楕円関数とは、ヤコビの楕円関数から派生した関数族である。
ヤコビの楕円関数は楕円積分の逆関数として定義されたが、一般の楕円関数は二重周期性を持つ有理型複素関数として定義される。
2つの複素数ω1、ω2を以下のように定義する。
複素平面状にω1とω2の張る平行四辺形を周期的に敷き詰めたものを基本周期格子と呼ぶ。
t,t'を整数として、zt=tω1+t'ω2と表される点を格子点と呼ぶ。
2つの複素数v,wに対し、v=w+ztと表されるとき、
vとwをω1、ω2を法として合同な複素数と呼び、v≡w(mod ω1、ω2)と書く。
基本周期格子上の、極を除き正則な複素関数を楕円関数と定義する。
℘関数は、複素数z、格子点ztに対して以下のように定義される。
℘(z)= 1/z2+Σzt≠0(1/(z-zt)2-1/zt2)= 1/z2+Σ(t,t')≠(0,0)(1/(z-tω1-t'ω2)2-1/(tω1+t'ω2))
この級数は全複素数で一様に絶対収束する。
周期を明示する場合は、℘(z|ω1, ω2)とする。
℘関数は以下の基本的な性質を持つ。
℘(z),℘'(z)は二重周期を持つ正則な複素関数なので、楕円関数であると言える。
アイゼンシュタイン級数G2n(x)を以下のように決める。
G2n=G2n(ω1, ω2)=Σ(t,t')≠(0,0)1/(tω1+t'ω2)2n
これは基本格子を与えると決まる量であり、格子Ωの関数G2n:Ω→Cとみることができる。
G2nは重さ2nの保型形式である。
℘(z)をzでローラン展開すると、℘(z)=1/z2+c0+c2z2+c4z4+c6z6+… という表示になる。
適切な式変形により、c0=0、c2n=(2n+1)G2n+2 という値となる。
g2=20c2、g3=28c4を℘関数の不変量と呼ぶ。g2,g3は基本格子を決定すると一意に決定される。
また、ローラン展開の係数はg2,g3の多項式で表される。
℘関数は以下の微分方程式を満たす。
以下帰納的に、℘(z)の高階導関数は℘(z)、℘'(z)の多項式で表される。
x=℘(z)、y=℘'(z)と置き、第一の微分方程式に代入した式y2=4x3-g2x-g3を楕円曲線と呼ぶ。
a(x)、b(x)を多項式関数としたとき、f(x)=a(x)/b(x)(ただしb(x)はゼロ関数ではない)と表される関数を有理型関数と呼ぶ。有利型関数全体は自然な関数同士の演算により体を成す。
f(z),g(z)が周期ω1、ω2の楕円関数であるとき、f,gの有理型多項式は再び周期ω1、ω2の楕円関数となる。これを楕円関数体と呼ぶ。
f0(z)が偶関数であるとき、f0(z)は℘(z)の有理多項式で表すことができる。
つまり、f0(z)=g0(℘(z))
f1(z)が奇関数であるとき、f1(z)は℘(z)の有理多項式と℘'(z)の積で表すことができる。
つまり、f1(z)=g1(℘(z))℘’(z)
従って、楕円関数f(z)は、℘(z)の有理多項式と℘'(z)の積で表すことができる。
つまり、f(z)=af0(z)+bf1(z)
以上より、楕円関数と呼ばれるものは、℘関数の多項式で表すことができる。
ヤコビの楕円関数も℘関数で表すことができる。
以下のΔを楕円曲線の判別式という。
Δ=g23-27g32
判別式が0でない時、楕円曲線は3つの解を持ち、0の時は3重解を一つ持つ。判別式が0のときは尖った部分がある曲線となる。
g23/Δをj-不変量と呼ぶ。これは基本格子の相似変換λ:(ω1、ω2)→(λω1、λω2)で不変の量であるのでそう呼ばれる。楕円曲線は基本格子により決まるので、j-不変量で分類することができる。
℘関数が基本格子上の周期関数であることと、格子の関数であるアイゼンシュタイン級数(保型形式)で表示できることから、楕円関数により保型形式と楕円曲線を結びつけることができる。これは谷山予想(解決済み)と呼ばれており、以下のように表現できる。
有理数体上の楕円曲線Eはある保型形式Fと対応していて、互いのゼータ関数が一致する。
楕円曲線はなんだかよくわからないことが多いが、保型形式は扱いやすいため解析がしやすいという利点があるらしい。よくわからないものをよくわかるものに変換して考察するのである。
フェルマーの最終定理は楕円曲線と保型形式の対応から導かれたという。
an+bn=cnという式を満たすa,b,cがあった場合、楕円曲線E:y2=x(x-an)(x+bn)を考えるとそれに1対1に対応する重さ2の保型形式Fが存在するが、保型形式側の議論からそのようなFは存在しないということが言えるという。
つまり、保型形式Fは存在しない→楕円曲線Eは存在しない→フェルマーの最終定理を満たすa,b,cは存在しない、という道筋となる。これは数論の問題を、楕円曲線を経由して保型形式における議論に落とし込むという画期的な発想であった。
同様にして、abc予想について、a+b=cとなるa,b,cが存在する場合に楕円曲線y2=x(x-a)(x+b)を対応させ、その保型形式を調べるという道筋が与えられる。a,b,cが多項式である場合は早期に解決を見たが、整数である場合は解決が極めて困難であったことは有名である。
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最終更新:2025/12/14(日) 07:00
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