信用創造(money creation)とは、銀行が初めに受け入れた預金よりもずっと多くの金額を貸し付けることができる現象を指す言葉である。
銀行は、企業・家計に貸し付けることによって、見かけ上の預金額をどんどん増やすことができる。このため預金創造とも言われる。
「銀行は、万年筆で預金通帳に金額を書き込むだけで預金を創造できる」と説明されることがある。この説明を万年筆マネーという。ジェームズ・トービンという経済学者が言い始めた言葉である。
1万円を預金している預金者を100人抱えるニコニコ銀行があるとする。このとき、ニコニコ銀行の持っている預金額は100万円である。この、預金者から集めた預金を本源的預金という。
ニコニコ銀行のもとに、ドワンゴ工業という会社が「90万円を貸してください。その90万円で工作機械を買って事業拡大したいんです」と言ってきたので、ニコニコ銀行の営業部は融資を決意した。
金を貸すと言っても、90万円の札束をポンと渡すのではない。ドワンゴ工業という会社がニコニコ銀行に開設している口座に、90万円の預金額を新たに書き入れるだけである。これを信用創造といい、この信用創造によって、ニコニコ銀行の持つ預金額は190万円に増加した。
ドワンゴ工業は90万円を支払ってカドカワ商事から工作機械を購入した。カドカワ商事はニコニコ銀行に口座を持っていたので、ドワンゴ工業からカドカワ商事へ銀行振り込みが行われ、ニコニコ銀行の持つ預金額は190万円で変わらなかった。
その次に、ひろゆき農業という会社が「110万円を貸してください。その110万円で苗木を買って、新たな果物を収穫して事業拡大したいんです」と言ってきたので、ニコニコ銀行の営業部は融資を決意した。
またしても、ひろゆき農業という会社がニコニコ銀行に開設している口座に、110万円の預金額を新たに書き入れるだけである。これでニコニコ銀行の持つ預金額は300万円にまで増加した。
ひろゆき農業に貸し付けた110万円は、預金者から集めた100万円よりも多い額である。このように、銀行の貸し付け業務というのは、もともとの預金額(本源的資金)に制約されず、もともとの預金額よりも多い金額を貸し付けることが可能である。
これを延々と繰り返すと、ニコニコ銀行は1億円の融資をすることも理論的には可能である。「100万円の預金を元手にして、自分の銀行の預金額を1億円にする」ということになる。
A銀行がXさんに100万円を融資するとする。その時、銀行はXさんの預金口座に100万円の数字を加算して書き変える。その時、Xさんの口座の預金という形で銀行に100万円分の負債が計上され、貨幣が100万円分新たに創造される。Xさんが100万円を銀行に返済すると、貨幣が市中から100万円分消滅し、銀行の負債が解消される。
以上である。
口座の残高を書き換えるだけで貨幣が生まれるので万年筆マネーと呼ばれる。通常の金貸しと銀行が違う点は準備預金に制限されない点と、信用創造ができるという点である。
この時、銀行には貸し出しのための資金は全く必要ないし、貸し出しのために市中から資金を回収することもないし、又貸しの相乗効果なども存在しない。発行上限も法律で定められた準備預金残高の約77倍までという制限以外は存在しない(この数字も特に科学的根拠はない)。強いて言えば借り手の返済能力が融資の上限となる(英語にはない信用という言葉はここから来たものか?)。例えば年収200万の人に10億円貸しても一生かけても返済できないだろうと予測される。銀行の貸付は銀行の負債として計上されるので、返済されないと銀行の負債が積み上がり経営が困難になる、ということである。
商品貨幣論の項にあるように貸し出し原資(中央銀行に保有する当座預金残高)が必要であれば、その資金を上回る貸し出しができない。しかし、原理上銀行はその資金をはるかに上回る融資を即座にできる。貸し出しの繰り返しにより預金が増え、貸し出しできる上限が増える、という説明は、銀行の保有する予算に制限されるということであり、実務を記述できていない。
銀行に準備預金(日本なら日銀当座預金)が存在する理由は、貸し出しのための原資を確保するためではなく、銀行間の負債の決算や預かった税金の納税などのに使うためである。例えばA銀行からXさんに100万円を融資した後、XさんがA銀行の口座からB銀行の口座に100万円を移動させると、A銀行の負債がB銀行に移動してしまう。B銀行はXさんに貸し出していないにも関わらず、負債を追ってしまう。このような場合に銀行間の負債の決算を行わなければならず、中央銀行の当座預金にある程度の預金が必要になるため、銀行は資金を市中から回収しようとするのである。
つまり信用創造という言葉は、貨幣とは銀行に借金することによって創造されるものであり、貨幣=誰かの借金、ということを説明する言葉なのである。通常市中に回る貨幣の大部分が政府が信用創造により発行した貨幣が元となっており、国の借金=政府による貨幣発行総量、紙幣=政府負債の証書、ということになる。貨幣発行権を持つ政府において、貨幣発行総量はバランスシートの構造上借金として計上されてしまうだけであり、民間の借金と同じ性質のものとみなすことはできない。政府の負債が自国通貨建てであればすべてを返済する必要はないし、すべてを返済しないことで市中に貨幣として供給され続ける。もし返済期限が来れば新しく借金して貨幣を発行し、古い借金の返済に充てればよい(借り換えという)。政府が中央銀行に借金するという行為は、自分が自分に借金しているようなものであり、借り換えは右のポケットから左のポケットにお金を移動させただけなようなものなのである。国の借金で財政破綻するという説があるが、政府が自国通貨を発行しすぎたことが原因となって財政破綻するという現象は普通の政府では起こり得ない。
日本国内の民間銀行も、信用創造で自分の銀行の預金額を増やしている。貸し付けるたびにどんどん預金額が増えていく。
ところが、預金を無限に増やすことは許されていない。すべての民間銀行が貸付金額を増やしすぎると、激しいインフレ(バブル経済)を招くことが危惧されるからである。
準備預金制度というものがあり、日本の民間銀行は、預金額の一部を必ず日銀に預けねばならない。保有する預金額に対して、日銀当座預金(民間銀行が日銀に開設する口座に預けるお金)の額が決まっている。その割合を準備預金率という。預金額の0.05~1.3%を日銀当座預金に預け入れねばならない。
準備預金率1.3%の民間銀行は、預金額の1.3%を日銀当座預金に預けなければならない。
預金額×0.013=日銀当座預金
これを逆に言うと、次のようになる。
準備預金率1.3%の民間銀行は、日銀当座預金が10億円である場合、769億2307万円まで預金額を増やせる。
預金額=日銀当座預金÷0.013
先ほども述べたように、貸し付けるとその瞬間に預金が増える(信用創造)。貸し付けるというのは、預金を増やすと言うことと同じ意味である。したがって、次のような表現が可能になる。
準備預金率1.3%の民間銀行は、日銀当座預金が10億円である場合、769億2307万円に預金額が膨らむまで、貸し付けできる。
貸し付けによって到達させることのできる預金額=日銀当座預金÷0.013
このように、準備預金制度によって預金額を増やすこと、すなわち貸し付けを増やすことを防いでいる。信用創造を無限に行わないようにしている。
しかし、準備預金の約77倍という数字は結構大きなものであり、その上限に達するだいぶ前にバブルがはじけるのが普通である。
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最終更新:2025/12/12(金) 03:00
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