絶望的暴力が支配する時代。
それに抗う少女の物語。
『乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ』とは、大西巷一による15世紀の中欧を舞台にした歴史漫画作品。
2013年5月より「月刊アクション」創刊号から連載。ニコニコ静画には約1月遅れで掲載(関連静画参照)。
なお副題の「ディーヴチー・ヴァールカ」(Dívčí Válka, ヂーフチー・ヴァールカ)はチェコ語で「乙女たちの戦争」を意味し、一般にはボヘミア王国・プシェムィスル朝(9世紀~1306)の伝説的女太祖リブシェ(Libuše)の死後、その伴侶である農夫王プシェムィスル(Přemysl Oráč)の暴政に反旗を翻した、元リブシェ付き女官ヴラスタ(Vlasta)やその副官シャールカ(Šárka)を筆頭とした女性たちの壮絶な戦いを描いた短い伝承を指す。
曖昧さ回避
- Z女戦争(おとめせんそう) - 2012年6月に発売された、ももいろクローバーZの8枚目のシングル。 c/w は「PUSH」「みてみて☆こっちっち」
概要
フス戦争(1419 - 1435)最初期のボヘミア王国西部。12歳の少女シャールカの住む村は、聖ヨハネ騎士団による苛烈なフス派狩りにより、完膚なきまでに蹂躙された。唯一の生存者であるシャールカは当て所も無く街道を彷徨い、ついに行き倒れたところを重武装した一団に救われる。彼らは、近代的銃火器(火縄式マスケット銃など)を欧州史上初めて実戦投入したとして後世に名を馳せることになる傭兵隊長ヤン・ジシュカが率いる、ボヘミア最強の傭兵隊「トロツノフの隻眼巨人(キクロプ、kyklop)隊」であった・・・・・・。
登場人物
フス派陣営
- シャールカ(Šárka)
- 主人公の少女。12歳。村を滅ぼされて寄る辺の無い所をヤン・ジシュカに見出され、ハンドキャノン(ピーシュチャラ píšťala, 「笛」の意味もあるし、現代では専ら「拳銃(ピストル)」を意味する)を与えられる。
トロツノフの隻眼巨人(キクロプ)隊
- ヤン・ジシュカ(Jan Žižka z Trocnova a Kalicha)
- 元下級貴族で隻眼の傭兵隊長。通称「騎士殺しのジシュカ」。隊員たちからは「オヤジ」と呼び慕われている。
- ヴラスタ(Vlasta)
- 仲間内から「化け物」と囁かれるほどの豪腕かつ豪胆な女傭兵。
- フロマドカ(Hromádka, フロマートカ)
- 隻眼巨人隊に従軍する、ボヘミア西部の町プルゼニ(Pulzeň, ドイツ語名ピルゼン Pilsen)の鍛冶。
- カテジナ(Kateřina)
- フロマドカの妻。偉丈夫で頼れるおっかさんタイプの女性。
- カレル(Karel)
- フロマドカの才能ある若き徒弟。同じ年頃のシャールカとすぐに仲良くなる。
- ロハーチ(Roháč)
- チャペック(Čapek)
その他フス派陣営
- ヤン・フス(Jan Hus)
- 宗教改革運動の指導者。物語開始の5年ほど前に異端者として火刑に処されている。
- ミクラーシュ(Mikuláš)
- フス派の新拠点「山」(ターボル、Tábor[1])を指導する司祭で、ジシュカとは旧い付き合い。
- プロコプ(Prokop)
- ターボル軍の従軍宣教師。少年少女たちによる聖歌隊「ターボル天使隊」を組織する。
- ガブリエラ(Gabriela)
- 「山」の住人。少し大人びて落ち着いた雰囲気の少女。
- ターニャ(Táňa)
- 「山」の住人。短い癖っ毛で実に活動的な少女。
- ラウラ(Laura)
- 「山」の近隣の町でカトリック側に監禁されていた女性たちの一人。心に傷を負い、憑かれたように歌い続ける。
- ヴァルテンベルクのチェニェク(Čeněk z Vartemberka)
- ボヘミア最上級城伯(nejvyšší purkrabí)[2]にしてボヘミア貴族団の代表。物語が始まるまでにも、フス火刑後には火刑に抗議する貴族たちの署名を集めたり、大司教の両種聖餐禁止令に抗議して司祭を誘拐するなどかなりの行動派。
ローマ・カトリック陣営
ローマ教皇
- マルティネス5世(Martinus Ⅴ, マルティヌス)
- ジギスムントが開催したコンスタンツ公会議により選出され、西方教会大分裂が収拾した直後に即位したローマ教皇。失墜した教会の権威を回復すべく、ボヘミアの異端者たちへの十字軍を提唱する。
ドラゴン騎士団
- ジギスムント(Sigismund von Luxemburg)
- ルクセンブルク朝神聖ローマ帝国皇帝。ハンガリー王ルクセンブルギ・ジグモンド(Luxemburgi Zsigmond)としては、オスマン帝国に対抗するために諸侯連合であるドラゴン騎士団(洪: Sárkány Lovagrend)[3]を結成し盟主となる。フスを火刑台に送った張本人で、その後の彼のボヘミア王位継承もフス戦争の動機の一つとなった。
- バルバラ(Barbara von Cilli, Barbara Celjska)
- ジギスムントの皇妃。スロヴェニアの大貴族ツェリェ(独名ツィリ)伯家の出身で、夫の不在時にはハンガリー王として振る舞い、後に「ドイツのメッサリーナ」[4]の悪名で呼ばれる。彼女自身はドラゴン騎士団員ではないが、騎士団設立には彼女の存在が大きい。
- ニコラス・フォン・ガラ(Nikolaus Ⅱ von Gara)
- ハンガリー名ガライ・ミクローシュ2世(Garai Miklós Ⅱ)。ハンガリー副王(Nádorispán/Nádor)[5]。ジギスムントとは互いにツェリェ伯家出身の妃姉妹を通じての義兄弟にあたる。
- スティボール・フォン・スティボルツ(Stibor von Stiborice und Beckov, シュティボル・フォン・シュティボリツェ)
- ハンガリー名シュティボリツィ・シュティボル(Stiborici Stibor)。ポーランドの名門氏族出身のハンガリー軍長(羅: ius indigenatus)、宮宰。ジギスムントとは辺境伯時代からの親友の一人で、公私ともに良き助言者。またニコラス・フォン・ガラはエステルゴム大司教によるスティボール追い落とし事件(1401)とナポリ派クーデター事件(1403)で共に戦ってくれた盟友。
- ヘルマン・フォン・ツィーリ(Hermann Ⅱ Graf von Cilli, Ortenburg und Seger)
- スロベニア名ヘルマン2世ツェリスキ(Herman Ⅱ Celjski)。ツィーリ(ツィリ、スロベニア名ツェリェ)伯。皇妃バルバラの父でジギスムントにとっては義父。1396年のニコポリス会戦(ニコポリス十字軍)の最終局面、敗走する王軍の撤退戦に奮闘しジギスムントの命を救い、数々のクーデター事件でも活躍している。
- フィリポ・スコラーリ(Filippo Buondelmonti degli Scolari)
- 別名ロ・スコラーリ、ピッポ・スパーノ(Lo Scolari, Pippo Spano)。ハンガリー名オゾライ・ピポー(Ozorai Pipó, オゾラは居城のあるハンガリー中西部の村)。塩管理庁伯、セヴェリン(対オスマン防衛線)総督。フィレンツェ出身の将軍・戦略家だが、卓越した財務管理でジギスムントの覚えめでたく親友となる。ニコポリス会戦では敢えなく撤退したものの、ナポリ派クーデター事件では主要都市の奪回戦で大活躍。
聖ヨハネ騎士団
- ハインリッヒ・フォン・ストラコニツェ(Heinrich von Strakonice)
- 巨漢の隊長。異教徒の女(特に幼女)を犯し殺すのを誇りとする変態。
ドイツ騎士団
- ヴィルヘルム(Wilhelm)
- 十字軍の理想に燃える若き「黒騎士」。
- ギュンター(Günter)
- 年配の騎士。
関連動画
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関連静画
乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ - ニコニコ静画(毎月25日ごろ更新)
関連項目
- 漫画アクション
- 大西巷一
- 中世ヨーロッパ史/宗教改革/フス戦争
- ボヘミア/チェコ
- わが祖国(Má Vlast) - ベドジヒ・スメタナの交響詩連作。リブシェの伝説からフス戦争の終結に至るまでのボヘミア史がモチーフ
- おお牧場はみどり - チェコおよびスロバキアの民謡。第5話でラウラが口ずさむ[6]
- グレゴリオ聖歌 - 西方教会の宗教歌。第5話でターボル天使隊が「死者のための祈」(Rekviem, レクイエム)をチェコ語で合唱
- 汝ら神の戦士なり(Ktož Jsú Boží Bojovníci) - フス派の進軍歌。第5話でターボル天使隊が合唱
- サイクロプス/サイクロプス隊
脚注
- *ターボル(Tábor)はチェコ南西部の町で、フス戦争当時はフス派最右翼分派・ターボル派の中心的拠点。町の名は『旧約聖書』「士師記」において士師バラクと士師デボラがカナン軍との総力戦を前にイスラエル軍を集結させた場所であり、後代にイエス・キリストが「山上の変容」を遂げた場所であるとの伝承を生んだパレスチナの山にちなむ。
またチェコおよび周辺諸国の言葉では「野営地(キャンプ)」を指す普通名詞として定着した。 - *最上級城伯(ネイヴィッシー・プルクラビー)とはボヘミア独特の称号で、要するに王都プラハ城伯のこと。城内に屋敷を持ち、ボヘミア王に代わってあらゆる都市行政を司る。
- *この騎士団の参加者で他に有名なのは、ワラキア侯国の竜侯ヴラド2世(Vlad Ⅱ Dracul)とその息子の小竜侯(あるいは串刺侯)ヴラド3世(Vlad Ⅲ Drăculea/Țepeș)だろう。彼らの二つ名はドラゴン騎士団に由来するが、後世では「悪魔侯」と誤解されるに至った。
- *ワレリア・メッサリーナ(Valeria Messalina)は古代ローマ皇帝クラウディウス皇妃の一人で、最期は皇帝暗殺計画が露見して暗殺される。転じて強欲・残酷・淫奔な悪女の代名詞の一つ。
- *副王(ナードリスパーン、あるいは単にナードル。スラヴ語の「宮宰」に由来)とは宮廷の内務と財務を取り仕切る最有力貴族に端を発し、やがて全ての自由民を裁く王代理裁判官を兼ね、さらには王宮近傍のペシュト一帯を支配する伯爵にもなった(ラテン語では宮中伯(palatinus comes)と訳されるが、ドイツの宮中伯(Pfalzgraf)は有事に際し中央からの命令を待たず迅速に対処するために辺境を所領とする大貴族であり、首都直近に領地を持つ副王(Landespalatine)とは異なる)。この物語の時期には広大な領土と相次ぐ戦乱のために宮城を留守にしがちな王の代理をも務めるほどになった。
- *チェコ西部(ボヘミア)版とチェコ東部(モラヴィア)・スロバキア版では歌詞が違い、ラウラが歌っていたのはもちろんボヘミア版の「ああ牧場、広大な牧場」(Aj, Lučka, Lučka Široká, lučka は louka (牧草地)の指小形)のリフレイン前半("Teče voda z hora, čistá je jako já, toči se dokola, okolo javora.")。
歌全体としては、牧草地で泣いている二人の草刈り娘を目ざとく見つけた城主が「一戦交えるから馬を出せ」と家来に命じ、家来が「弾も銃も無いのに?」と返すと城主は「捕まえるのだ、18歳の雌鹿をな」と嘯くというもの。
ちなみに日本語版は、ボヘミア版の歌詞からエロス物語要素を排して牧歌的労働歌風に翻案したアメリカ版「ああ麗しの牧草地」(Ah, Lovely Meadows)を、さらに福音派(日本ホーリネス教会 → 日本イエス・キリスト教団)の牧師・中田羽後が自然賛歌風に翻案したもの。