言いだしっぺの法則とは、
DIYを是とするネット社会の基本理念にして暗黙のルールのひとつ。
「誰かがやってくれるだろう」というお客様気分や他力本願な姿勢では「様々な人間の意見が集まり、反映される事でよりよい進化を遂げる」オープンソースを前提としたインターネットは成り立たない。それを言い出したまさにその人物こそが先陣を切って「それをやるのが一番望ましい」のである。この理念の元に集合知やCGM、UGCといった概念が発達してきた…という背景を持っていた言葉なのだ。
理念自体はwww成立当初からの普遍的なものであるが、それを「言い出しっぺの法則」という名称で定義した例としては白田秀彰による『インターネットの法と慣習』が挙げられる。
しかし、テレビや一般企業に一方的に「提供」されるといった既存の構造にどっぷり浸ったユーザーにはまず通じない概念であり、自分が供給側に回るという発想が皆無である為、ただ文句を言うばかりで、そもそもこの言葉の理想が届かない。言う相手によっては不毛な言葉になってしまうのだ。同時に、時代の流れと共にこの言葉もまた「口にする者にとって都合の良い記号」になりつつある。1を見れば分かるとおり、本来の意味に戻ったといえばそれまでなのだが。
「既存の構造にどっぷり浸った」ユーザーがネットに移行した時、テレビや一般企業と同様に一個人を利用しようとする場合がある。お客様気分、視聴者様と呼ばれることを恐れつつも自ら実行しようとしない彼等にとって「言いだしっぺの法則」は非常に口にしやすい常套句である。
また、自分では何もする気がない、あるいは失敗や面倒、他力本願や誹謗中傷を恐れる者は、(自覚の有無に関わらず)アイデアを口にした人間をスケープゴートに仕立て上げ「言いだしっぺの法則というものがあってだな…」とその話題を安易に断ち切ってしまうという現象が見られる。これではよりよいアイデアを生み出す為のコミュニケーションが成り立たない。その結果、何の進歩も見られず衰退してしまったり、いざ実行に移されたとしても、成果のただ乗りを期待する非協力的な人間が多い場合、それを厭うあまりに閉鎖的な空間が出来上がってしまったりもするのだ。
2ch以前からコンピューター業界用語などにあった「○○と言ってみるテスト」「○○と思われ」という言葉は、この手の押し付けを回避しつつ反応を見ながら意見を交わす為の常套句だったのだが、現在ではあまり使われなくなっているようだ。
活発なコミュニケーションとDIYを前提とした理念も、現実の前では本来の意味、他力本願や都合のいい押し付け合いの為の言葉に回帰してしまった。なんとも皮肉な話である。
他人からアイデアが出たからといって即「言いだしっぺの法則」を振りかざすのは、見知らぬ相手にいきなり銃口を突きつけるようなもの。大多数の人間は萎縮し、会話は途切れ、折角のコミュニケーション機会が失われてしまう。言いだしっぺの全てが他力本願とは限らないし、言葉を選んで頼めば引き受けてくれる人物が現れるかもしれないのだ。安易にネットの常套句に頼るのはやめよう。
あなたの言い回しが過度にネガティブだったり刺々しいものでなければ、単なる意味も対象もない囃し言葉だと思ってスルーするのが一番。
いざ自分が「言いだしっぺの法則」を守る側になった場合、すぐさま行動に移さず、ある程度腰を据えて、自分以外の多数と円滑なコミュニケーションをとるように心がければいい。自分以外にもある程度需要が期待でき、その時点で代替品はあるのか、その場は和気藹々としているか、剣呑としているかを見極め、言葉を選んだ上でまずはアイデアを出したり、自分に出来ることと出来ないこと等を発表して行こう。こうすることで初案をよりよいものにするためのコミュケーションが成立し、作業分散のきっかけにもなり、ある程度のトラブルにも対処しやすくなるはずだ。あなたはひとりではないのだから。
そう思っているのはあなただけかも知れない。
変に肩肘を張らなければ、趣味的なことはいくらでも挑戦することが出来る。理想的な「言いだしっぺの法則」は、言い換えれば「全てはチャンス」の精神と、少しの勇気で支えられてきたのだ。能力を持った人に任せるより時間はかかるかもしれないが、ある程度は自分の思った通りにコトを運べるという最大のメリットがある。
逆に言えば、人任せにしてでも安易に見たい、欲しいものに本当に価値があるのかどうか、軽い気持ちで意見を述べる前に考えてみよう。
…それでも駄目だった場合、かつ自分以外にもある程度の需要がありそうな場合は「お願い」をしてみよう。「○○があればいいのに」「さっさと作れよボケナス」などとネガティブ、あるいは刺々しい言葉は使わず、自分が出来ないことを公表した上でそのメリットを説明し、依頼や公募をしてみよう。
そして、もし出来るのならば、自分に出来る範囲での協力を惜しまないこと。同時に分をわきまえ、出来たものに対しての一方的な文句は控えよう。
今すぐ目の前の箱の電源を落として頭を冷やしましょう。
ネットの向こうにいるのはあなたとは違う生活を持った人間であって、あなたにとっての便利屋ではありません。
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最終更新:2025/12/06(土) 22:00
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