限定されたパターナリスチックな制約 単語


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限定されたパターナリスチックな制約とは、憲法学で語られる言葉である。

概要

定義

自己に危害を加えて人格自律権[1](人生を設計する権利)を回復不可能なほど永続的に喪失しようとしている人に対し、その人の基本的人権を制限してその人が自己に危害を加える行為を阻止することを、限定されたパターナリスチックな制約という。

「肉体が成熟していない未成年が飲酒や喫煙をすると、回復不可能なほど永続的に肉体が損傷して、回復不可能なほど永続的に人生設計に悪影響が及ぶから、未成年に対して飲酒や喫煙を許さない」といったものが限定されたパターナリスチックな制約の例として挙げられる。

性質

政府が基本的人権を制限するときに容認されやすい口実としては他者加害原理が挙げられるが、それと同じぐらいに容認されやすい口実は「限定されたパターナリスチックな制約」である。

憲法学の教科書には次の記述がある。

先に触れたミルの「他者加害原理」の中に、「彼自身の幸福は、物質的なものであれ道徳的なものであれ、十分な正当化となるものではない」という言明があることをみた。要するに、あなた自身のためにならないからという理由で権力が後見的に(パターナリスチックに)その人の生に干渉することは許されない、ということである。

この言明も「自由の原理」としてきわめて重要なものであるが、後述のように、特に人格的自律権(自己決定権)を「権利」として広くかつ独自のものとして捉えた場合(第2章第1節参照)、このような権利に対する制約(「自己加害」に対する制約)は一切認められないかが現実的問題として浮上する。この点、未成年者の場合を考えれば分かりやすいが、人格的自律そのものを回復不可能なほど永続的に害する場合には、例外的に介入する可能性を否定し切れないと解される(限定されたパターナリスチックな制約)。

-『日本国憲法論 法学叢書7 2011年4月20日初版(成文堂)佐藤幸治』135ページより引用-

パターナリスチックという言葉

パターナリスチックは英語のPaternalisticであり、「父親的温情主義の」と訳される。

Paternalisticの名詞形はPaternalismで、パターナリズムと読み、「父親的温情主義」と訳される。

父親的温情主義は、親が子のことをおもんばかるように「君の人格的自律権を損なうから」「君が君の人生を設計するにあたって障害になるから」という理由で基本的人権の一部を取り上げて行動を制限することをいう。

パターナリスチックな制約

定義

自己に危害を加えて人格自律権(人生を設計する権利)を喪失しようとしている人に対し、その人の基本的人権を制限してその人が自己に危害を加える行為を阻止することを、パターナリスチックな制約という。

「限定されたパターナリスチックな制約」よりも広い概念である。

「受験生がマンガを読むと『受験に合格して良い大学に入る』という人生設計に悪影響が及ぶから、受験生に対してマンガを読ませない」といったものが例として挙げられる。

性質

政府が基本的人権を制限するときにパターナリスチックな制約を口実にすることは容認されにくい。人格的自律権を喪失して「自分の人生を設計する権利」を失ったとしても、それが回復することがありうるからである。マンガを読んだ受験生は受験勉強の時間を損することになるが、その損失は取り返すことができる。

愚行権

愚行権という言葉がある。「愚かなことをして人格的自律権を失う自由を認めろ」と主張しつつ「パターナリスチックな制約」を拒否する人が使う言葉である。

本記事のように表現すると「人格自律権を一時的に喪失するだけの愚行は愚行権として認めるべきだ」となり、「人格自律権を回復不可能なほど永続的に喪失する愚行は『限定されたパターナリスチックな制約』を実行して制限べきだ」となる。

関連項目

  • 憲法
  • 日本国憲法第12条
    • 公共の福祉
  • 他者加害原理 - 政府が基本的人権を制限するときに使う口実の1つ
  • 愚行権 - 「パターナリスチックな制約はやめるべきだ」という考えから発生する権利
  • 人権
  • 自由
  • ジョン・スチュワート・ミル
  • 機能的財政論 - 税金は他者加害原理や「限定されたパターナリスチックな制約」を口実として罰金として徴収する、という考えを導く財政論
  • 法律に関する記事の一覧

脚注

  1. *人格的自律権とは憲法学の用語であり、「人が自分の人生を設計する権利」と定義できる。『日本国憲法論 法学叢書7 2011年4月20日初版(成文堂)佐藤幸治』の121ページに次の文章がある。・・・ここには、「個人の尊重」が「国政」のあり方の基本にかかわることが示唆されている。ここに「個人の尊重」ないし「個人の尊厳」とは、一人ひとりの人間が人格的自律の存在(やや文学的に表現すれば、各人が社会にあってなお“自己の生の作者である”ということ)として最大限尊重されなければならないという趣旨である。・・・

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