収穫加速の法則(The Raw of Accelerating Returns)とは、テクノロジーは指数関数的に発展するという法則である。 アメリカの発明家であり未来学者であるレイ・カーツワイル氏によって提唱された。
広義には「進化の速度は本質的に加速していく」という法則でもある。
この法則は、進化のプロセスにおける産物が、加速度的なペースで生み出され、指数関数的に成長していることを表すものだ。
『ポスト・ヒューマン誕生』 レイ・カーツワイル著、井上健監訳 P.55より引用
レイ・カーツワイルは、2000年に刊行された自著『The Age of Spiritual Machines: When Computers Exceed Human Intelligence』(邦訳版は2001年)において収穫加速の法則を発表した。 その原則は次のようなものだ。
生物の進化と人間によるテクノロジーの発展の両方の主要な出来事を1つのグラフに同時に表す(x軸に現在までの時間、y軸にパラダイム・シフトにかかる時間をとり、どちらも対数目盛で表す)と、かなり直線に近いものが得られ、技術的な進化は、生物学的な進化の延長上にあるということがわかる。
| 現在までの年数 | 次のパラダイムまでの年数 | 出来事(パラダイム) |
|
3700000000
|
2400000000
|
生命の誕生 |
|
1300000000
|
750000000
|
真核細胞、多細胞生物 |
|
550000000
|
220000000
|
カンブリア紀の大爆発(身体設計の多様化) |
|
330000000
|
135000000
|
爬虫類 |
|
195000000
|
113500000
|
哺乳類 |
|
81500000
|
49000000
|
霊長類 |
|
32500000
|
25500000
|
ヒト上科 |
|
7000000
|
3100000
|
ヒト科 |
|
3900000
|
2100000
|
ヒトの先祖が二足歩行 |
|
1800000
|
800000
|
ヒト属、ホモ・エレクトス、特化された石器 |
|
1000000
|
700000
|
話し言葉 |
|
300000
|
200000
|
ホモ・サピエンス |
| 100000 |
75000
|
ホモ・サピエンス・サピエンス |
| 25000 |
15000
|
絵画、初期の都市 |
| 10000 |
5000
|
農業 |
|
5000
|
2490
|
文字・車輪 |
|
2510
|
1960
|
都市国家 |
|
550
|
325
|
印刷・実験的手法 |
|
225
|
95
|
産業革命 |
|
130
|
65
|
電話・電気・ラジオ |
|
65
|
38
|
コンピュータ |
|
27
|
14
|
パーソナル・コンピュータ |
(上の表は2005年時点のもの グラフと対応させるためにインターネットや携帯電話などは含めていない)
カーツワイル以外が作成した14の著名なパラダイムのリストをグラフ化しても同様の結果が得られている。 (したがってカーツワイルが出来事を恣意的に選んでいるという批判は無意味だ)
トランジスタの集積密度は18〜24か月ごとに倍になる、というムーアの法則は有名だが、集積回路はコンピューティング・システムにおける第一のパラダイムではない。(グラフ参照)
既に20世紀初頭から、電気機械式計算機→リレー式計算機→真空管→単体のトランジスタ、という4つのパラダイムを経ており、集積回路は第5のパラダイムだ。 第6のパラダイムはカーボンナノチューブなどを使った三次元の分子回路だと考えられている。
コンピュータの能力を、人間の脳を比較対象として計る場合、例えば次の3つが考えられる。
| ①人間の脳の機能のシミュレーションに必要な計算能力 | 1014~1016cps |
|
②人間の脳のアップロードに必要
|
1019cps |
|
③地球上の人間の脳すべて
|
1026cps |
(cps=calculation per second、1秒あたりの計算回数。 cps≒flops)
①について、2008年11月時点では、IBMのスーパーコンピュータRoadrunnerが約1P(ペタ)FLOPS≒1015cpsを達成している。 最も保守的な値である1016cpsは、2012年完成予定のIBMのSequoiaなどによって実現する可能性が高い。 もしこのまま指数関数的成長が続いた場合、②は2025年ごろ、③は2045年ごろ実現すると予測されており、レイはこの2045年を技術的特異点(後述)と設定している。
1MIPSのコンピュータが1000$で買えるようになるまでには90年かかったが、今では5時間ごとに1000$あたりのMIPSが1ずつ増加している。 コストパフォーマンスの指数関数的な傾向から、1016cpsのコンピュータが2025年ごろに、1019cpsのコンピュータが2030年代の初めに、1026cpsのコンピュータが2049年に、1000$で買えるようになると予測できる。
近年の未来の予測は外れることが多い(と思われる)。 収穫加速の法則にのっとって考えると、その原因の多くは、「直観線形的」展望(直線的な進歩)に基づいた予測のせいだとわかる。 歴史的に指数関数的に進歩してきたにもかかわらず、人は今の進歩率がそのまま未来まで続くと直観的に思い込む。 「長年生きてきて、変化のペースが時代とともに速くなることを身をもって経験している人でさえ、うっかりと直感に頼り、つい最近に経験した変化と同じ程度のペースでこれからも変化が続くと感じてしまう。」 特に最近はテクノロジーの進歩が指数関数の折れ曲がり地点に近付いているために、その傾向が顕著であるように思える。
また、指数関数的にテクノロジーが発展するということは、近未来であればあるほど、テクノロジーの発展が指数関数的に遅いということでもある。
例えば、コンピュータの性能が1年で2倍向上する(200%の能力を有するようになる)とすると、基準時点から半年後では1/2倍(150%)、3か月後では1/4倍(125%)、1.5か月後では1/8倍(112.5%)しか向上しない。 したがって、あまり近い未来の予測では、人々の期待が実際の進歩に打ち勝ってしまうということが多々ある。(例えば、19世紀のイギリスで発生した鉄道バブルや、1999年~2000年のインターネット・バブル、映画で予想された未来など)
さらに、予測をするときに現在のあるひとつの傾向から予想される変化のみに着目してしまい、他の事柄が何一つ変わらないという前提を立ててしまうこともその要因の1つだ。 カーツワイルは、「寿命が伸びすぎると、人口が過剰になり、限りある資源が枯渇して生活が成り立たなくなる」という懸念を挙げて、「ナノテクノロジーや『強いAI』を用いてその分に見合った大きな富を産出できることが忘れられている」と指摘している。
現在のところ、新しいパラダイムを採用するまでの時間が、10年ごとに半分になっている。 テクノロジーの進歩率はパラダイム・シフトの起こる率と連動しているので、この率でいくと、21世紀のテクノロジーの進歩は、西暦2000年の進歩率で200世紀分の進歩に相当することになる。
カーツワイルは、収穫加速の法則によりこのままテクノロジーの発展が指数関数的に進むと、2045年ごろまでに技術的特異点に達すると予測する。
特異点とはなにか。テクノロジーが急速に変化し、それにより甚大な影響がもたらされ、人間の生活が後戻りできないほどに変容してしまうような、来るべき未来のことだ。 それは理想郷でも地獄でもないが、ビジネス・モデルや、死を含めた人間のライフサイクルといった、人生の意味を考える上でよりどころとしている概念が、このとき、すっかり変容してしまうのである。
レイ・カーツワイル、『ポスト・ヒューマン』P.16より
一般には、「強いAI」や人間の知能増幅が可能となったときが技術的特異点になると考えられている。 知能の爆発的発展があり、人類は置いていかれるだろうと懸念する人もいるが、カーツワイルは人間自身も今の肉体からより高度な処理を高速に行なうことのできるシステムに移行することで,ついて行くことができると主張している。
カーツワイル氏の著書『The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology』(2005)は全米でベストセラーになっている。 この法則に対して様々な意見があるようだが、今のところ法則自体に対する有力な反論はないようだ。 海外の特異点論者には広く受け入れられている。 国内では技術的特異点などについての議論は活発ではない。というよりほとんど見かけない。
収穫加速の法則は、生命誕生から現在に至るまでの約40億年の進化の様子から見出された経験則であるため、否定することは難しいように思える。 これまで連綿と続いてきた指数関数的発展がいきなり10年後に減速や停滞するとは考えにくい。 ただ、この法則はあくまで帰納的な推論によるものであり、科学的な結論ではない。
人間という種は生まれながらにして、物理的および精神的な力が及ぶ範囲を、その時々の限界を超えて広げようとするものだ。
──レイ・カーツワイル(発明家・未来学者・思想家、1947~)
誰しも、自分の想像力の限界が、世界の限界だと誤解する。
──アルトゥル・ショーペンハウアー(哲学者、1788~1860)
過去を遠くまで振り返れば、未来もそれだけ遠くまで見渡すことができる。
──ウィンストン・チャーチル(政治家、1874~1965)
20億年前、われわれの先祖は微生物だった。5億年前は魚だった。1億年前は、ネズミみたいなものだった。1000万年前には類人猿だった。100万年前には原人で、火を使うことを発見していた。われわれの進化の系譜の節目には、圧倒的な変化がみられる。現代では、変化の起こるペースが速くなっている。
──カール・セーガン(天文学者・SF作家、1934~1996)
「未来は予測できない」とは、言い古された文句だ・・・・・・。だが、・・・・・・[この見通しが]間違っているときには、根本的に間違っているのだ。
──ジョン・スマート(未来学者、1960~)
文明は、何も考えずに行えるような重要な作業の数を増やしていくことで進展する。
──アルフレッド・ノース・ホワイトヘッド(数学者・哲学者、1861~1947)
過去ずっとそうだった姿より、現在の姿のほうが、そのものの本質に近い。
──ドワイト・D・アイゼンハワー(第34代合衆国大統領、1890~1960)
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で述べられているように、我々がこれから行こうとする場所には、道など必要ないのです。
──ロナルド・レーガン(第40代合衆国大統領、1911~2004)
わたしたちは、自分が何者かを知っている。だが、何になりうるかは、知らない。
──ウィリアム・シェークスピア(劇作家・詩人1564~1616)
人類の後継者となるものはなんだろう。われわれ自身が今,創造しているもの、それが答えだ。やがて機械に対する人間の位置づけは、人間に対しての馬や犬に等しいものとなるだろう。つまり機械は生命をもっている、もしくはもつようになるのだ。
──サミュエル・バトラー(作家、1835~1902)
ロボットは地球を受け継ぐのかって? きっとそうなる。だが、彼らはじきにわれわれの子供になるのだ。
──マーヴィン・ミンスキー(コンピュータ科学者・認知科学者、1927~)
機械はどんどん人間のようになっていき、人間はどんどん機械のようになっていく。
──ロドニー・アレン・ブルックス(ロボット工学教授・MITコンピュータ科学・人工知能研究所所長・iRobot社取締役、1954~)
生きている間に、どうしてもやりたいことがある。私は、サイボーグになりたい。
──ケヴィン・ウォーリック(レディング大学教授、1954~)
無限に小さいものの役割は無限に大きい。
──ルイ・パストゥール(生化学者、細菌学者、1822~1895)
科学は知識の集大成であり、知恵は人生の集大成である。
──イヌマエル・カント(思想家・哲学者、1724~1804)
ググれカス
──ググレカス(検索家・思想家、前100~???)
もしあらゆる道具が他者の意志のままに、あるいは他者の意思を慮って仕事を成し遂げるなら、もし動かす手がないのに機の杼が織物を織ったり、ピックが竪琴をつま弾いたりするなら、親方は職人を、主人は奴隷を必要としなくなるだろう。
──アリストテレス(哲学者、前384~前322)
わたしは、ごくふつうに死に、数人の友とともにマディラ酒の樽に沈められたい。時期が来るまで。それから、わが愛する祖国の太陽のぬくもりで、この世に呼び戻されたい!だがわれわれが生きているのは科学の萌芽期ともいうべき世紀であり、その進歩は微々たるもので、生きている間にそのような技術の完成をみることはできそうにない。
──ベンジャミン・フランクリン(政治家・著述家・物理学者・気象学者、1706~1790)
もし・・・・・・ある科学者が何かは可能だといったら、彼はほとんど確実に正しい。しかし不可能だと言ったら、彼はおそらく間違っている可能性が高い。
──アーサー・C・クラーク(SF作家、1917~2008)
以下の動画で科学技術の指数的な成長の片鱗を感じられるかもしれない。
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最終更新:2025/12/07(日) 06:00
最終更新:2025/12/07(日) 06:00
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