波太(海防艦)

波太(海防艦)とは、大東亜戦争末期に大日本帝國海軍が建造・運用した日振型海防艦9番艦である。1945年4月7日竣工。終戦まで生き残って復員輸送に従事した後、1948年7月16日にシンガポールでイギリスに引き渡された。

概要

艦名の由来は千葉県鴨川市江見の太見海岸沖合い200mに位置する波太島から。石橋山の戦いで敗れた源頼朝を波太島の平野仁右衛門(ひらのにえもん)が匿った言い伝えがあり、昭和初期まで子孫が代々領有していた事から現在は仁右衛門島と呼ばれる事が多い。別名蓬島。

波太は最後に就役した日振型海防艦である。戦時急造を推し進めるため御蔵型を更に簡略化した鵜来型を新たに設計した際、用兵側から掃海具の搭載を要望する声があり、鵜来型の設計を若干変更。単艦式大型掃海具を持てるようにしたのが日振型だった。したがって日振型は鵜来型の準同型艦に相当する。開戦前のマル急計画で建造された前期型3機とミッドウェー海戦後の改マル五計画で建造された後期型6隻に大別され、前期型で搭載されていた大型掃海具があまりにも役に立たなかった事から4番艦久米以降は掃海具を撤去、代わりに九四式爆雷投射機と三型爆雷装填台をそれぞれ1基追加しているが、鵜来型と比べて中途半端な対潜能力になってしまったと言われる。一応工期の削減という面では一定の成果を見せ、設計の簡略化や建造先を日立造船桜島工場に一本化した事で御蔵型の工数約5万7000から約3万にまで減少、建造期間も4ヶ月に短縮され、ようやく量産型と呼べる速さで造れるようになった。日振型は計9隻が就役、2隻が完成する前に終戦を迎えている。

最後の就役艦となった波太は、日振型で唯一艦尾の12cm連装高角砲にシールドを付けていたり、濃いグレーの同型艦と違い波太だけ淡いグレーで塗装されているなど随所に小改良が見られる。

要目は排水量940トン、全長78.8m、全幅9.1m、機関出力4200馬力、最大速力19.5ノット、乗員150名。兵装は45口径12cm連装高角砲A型改三1基、同単装高角砲E型改一1基、25mm三連装機銃2基、爆雷投下軌条2基、爆雷120個、13号対空電探。ソナーとして九三式水中聴音機と九三式水中探信儀を装備する。

艦歴

ミッドウェー海戦後に策定された改マル五計画において、第5264号艦の仮称で建造が決定。1944年12月3日に日立造船桜島工場(大阪)で起工。1945年1月8日に達第5号により波太と命名、艦種を海防艦に定められ、2月1日に艤装員長として一ノ瀬志朗少佐が着任。彼は商船学校出身で、充てられた下士官も民間船の元船員が多く占めていたため、艦内の空気は軍艦とは違ったものだったという。2月6日より造船所内に艤装員事務所を設置して事務を開始し、2月28日に進水式を迎える。そして4月7日に竣工。艤装員事務所を撤去するとともに一ノ瀬少佐が艦長に着任。呉鎮守府所属の警備海防艦となって呉防備戦隊へ編入された。

坊ノ岬沖海戦で戦艦大和が最期の時を迎えた1945年4月7日、入れ替わるように産声を上げた波太は桜島工場を出港し、本籍地である呉軍港へ回航。B-29の度重なる機雷敷設によって瀬戸内海西部や軍港内が訓練に適さない危険な場所と化してしまったため、4月15日に呉を出発。機雷封鎖された関門海峡を通って新たな訓練地である七尾湾へと脱出した。5月5日、海防艦の訓練を担っていた呉防備戦隊に代わり、舞鶴鎮守府部隊第51戦隊を新設して訓練業務を移管。舞鶴鎮守府の指揮を受けながら七尾湾内で対潜訓練に従事する。幸運な事に波太の機関は22号10型ディーゼルのため、重油が枯渇した戦争末期においても比較的自由に動く事が出来、出動諸訓練をろくに行えない第11水雷戦隊と比較するとまだ恵まれている方だった。

ところが安全だったはずの七尾湾にも5月24日にB-29が440個の機雷をばら撒き、6月6日に観音崎灯台から約1海里北方の海域で触雷・損傷。幸い沈没には至らなかったが、6月10日、今度は観音崎北方2.6海里で別の機雷に触れて更なる損傷を負って舞鶴での修理を強いられる。予期せぬ修理だったためか一度は第102戦隊に編入されたものの、7月5日に第1護衛艦隊第2海防隊に転属となっている。出渠後、7月29日から残された数少ない航路である朝鮮・西日本間の船団護衛任務に従事。敷設された無数の機雷は勿論、米潜水艦の跳梁、我が物顔で飛び回る米軍機といった脅威が日本海にも及び、非常に危険な航海であった。

そして8月15日、朝鮮在泊中に終戦の報せが届く。波太は帰国する朝鮮在留の邦人や軍人を乗せて内地へ帰投した。

終戦後

未曾有の戦争は終わった。しかし外地には未だ600万人の軍人や邦人が取り残されており、彼らの帰国は一大事業であった。幸い航行可能な状態で生き残った波太は復員輸送任務に臨む事となる。10月8日に乗組員用の食糧を積載するとともに収容者向けの毛布や衣服類も積載。食器類の一部も収容者用に充てられた。戦う必要が無くなったため水中探信儀の故障は修理されず、砲術科、機雷科、通信科が扱う機具も全て撤去されている。10月23日に海軍籍から除籍。

10月25日に特別輸送艦の指定を受けると同時に浦賀を出発、1回目の復員輸送任務に従事。パラオ、グアム、トラック諸島を巡って11月14日に浦賀へ帰投し、収容した復員兵を退艦させる。11月17日から30日まで浦賀船渠に入渠して武装解除、居住区やトイレの増設などを行って特別輸送艦の装いを済ませ、12月1日に連合国の指揮下に入った。12月11日に二度目の復員輸送のため浦賀を出発、グアムとサイパンで復員兵を収容して12月24日に浦賀へ帰投。12月26日より修理のため再び浦賀船渠に入渠。

1946年1月25日に修理完了。翌26日に三度目の復員輸送を行うべく浦賀を発つ。2月2日にグアムへ、2月20日にサイパンへ、2月23日に沖縄へ寄港して便乗者を収容、2月27日に鹿児島にて退艦させた。3月1日から27日まで玉野造船所で入渠整備。次からは博多と佐世保を拠点に上海からの引き揚げ任務に従事。中国大陸ではソ連軍や暴徒化した朝鮮人による略奪や殺人が横行しており、また共産勢力の拡大を防ぎたいアメリカの思惑から中華民国とアメリカ両国が引き揚げの支援を行い、上海や葫蘆島から円滑に復員させる事が出来たのだった。1946年11月5日からは沖縄方面の引き揚げを担当。12月26日に呉へ入港したのを最後に復員輸送任務を終了。今度は特別保管艦に指定される。

強力な海軍力を持たないソ連と中華民国からの強い働きかけで特別保管艦を米・英・中・ソの四ヵ国で振り分ける事になり、抽選の結果、波太はイギリスが獲得した。1947年7月16日にシンガポールで引き渡されるが、既に十分すぎるほどの艦艇を持っていたイギリスには無用の長物だったため、即日日本に売却されて国内で解体。

関連項目

• 大東亜戦争
• 軍用艦艇の一覧