1841年に刊行された奇談集『絵本百物語』に載っている妖怪の一種。
見た目は細くて若い女性だが、頭の後ろに口があり、そこに長い髪を箸代わりにして放り込むように食べる。口の中はブラックホールにでもなっているのかほぼ無限に食べることが可能。人前では決して食事をせず、誰も見ていないところで数人分の食事を平らげる。
千葉県北部や和歌山県を始め、全国に伝わっている妖怪で登場する話のバリエーションも多い。することといったら人の食事の盗み食いなので基本的に危険度は低いが、話によっては直接的に人を襲う。
正体も山犬だったり山姥だったりとバラバラ。口の部分は人面瘡という説もある。
ここでは二口女が登場する代表的な民話の一つである『食わず女房』[1]も紹介する。
昔々、とてもケチな炭焼きの男がいた。
男はとうに齢30を過ぎたというのに嫁を貰わず、炭を売っては納屋にある米櫃に米をため込むことを喜びとしていた。
ある日のこと、男は町に着くと、いつものように炭を購入してくれる炭問屋に向かった。
そこで炭を売る傍ら、炭問屋からいい加減結婚しないのかと尋ねられた男は「飯を食べない女なら貰ってもいい」と零す。
そんなことがあったある日の晩。男の家に、旅の女がもう日が暮れて困っているので今晩泊めてほしいと訪ねて来た。
男は「泊めるのはいいがお前さんに食べさせるものは何もないぞ」と告げるが、女は「私はものを食べないので寝泊りできる場所があれば十分です」と返す。
男は一瞬驚くが、2つ返事で女を泊めてやることにした。
ところが朝になっても女は出ていこうとはしなかった。それどころか、ご飯の支度や家の掃除など、せっせと家事をこなし、そして、次の日も次の日も、女は本当に何も食べなかった。
そんな女を見た男はこれぞ自分が探し求めていた女だと思い結婚。
翌日、ようやく嫁を貰ったことを上機嫌で炭問屋に話すも、彼から「それは物の怪の類だと思う」と言われる。
そんなことがあるものかと気に留めず、帰りにいつものように米を入れようと米櫃を開けたところ、中は空になっていた。
その晩は何食わぬ顔で床に入ったが、いろいろ考えた結果自分も女が怪しいと思い、次の日の朝、いつものように仕事に行くふりをして、しばらくしてから家に戻り、天井の裏に隠れて嫁の様子を見てみることに。
旦那が隠れていることなど知らない女房は、納屋から米を運んで来て釜で炊き始めた。
大量の白米を炊き終えると、彼女は33個のおむすびを作り、髪を解いた。
すると、女房の頭には大きな穴が。
女がその穴の中におむすびをドンドン放り込み始めたのを見て化け物だと確信した男は、騙されていたことに怒り、天井から罵倒。
正体を見られた女観念し、「実家に帰らせてもらいます。しかし、手ぶらでは帰れないので大きな桶を探してきてください」と要求。
桶など何に使うのか分からなかったが、少しの間でも女房でいてくれたのだからと、男は桶を用意。
するとたちまち女は凄まじい顔になり、男を掴んで桶の中に入れて縛った。実家への手土産は男自身だったのだ。
異形とかした女房はその桶を担ぐと、猛スピードで山の方へ走り出した。
山に差し掛かったところで徐々に雲息が怪しくなり、雷がとどろき、大粒の雨が降り始め、沼が現れた。
女が沼地の泥で足を滑らし立ち往生している中、桶の中は雨で水かさが増してゆく。
そして男は思い切って桶から飛び出してみたが、女は雨水の重さで男が消えたことに気付かずそのまま山へ走っていった。
やがて、男がいなくなったことに気付いた女は怒りの形相で沼までやって来て男を見つけたが、突如として女は菖蒲の匂いに苦しみだす。
女が苦しそうにしているのを見た男は死にもの狂いで菖蒲を投げつけるとこれが刃物のように女に突き刺さった。
たまらず女は元いた山の奥深くへ撤退。
「飯を食わない女など欲しがるもんじゃない」と気付いた男はその後、ケチな自分を改めてお似合いの女房を見つけ幸せに暮らした。
男が食わず女房に食われそうになった日付がちょうど5月5日だったので、5月の節句には魔除けの為に菖蒲の葉を軒に飾るようになったらしい。
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最終更新:2025/03/14(金) 17:00
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