いつの日か、いつの日か、タイトルを。
この祈りにも似た叫びをどれほど繰り返しお前に投げかけたことだろう。
クラシックに勝つことはなかった。悲運の名馬という形容さえもらった。
だがタイテエム、お前は信じ続けてくれた。
どんな哀しみも、やがては歓びに変わる瞬間があることを。そして、忘れもしない昭和48年。
“四白流星、無冠の貴公子に春が訪れます”あの天皇賞1着こそはタイテエム、
私達の悲願のゴールインでもあったのだ。
タイテエム(Tai Tehm)とは、1969年生まれの日本の競走馬・種牡馬である。人呼んで「貴公子」「無冠の貴公子」
イギリスからの持込馬で、父セントクレスピン、母テーシルダ、母父ヴェンチアという血統。父と母父は後に日本に輸入された。
タイテエムは幼駒の頃から堂々たる馬体で血統も立派なものだったが、何故か売れなかった。理由は2つ。
1つは当時の値段で1500万円と血統や仕上がりを差し引いても非常に高額だったこと。もう一つは、四白に大流星というド派手なルックスだったことである。当時派手な見た目の馬は大成しないというジンクスがあり、それを気にする関係者が多かったそうな。
旧3歳時は3戦1勝と平凡だったが、明けて旧4歳になり条件戦を連勝。とはいえその時点で既に3月が終わっており、クラシックには間に合わないはずだった。しかしこの年は馬インフルエンザが流行した影響で開催が非常に遅れており、ギリギリでクラシックに間に合うタイミングだった。
この幸運に乗じてタイテエムはクラシック戦線に乗り込み、スプリングSを半馬身差で勝利。勇躍皐月賞に乗り込む。しかし本番では2番人気を裏切る7着に敗戦。勝ったのは「野武士」ランドプリンスであった。
その後NHK杯3着を挟んで迎えたダービー。前述の通り開催が遅れたため、七夕当日の開催となった。
1番人気は無傷で挑んだ皐月賞で3着に敗れていた「重戦車」ロングエース。2番人気はランドプリンスで、タイテエムは3番人気。この「三強」に皐月賞2着の関東馬イシノヒカルを加えた4頭が中心と見られた。タイテエムは直線で一番に先頭に立ちライバルの挑戦を受けて立ったが、直後から猛然と追い込んできたロングエースとランドプリンスに僅かに競り負け3着。勝ったのはロングエースであった。
秋競馬、タイテエムは絶好調で、トライアルの神戸新聞杯ではランドプリンスを破りレコード勝ち。京都新聞杯ではランドプリンスとロングエースをまとめて撃破し、堂々1番人気で菊花賞に挑む。しかしダービーに続いて直線で先頭に立つも、今度はダービー4着のイシノヒカルに差し切られ2着。三強にイシノヒカルを加えた四強でただ1頭クラシック未勝利に終わり、タイテエムは「無冠の貴公子」という不名誉な称号を受けてしまう。
有馬記念には出走せず、翌年の金杯(西)で4着。その後腰の不調で休養に入る。その間にロングエースは引退、イシノヒカルは屈腱炎で長期休養に入っていた。
しばらく間隔を空けて出走したマイラーズカップでは不良馬場をものともせず5馬身差の大楽勝。唯一残ったライバルのランドプリンスを下す。
この大勝もあり、1番人気で挑んだ天皇賞(春)。ランドプリンスや快速馬ナオキ、悲運の名馬ハマノパレードなどが顔をそろえた。
良馬場発表だったが、レース直前に突如豪雨となり不良馬場のような状態の中本番を迎える。タイテエムは中団のインで競馬を進めるが、向正面で後方に押しやられ、3角では後方2番手まで下がってしまう。しかしそこから外へ持ち出して大マクリを見せると、直線でも脚色は衰えず前を捉える。杉本清の「無冠の貴公子に春が訪れます!」という名実況の中、1馬身半差で勝利。念願の八大競走勝利を挙げた。
その後出走した宝塚記念ではハマノパレードの逃げを捕まえきれず2着。レース後にアキレス腱を故障し、どうにか回復しようとした橋田俊三調教師の努力も空しく秋に引退となった。そのころにはランドプリンスも引退しており、72年のクラシックを争った四強は相次いで燃え尽きるようにターフを去った。しかしその後も同世代のハクホオショウやタニノチカラ、ストロングエイトが活躍し、「花の47年組」と称えられる世代となったのだが、それはまた別のお話。
引退したタイテエムは種牡馬入りし奮闘。GⅠ級競走を勝った産駒はなかったが、桜花賞2着のコーセイなど複数の重賞馬を輩出し、四強の中では最も成功した種牡馬となった。タイテエム自身は94年に老衰で死亡したが、その後母父として2歳王者マイネルレコルトを送り出した。
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最終更新:2025/12/15(月) 07:00
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