変人偏屈列伝とは、2004年に集英社から刊行されたコミックスである。2012年4月には文庫版が発売された。
概要
「ジョジョの奇妙な冒険」で有名な漫画家・荒木飛呂彦と、当時荒木のアシスタントを務めていた鬼窪浩久の共同制作。荒木が自身の漫画に込めるテーマ「人間賛歌」を描く一環として執筆された事が前書きで触れられている。
世界に実在した、数奇な人物達の生涯を描いた青年向けコミック作品。過去にスーパージャンプやウルトラジャンプ等で掲載していた合計6つのエピソードが1つの単行本に収録されている。
当初は荒木飛呂彦が作画も全て手掛ける予定であったが、執筆当時は「ジョジョの奇妙な冒険」の連載が忙しかった為、「ウィンチェスター・ミステリー・ハウス(サラ・ウィンチェスター)」と「腸チフスのメアリー」の2編だけが荒木作画で、他作品は鬼窪が作画している。
原作(ストーリー・構成)は全て荒木が担当しているため、ストーリー内容の至る部分に荒木テイストが盛り込まれており、登場人物達の台詞も当然ながら荒木節全開である。
なお作画を手掛けた鬼窪は現在、所謂エロ漫画家として活動しているため場面によっては少々アダルトな内容になっていたり、他にも青年向け漫画とされるだけに少年向け漫画では見られない描写が所々にあるのも特徴。
「変人」の選出基準
本書で取り扱っている「奇人」たちの選出基準を、本書の前書きより抜粋。
- 変人偏屈な人は、その行為が人々に「希望」と「安心」を与える魅力が無くてはならない。
(例えば犯罪者はダメである)
- 変人偏屈な人は、その行為を一生やり続けていなくてはならない。(一時の目立とう精神や、人生の途中でやめた人は本物ではないニセ奇人なので、尊敬に値しない。)つまり彼(彼女)たちは自然体なのだ。
- 変人偏屈な人は、敵に勝利している。
(勝利にはいろいろな解釈があるけれど、とにかく敵に勝っていること)
人物紹介(掲載順)
- タイ・カッブ ~メジャー史上最も忌み嫌われた、生涯打率最高記録保持者~
- 20世紀に存在した伝説のメジャーリーガー。
かつて現役時代にメジャーリーグに幾つもの大記録を打ち立て、また現代の野球における戦術の基盤(フックスライディング、ヘッドが太く作られたバット、efc...)や野球選手の契約の基本を作った事でも知られている。
しかし、徹底した負けず嫌いや自分以外の人間を悉く嫌う性分から相手チームや野球関係者はおろか、チーム内や親縁者にも嫌われたり敵が多かったなど、人間的に最も忌み嫌われた人物でもあった。
- 康芳夫 ~自称『虚業家』 世間を手玉に取った稀代の興行師~
- 60~70年代を過ごした方ならば今も記憶に新しいと思われる「ボリショイ・サーカス」をはじめ、「ネッシー探検隊」や「ベンガル虎VS空手家」、「人喰い大統領アミンVSアントニオ猪木」や「オリバー君」等、数々の奇想天外な企画を手掛け日本中を熱狂させた伝説の興行師(プロデューサー)。本人は実業家という言葉に対比して『虚業家』を自称している。
本書が発売された2004年、及び本記事の初稿ができあがった時点では、ここで取り扱っている人物の中で唯一存命中の人物でもあった(2024年12月に死去)。そのため、本書を執筆するにあたり荒木ほか編集者たちが康の元を直接取材に訪れたのだが、康は企画の趣旨を聞くと「ああ、好きに書いてもらって構いませんよ。チェックも必要ありません」とあっさり返したという。
- メアリー・マロン ~チフス菌と生涯を共にした、悲運の賄い婦~
- 19世紀から20世紀にかけて実在した、究極の選択。
当時アメリカで流行していた疫病「腸チフス」の菌を体内に保有しながら感染しないという謎の体質を持ち、彼女が賄い婦として点々としていた家の人々を次々に腸チフスに感染させたが、本人は自分は健康だと頑なに信じ、手術を拒否し続けながらアメリカ中を転々とし続け、やがてそれはアメリカ各州の法律すら動かし、ひいてはアメリカ全土巻き込む騒動・論争となった。
- サラ・パーディ・ウィンチェスター ~己の心を映すような巨大迷宮を生涯造り続けた未亡人~
- 幽霊屋敷と名高い「ウィンチェスター・ミステリーハウス」を40年近くにわたり建造し続けた女性。
家族を次々に失った事で深い悲しみに暮れた彼女はとある霊媒師の言葉を受けた事をきっかけに、手にした遺産を惜しみなく投入し24時間365日休む事無く豪邸の建築を進めていくのだった・・・
- ホーマー・コリヤー&ラングレー・コリヤー ~トラップを張り巡らせた邸宅に生涯引き篭った兄弟~
- 現代における「ひきこもり」の先駆者。本書で扱う人物達で唯一「何もしなかった」奇人。お前らの大先輩。
20世紀初頭に裕福な家に生まれたが、両親の離別(離婚・死別)を機に屋敷の中に引き篭ったまま、死ぬまで外の世界との関わりを一切断って過ごしていた。空き巣や泥棒が入ってくる事もあったようだが、家中に泥棒撃退用のトラップが張り巡らされ、自分達の世界には誰の侵入も許さないという意思が示されていた。
余談だがここで作品中に登場する2人組の泥棒は、「ジョジョ」に登場したあの兄弟と容姿がどこか似ている。
あの人とかこの人とか。
- ニコラ・テスラ ~エジソンを凌駕しながら、歴史の表舞台に立てなかった天才発明家~
- 19~20世紀にかけて存在した、「電気の魔術師」「発明の天才」の異名でも知られる発明家。現代の電気を使った生活も、その基盤はテスラが作り上げたものであり電気工学の分野にてその名前を聞く機会も少なからずあるものと思われる。当時「直流」の電気システムを推進していたエジソンに対し、「交流」の電気を発明しやがてエジソンと対立のち勝利を収めるに至った。テスラの才能はエジソンが嫉妬すら覚えたとされ、彼の脳内に存在した発明理論は現代の科学技術でも解明できない部分もあると言われている程である。
一方、「球形のスベスベしたもの(ビリヤードのボール、卵、真珠など)を異常なまでに嫌った」「離れた場所の時計の音を恐れた」「細菌を恐れ、人とは絶対に握手しなかった」など、人間的に偏屈な部分も多かったという。
6作品の中では最も早く1989年に発表された作品。この作品のみ鬼窪と藤井伸幸との共同作画となっている(文庫版の後書きと前書きに謝辞が載っている)。
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関連項目
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