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羊をめぐる冒険とは、村上春樹による第三の長編小説である。
十分後にもう一度ドアが開き、黒いスーツを着た背の高い男が入ってきた。男は「ようこそ」とも「お待たせしました」とも言わなかった。僕も何も言わなかった。男は黙って僕の向いに腰を下ろし、少し首をかしげて僕の顔を品定めするようにしばらく眺めた。たしかに相棒が言ったように、男には表情というものがなかった。
ひとしきり時間が流れた。
村上春樹初期作品「鼠三部作」のラストを飾る小説。野間文芸新人賞受賞作。
突然妻に別れを告げられた「僕」。そんな「僕」と相棒が経営する広告代理店に右翼の大物の秘書だと称する怪しげな人物がやってくる。代理店が制作したPR誌に掲載された写真に紛れた「星形の斑紋が刻まれた羊」を探すように、さもなければ会社を潰す、と「僕」は脅迫される。その写真を撮ったのは「僕」の古い友人「鼠」。羊、鼠、北海道、いるかホテル、いくつかのキーワードを手がかりに「僕」の冒険が始まる––––
村上春樹が専業作家となり本格的な創作活動を開始させたターニング・ポイントとされる村上初の長編である。この作品から代表作『ノルウェイの森』を発表する約五年間に春樹はその地位を確立した「黄金時代」としても良いだろう。「身近な女性が突然どこかへ行ってしまう」「突然のファンタジー展開」「猫」を筆頭に村上文学の定番パターンが本作には揃っていると言えよう。
全てが交換可能なものになり歴史の重みを失った消費社会のリアルが、歴史を欠いた北海道の辺境の光景などを通じてスケッチされている。
「キー・ポイントは弱さなんだ」と鼠は言った。「全てはそこから始まってるんだ。きっとその弱さを君は理解できないよ」
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最終更新:2025/12/06(土) 07:00
最終更新:2025/12/06(土) 07:00
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