対消滅 単語


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対消滅とは、物質と反物質が衝突して消滅する現象である。

概要

反物質の記事にあるように、あらゆる物質に反物質は存在し得るが、対消滅を起こす物質は全く同じ物質の反物質でないといけない、と言う訳ではない。

厳密には対になる反物質としか対消滅はしない。
しかし水素もヘリウムもリチウムもベリリウムも異なる原子ではあるものの、その中身は構成粒子の陽子・中性子・電子の数が異なるだけでで大抵陽子と電子と中性子を内包しているため、どの原子と反原子を組み合わせても陽子・反陽子、電子・陽電子、中性子・反中性子の組み合わせが成立し、対消滅は起こる。(多少数が余る事はあるかも知れないが)

エネルギー利用

質量とエネルギーは等価であり、E=mc2 の等式で表される事が分かっている。
(E:エネルギー m:質量 c:光速度)

この世に存在する、熱や光を放出する化学反応等は全てこの質量とエネルギーの等価性を利用したものだと言い換える事が出来る。
ただしその変換効率は極めて悪く、ものを燃やしたり薬品を反応させたりする化学反応の世界では、質量のうち7千万分の1から1億分の1程度がエネルギーに変わるだけである。その程度の変換効率でさえ、ガソリンや灯油等、広く実用されているものが多々ある。

また、水力発電のような位置エネルギーを利用したものも、ある種質量をエネルギーに変換しているという事が出来る。
位置エネルギーを多く持っている(高いところにある)水が落下すると位置エネルギーが運動エネルギーに変わる。運動エネルギーを多く持っているという事はすなわち速度が速いという事であり、速度が速い物質は比例して質量が増大する。
水が落下して水車等を回す事で運動エネルギーを別の物に伝えると、速度が失われる=増大していた質量が消える という事になるので、これもある種の質量→エネルギー変換と言える。

変換効率が比較的良い反応で言えば、現在技術が確立してきている中では最も効率の良い反応であるとされている核融合でさえ、質量のうち1000分の1程度をエネルギーに変えているだけという変換効率である。

対して、対消滅と言う反応を起こすと質量が100%漏れなくエネルギーに変わる。(実際はエネルギーと一緒に生成される別の物質がエネルギーをいくらか持って行ってしまうので、E=mc2 の式で示されるよりは僅かに少なくなる。)

例えば1円玉(アルミニウム1グラム)と、同じ1グラムの反アルミニウムをくっつけて対消滅させたとすると・・・

  • 電力換算
    約2500万キロワット/時。
    最近の東京都は平均して1時間で約1500万キロワットを消費しているため、1円玉1個で東京都の総電力2時間分近いエネルギーを得られることになる。
  • 熱量換算
    約90兆キロジュール。
    広島に投下された原子爆弾「リトルボーイ」(総重量約5t)の放出した熱量が約63兆ジュール。約1.4倍。
  • TNT爆薬換算
    約21.5キロトン。
    同じく「リトルボーイ」が記録した爆発力は約15キロトン。熱量換算と同じく、約1.4倍。

しかも、核融合はその反応を開始・維持するために莫大なエネルギーが必要であるため、差し引きで得られるエネルギーは質量の1000分の1よりももっと少ないが、対消滅は物質を反物質をくっつけてやるだけで勝手に反応が起こってエネルギーを放出するため、ほぼ100%そのまま利用出来る。

と書くといいこと尽くめのように思えるが現実はそんなに甘くない。

デメリット

  • 燃料となる反物質の保管の難しさ
    まず、反物質と言うもの自体が、保管が極めて困難な物質であるという事が挙げられる。
    上記の例ではアルミニウムと反アルミニウムと言う例を挙げたが、反アルミニウムは別にアルミニウム相手でなくても、空気でも石ころでもガラスでも鉄でも、それこそ人間の服や皮膚とでもお構い無しに対消滅を起こしてしまう。何故なら、概要の項の冒頭で書いたとおり、どの物質も陽子・電子・中性子から出来ている事は変わらないからである。
    つまり、何かの物質で容器を作ったとしても、その容器を構成している物質と勝手に対消滅をしてしまうために保管が出来ない。ではどうするかと言うと、まず空気を含めた全ての物質を取り除いた超真空の空間を作り出し、さらにその中で大掛かりな装置によって強力な磁場を発生させ、反物質を如何なる物質にも触れさせないように宙に浮かべる形で固定する。
  • 燃料の確保が難しい
    対消滅の項にあるように、現在この宇宙には反物質はほぼ全くと言っていいほど残っていない。宇宙空間は真空であると言われるが、実際は割といろんな物質が漂っており、完全な真空ではない。なので反物質は存在していてもすぐに何かと対消滅を起こして消えてしまう。
    従って現在反物質を手に入れるには人工的に作らなければならない。現在ではウラン235などの極めて重い原子を粒子加速器で超加速して衝突させ、核融合反応を起こしてウランを超える質量を持つ超重原子を作り、その副産物として陽電子等が生まれるのを期待する・・・と言う方法が考案・実験されているが、その確率は100万分の1とも言われている。とてもではないが、燃料として実用できるほどの反物質を作り出せない。
    ちなみに、反物質が初めて発見されてから今までに人類が生み出す事に成功した反物質の総量は10億分の2グラムと言われている。
  • 反応の制御が難しい
    仮に十分な量の反物質を確保出来たとして、加減がしづらいと言う問題もある。
    核分裂反応は対消滅反応よりも遥かにエネルギーが小さいが、それでも制御を誤ると重大な事故を引き起こしてしまう。
    対消滅は核分裂が暴走する原理とは些か異なるが、上の保管の項にもある通り扱いが難しいものである事には変わり無いので、一気に大量の反応が発生してしまう危険は常に存在する。
    先の項目で述べたとおり、1円玉1個分の対消滅反応のエネルギーは広島に投下された原子爆弾の約1.4倍ものエネルギーを持っている。エネルギーはそのまま熱等の形で放出される訳ではないので即座に物理的な爆発が起こるという訳では無いが、どのような形であれ原爆の1.4倍ものエネルギーが一度に放出されたら洒落にならない事態が発生する事は想像に難くない。

フィクションの対消滅

上記の通りエネルギー変換効率は、物質的な燃料を用いる機関としては理論上最高の変換効率を持つ(これ以上の高効率の機関が存在し得ない)ため、しばしばフィクションに登場する。

  • スーパーロボット大戦
    「グランゾン」の動力源が対消滅エンジンとされている。(シリーズによっては「ブラックホールエンジン」と異なっている)
  • グラディウス
    プレイヤー機である「ビックバイパー」の動力機関は対消滅エンジンであるという設定がある。
  • ふしぎの海のナディア
    この作品世界における潜水艦ノーチラス号は本来宇宙船で、常温対消滅エンジンを搭載しているという設定になっている。
  • 伝説巨神イデオン
    地球側、バッフ・クラン側両陣営の兵器に使用されていた機関。作中では「反物質エンジン(アンチマターエンジン)」としか説明されていないが、設定の上では対消滅を利用するエンジンだとされている。
    無限力「イデ」以外で亜空間航法を実現する唯一のエンジンであるが、この動力機関を使用した場合噴射物に反物質が混じるため、噴射物が吹き付けられた部分の物質がことごとく対消滅で消滅してしまうという副作用があり、そのために市街地等での起動は非常識であるとされている。
    なお、他の作品でもあるような対消滅エンジンであるならば、反物質は副生成物ではなく燃料そのものなので、基本的に噴射物の中に混じる事は無い。車で例えるなら排気ガスに混じってガソリンが飛び散っているようなものである。
  • ウォーシップガンナー2
    動力機関ではないが、着弾時に対消滅反応を引き起こすという弾を使用する兵器が登場する。

その他の対消滅

物質と反物質が対消滅反応を起こす事以外にも、「良く似たものがお互いに消えてしまう」事を対消滅と呼ぶ事がある。

例:マジック:ザ・ギャザリングでは、「伝説の」と言うタイプを持つパーマネントで同じ名前のものは戦場に2つ以上存在できないため、何らかの理由で2つ目が戦場に出ると、同じ名前のもの全てが墓地に置かれてしまう。これを俗に対消滅と呼ぶ。

関連動画

 

関連項目

  • 反物質

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