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うつ病とは、精神疾患の一種である。
これまでDSM-ⅣやICD-10といった主要な疾病分類においては双極性障害などと共に気分障害の一種としても括られていたが、2013年に刊行されたDSM-5では独立した「うつ病性障害」として定義された。
漢字では「鬱病」や「欝病」と書くが、いずれも「うつ」を表記する漢字が複雑、および画数が多いため、現代ではひらがなを用いて表記することが一般的。
概要
何らかの理由で「やる気」を引き起こす脳内物質(セロトニンなど)の分泌に異常を来たしていることが原因と言われている。
ストレス過多など精神的な要因・脳の損傷など肉体的な要因・中には遺伝や幼少期における何らかの出来事による脳の構造自体が要因となるケースなどがあるといわれている。
主な症状として
- 精神的症状
- 抑うつ状態(やる気が出ない)の継続や集中力の低下。喜びを感じなくなるなど。症状が進行すると、リストカットなどの自傷行為や最終的には自殺願望なども現れる。
- 肉体的症状
- 睡眠障害、摂食障害(一般的に拒食になることが多い)、頭痛、下痢、便秘など
に分別され、特に精神的症状である抑うつ状態が一番メインの症状となる。
ちなみに、誤解されがちであるが【抑うつ状態】そのものは、一時的なストレスなどで誰にでも起こりえる症状である。むしろ全く気分が落ち込まないという人は、ADHD(不注意・多行動発達障害)や躁病(詳細後述)の疑いがあるかもしれない。しかし大半の場合、休養を取ったりストレスを解消することで、自然に元の状態へ戻ることが出来る。
うつ病とは、脳に異常が生じ、自力で抑うつ状態から抜け出せない状態の事を指す。
例えるなら、金属が弾性変形の限界を超えて塑性降伏点に達した状態を考えると分かりやすいかもしれない。
また、稀に肉体的な症状のみが現れる場合もあり、これは「仮面うつ病」と呼ばれる。この場合、内科や消化器科などをたらい回しにされても原因が分からず、発見が遅れることもある。
うつ病の種類
症状によって主に次のように分けられる。
大うつ病
抑うつ状態が長期間継続するタイプ。一般的に「うつ病」と言えば、この大うつ病、特に仕事・プライベートを問わず全般的に興味を喪失するメランコリー型を示す場合が多い。ただし、ここで言う「大」とは、米国野球の「大リーグ(メジャーリーグ)」といった意味での「major」を直訳した「大」、すなわち「主要な」「中心的な」という意味合いであり、「とても重症」という意味を指しているわけではないことに注意を要する。
また、最近では「新型うつ病」の存在が議論されている。この「新型うつ病」は厳密には医学用語として存在しない。これは仕事・学校など特定のシチュエーションでは抑うつ状態になるが、その他の状況では問題ないというもの。一見すると都合の良い「怠け」と捉えられがちであり、医師の中にも新型うつに否定的な意見が存在し、非定型うつ病や気分変調症との類似性を指摘する人もいる。(これについては後述の「うつ病への偏見」で詳しく述べる)
その他に、季節性の症状、女性の場合は産後などに生じるうつ病も存在する。
双極性障害(躁うつ病)
最近までは躁うつ病と呼ばれていた。
気分が異常に高揚する「躁」の状態と、抑うつ状態が交互に現れる(躁の状態だけが現れるのは「躁病」という)。躁病の程度によってI型とⅡ型に分けられる。
Ⅰ型の躁病相では顕著な躁状態を呈し、場合によっては強制入院の対象となる事もある。
それに対し、躁が軽いⅡ型では本人が自覚できない場合もあり、大うつ病と誤診されるケースもある。
また、躁とうつが同時に発生する混合状態という病相も存在し、双極性障害の患者の病態は多岐に渡る。
適応障害(うつ病とよく似たケース)
うつ病と直接関係は無いが、診断で誤診されやすい病気である為、こちらに記述する。
入学や入社、転校、転勤などで状況が変わったが、精神的に対応できずに異常を来たす病気。症状がうつ病のそれとほとんど同じであり、軽度のうつ病と見分けることは非常に困難である。
一番の違いとしては適応障害は「環境が変わってから3ヶ月以内に起きること」である。
原因となっている環境(学校・職場)などから離れることで症状は治まるが、逆を言うとそこへ戻ったら再発のリスクが高いということであり、ある意味でうつ病より厄介な症状である。
治療
うつ病は分類的には精神科に属するが、心療内科でも診療してもらえる場合が多い。
うつ病の判定及び治療方針の決定には念入りな問診が不可欠なので、病院を選ぶ際には「初診に十分な時間を費やしてくれる」ことが一つの目安となる。地域にもよるが、逆に「予約無しで診察可」を謳っているところは敷居が低いが推奨しかねる。また、初回から大量に薬を処方するような医者も避けたほうが良い(1~2種類の薬を処方→次の診断で結果を基に薬の変更や増減をするのが一般的である)。
現在の日本で一番広く用いられているのは、うつ病の症状を緩和する抗うつ薬を用いた薬物療法である。
但し、抗うつ薬の大半は「薬用成分の平均血中濃度」と「服薬者の体質」で作用が決まる。大半の抗うつ薬、特に最近なって発売された薬は即効性が乏しい物が多く、最新の「SSRI」や「SNRI」、「NaSSA」といった薬では効果が安定するのに最低1週間は要する。
最新の薬ではかなり改善されつつあるが、中には副作用が強い薬もある。これには、一口に抗うつ薬と言っても千差万別であり、個人の体質や症状によっては効果の薄い薬もあるため、自分にあった薬が見つからない場合、治療が長期化する傾向が見られる。
また、副作用の苦しさや、逆に一時的な回復を「完治」と思い込んで自己判断で投薬を中止する人がいるが、抗うつ薬には「離脱症状」と呼ばれる、一定期間以上の定期服薬状態から投薬を止めた時に生じる一時的な症状悪化があり、なおさら病気を進行させる恐れがある、これは一般に血中濃度半減期(体内において薬の成分が半分になるまでの時間)が短い薬において顕著である。
なお、投薬治療を受ける場合に重要なのが「前回受診以降に発現した症状、家庭内、職場、人間関係の問題点などを医師にしっかり、細かく、的確に伝えること」である。
これは先述した通り、抗うつ薬は千差万別であり、例えば「自殺衝動がある」という症状が発現しているのに「行動意欲を高める薬」を投与されてしまうと、薬の効果で自殺を成し遂げてしまうという、非常に恐ろしい結果を引き起こす(この場合は一般に「気分を落ち着かせる、不安を取り除く薬」が適正である)。
投薬治療は広く用いられているが、忘れてはならないのは、抗うつ薬は基本的に「対症療法」に過ぎないということ。つまり頭痛に対して、傷みの原因から、痛いと判断している脳内への神経伝達をブロックするために鎮痛剤を飲んでいるのと一緒であり、根本的な原因は薬では取り除くことが出来ない。
たとえばストレス過多が原因の心因性うつ病であれば、休養・静養で概ね症状は改善される傾向にある。また併せて、認知行動療法(うつ病を引き起こした思考パターンなどの改善)も行うと、回復のみならず再発防止に効果がある。
脳に刺激を与えて機能改善を図る電気刺激療法なども存在するが、日本ではあまり広がっていない。
うつ病に対する偏見
日本では「精神疾患」という概念自体が定着したのが遅く、特にうつ病はその症状が「やる気が出ない」ことであるため、「怠け病」として精神論・根性論でどうにかなると考えられることが多い。特に先述した「新型うつ病」は仕事や家事以外での遊び・飲み会などでは他人に普通に振舞えるために、余計にその傾向が強い。
また、うつ病の判定は最終的には医師の問診に頼らざるを得ない、診断基準としてDSMやICDといったガイドラインを用いた「操作的診断基準」や、脳機能マッピングを行う「光トポグラフィ検査」によって定量的にうつ病を鑑別する試みもあるが、これらはあくまで診断の補助材料に留まっている。
中には生活保護の不正受給の口実として「自分はうつ病である」と医者に強引に訴えかけるケースや、逆に医師が営利を目的として病院に来た患者を容易に「うつ病」と判定して、治療費を得ているケースもある。
このように、客観的証拠が無く患者や医師次第で病気と判断される事が、うつ病への偏見を強くしている側面もある。
但し、これには日本の医療制度が精神科医に対して不利(短時間で多くの患者を診ないと利益が出ないので問診に時間を掛けられない)という事情や、精神疾患や向精神薬の薬理は脳機能や神経伝達と密接に関わり未だ解明されていない部分もあるため、何とも言えないところである。
しかし、うつ病は軽度であれば概ね短期間の休養と投薬治療で改善される事が多いのに、こういった「怠け病」と見る風潮や、精神科への偏見から軽いうちに病院へ行くのを拒んだ結果、症状が悪化し休職が必要なレベルでやっと病院へ行く→「怠け」で会社を休んでいると見られる、という悪循環に陥っているのが現状である。
なお、ネット上などではセルフチェックリストが多く出回っているが、あれは大半が「抑うつ状態」の有無を調べるものであり、それだけを根拠にうつ病だとは言えない。あくまでもうつ病の判定を出すのは「精神科医」である。
「うつは甘え」への反論
例:アフリカメソッドによる反論
(前略)先ほど、極まれば即ち返ると言いましたが、お釈迦さんも、裕福な王族の生まれであったればこそ、目先の生活の苦しみではなく、根源的な生の苦しみに着目したわけです。しかし、どうもこのへんの部分に反感を覚える人も多く、けっきょく、お釈迦さんはニートだのなんだの、きっと何者にもなれないもの言いをする人をよく見かけますが、そんな人たちに送る「アフリカメソッド」というものがございます。
よく小さい頃に母親などから言われる「アフリカの子供はモノも食べられずに死んでいくんだ、それに比べたらアンタは恵まれているんだから……」という、平均的な日本のご家庭で繰り広げられたお馴染みの小言ですが、「そりゃそうだけど、それとこれとは話が別だろう」と思った人は、まさに、子供心に反発を覚えた母親とまったく同じことを言ってるんですよ、と。
他と比べて裕福であるかどうかと、個人の抱える悩みはまったく別の次元である(注釈)ということを経験的に知っているならば、脊髄反射で口を開くのは慎みたいモノでございますし、思春期や厨二病などのもの言いで先人の思索や努力を嘲笑するような態度は何も生み出しえないし、何も学びえないので注意を喚起したいところであります。
(注釈)他と比べて裕福であるかどうかと、個人の抱える悩みはまったく別の次元である:
「物質文明は精神文明を汚染する」的な「直感」があるせいか、「物質的に恵まれた状況における悩みは、本当の悩みではない」という「直感」が肯定されるケースは多いように思える。しかしながら「お前は物質的に恵まれているんだから」という理由で人格否定するのは、精神的に成熟した人間の態度ではあるまい。
関連項目
親記事
子記事
兄弟記事
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