第七次イゼルローン要塞攻防戦とは (ダイナナジイゼルローンヨウサイコウボウセンとは) [単語記事]

銀河英雄伝説の戦闘
第七次イゼルローン要塞攻防戦
基本情報
時期：宇宙暦796年/帝国暦487年 5月中旬
地点：イゼルローン回廊・イゼルローン要塞周辺宙域
結果：自由惑星同盟軍の勝利
詳細情報
交戦勢力
自由惑星同盟軍	ゴールデンバウム朝銀河帝国軍
総指揮官
第13艦隊司令官ヤン・ウェンリー少将	イゼルローン要塞司令官トーマ・フォン・シュトックハウゼン大将要塞駐留艦隊司令官ハンス・ディートリヒ・フォン・ゼークト大将
戦力
第13艦隊（ヤン少将）艦艇総数約6400隻兵員総数約70万名	イゼルローン要塞守備隊イゼルローン要塞駐留艦隊艦艇総数15000隻
損害
なし	イゼルローン要塞の失陥要塞駐留艦隊の壊滅
帝国暦時代
前の戦闘	次の戦闘
アスターテ会戦カストロプ動乱	帝国領侵攻作戦

第七次イゼルローン要塞攻防戦とは、「銀河英雄伝説」の戦闘の一つである。

概要

宇宙暦796年/帝国暦487年2月、イゼルローン回廊に侵入した自由惑星同盟軍と、イゼルローン要塞を守備するゴールデンバウム朝銀河帝国軍とのあいだに生起した戦闘。

同盟軍は過去六度にわたりイゼルローン要塞の奪取を試みるも、強靭な装甲と要塞主砲”雷神の槌”の圧倒的火力を前に失敗に終わっていたが、七度目となる今回はヤン・ウェンリー少将の機略によって要塞の無血奪取に成功した。イゼルローン要塞の陥落は帝国軍に大きな衝撃を与えたが、余勢を駆った同盟軍は帝国領侵攻作戦を発動させることとなる。

背景

宇宙暦796年初頭のアスターテ会戦において、同盟軍は動員三個艦隊のうち第4艦隊、第6艦隊を実質的に喪い、残る第2艦隊も大打撃を受けるなどほとんど完全な敗北を喫した。同盟軍が文字通りの完敗を避け得たのは、第2艦隊の指揮を途中で引き継いだヤン・ウェンリー准将が帝国軍の意図を挫折させたためであった。

会戦の終結後、同盟軍はヤン准将を少将に昇進させ、第4、第6艦隊残余に新造戦力を加えて通常の艦隊の約半分の規模で新設される第13艦隊の司令官に任じた。その最初の任務として与えられたのが、イゼルローン要塞の攻略である。

これは、ヤン少将の士官学校時代に校長を務めた統合作戦本部長シドニー・シトレ元帥による登用であった。シトレ元帥の目的は、一義的には帝国軍の侵攻拠点であるイゼルローン要塞を奪取することで国境線の安定を図ることにあり、そのために、高く評価していたヤン少将の才幹を用いようというものだった。しかし、ヤン少将の登用はそれらのみが要因ではなく、統合作戦本部長として国防委員長ヨブ・トリューニヒトと非融和的状況にあったシトレ元帥の、半個艦隊でのイゼルローン攻略という一見無謀な作戦を成功させ任期切れの迫る自身の地位の強化につなげる、という政治的意図も多分に含まれていた。

一方で、イゼルローン要塞を守備する帝国軍も一枚岩の状況とはいえず、ともに同格の階級である要塞司令官トーマ・フォン・シュトックハウゼン大将と要塞駐留艦隊司令官ハンス・ディートリヒ・フォン・ゼークト大将はかねてより心情的に対立する状況にあった。この対立は両名の就任以前から要塞守備隊と駐留艦隊のあいだに続くほとんど伝統的な通弊であったが、第五次イゼルローン要塞攻防戦における味方撃ちのような事態はあったものの、それまで帝国軍にとって致命的なものとはなっておらず、また指揮系統を統一すると役職が減るという人事上の問題や両者の戦功競いがむしろ戦時には大戦果を生んでいるという利点もあり、長く放置されていた。

こうした状況下で、同年4月27日、編成を完了した第13艦隊は、陸戦総監部より”薔薇の騎士”連隊を加え、辺境星域における大規模演習を名目にして首都ハイネセンを出撃する。艦隊はいったんイゼルローンとは反対方向に進んだのち針路を変更してイゼルローン回廊へと向かい、5月12日前後までにイゼルローン要塞に接近した。

戦闘経過

要塞の占領

5月14日、同盟軍によるものと思われるおりからの通信撹乱を受け、出撃すべきか否やを協議していた帝国軍司令部のもとに、帝都オーディンからの”重要な連絡事項”を載せた艦艇が回廊内で同盟軍の攻撃を受けているむね、撹乱をかいくぐっての救援要請がとどく。これに応じた駐留艦隊は、索敵を兼ねて全力出撃した。この時、駐留艦隊の幕僚パウル・フォン・オーベルシュタイン大佐は、通信が駐留艦隊を誘い出す罠である危険性を進言しているが、駐留艦隊司令官ゼークト大将によって退けられている。

駐留艦隊の出撃から約6時間後、オーディンからの連絡艦艇は追撃を受けつつ要塞近傍に接近。追撃中の同盟軍は要塞主砲の射程範囲外で追撃を中止し、連絡艦艇は大きな損傷を受けながらもイゼルローン要塞に入港する。しかし、この艦艇は以前に同盟軍に拿捕されたもので、ヤン少将が要塞を奪取する策略の中核として派遣したものだった。上陸した艦長はフォン・ラーケン少佐と名乗ると、駐留艦隊はすでに壊滅しており、同盟が開発した回廊を通過する方法について至急知らせねばならない、として、要塞司令官シュトックハウゼン大将への面会を希望する。

この緊急事態に、シュトックハウゼン大将はIDカードなどのセキュリティチェックを省略してフォン・ラーケン少佐に面会する。しかし、このフォン・ラーケン少佐の正体は同盟軍”薔薇の騎士”連隊長ワルター・フォン・シェーンコップ大佐であり、帝国からの亡命者による陸戦部隊という立場を活かして帝国軍人に変装したものであった。近寄ったシュトックハウゼン大将はシェーンコップ大佐により人質とされ、その部下が指令室内にゼッフル粒子を散布したため、シュトックハウゼン大将は降伏を余儀なくされた。さらに管制コンピューターから防御システムの無力化と空調システムを通じての催眠ガス散布が行われたことで、イゼルローン要塞は同盟軍第13艦隊の占領下となった。

駐留艦隊の壊滅

シェーンコップ大佐の言い立てた要塞駐留艦隊の壊滅はむろん虚偽であり、実際には健在だった駐留艦隊は通信撹乱下でなおも索敵をつづけていた。そのさなか、通信が回復したイゼルローン要塞から、兵士の叛乱が発生したため救援を要請する、という通信文がもたらされ、ゼークト大将は即刻要塞に帰還するよう命令を発した。この時もオーベルシュタイン大佐が陥穽の危険性を進言したものの、ふたたび却下されている。

駐留艦隊は急ぎ要塞へと戻ったが、この時すでに同盟軍第13艦隊は要塞への入港をすませており、要塞主砲の射程距離にはいった艦隊は”雷神の槌”の砲撃を受けて大きな損害をこうむった。駐留艦隊は予想だにしない要塞主砲の攻撃に浮足立ちつつも反撃に出たが、要塞の装甲を貫くことができず、逆に”雷神の槌”の第二撃のために半壊状態におちいった。

この状況を見たヤン少将は駐留艦隊に対し、降伏を勧告するとともに、帝国領に撤退する場合も追撃を控えるむね連絡したが、ゼークト大将はいずれも拒否し、全艦隊に要塞への突入を命じる。同盟軍側は駐留艦隊の旗艦を”雷神の槌”によって集中射撃することで応じ、この第三撃によりゼークト大将は旗艦ごと戦死。司令官を喪った駐留艦隊残余は敗走した。これにより、イゼルローン要塞は完全に失陥し、同盟軍の支配下に置かれた。

影響

イゼルローン要塞の失陥は、その堅牢さを全面的に信頼していた帝国軍中枢に激震を走らせた。ふだん国政に興味を示さない皇帝フリードリヒ4世が国務尚書クラウス・フォン・リヒテンラーデ侯爵に説明を求めたほどで、帝国軍三長官たる軍務尚書エーレンベルク元帥、統帥本部総長シュタインホフ元帥、宇宙艦隊司令長官グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー元帥の三名が揃って辞表を提出する事態となった。ただしこれについては、三長官いずれの後任に着くことも固辞した宇宙艦隊副司令長官ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥が皇帝に免罪を進言したことにより取り下げられ、三長官の俸給を一年にわたり戦没将兵遺族の救恤にあてることで決着した。

帝国軍のイゼルローン要塞関係者では、駐留艦隊幕僚のオーベルシュタイン大佐がシャトルで戦場を脱出しており、任務放棄と要塞失陥の責任追及により危険な立場にあった。しかし、オーベルシュタイン大佐を自身の幕僚に望んだローエングラム元帥が免責と転属を要請したことで、彼の進言によってすでに実質的に免責となっていた三長官は反対できず、けっきょく責任を問われることはなかった。

いっぽう、難攻不落を謳われたイゼルローン要塞をついに奪取した同盟は、アスターテ会戦の大敗を糊塗してあまりある狂喜につつまれた。その立役者として、味方の血を一滴も流すことなく要塞を陥落させたヤン少将（8月6日の辞令で中将に昇進）の智略は、彼を登用したシトレ元帥の識見とともに高く賞賛されることとなった。ヤン・ウェンリーが、のちのちまでつづく「魔術師ヤン」あるいは「奇蹟のヤン」といった異名をうけたのもこの時である。

しかし、イゼルローン要塞の獲得は、高い不支持率に悩む同盟最高評議会の議員を勢いづかせることにもなった。強い政治的意図により、一部評議員や軍部の反対を押し切って帝国領侵攻作戦の実行が決定され、10個艦隊3000万将兵を動員する大規模攻勢が行われることとなるのである。

OVAにおける描写

OVAでは、出撃した要塞駐留艦隊を同盟軍が囮によって誘引し、その隙に第13艦隊がイゼルローン要塞に接近している。また、シュトックハウゼンを人質にとり要塞を無力化する部分に演出が加えられており、「要塞を無力化する手段」の一環のように見せて帝国軍の気を引くために第13艦隊が無意味な艦隊運動を行うといった展開がある。

最大の変更点は、シュトックハウゼンの降伏によって要塞司令部が占領された際、指令室警備主任レムラー中佐の手によって要塞の機能凍結が行われている点である。これにより中枢コンピューターを武力占拠する必要が生じたことで要塞無力化に時間がかかり、囮に気づいて取って返した駐留艦隊が接近するまで第13艦隊を受け入れることができなかった。ヤンは駐留艦隊相手に要塞を占拠していると通信文で宣言し、数の少なさを活かして主力が既に入港済であるように見せかけながら要塞主砲の射線を空けて展開するというブラフにより対応し、中枢コンピューターを占拠し第13艦隊が要塞に進入するまで時間を稼ぐことができた。これを見た駐留艦隊は一挙追撃して要塞に接近しようと図り、原作と同様の展開を経て撃破されている。