アーム・スレイブとは、賀東招二氏のライトノベル「フルメタル・パニック!」、及びそれを原作とするアニメシリーズに登場する架空の人型兵器である。
正確にはarmored mobile master-slave system、日本語に直訳すると”主従追随式機甲システム”で、搭乗者の意思に従う兵器といった意味合い。
フルメタル・パニック!の舞台は西暦1990年代末期だが、史実と異なりソビエト連邦が崩壊しておらず、米ソの東西冷戦が依然として続いている現実世界のパラレルワールドである。アーム・スレイブの開発は80年代半ば、当時の米大統領ロナルド・レーガンによりSDI計画(戦略防衛構想)と並んで強力に推し進められた。「局地紛争の新たな主役」、「壮大な技術的挑戦」、「歩兵部隊の省力化に貢献」といった謳い文句の下、僅か三年後に世界初のアーム・スレイブであるM4が完成し、その後十年程の歳月で爆発的な進化を続け、現在では戦闘ヘリでさえ迂闊に近寄れない危険な存在となっている。
しかし、この当時の民間のロボット技術はまだ二足歩行すら覚束ないレベルだった為、この異常に高度な新兵器が登場した当初は世間は騒然となり、オカルト系の本や雑誌は「宇宙人が提供した技術に違いない」等と騒ぎ立て、どの様な技術者集団が開発に携わっていたのか誰もが疑問に思った。しかし、すぐに巡航ミサイルやステルス戦闘機と同じ「当たり前のハイテク兵器」として社会に受け入れられる様になる。
また、人型という形態は本来、兵器としては非効率的な面も多いのだが、その開発史の裏では「人型」を強く押し進める有形無形の政治的圧力が有ったと言われている。殆どの人々はこの事実を知らないが、ごく一部の専門家や軍事関係者、政治関係者は、何か姿の見えない超国家的な存在が、不合理な面を知りながらも敢えて「人型」に拘っているのではないかと、漠然と感じている。
ちなみに、ASは日本語では専ら「強襲機兵」と呼ばれる。これは、米陸軍のM4が世に出た当時、日本のマスコミで「AS」は「Assault Soldier」の略だという誤解が広まり、それが結局定着してしまった為。
90年代初頭、陸上自衛隊がASを導入した際、防衛庁では専守防衛との兼ね合いでこの「強襲」という言葉の是非を巡って不毛な議論が繰り広げられ、当時の防衛庁長官が「主従機士」という名を考案したものの、こちらは殆ど普及せず、政府の公文書だけでしか使われていない。今もなお一般では「強襲機兵」の方が主流である(同じ様な理由で、現実の自衛隊も過去に「戦車」を「特車」と言い換えていた時期がある他、現在でも「歩兵」を「普通科」と言い換えている)。
ちなみに、現場の自衛官達は普通に「エー・エス」と呼んでいる。
作中でも文章、口頭の両方においてAS(エー・エス)と略して呼ばれることが多い。その為、この記事においてもASと略して記述する。
大型の人型ロボットで操縦者が直接機内に乗り込み操縦を行う。ただし最新型の機体では搭載されている人工知能によって、自律機動が可能。
大きさは機種によって若干異なるが、概ね全高8メートル前後、自重は10トン程度である(全高40mのベヘモスなどの例外は除く)。
後述するがASは第一~第三までの世代に分けられ、第三世代機はマッスル・パッケージと呼ばれる、通電によって収縮する特殊な形状記憶プラスティックの繊維を束にした人工筋肉を持ち、完全電気駆動で動きを制御する。動力源は常温核融合炉であるパラジウム・リアクター。
第二世代以前の機種ではまだマッスル・パッケージの性能が不十分だったため、油圧系統などと併用されている。動力源はガスタービン若しくはディーゼルエンジン。
但し、フルメタル・パニック!の世界はブラック・テクノロジーの影響で科学技術が異常発達している為、現実のディーゼルエンジンやガスタービンエンジンなど同種のエンジンよりも高性能である。しかしそれらの発動機はそれなりに騒音が大きいことに変わりなく、それに対して完全電気駆動は静粛性に優れている。
腕は精密な制御が可能なマニピュレータとなっており、人間が用いるのと同様の形状の火砲類やナイフ、ハンマー等といった武器を使用可能。火器と手を端子で繋ぐ事で、引き金を引かなくても発射可能であるが、故障の際の予備系統として引き金を引いても発射が可能。
機体にはレーダーやECS(電磁迷彩システム)など多彩な装備が搭載されており、第二世代機でも時速100km以上、第三世代機に至っては時速200km以上で走行可能。人間以上の三次元機動が可能な故に、「最強の陸戦兵器」とも言われるが、元々山岳地帯や都市部等での局地戦を想定して開発されているため、平原や砂漠の様な障害物および遮蔽物が少なく、交戦距離が長くならざるを得ないような地形では、背が低く射程や火力、防御力に優れた戦車等に対しては分が悪いなど、人型であることやその大きさ故に弱点も多い。
装備する火砲は主として25~90mm程の口径で、内蔵武装として頭部等にチェーンガン(重機関銃)を標準装備している以外は手持ちの火砲を使用する。この為手持ちの武装は様々なものが開発されており、特定機体専用装備というのは少ない。白兵戦用装備としては単分子カッターやHEATハンマーが主として使われている。
ASは、所謂「パワード・スーツ」や「強化外骨格」の発想を拡張した兵器である。当初の構想では1トン以下の分隊支援装備として、兵士の筋力や防御力を増強する目的で設計された。
開発当初の米軍の「XM3」までは、こうしたコンセプトで設計された「大型パワード・スーツ」だった。しかし、これは全高3メートル程度の小型機だった為、大型の動力源を搭載出来ず、駆動方式は行動時間の短いバッテリー方式、装甲防御力は12.7mm弾に耐える程度が限界で、扱える火器も精々20mm機関砲までだった。
これでは、歩兵部隊と行動を共にさせるには扱いが難しく、機甲部隊に同行させるには脆弱過ぎ、対戦車戦闘を行うには機動力も足りない、運用上中途半端な兵器でしかなく、開発は行き詰まってしまった。
この中途半端なコンセプトに、全く異なる概念を取り入れたのが、ジオトロン社の試作機「XM4」であった。
兵器という物は、可能な限りの小型化・軽量化を行うのが常識なのだが、ジオトロン社の開発陣はこれを全く逆に考えた。機体のサイズを大胆にも8m程度にまで大型化し、防御力や機動力、動力源や搭載兵装・電子兵装等の搭載量を大幅に引き上げたのである。
当時、ウィスパード達が世界にもたらしつつあったブラック・テクノロジーの影響で、爆発的な勢いで進歩していた素材系、制御系の技術がこれを可能にした。
これによりXM4は、歩兵部隊が運用出来る規模の兵器ではなくなってしまったものの、敵の装甲戦闘車両や武装ヘリコプターに充分対抗可能な攻撃力・機動力・索敵能力を獲得し、「機甲部隊の支援兵器・M4」として小規模ながらも米陸軍に正式採用されるに至った。
だが、この段階ではASはまだ機甲部隊の中でイレギュラーな存在であり、主に待ち伏せと市街戦でのみ威力を発揮する兵器に過ぎなかった。しかし、M4は然るべき準備を行えば充分なカモフラージュも可能で、この時点でASは既に、海洋に於ける潜水艦と同様の「どこに居てもおかしくない」脅威と成り得る存在だった。
M4の次に開発された「M6 ブッシュネル」は、より攻撃的な性格を持つ事になる。
「第二世代型AS」と称されるM6は、M4を大きく上回る運動性と汎用性を与えられていた。反応が遅く、移動や姿勢変更に時間が掛かったM4に比べ、M6は良く訓練された歩兵以上の動作が可能で、携行可能な火器や電子兵装の量と種類も激増し、より高度で有機的な戦術を採る事が可能になった。
更に改良型のM6A1からは、革命的なステルス化装置「ECS(「Electromagnetic Camouflage System」。電磁迷彩システム)」が搭載され、レーダーや赤外線センサーによる遠距離からの探知が非常に困難になる。接近戦や遭遇戦の機会が激増した戦場は、人型兵器であるASに対して更に有利に働いた。
90年代初頭には、戦車や攻撃ヘリ等の既存兵器がASに対して完全な優位に立てる地形は遮蔽物の少ない平原や砂漠のみになり、その他の起伏に富んだ地域、つまり戦略的価値の有る殆どの地域は、このASで編成された部隊が圧倒的優位を誇る様になった。
この頃には米国やソ連のみならず、一定以上の工業力を持つ先進諸国はこぞって独自のASを開発し、あらゆる民間メーカーがこの新たな兵器市場に先を争って参入した。この現象は後に「M6ショック」と呼ばれる事となる。
「M6ショック」が一段落しかけた90年代後期、米軍は更に発展したAS、「M9 ガーンズバック」の開発を始める。
M9は常温核融合炉であるパラジウム・リアクターと新型のマッスル・パッケージによって、完全な電気駆動を実現しているため、隠密行動時にはバッテリー(コンデンサ)駆動という限定的手段を取らざるを得なかった第二世代のガスタービンエンジン搭載機と比較し、大幅な静粛性の獲得と隠密性の向上、駆動系の革命的な軽量化を促した。
これによって、M9は従来のASや戦闘車両を圧倒する、高度な運動性を獲得している。それまでのASの倍の速度で駆け、全高の数倍の高さを跳び、人間同様の体捌きまで可能とするなど、その戦闘機動は「まるでフィクションに出てくる忍者のようだ」と表現されるほどである。基本重量が軽くなった為、ヘリや輸送機への搭載も容易になり、展開能力(戦略機動性)も向上している。
第二世代機までの余分な油圧系のシステムを全廃した事により、大きな構造的余裕が生まれ、贅沢な程のセンサー類や電子兵装を搭載。また、新型のマッスル・パッケージにはそれ自体にある程度の耐弾性が有る為、防御力も細身な外見に反して第二世代機より向上している。
加えて、不可視モード実装型の次世代型ECSの搭載により、レーダーや赤外線センサーといった電子的な観測手段だけでなく、肉眼でも探知は極めて困難となった。
非常に発達したデータリンク機能を備え、高度なAI(人工知能)を用いた操縦支援システムは、索敵や脅威判定、火器管制、戦術支援、ダメージコントロール、通信等各種機器の操作支援等々、さらには限定的な能力ながら自律戦闘までもこなすことが可能で、より高度で複雑となったASの操縦における負担(ワークロード)を軽減していることも大きい。
上記の通り、ASはその基本構造によって第一~第三世代に分けられる。 下記の機体で言うとM9、アーバレスト、レーバテイン、シャドウ、コダール、エリゴール、ベリアルが第三世代で、サベージやM6、ミストラルⅡ、96式が第二世代である。第一世代は既に旧式装備となっており、殆ど作中には登場しない。
世代間、特に第二世代と第三世代の間には圧倒的な性能の格差があり(作中の例えを用いるならプロペラ戦闘機とジェット戦闘機)、単独戦闘で勝つ事はほぼ不可能。ただし戦術や操縦技量によっては撃破することも可能であり、作中にはサベージでM9を撃破するシーンもある。
基本的にどの機種も、セミ・マスター・スレイブと呼ばれる操縦方式を採用している。これは機体が操縦者の身体の動きを検知して、それを一定の任意係数倍(作中ではバイラテラル角と呼ばれる)した動きを取る方式である。
例えば腕を45度動かした際に、設定値が2だったら機体の腕は90度動く。
戦闘機動の際には3~4に設定する操縦者が多いが、狙撃時などは繊細な動きが必要な為、2前後に設定される。ちなみに相良宗介がアーバレストに搭乗する際の設定値は3.5である。
尚、長時間操作をしていると生身の身体感覚と誤認し、機体から降りる際に目測を誤り事故を起こす事が作中で語られている。
作品中に登場する主なアーム・スレイブを挙げる
アマルガムの機体は特に断りの無い限り、名前は空想の悪魔の名に由来する。
アーバレスト、M9、コダールが登場
海洋堂リボルテック(フィギュア)
アルター1/60アルメカ(フィギュア)
バンダイROBOT魂シリーズ(フィギュア)
壽屋モデロックシリーズ(プラモデル)
壽屋D-スタイルシリーズ(プラモデル)
アオシマ1/48シリーズ(プラモデル)
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最終更新:2025/12/12(金) 16:00
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