永久磁石同期電動機(PMSM)とは、三相交流モーターの一種。文字通り永久磁石を用いた同期モーターである。"PMSM"は、Permanent Magnet Syncronous Motorの略称。半導体素子の名前ではない
固定子コイルは誘導モーターと同じ構造だが、回転子にはかご形導体の代わりに永久磁石が使われる。すなわち回転子に電磁石が無く、電磁石を励磁するための電力が不要なことから、誘導モーターよりも高効率なのが最大の特長である。自動車や家電などで広く使われているモーターだが、近年は一部の鉄道車両でも、誘導モーターに代わって採用されるようになった。
なお同期モーターとは、回転子が回転磁束と同じ速さで回転する交流モーターのことである。一般にPMSMは、永久磁石と固定子コイルの間に生じる磁力によって回転するモーターであり、固定子コイルの回転磁束が回転子に対して適切な位置に無ければトルクが発生しない。したがって、要求される制御精度が高いことから個別制御(インバータ回路1つで1基のモーターを制御)が必須で、回転子磁束の検出も不可欠である。
鉄道車両のPMSMは、永久磁石を鉄心内部に埋め込んだ回転子構造を有する「IPMSM」である。このタイプは回転子の鉄心が突極形であるため、永久磁石だけでなく、鉄心にも固定子コイルによる磁力がトルクとして作用する。これが「リラクタンストルク」と呼ばれる、磁石が鉄などを引き付ける力を利用したトルクである。
すなわちIPMSMは、永久磁石によるトルクだけでなくリラクタンストルクも利用して回転することから、
という特長を有する。永久磁石の磁束量が特に小さい場合、後述する弱め磁束制御でこれを完全に相殺することで、理論上無限大の速度まで運転が可能となる。そうしたPMSMが開発されたことで初めて、鉄道車両においてPMSMの採用が可能になったと言える。
特に低速域での効率が誘導モーターよりも高く、発熱が少ないことからモーターの全密閉化が容易で、回転騒音が小さいという特長を持つ。一方で短所としては、回転子の永久磁石により、
などが挙げられる。先述のとおり個別制御が必須であるため必要な機器点数が多く、導入費用が高くなる傾向もある。在来線の通勤電車や地下鉄など、停止・発進を頻繁に行う車両での使用に向いていると言える。
同期モーターには、電源電圧と周波数の比率(:V/f)に応じて、回転子の磁束が調整されるよう電流が流れる性質がある。PMSMの弱め磁束制御はこの性質に基づいたもので、V/fを下げるとインバータの出力電圧よりも位相が進んだ電流が流れ、永久磁石の磁束を弱める働きをすることで、逆起電圧が一定値に抑えられる。
IPMSMの場合、CVVF領域での定出力運転や高速域での惰行制御において、弱め磁束制御が適用される。
CVVF領域で加速を続けると、電流の位相が電圧よりも進むことで永久磁石による逆起電圧は弱まるものの、トルクは減少する。しかしIPMSMの場合、電流位相が進むとリラクタンストルクが増加することでトルクの減少が緩和され、誘導モーターと同様に定出力運転が可能となる。永久磁石の磁束量が小さいほど、定出力運転が可能な速度範囲が高速側へ広がる。
すなわちIPMSMでは、永久磁石の磁束量を調整することで、低速向けから高速向けまで幅広く性能を変えられる。「PMSMは高速域が苦手」と一概に言えるわけではない。
逆起電圧よりも低い出力電圧を同じ位相で印可することで、永久磁石の磁束を弱める電流だけを流す制御である。電流の大きさは誘起電圧と出力電圧の差に比例し、いくら電流が増えても加減速トルクは生じない。また、この電流は出力電圧に対して位相が90°進んだ力率0の無効電流であることから、架線からモーターへの供給電力は事実上0Wである。転じて、惰行運転に等しい状態となる。
そもそも、逆起電圧が発生していても、架線電圧さえ超えていなければ普通に惰行することは可能である。実際に観察してみても、惰行制御はあくまで高速域(概ね85km/h以上)でしか動作しないことが確認できるし、PMSMでありながら惰行制御の機能が無い車両すら存在する(東京メトロ16000系や同05系の一部など)。
よって、巷で散見される「PMSMは惰行ができない」という指摘は、ま っ た く の 誤 解である。
※某知恵袋では「突入電流」とか「トルク脈動による振動」などと回答されてますが、全然違います。
一般に鉄道車両のPMSMは、磁束センサーなどを使わずモーター電流(:出力電流)から回転子磁束を検出する、センサレス制御で駆動される。通常は誘起電圧から回転子磁束を測定するのだが、低速域では誘起電圧が不十分なため、これに依らない別な制御方式が必要となる。
IPMSMではインダクタンスの大きさが回転子位置によって異なり、その差異は、一定の交流電圧を掛けた際に電流波形の歪みに顕れる。この性質に基づいた低速域向けのセンサレス制御が高周波重畳と呼ばれる方式で、数100Hzの高周波電圧によって出力電流に高周波を重畳し、その歪み波形から回転子磁束の検出を行う。電流波形が歪むため、重畳周波数に応じた磁励音が出るのが特徴だ。つまり音の正体は、回転子磁束を測定するための高周波電圧による磁励音である。
PMSMの電車では、5~10km/hの範囲で誘起電圧による方式と高周波重畳方式との切り替えを行うため、必ず低速域でモーター音の変調が観測される。
▼銀千の隠れキャラ。
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最終更新:2025/12/22(月) 02:00
最終更新:2025/12/22(月) 01:00
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