タマモクロス 単語


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タマモクロス

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タマモクロスとは、1984年生まれの競走馬。芦毛最強時代の一番手として登場した名馬である。実に浪花節な馬であった。

概要

父シービークロス 母グリーンシャトー 母父シャトーゲイという血統。シービークロスは「白い稲妻」とまで呼ばれた追い込みを得意とした人気馬。ただし、GⅠクラスのレースには勝てていない。

生まれた錦野牧場は中堅牧場だったが、牧場主は大きな野望の持ち主で、シービークロスの種牡馬入りに尽力するなど強い馬を造るべく大変な努力をしていた。しかしながら、サラブレッド生産というのは簡単に結果が出る世界ではない。頑張れば頑張るほど借金が転がるように増えて行く。タマモクロスが生まれたのはそんな頃だった。

牧場主はタマモクロスを見て「これは走る!」と直感した。そして、この馬はきっと高く売れて、借金返済の助けになるだろうと期待したのだった。

ところが、ついた値段は500万円。まぁ、実績の無い種牡馬シービークロスと、名血とは言い難い母の仔では仕方が無いところではあった。

錦野牧場には既に億単位の借金があり、牧場主は泣く泣くその値段でタマモクロスを売ったのだった。その後、錦野牧場はタマモクロスが活躍を始める前に倒産してしまう。母のグリーンシャトーも他の牧場に売られて死んでいる。

デビューは3歳の3月で、かなり遅かった。これは、タマモクロスが非常に神経質で体質も弱く、十分な調教が積めなかったからである。ここを惨敗。3戦目のダート戦で初勝利を挙げたものの、その後も凡走を続けた。

転機が訪れたのは3歳も秋になってからのことだった。あんまり良いところが無いので、気分転換に芝を走らせて見ようか。そういう話になって出走した京都芝2200m。ここをどういうわけか7馬身差で圧勝。小原伊佐美調教師は狐につままれたような気がしたそうである。もう一度400万下(当時)の芝2000mを使ったら8馬身差。周りの見る目が違い始めたのはこの時からである。

菊花賞?という声もあったそうだが、タマモクロスは鳴尾記念に出走する。ここだって格上挑戦だ。古馬混合だし。ポイントはハンデ戦だということで、斤量は53kg。トップハンデのメジロデュレンは59kg。この差は大きい。上手くすれば初重賞。というもくろみ。

いやいや、それどころではなかった。スタート出遅れたタマモクロスは4コーナーで馬群に乗り込むと一気につき抜け、レベルの違う脚色で他を引き離したのだった。6馬身差、コースレコードの激勝。「おい!あれ!スゲェよ!」ファンはスタンドで騒然とした。

次は正月の金杯。なんで有馬に行かんの?と思えるようなローテだが、タマモクロスは飼葉喰いが細く、レース後の消耗が激しい馬だったのだ。なので相手が楽なこのレースに使ったのだが・・・。

スタートで後手を踏み、追走にも苦労する。直線入り口では他の馬がごちゃごちゃ前に壁を造っていた。こりゃ、あかん。鞍上の南井克己騎手もあきらめかけた。

ところが、そこから馬群を縫うように、とんでもない内から猛然と突っ込んで突き抜けたのである。えええ~???見ていたファンには何が起こったのか分からなかった。これで重賞2連勝。

次の阪神大賞典はスローペース、そして直線で前が詰まりながらも物凄い根性で首を伸ばし、なんと完全に勝ちパターンだったダイナカーペンターとの同着優勝に持ち込んだ。

こうなればもう、天皇賞ももらったようなものであった。レースでは、ここも内から一気の末脚を披露して「これはもう楽勝です」との実況を背に3馬身差でゴール。父シービークロスの成し得なかったGⅠ勝利を勝ち取ったのだった。表彰式、生産者を称える表彰台の上に人の姿は無かった。錦野牧場はこの時点で名前すら残っていなかったのである。

続くは宝塚記念。ここには当時の中距離王ニッポーテイオーが出走しており、この距離ではニッポーか?ということでタマモクロスは二番人気だった。おいおい、タマモクロスが2500mでレコード勝ちしたのを忘れたのか?実際、レースではニッポーを並ぶ間もなく交わして圧勝。

前年の今頃は条件戦をうろうろしていた馬とは思えない強さで、タマモクロスは敵無しと言っても過言ではない最強馬の座に君臨したのであった。しかし、最大のライバルは思いもよらぬところから現れたのである。

オグリキャップ。公営笠松競馬場というドマイナーな競馬場からやってきたこの馬は、クラシック登録が無い腹いせに、重賞を荒らしまわっていたのだった。なんと重賞6連勝。古馬をも問題にせずに粉砕するこのタマモクロスと同じ芦毛馬をファンは脅威の目で見つめていた。そして必然的に思ったのである。

「タマモクロスとどっちが強いのだろう」

その疑問に答える舞台がやってきた。この年の秋の天皇賞である。タマモクロスはこの秋にGⅠ3連戦を予定しており、体質的な問題もあって休み明けにステップレースを使わなかった。オグリは毎日王冠でシリウスシンボリを問題にせず圧勝している。順調さはややオグリ有利か?と思われていた。そのためか一番人気はオグリキャップだった。

このレース、驚いたことにタマモクロスはいきなり2番手に占位した。ええ?追い込みの切れ味に定評があるタマモが?ファンは仰天した。そのまま直線へ。オグリキャップは絶好の手ごたえで外から追い込みに掛った。タマモクロスはなんか逃げたレジェンドテイオーを交わすのにも手間取っている?

いや、そうでは無かった。南井騎手はオグリが来るのを待っていたのだった。オグリが来るのを確認すると、タマモクロスにゴーサインが出される。すると瞬く間に加速してレジェンドテイオーを交わし、追い込んでくるオグリキャップを引き離す。懸命に追い込むオグリだが、1馬身1/4が永遠に詰まらない差に思えた。

そのままタマモクロスが優勝。史上初の春秋天皇賞連覇を果たしたのであった。ちなみにオグリキャップはゴール後、タマモクロスを物凄い形相で睨み付けて悔しがったそうである。

続くジャパンカップ。堂々の日本代表はタマモクロスだった。オグリキャップも出ていたが、ここはやっぱり外国馬が相手であった。レースでは直線入り口でペイザバトラーと並んで抜け出す形になったのだが、「タマモクロスは並ぶと強い」と知っていたペイザバトラーの騎手が、馬を思い切って内に切れ込ませてタマモと馬体を合わさせなかったのだ。タマモクロスはジリジリ追い込んだがペイザバトラーの二着。オグリキャップは3着。タマモクロスの連勝は8でストップしたのだった。

タマモクロスは有馬記念で引退が決まった。高齢の馬主が「タマモクロスの子供が見たい」と言ったかららしいのだが、結局、この願いは叶わなかった。

ここには最後の雪辱の機会に燃えるオグリキャップも出走してきていた。この時、昭和天皇の病状の悪化が伝えられており、このレースがおそらく昭和最後の有馬記念になると思われていた。そこで行われる芦毛対決。ファンの期待も最高潮だった。

しかし、ただでさえ体質が弱いタマモクロスは激戦続きの秋、もうボロボロだった。正直、回避も考えられたというが、王者は挑戦者を迎え撃つのが義務。無理を押して有馬記念に向かったのだった。

レースではタマモクロスは出遅れ、それでも3コーナーから捲って外から先頭に並びかけた。しかし、そこで満を持して待っていたのが岡部幸雄騎手鞍上のオグリキャップ。秋の天皇賞とは逆の展開となり、懸命に追い込んだもののオグリキャップに半馬身届かない。

最後の最後でオグリキャップの雪辱を許したタマモクロス。しかし、負けて強し。タマモクロスに雪辱して、芦毛最強馬の後継に名乗りを上げたオグリキャップは、このあと、希代のアイドルホースとしての道を歩みだすことになるのである。

通産、18戦9勝。しかしながら、本格化してからは一気に連勝街道を駆け上がったその姿は、正に白い昇り竜と言うにふさわしい戦績である。

灰色でなんか斑があり、身体は細くて牝馬みたい。およそ強そうに見えない馬であったが、兎に角追い出してからの加速と根性が凄い馬だった。首をグイーッと伸ばしながら必死に伸びてくるその姿は、どこか同情を誘うようであり、頑張って走っている感が物凄く漂っていた。

時はバブル。バブルは楽な時代と言われる事もあるが、同時に「24時間働けますか?」なんて言われて、サラリーマンは遊ぶ暇もなく必死にがむしゃらに働いた時代でもあったのだ。潰れた牧場からやってきて、下積みの苦労も悲哀も存分に味わい、レースではがむしゃらに必死に走る。そんな浪花節溢れる姿に、主に中年以上の競馬ファンは深い共感を覚え、声援を送ったのだった。

引退後、種牡馬となったタマモクロスは、カネツクロス以下の重賞勝利馬を多く出して頑張った。オグリキャップなど及びもつかない成績を残したのである。こういう真面目さも、なんというか古き良き日本の美徳を感じる。

2003年死亡。後継が残らなかったのは残念である。

オグリキャップは第二次競馬ブームの火付け役と言われているが、その人気は迎え撃つタマモクロスが厚い壁となって立ちふさがり、名勝負を重ねたからこそ高まったのだ。その意味で、タマモクロスは競馬新時代のきっかけになった名馬だったと思うのである。

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