都議会セクハラ野次事件とは (トギカイセクハラヤジジケンとは) [単語記事]

都議会セクハラ野次事件とは、2014年6月の東京都議会で起きた事件である。

概要

都議会本会議で女性の妊娠・出産に対する都の支援体制について一般質問を行っていたみんなの党の塩村文夏都議に対し、複数の男性都議が未婚で子のいない塩村を嘲笑・侮辱する内容の野次を投げかけた。

野次を飛ばした都議が一向に名乗り出ず、座席位置から当該都議らが所属していると見られる自民党都議団も発言者の特定や処分に徹底して非協力的な姿勢を示したため、発言内容も相まって一般世論の反感が高まり、発言者の特定と処分を求める署名が集められ、海外のニュースでも取り上げられるほどの騒動に発展した。

一方、タレント時代の塩村の言動に反感を持つ人々や、都議団とはいえ自民党に批判が集まっている現状を快く思わない一部の右派系ネットユーザー（いわゆる「ネット右翼」）らは、塩村の過去の言動を挙げて「彼女はこういう野次を向けられて当然の女だ」と反論・牽制する動きを見せており、今後の動向が注目されている。

事件の経緯

2014年6月18日、東京都議会本会議で一般質問に立った塩村は、受動喫煙・動物愛護に関する質問を行った後、女性の妊娠・出産に対する都の支援体制に関する質問に移った。塩村は東京都民の晩婚・晩産傾向を挙げた上で、周囲との関係が希薄になりがちな都会の女性を支える体制が必要であり、特に周囲に相談相手がおらず悩みを抱えた妊婦を都としてサポートしていくべきだと述べた。

ここで自民党都議団が座っている座席の方から、少なくとも2、3人の男性の声で「早く結婚した方がいいんじゃないか」「子供もいないのに」「産めないのか」「あいつ不倫してるんだぜ」といった野次が飛び交い、笑い声も上がった。また同席していた舛添要一都知事も笑みを浮かべた。塩村は当初苦笑するかのような表情を浮かべていたが、やがて顔を強張らせ、最後は涙を拭う場面も見られた。

塩村が所属するみんなの党会派は議会運営委員会に対して発言者を特定し注意するよう申し入れたが、吉原修委員長（自民）は「野次は聞いていない。各会派で品位のない発言を控えるよう確認すればよく、注意の必要まではない」と回答した。また地方自治法133条に基づいて発言者の処分を吉野利明議長（自民）宛に申し入れたが、処分対象者が明記されていないことを理由に不受理とされた。なお同条は会議・委員会で侮辱を受けた議員は議会に処分を求められると規定しているのみで、申請時に被処分者名の具体的特定まで必要かは明らかにされていない。

自民党都議団の協力を得られず、また発言者が自発的に名乗り出ることもなかったため、みんなの党では独自に声紋分析などを行って発言者を特定した上で、議員辞職を求める方針を明らかにしている。

反響

発言者追及の動き

事件が明るみに出ると、未婚の女性や子供のいない女性を侮辱する不当な発言であり、オリンピックを控えた東京の国際的イメージにも悪影響を及ぼしかねないとして多くの批判が巻き起こった。「政策に対しての野次なら受けるが、今回の野次は女性として残念」と述べた塩村のツイートは3万回以上リツイートされ^[1]、都議会には千件を超える抗議が寄せられた。CNNやロイター通信などの海外メディアでも批判的に報じられた。

また発言者の特定を拒否し早期の幕引きを図ろうとする自民党都議団の姿勢はかえって火に油を注ぐ結果となり、自民党東京都連に対して発言者の特定と厳正な処分を求めるための署名集めがアメリカの国際的なネット署名サイト「Change.org」で行われると、6月21日までに約70,000通の署名が寄せられるに至った^[2]。

社会的な批判の高まりを受け、菅義偉官房長官・田村憲久厚労相・野田聖子政調会長など自民党本部の幹部や閣僚も本件野次への批判姿勢を明確にした。発言者の特定や自民党としての対応については触れないものが大半だったが、石破茂幹事長は「今の時点では自民党議員と決まったわけではない」としつつも、「仮にわが党だったとしたら党としてお詫びしなければならない。誰であれ発言者は名乗り出て謝罪すべきだ」と述べた^[3]。

なお野次に際して笑っていた舛添都知事は「野次の内容は聞こえておらず、自民都議の笑い声と塩村都議の苦笑いに釣られて笑っただけ」と釈明。また発言者の処分については「議会にとやかく言う立場でない」と述べた^[4]。

発言者の特定材料

都議会の座席は議員ごとに指定されており、自民党都議団の議員は中央の座席列のうち演壇に向かって左前の一部を除いた残りの部分と、右側の座席列の左寄り1/3程度を利用している。詳しくはこちらの3頁目参照。
野次が飛ばされた時に塩村は中央の演壇より右側（塩村から見ると左側）の自民党議員団の席を見ている。このことから中央の座席列の左側に着席している自民党議員が発言者である可能性は低いと思われる。
塩村は発言者の位置について「後ろの方だと思います。一番後ろではなかったと思いますが」と証言している^[5]。
中央の座席列の一番左前に着席しているみんなの党の音喜多駿都議は「自分の右後ろあたりから聞こえた。その周りから笑い声が上がっていた」と証言している。また自民党都議団では主に若手議員が野次を飛ばすとしている。
左側の座席列の一番右側、後ろから2列目の位置に着席している民主党の中村洋都議は「野次は自分の真横くらいから聞こえた」と証言している^[6]。
塩村によると「お前が結婚しろ」と発言した人物のみほぼ特定できているという。

日刊ゲンダイは「尖閣諸島問題で名を売った議員でホームページでは『子育て支援』『女性が働きやすい社会』を謳っている『S』」が発言者の一人であると報じた^[7]。フジテレビは塩村が指し示したエリアに着席していた来代勝彦（中央右後ろから3列目）・鈴木章浩（同2列目・尖閣上陸メンバーの一人）両都議を問い質したが、両者とも疑惑を否定した^[8]。また日刊スポーツも塩村がやじを聞いた周辺に着席していた人物として鈴木にインタビューし、「発言者は議員辞職に値するか」との質問を向け、「そうでしょうね」との回答を得ている^[9]。

塩村への批判と牽制の動き

発言者への責任追及を求める声が高まる一方で、ネット上では塩村の過去の言動を批判したり、野次を批判する側への再批判を試みるなどして、責任追及の動きを抑制・牽制しようとする動きも活発になっている。

塩村が出演していた「恋のから騒ぎ」で「彼と別れるとき慰謝料1500万円貰った」などと語っていたことが判明するとさっそく槍玉に挙げられ、「彼女はあの野次を受けても仕方のない人物」「野次を飛ばした側もこいつもクソ、どっちもどっち」という主張が盛んに展開された。

また4月に週刊文春がみんなの党の三谷英弘衆議院議員との不倫疑惑を報じた（当人たちは否定）ことも引用され、上記主張を根拠づける材料として利用された。

さらに過去の国会における自民党議員に対する野次を強調し、「これを批判した奴だけが今回の件を批判する資格がある」「マスゴミは反日だから自民党の野次だけを殊更に批判している」との主張も広く行われた。

こうした動きは主に右派系ネットユーザー（いわゆる「ネット右翼」）によって担われたため、2ちゃんねるのニュース速報+板などネット右翼層が多数を占めるコミュニティでは主流を占めるに至っている。また政治系2chまとめブログもこの方向で記事をまとめるものが多く、特にネット右翼系まとめブログの金字塔として知られる「保守速報」では塩村に対するネガティブキャンペーンや野次批判を牽制するレスをまとめた記事を次々に公開し、好評を集めた^[10] ^[11]^[12]。

他方でネット右翼に懐疑的な「切込隊長」ことやまもといちろうも「塩村は『女性の風上にもおけないビッチ』『男の下半身を要領よく渡り歩いてきた人間のクズ』と思われても仕方ない」として、野次自体は正当であり表現手法にやや問題があったのみと論じるなど^[13]、塩村への批判は必ずしもネット右翼層のみに留まっているわけではない。

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