塩化ナトリウムの入っていない塩とは、
時折話題に上がる、本来は存在しないはずの謎の調味料。
塩(しお)、すなわち食塩の主成分は塩化ナトリウムである。このことは、遅くとも中学校の理科で化学式を取り扱う際などに学習するので、食事・健康関連の文脈で「塩化ナトリウムの入っていない塩」と書くと「そんなものはない」と指摘されることが多い。
基本的な調味料として重要。日本人は一日に食塩換算で10g程度の塩分を摂っているようである。塩化ナトリウム(NaCl)を主成分とし、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどの成分も少量含んでいる。
(ニコニコ大百科「塩」)
塩(しお、英: salt)は、塩化ナトリウムを主な成分とし、海水の乾燥・岩塩の採掘によって生産される物質。
(Wikipedia「塩」)
塩辛い味をもった物質。海水または岩塩から製し、精製したものは白い結晶で、食生活上なくてはならない調味料。また、日本ではいろいろな場で「清め」の材料として用いられる。塩化ナトリウム(NaCl)を主成分とし、工業用にも重要な物質であるが、一般には食塩をさしていう。
(精選版 日本国語百科事典「塩」)
塩化ナトリウムNaClを主成分とする物質で、動物体にとっては生理的に不可欠のものである。
(日本大百科全書「塩(しお)」)
「塩化ナトリウムがそれほど入っていない塩」であれば存在する。
ただし、塩化ナトリウム自体は通常より少ないながらも入っていることが多い。
「塩分をカットした食塩」「減塩しお」などは実際に販売されている。これは塩化ナトリウムのうち数十パーセントを塩化カリウムに置き換えたものを指すようだ。
ただし、これらの塩(しお)にも塩化ナトリウムは一定程度含まれている。
塩化カリウム100%の塩(しお)を作るのは技術的には可能なようだが、後味が苦いために実際に販売されることはあまり無いようだ。
さらに、過去には塩化リチウムを代替塩にしたこともあったが、現在は販売されていない。これについては後述する。
「天然塩」と呼ばれている塩がある。学術的な定義は無く、海水や岩塩などから作られた食塩や、にがりが多く含まれる食塩を指すことが多い。それ以外の電気分解などで精製された塩は一部で「精製塩」と呼ばれることがある。
一部では、「精製塩に含まれる塩化ナトリウムは化学調味料である」とし、「天然塩には塩化ナトリウムが含まれない」と解釈する層もいるようだが、これは一般的には誤りである。
実際には、天然塩の原料の海水や岩塩などの時点で塩化ナトリウムが多く含まれているので、ほぼ全ての天然塩には塩化ナトリウム(栄養成分表示では「ナトリウム」という形で表現される)が含まれているといえる。ちなみに、2022年現在は公正取引委員会により「天然塩」を称する商品は販売が禁止されている(参考)。
溶解成分のうち陰イオンでは塩素イオンが約55%,陽イオンではナトリウムイオンが約31%,塩類の形で示すと塩化ナトリウムが約78%を占める。
(ブリタニカ国際百科事典「海水」)
鉱物として産する塩化ナトリウム。不純物として硫酸カルシウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム,硫酸マグネシウムなどが少量混在。
(百科事典マイペディア「岩塩」)
※ナトリウムを100%使用していないと称する塩(しお)も全く存在しないわけではないが、執筆者が探した範囲内では国内で販売されているものは発見できず、海外の商品のみであった(参考)。
北杜夫の2015年のエッセイ『世を捨てれば楽になる』(→Google Booksリンク)には、病院食に「無塩塩(むえんじお)」というものがあったと書かれている。ただし、実際に販売されていたか、成分は何なのか(塩化ナトリウムが入っていたか)等の詳細は不明である。
腎臓病のために、無塩醬油というものがあったが、本来の醬油の味とは全く異なっていた。更に無塩塩というものもあったが、ただ奇妙な薬品の味だけがした。
世界の一部地域では「灰塩」と呼ばれる植物灰から作られた塩(しお)もあり、塩化ナトリウム含有量が少なく、塩化カリウムの量が多いとされる(参考)。
過去には塩化リチウムが代替塩として使用されていたこともあった。
しかし、アメリカで販売されていた塩化リチウムの代替塩の「Westsal」が、1949年初頭に人体に有害であることが判明した(当時の論文)ため、現在は塩化リチウムは代替塩に使用されていない。
ヒトでは、本物質を塩化ナトリウムの代替塩として使用したことにより、傾眠、振戦、神経筋過敏などリチウム中毒の徴候を呈した(IUCLID (2000))、低ナトリウム食患者での事例研究に腎不全の患者が含まれていた(KemI-Riskline NR 16 (2003))ことが報告されている。
2010年には既に「塩化ナトリウムという化学調味料じゃなくて」という投稿がTwitter上で見られる。おそらく「塩化ナトリウムは化学調味料である」と解釈する層が当時からいたと思われる。
「塩化ナトリウムが入っていない塩」に対する指摘の投稿は2012年1月24日ごろから見られるが、執筆者は元のツイートを発見できなかった。その後も散発的に話題となっている。
2020年に「塩化ナトリウムの入っていない塩」と書かれた2018年投稿のサンケイリビング新聞社『あんふぁんWeb』に個人が投稿した記事がTwitter上で発掘され、話題となった(→ニュース記事)。市販の目薬の防腐剤を避けるため、手作りの目薬の製法を説明している途中で、下の文章が登場している。
☆塩は塩化ナトリウムの
入っていないものを選ぶ。
(スーパーなどで売っている
ものはほとんど塩化ナトリウム
が入っているので注意!)
この文は、「塩化カリウムが多く含まれる減塩塩について、『塩化ナトリウムが(それほど)入っていない』という意味のことを言おうとして、不正確な表記になってしまったのではないか」とも考えられるが、真意は不明。
塩化ナトリウムの入っていない塩(えん)であれば存在する。上記の塩(しお)が話題になったときに、他の人から挙げられることが多い。
塩(えん)とは、酸と塩基の中和反応などで発生する、酸の陽イオンと塩基の陰イオンからできた物質を指し、塩化ナトリウムや食塩とは指す範囲が異なる。
塩酸と水酸化ナトリウムの反応では、塩化ナトリウムと水が生成される。このとき、酸である塩酸の陽イオンはNa+、塩基である水酸化ナトリウムの陰イオンはCl-であるので、塩(えん)は塩化ナトリウム(NaCl)となる。
HCl + NaOH → NaCl + H2O
ただし、下記の反応のように、塩(えん)は塩化ナトリウム以外のものにも当てはまるので、塩化ナトリウムの入っていない塩(えん)も存在すると言える(ただし、「塩化ナトリウムではない塩」という表記の方が適切と思われる)。
2HCl + Ca(OH)2 → CaCl2 + 2H2O
日常的にわかりやすい塩(えん)に該当しうる物質の例では、融雪剤として使われる塩化カルシウム(CaCl2)や、料理や掃除で大活躍する炭酸水素ナトリウム(NaHCO3、重曹)、胃の検査で飲む硫酸バリウム(BaSO4)などが当てはまる。
埼玉県熊谷市の地名である「塩」等が該当する。ただし、その地域の一般家庭には恐らく食塩があるので、厳密には塩化ナトリウムが含まれているとも言えるのかもしれない。
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最終更新:2025/12/21(日) 02:00
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