の神秘病理学者。特殊犯罪課にからむ解剖や治療を引き受ける。
ドクター・ジェニファー・ヴォーン
ドクター・ウォリッドの同僚となった神秘病理学者。
ハロルド・ポストマーティン
オックスフォード大学教授で魔術の歴史を研究する学者。
アレグザンダー・シーウォル
ロンドン警視庁殺人課主任警部。かつてはレスリーの上司であったが、第一作での負傷の後しばらく休職となる。
ミリアム・ステファノポウラス
ロンドン警視庁殺人課部長刑事でシーウォルの右腕。敏腕な恐るべきレズビアン。
サーラ・グリード
ロンドン警視庁殺人課刑事。イスラム教徒の女性。
フランク・キャフリー
消防署内での特殊犯罪課の連絡係で協力者であり、予備役のパラシュート隊員。種々の荒っぽい仕事を引き受ける。
ジャゲット・クーマー
鉄道警察巡査部長。鉄道がらみの不自然な事件を引き受ける。
キンバリー・レイノルズ
FBI捜査官、ロンドンでアメリカ人が巻き込まれた超自然的事件を担当し、ピーターと知り合う。
ファーザー・テムズ
テムズ川上流の主神たる男神。以前は古代ローマ時代のブリトン人。下流の汚染を嫌って上流に引っ越した。
オクスリー
ファーザー・テムズの"息子"で上流の神々の中の実力者。もとは中世の修道士。
イシス
オクスリーの妻。
アッシュ
ファーザー・テムズの"息子"である若者。
マザー・テムズ
テムズ川下流の主神で女神。かつてテムズ川に身投げをしたナイジェリア出身の黒人の看護婦であった。
エフラ
マザー・テムズの"娘"で支流の女神。
オベロン
エフラの愛人。
フリート
マザー・テムズの"娘"で支流の女神。
タイバーン
マザー・テムズの"娘"で支流の女神。オクスフォード大学出身で野心家であり、さまざまなコネクションを通じて有力者を動かす。たびたびピーターの敵となる。
ビヴァリー
マザー・テムズの"娘"で支流の女神。ピーターの恋人、のちに妻。
ザッカリー・パーマー
半妖精(デミフェ)。ロンドンの超自然的な世界に通じた情報屋でもある。
レイナード・フォックスマン
やはり妖精の血を引く、ロンドンの超自然的な世界に通じた情報屋。
顔のない魔術師
かつてオクスフォード大学のリトル・クロコダイル・クラブで密かに魔術の指導を受けた人物、あるいはその人物に指導を受けた邪悪で強力な魔術師。顔を見られない術を常時使う。
ヴァルヴァラ・シドロヴナ
ロシアの”夜の魔女”であり。第二次大戦で戦った90歳ほどの人物だが、中年にしか見えない。顔のない魔術師のために働き、一時はその仲間の看護婦を装って暮らす。
レディ・ヘレナ・リンデン=リマー
代々魔法を伝えてきた貴族女性。
ステファン・ヒギンズ、パトリシア・チン
アメリカの"図書館員"と呼ばれる魔術師グループのメンバー
未訳となる英語の『Rivers of London』のTRPGでは、原作のキャラクターがNPCとして登場し、プレイヤーはスコットランドヤードのロンドン特殊犯罪課の刑事や警官、警察関係者や協力者となり、魔法使い、吸血鬼、妖精、幽霊、河川の神など超常現象に関わる事件を解決する。現代のロンドンを舞台にした明るい雰囲気のモダンファンタジーのゲームである。
プレイヤーはロンドン特殊犯罪課のメンバーとなるため、職業によっては魔術を習得することができ、レベルアップすることで魔術の腕を成長さられる。また、魔術を使用した痕跡は指紋のように個人ごとに異なり、視覚や聴覚など五感を通して魔術の痕跡を感じ取ることで、事件を捜査する上で重要な情報を入手することができる。ゲーム内では遊ぶシナリオのことを警察にちなんでケースファイルと呼んでいる。
『Rivers of London』のTRPGはクトゥルフ神話TRPGのゲームデザインに関わったポール・フリッカーが製作に参加している。そのため『Rivers of London』のTRPGの基本ルールブックの項目内では『新クトゥルフ神話TRPG』と『Rivers of London』のTRPGのデータをコンバートしたり、二つのTRPGの世界観を共有して遊ぶ方法を言及している。
『Rivers of London』のTRPGは、コアルールに新クトゥルフ神話TRPGと同じ ベーシック・ロールプレイング(Basic Role-Playing) システムを採用している。2つのゲームのルールに違いがあるが、コアルールが同じためデータのコンバートは比較的容易である。『Rivers of London』のTRPG内ではロンドンの警察組織情報や警察の様々な捜査方法、現代のロンドンでの生活や文化などを詳しく解説しており、『新クトゥルフ神話TRPG』で現代のロンドンを遊ぶためのサプリメントとしての価値も見出せる。
2つのTRPGのデータのコンバートや世界観を共有して遊ぶ場合、ロンドン特殊犯罪課シリーズの世界観にクトゥルフ神話を組み込んで遊ぶことができる。その際、クトゥルフ神話はロンドン特殊犯罪課シリーズの世界において禁断の知識となり、クトゥルフ神話や神話生物は魔術師の間でも知られてない闇の魔術となる。『Rivers of London』のTRPGの作風はクトゥルフ神話に寄せたコズミックホラーやダークファンタジーの作風で遊べる。
逆に『新クトゥルフ神話TRPG』にロンドン特殊犯罪課シリーズの設定を導入した場合、『新クトゥルフ神話TRPG』をライトな雰囲気で魔術を取り扱う現代のロンドンの刑事もののゲームとして遊ぶこともできる。
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最終更新:2025/12/16(火) 06:00
最終更新:2025/12/16(火) 06:00
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