大艦巨砲主義(たいかんきょほうしゅぎ)とは、20世紀前半の海軍戦略において支配的であった、「でっかい船にでっかい大砲積めば最強じゃね?」という考え方である。
牽制艦隊主義(fleet-in-being)、大艦隊主義とも。
単純に言えば、強力な砲を搭載し堅固な装甲によって防護された「最強の軍艦」である「戦艦」の質と量が海上戦力の優位を決定するという思想である。
自己の砲を防ぐだけの装甲を持った戦艦は、より優れた砲を持つ戦艦をもってしか撃破し得ない。
つまり、強力な戦艦がどれだけ存在するかによって、実際に砲火を交えることなくその国の持つ海軍力が証明される。
これが「存在することに意味がある艦隊」(fleet-in-being)である。
この思想において海軍力の優位を得るには、せっせと日夜より強力な戦艦の建造に励むしかない。
20世紀初頭にイギリス海軍が建造した戦艦ドレッドノート級が大艦巨砲主義の先駆けであるとされる。
本級は複数配置された同一口径の主砲を一元的に管制する方式を採用し、従来型の戦艦とは比較にならない砲戦能力を得たことに加え、蒸気タービンの採用による優れた速度性能も併せ持っていた。
ドレッドノート級は列国が(そしてイギリス自身も)運用・建造中の戦艦を一気に陳腐化させ、列国はドレッドノートに比肩しうる戦艦を「弩(ド)級戦艦」(弩の字は当て字)、凌駕する戦艦を「超弩(ド)級戦艦」と呼ぶようになった。
こうして、列強は大建艦競争の時代に突入していくことになる。
一般的には、大艦巨砲主義は海軍戦略の航空主兵主義への転換に伴って終焉をみたとされる。
しかし実際には、それ以前に大艦巨砲主義の没落は始まっていたとする解釈もある。
第一次大戦においてドイツと英国の戦艦・巡洋戦艦隊が入り乱れたジュットランド(ユトランド)海戦においては、双方に多大な損害が出た。しかし今まで巨費を投じてこつこつと培ってきた戦艦が海の藻屑と化したにもかかわらず、海戦の帰趨はたいした戦略的影響を及ぼさなかったのである。WW1 の時点で既に英独の海軍戦略の主軸は潜水艦を中心にした通商破壊戦とそれに対する海上護衛戦に移行していた。
戦艦が単に金食い虫であるだけでなく、実戦ではあまり意味のない金食い虫であるという認識を各国の海軍関係者がどれほど共有していたかはともかく、戦間期には戦艦の建造は条約によって規制され、「海軍休日」と呼ばれる時期を経て、第二次大戦へと至る最後の建艦競争に突入した。
この時点では、航空攻撃によって行動中の戦艦を撃破することが可能だとはまだ確信されていなかったのである。
第二次大戦が始まると、タラント空襲、次いで真珠湾攻撃において、空母航空戦力が戦艦を撃破しうることが証明された。さらにはマレー沖で航行中の戦艦・巡洋戦艦が航空攻撃によって撃破される事態に至り、航空主兵理論は大艦巨砲主義に対する優位を確立した。「戦艦が砲戦能力を発揮するための偵察役」であった空母機動部隊の地位が、主従逆転したのである。
日本海軍が大和級戦艦を建造したことをさして、「時代錯誤な大艦巨砲主義」とあげつらう俗説をたまに信じている人がいるが、大和級計画当時は航空主兵の優位が証明されていなかっただけの話である。また、日本が大和級三番艦を空母に転用した後も、英米は戦艦を建造している。単に戦艦も空母も航空機も量産するチート国家を相手にしていただけである(それはそれで泣けるが)。結局三番艦信濃は専用設計空母に比べ、サイズの割りに微妙な出来となってしまった。
ただし、戦艦はその強大な砲撃力を買われてしばしば沿岸砲撃に参加しており、金剛級(ガダルカナル・ヘンダーソン飛行場砲撃)、ガングート級(レニングラード攻囲)などが活躍している。
大戦後も、米海軍はアイオワ級を戦争のたびに沿岸砲撃用に引っ張り出し、後にトマホークやCIWSを搭載する魔改造をやらかした。お前はどこのウォーシップコマンダーだ。
余談ではあるが、アイオワ級最大の功績とはスティーブン・セガールと沈黙シリーズを世に送り出したことである。
シンプルに強く、堅く! を志向する大艦巨砲主義は、我々の意識の単純な部分に強く訴求する。
そもそも、つるん、ぺたん、な航空母艦(フラットトップ)よりも豊満でメリハリの利いた戦艦の構造そのものにに惹かれてしまう部分があるのは否めない。いや、両方好きですけど。
「あれ、戦艦に飛行甲板つけたら最強じゃね?」
「あれ、空母にでっかい砲積んだら最強じゃね?」
といった事実に気が付いてしまった人のために、「こうくうせんかん」というものがあります。
かつて日本海軍が保有していましたが、2009年3月、海上自衛隊が「重航空護衛艦ひゅうが」としてリメイクしてくれました。巨砲というには若干ものたりなくもありますが、せっかく予算を組んで建造してもらったのですから、ロマンを楽しんでみてください。
「強く、硬く、太く、長く、誰よりも早い!」
・・・という大艦巨砲主義の理想を完全に達成することは、現実的には様々な制約から不可能であることは歴史の教訓からみて自明である。
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最終更新:2024/04/24(水) 06:00
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