大川原化工機事件 単語


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大川原化工機事件とは、大川原化工機株式会社が輸出した噴霧乾燥機 (スプレードライヤー) が兵器転用可能であるという理由から会社の代表者らが逮捕された事件。なお後に当の検察から公訴取消をおこなっており、その検察の主張が事実と食い違う点や、捜査の杜撰さから一般的には冤罪事件として認識されている

概要

大川原化工機株式会社は、おからパウダーを開発したことでも知られる会社であり、噴霧乾燥機分野のリーディングカンパニーとして国内70%の噴霧乾燥機のシェアを持つ。

2016年に大川原化工機は噴霧乾燥機「RL-5」をドイツの総合化学メーカーBASFの子会社に納入する目的で中国にこれを輸出した。これについて、警視庁公安部が「一定の要件を満たす噴霧乾燥機は輸出の際に経済産業省 (以下、経産省) の許可を必要とする。この輸出はその許可を得ていない」と主張し、2017年5月に取り調べを開始した。

その取り調べの間、大川原化工機は2018年に今度は韓国のLGグループに噴霧乾燥器「L-8i」を納入するため、韓国に輸出した。

その2018年に公安部は大川原化工機に中国への輸出の件で任意取り調べを開始。会社関係者47人が任意取り調べに協力した。代表取締役と常務取締役は、本件が貨物等省令の定める「兵器転用可能な噴霧乾燥機」に該当しないという確信があり [1] 、いずれは見込み違いに気付くだろうと楽観視していた。

しかし検察は代表取締役らの期待に反して、2020年3月11日に彼ら (代表取締役・常務取締役・相談役) を外国為替及び外国貿易法違反の事実で逮捕。更に東京地方裁判所第11部の裁判官は3名の勾留決定と接見等禁止決定を行った (これについての準抗告も棄却)。

この逮捕時に安積伸介警部補は、逮捕後に作成されるべき弁解録取書を事前作成しており、常務取締役にそれにサインするように求めた。その中には「社長の指示により許可を取らずに輸出した」という、事実と反する内容が書かれており、当然常務取締役はサインを拒否した [2] 。その後も「輸出管理支援団体のガイダンスに従って輸出した」と供述し、そう書き換えるように指示すると、警部補は修正すると主張しつつもなお「社長らと共謀し」と言っていないことを記載した。常務取締役はこれに激昂している。しかしこの調書にサインを拒否する姿勢や、黙秘権の行使を後の検察は「協力的でない」として勾留を延長し、保釈を認めない理由とすることになる。

彼ら3名は以後、「会社ぐるみで口裏合わせを行う可能性がある」として、保釈請求は数度に渡り却下され、家族との接見も認められなかった。そのうち、相談役は体調を崩し、やがて進行中の悪性腫瘍が発見された。しかしここに至ってなお、検察は「罪証隠滅のおそれがある」として相談役の保釈を認めず、裁判所も棄却した。やがて2020年10月16日、ようやく勾留の執行停止が認められ、相談役は入院することができたが、このときにはもはや手遅れであった。翌2月7日、相談役は帰らぬ人となった。

また代表取締役と常務取締役については2月5日にようやく保釈許可が出された。この間330日余り。しかし相談役の最期を看取ることは保釈条件 (相談役との接触禁止) のために許されなかった。

省令解釈の問題と公訴取消

ここまで公安部・検察がこの事件にこだわった背景には、貨物等省令の定める噴霧乾燥機の規制要件に大川原化工機の輸出したそれが該当すると判断したからである。この要件には「水分蒸発量」と「製造可能な製品のサイズ」そして、「定置したときに機械内部の滅菌・殺菌ができるもの」というものがあり、これを3つ満たすと兵器転用可能であるとして輸出時に経産省の許可を得なければならない。

検察は「RL-5」について、これを空焚きにすれば内部温度が110度まで上昇し、これによって50度で9時間保てば大腸菌O157は死滅するため、噴霧乾燥機は殺菌する能力があるという主張をしたのだった。

しかし弁護側の実験で「RL-5」は空焚きにしてもなお90度に満たない箇所があることがあると報告。また噴霧乾燥機によって「粉体化」(粉状にすること) した大腸菌は、50度で9時間の乾熱処理をしても死ぬことはないことを弁護側は主張。よってこの要件に該当しないというわけである。


で、どちらが正しいのか?と言う話に――実はならない。そもそも、この要件における「滅菌・殺菌」の定義は実はこの時点で決まっていないのである [3]。つまり言い方を凄く意地悪に言うなら、玉虫色の解釈ができるということになる。このため、経産省は検察に対して「これは立件できない可能性がある」と言っていた。しかし検察はこの経産省の主張を黙殺。このときの折衝内容自体はメモとして残していたが公開していなかった。

弁護側はこのメモの存在を確認し、検察に公開を要求。それに対して検察は公開する期限を延長しつつ、最終的には公開せずに公訴そのものを取消した。公訴取消は検察でも異例の事態であり、一つの町工場の信用はこの時点でぐちゃぐちゃに毀損され、女性社員は自殺未遂を起こし、相談役はがんで帰らぬ人となった挙げ句、その事件はまるまる存在しなかったことになったのである。

その後

無論人が一人亡くなり、会社の名誉も毀損され女性も自殺未遂に至るまでの事件が「なかったこと」になるわけもなく、代表取締役、元常務取締役、そして元相談役の遺族は国と東京都を相手に賠償を求めて提訴した。このときの調べで、検察の杜撰な調査が露呈し、東京地裁は刑事補償法の上限となる計1130万円の補償を支払う決定を出したほか、1億6200万円余りの賠償を命じた。

しかし警察・検察とも担当者は「当時の起訴判断は間違いない」として謝罪する気持ちはないと回答しており、担当の刑事は昇任している。一方で同じ警察内部からは「マイナス証拠を取り上げない姿勢があった」と指摘されている。

立憲民主党の杉尾秀哉議員は岸田文雄総理に対する質問の中で以下のように述べている。

功を焦った公安警察の勇み足とも言えるこの事件は、反中ムードに乗じた経済安保の危うさを象徴している


第208回国会 参議院 本会議 第16号 令和4年4月13日 | テキスト表示 | 国会会議録検索システム, 2024/01/06閲覧

実際、この省令の改正は専横的な振る舞いを続ける中国にサプライチェーンを握られたり、情報漏洩が起きることを懸念して行われたもので、アメリカとの連帯のアピールとしての側面もある。しかしその制定と裏腹にじっさいにこれによって適用された事例がなく、外事部門の存在感をアピールするために大川原化工機に適用しようとしたのではないかと推測されている (参考) 。

しかしそれが冤罪を産み、多くの人の人生をめちゃくちゃにしてしまった。無論、技術・情報漏洩を防ぐことは、日本国、ひいては日本国民を守るものであり、それ自体は重要なことである。しかしその技術を持つリーディングカンパニーそのもの、そしてそこで働く人達自体を守れるような法の適用がなされているか、立法の理念に立ち返ることも必要だろう。

脚注

  1. a もともと過去にこの省令の改正に大川原化工機はリーディングカンパニーとして協力していた。
  2. a なお、この逮捕に先立って2019年に女性社員の通勤時に警察がその通勤を妨害し、家宅捜索を受けている。この際に田村浩太郎警部補は言葉尻を捕らえて調書を改竄した。女性社員は閉所恐怖症であったが、窓のない原宿署で数十回の取り調べを受け、鬱病を発症し、自殺未遂に至る。
  3. a もともと化学兵器禁止条約の「sterilized」「disinfected」をそのまま引用したのが「滅菌・殺菌」であり、元々の意味合いは「滅菌 ( sterilized ) 」は「完全な微生物の除去」、「殺菌( disinfected ) 」は「薬品による菌の感染力除去」を意味するのだが、これを省令に盛り込んだ時、しっかりその定義づけも省令に盛り込んでおかなかったのである (ちなみに他国はこういう際にテクニカルノートとして定義を盛り込んでいる) 。

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関連項目

  • 冤罪
  • 警察
  • 検察

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