デーモン・コア(demon core)とは、1940年代にアメリカのロスアラモス研究所で研究に使用されていたプルトニウム塊である。
このコアを用いた実験において人命が失われたケースが複数回生じたため「デーモン・コア」と呼ばれるようになった。
動物実験ではプルトニウムによる発がん性が十分に証明されている。しかしヒトに対するものではプルトニウムががんの病原であると医学的に断定された例は1つもない。
その一方で、プルトニウムを扱っていた初期の現場では、不十分な知識と設備、および扱い方によって、未臨界のプルトニウム塊が条件が重なって臨界状態となり、大量の中性子線を浴びた被曝事故による死者は数名いる。
中でも有名なのがロスアラモス研究所にあり、後に「デーモン・コア」とあだ名された約6.2kgのプルトニウム塊である。
1945年8月21日、24歳の科学者ハリー・ダウアン(Harry Daghlian)は、プルトニウム塊を用いた中性子反射体の試験を行っていた。中性子反射体である炭化タングステンのブロックをプルトニウムの周りに置き徐々に臨界に近づけるという試験であるが、ブロックがプルトニウムに近づきすぎると即臨界状態となり危険である。
しかしながらダウアンはうっかり手を滑らせてブロックを落下させてしまい、臨界状態となったプルトニウムから放出された中性子線を浴びてしまった。推定5.1シーベルトの中性子線を浴びたダウアンは25日後に急性放射線障害によって死亡した。
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1946年5月21日、35歳の科学者ルイス・スローティン(Louis Slotin)は別の中性子反射体であるベリリウムを使って、どのような条件で臨界状態となるかと言う実験を行っていた。
これは半球で割った球殻状のベリリウムでプルトニウムを覆い、マイナスドライバーを間に挟んで上下の隙間を開け、マイナスドライバーをぐらつかせ上半球の距離を変える事で比放射能の値を測るという実験であった。もしマイナスドライバーが外れ球体がくっつけば即臨界状態となり危険である。
誰がどう見ても危険なこの実験にしかしながら毒性の強いプルトニウムを素手で触ったリチャード・P・ファインマンは「ドラゴンの尻尾をくすぐるようなものだ」と批判し、エンリコ・フェルミも「そんな調子では年内に死ぬぞ」と忠告したと言われているが、大多数の同僚が実験への参加自体を拒否する中、スローティンは率先して実験を行っていた。スローティンは元々、イギリス留学中に志願して王立空軍の戦闘機乗りとなりスペイン内戦に参加したという経歴があったり、稼働中の原子炉の近くでの機器修理に携わって多量の放射線を浴びたりと、危険を顧みない(あるいは、あえて危険に飛び込む)かのような行動をとりがちな節があったようだ。
そしてこの日、とうとうマイナスドライバーが外れベリリウム球殻がくっつき、臨界反応が発生した。スローティンは慌てて上半球を弾き飛ばして他の研究者の命を守ったが、文字通り皆の先頭に立って実験をしていたスローティンはたった1秒間で21シーベルトもの中性子線を浴びて9日後に死亡した。
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また、実験をスローティンの肩越しに見ていた36歳の科学者アルバン・グレイブスも相当量被曝した。事故当時のグレイブスの写真では、彼の左側の頭髪が失われている。
しかしスローティンが盾となっていた事で生存し、核実験関連の仕事に従事し続けた。事故から2年後には妻の間に健康な男児を得ている。その後も居住地域の銀行や教育委員会の理事となったり、チェロを学んで地域の楽団に所属していたりと、活動的な人物だったようだ。事故から19年後の1965年、スキー中に心臓発作を起こして死去した。
デーモン・コアは1946年に行われたクロスロード作戦の第3実験「チャーリー」に使用される予定だったが、この第3実験はキャンセルされた。
最終的には、デーモン・コアは融解されて他の兵器の材料となった。[1]
原子爆弾の開発について描いた映画「シャドー・メーカーズ」の、スローティンの事故をモデルとしたシーン。
事故直後、科学者のマイケル・メリマン(架空の登場人物。スローティンにあたる)が、現場に居合わせた人々が被曝した放射線の量を黒板で計算した後
「Everybody should make it, except me.」(皆は問題ないはずだ。 俺以外はな。)
「I’m dead.」(俺は致死量を浴びてる。)
と動揺しつつ語るシーンが印象的である。
以下のリンクには、被曝後のハリー・ダウアンやルイス・スローティンの手(皮膚に放射線障害が現れ始めているもの)など、やや刺激が強い写真も含まれる。閲覧注意。
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最終更新:2025/12/11(木) 21:00
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