ε-δ論法とは、解析学において極限を厳密に定義する時に用いられる方法である。
高校で用いられる極限式は以下のものだった。
lim_[x→a] f(x)=b
「関数fにおいてxがaに限りなく近づく時、答はbになる。」程度の意味合いだったはずである。
これをε-δ論法においては…
∀ε>0, ∃δ>0 s.t. ∀x∈R, 0<|x-a|<δ ⇒ |f(x)-b|<ε
と定義し、文章での定義は以下の通り。
「任意の正の数εに対し、ある適当な正の数δが存在して、0<|x−a|<δ を満たす全ての実数xに対し、|f(x)−b|<ε が成り立つ。」
直感に訴える式ではないので理解出来ない人も大勢おり、
「大学数学についていけるかついていけないかはここが境目」と言う人も少なくはない。
∀ε>0, ∃δ>0 s.t. ∀x∈R, 0<|x-a|<δ ⇒ |f(x)-b|<ε
高校数学ではこの様な述語論理を取り扱う機会は少ないので、大学数学まで手を出すド変態計算好きでもない限り意味が不明である。
また、高校数学の問題は様々な公式や定理を駆使して解を導く所謂「パズル問題」であったが、この論法を使いこなすのに求められるのはとにかく「理解度」である。高校数学のノリを大学数学に持ち込み出鼻を挫かれる大学生は少なくない。
現実に「これを教えて数学への好奇心、勉強意欲が無くなってしまうなら教えない方がいいのでは…」と自粛してしまう数学教授や教師もいる。しかしながら、反対に極限や微積分についての理解を深める為にこの論法が不可欠という意見もあるのが現実だ。
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逆に言えば、この論法を理解する事で解析学や微積分、一様収束や連続と一様連続の違い等、見えてくるものが様々ある。改めて無限小・無限大を認識しよう。
∀ε>0, ∃δ>0 s.t. ∀x∈R, 0<|x-a|<δ ⇒ |f(x)-b|<ε
「んで、なんなんこれは」と言いたくなるこの式だが、勿論ただ数学者が嫌がらせの様に記号を並べてる訳じゃなく、意味があっての論理式である。記号1つ1つに意味があり、その記号の組合せが文章となり定義となる。
初歩的な述語論理の読み方は「∃」の記事で取り扱っているので是非読んでほしい。
左から順に解読していこう。
∀ε>0 ⇒ すべての数・イプシロン・0より大きい ⇒ 全ての0より大きい数ε ⇒ 任意の正の数ε
∃δ>0 ⇒ ある数・デルタ・0より大きい ⇒ ある0より大きい数δ ⇒ 適当な正の数δ
合わせて読めば、「任意の正の数εに対して、ある正の数δが存在する」となる。これがこの論法での主人公2人の紹介文である。「s.t.」を飛ばして続きを読もう。
∀x∈R ⇒ すべての数・エックス・属する・実数 ⇒ 実数に属する全ての数x ⇒ 全ての実数x
ここで、0<|x-a|<δ ⇒ |f(x)-b|<ε を A⇒Bと略す事にする。意味は「AならばB」だ。
xはA⇒Bについての詳細記述みたいなもので、合わせて「Aを満たす全ての実数xに対してBが成り立つ」となる。
また、s.t.は "such that" の略で、「P s.t. Q」の意味は「Qとなる様なP」である。
ここまでを全部繋げると、∀ε>0, ∃δ>0 s.t. ∀x∈R, A⇒B の意味は
「Aを満たす全ての実数xに対しBが成り立つような任意の正の数εに対するある適当な正の数δが存在する」
なのだが、読みにくいので前後をひっくり返し
「任意の正の数εに対してある適当な正の数δが存在するとき、Aを満たす全ての実数xに対してBが成り立つ」
とする。砕けた言い方をすると
「どんなプラスの数εがあっても、うま~くプラスの数δを取れば、Aが成り立つ実数xでBも成り立つんやで。」
う~ん、なんとなく感じ取れたのではないだろうか?
これはあくまで形だけなので、「つまりそういう物だな!」という外殻さえ掴み取れれば十分である。
ここではs.t.の前文を取っ払って ∀x∈R, 0<|x-a|<δ ⇒ |f(x)-b|<ε の意味を考えていこう。
前章の「Aを満たす全ての実数xに対してBが成り立つ」にそのまま当てはめてみると
「0<|x-a|<δ を満たす全ての実数xに対して |f(x)-b|<ε が成り立つ」となる。
何かいまいちイメージが掴み辛くないだろうか。そこでa、b、関数fを決める為に以下の例を示す。
lim_[x→2] f(x) = x2 = 4
最初の章の定義と見比べてもらうと分かるだろうが、a=2、b=4、f(x)=x2 となる。
改めてこれを先程の文章に当てはめてみると…
「0<|x-2|<δ を満たす全ての実数xに対して |x2-4|<ε が成り立つ」
それっぽい文章が完成したが、相変わらずこのδとεのイメージが分かりづらい。
しかも紹介される時とは前後が逆になってるのが困惑を加速させている。
先程「εとδはこの論法における主人公」と記したが、それならばこの2人には折角なので会話してもらおう。
適当な数δ「やぁ、イプシロン。」
任意の数ε「ご機嫌麗しゅう、デルタ。」
δ「今の君はいくつなんだい?」
ε「今の私は6でございます。」
δ「そうか、ではそれに対して私は1を取らしてもらおうかな。」
ε「問題ありません。それでは御機嫌よう。」
δ「また会う時まで。」
今、任意の数εが6なのに対して適当な数δは1を取った。
勿論これはδがてきと~に考えて1を取った訳ではなく、キチンと考えて1を取ったのだ。
では実際に当てはめてみよう。
「0<|x-2|<1 を満たす全ての実数xに対して |x2-4|<6 が成り立つ」
0<|x-2|<1を解くと1<x<3である。 |x2-4|<6の解は-√10≒-3.16<x<3.16≒√10なので、前のxを全て内包している。つまり、∀x∈R, 0<|x-2|<1 ⇒ |x2-4|<6 は成り立った。
前章と同じく∀x∈R, 0<|x-2|<δ ⇒ |x2-4|<ε で見ていこう。
適当な数δ「やぁイプシロン。昨日の君は6だったね。今日はいくつだい?」
任意の数ε「今日の私は1でございます。」
δ「随分と小さくなったね。では私は0.2を取ろう。」
ε「問題ありません。それでは御機嫌よう。」
0<|x-2|<0.2 を解くと1.8<x<2.2である。 |x2-4|<1の正の解は√3≒1.73<x<2.24≒√5なので、前のxを全て内包している。つまり、∀x∈R, 0<|x-2|<0.2 ⇒ |x2-4|<1 は成り立った。
適当な数δ「やぁイプシロン。今日はいくつだい?」
任意の数ε「本日は、10のマイナス10乗、つまり1/(1010)でございます。」
δ「……成程。では私は10のマイナス100乗、1/(10100)を取ろう。」
ε「依然問題無く。今後とも永いお付き合いを。」
0<|x-2|<1/(10100) を解くと1.999…<x<2.000…である。 |x2-4|<1/(1010)の正の解は√39999999999/105≒1.99…997<x<2.00…003≒√40000000001/105なので、前のxを全て内包している。つまり、∀x∈R, 0<|x-2|<(1/10100) ⇒ |x2-4|<(1/1010) は成り立った。
この様に、任意の数εがどのように小さい数を取ろうとも、
適当な数δを取る事で ∀x∈R, 0<|x-a|<δ ⇒ |f(x)-b|<ε を成り立たせる事が出来る。
そしてεが任意にとてもとても小さな数を取ったとしても(∀ε>0なので0ではない)、それに応じて適当な数δも極めて小さな数になっていくのが分かる。そしてその時、0<|x-a|<δ(極めて小さい数)において|x-a|は0に近づいていくだろう。
これはまさに lim_[x→a] f(x)=b において、xはaに限りなく近づき、f(x)はbに収束していく様子を表しているだろう。
「無限大」や「無限小」なんて曖昧な言葉を使わずに極限・収束を説明できるε-δ論法はまさに厳密な定義そのものだ。
∀ε>0, ∃δ>0 s.t. ∀x∈R, 0<|x-a|<δ ⇒ |f(x)-b|<ε
「任意の正の数εに対し、ある適当な正の数δが存在して、0<|x−a|<δ を満たす全ての実数xに対し、|f(x)−b|<ε が成り立つ。」
今回、出来る限りε-δ論法を多くの人に理解してもらう為にかなり砕けた説明を筆者はしたつもりだ。
この論法を使う事で一様連続な関数の説明等も出来るのだが、ここで一旦区切りを入れるとする。 誰か続き書いて!
解析学に関して、ε-δ論法は真に驚くべき効果を発揮するが、私の体力と知識はそれを書くには無さすぎる。
おすすめだよ。
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最終更新:2025/12/12(金) 23:00
最終更新:2025/12/12(金) 22:00
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