売掛債権とは、企業の資産の1つで、将来において商品の代金を受け取る債権のことである。売上債権、営業債権、受取勘定とも呼ばれる。
一部では、売掛金(売掛債権の一形態)のことを売掛債権と表現する例が見られており、用語の混乱がみられる。
概要
定義
企業が他の企業に向けて商品やサービスを販売するとき、すぐに代金の支払いを求めず、将来に代金を支払ってもらうことが多い。これを信用取引とか、掛取引(かけとりひき)という。
江戸時代には、節季払いという信用取引が、商店間の取引のみならず、商店と庶民と間の取引にも定着していた。商品やサービスを購入する側はすぐに代金を支払わず、帳簿にツケてもらい、お盆(8月)や暮れ(12月)にまとめて代金を支払っていた。これと同じことが、2020年現在の日本の企業間取引にも定着している。
商品やサービスを販売して、その代金をまだ受け取っていない企業は、代金を受け取る権利、すなわち債権を所有していることになる。この債権の総称を売掛債権という。
貸借対照表(バランスシート)で、流動資産に分類される
企業の貸借対照表の資産の部は、流動資産と固定資産に大別される。
売掛債権は、流動資産の欄に記入される。流動資産とは、会社の本業で発生する資産や、すでに銀行預金になっている資産や、1年以内に銀行預金に変換する予定がある資産のことをいう。
固定資産は、会社の本業で発生しない資産の中で、1年以内に銀行預金に変換する予定がない資産である。償還されるのが10年後の国債や、1年を超えて所有し続ける予定の不動産を企業が保有していたら、固定資産に分類される。
余談であるが、銀行が貸借対照表を見て企業の業績を判断する際、流動資産を多く抱えていると、高く評価される傾向にある。
以上のことを表にまとめると、次のようになる。
流動資産 | 固定資産 | |
定義 | 会社の本業で発生する資産や、すでに銀行預金になっている資産や、1年以内に銀行預金に変換する予定がある資産 | 会社の本業以外で発生する資産のうち、1年以内に銀行預金に変換する予定がない資産 |
例 | 売掛金、手形、電子記録債権 | 償還されるのが10年後の国債、1年を超えて所有し続ける不動産 |
銀行からの評価 | 多いほど、銀行の評価が上がる | 多くても、銀行の評価は、流動資産に比べてイマイチ |
売掛金、受取手形、電子記録債権の3つに大別される
2020年現在の各企業において、売掛債権は、売掛金と受取手形と電子記録債権の3つの形態に大別される。
売掛金は、「販売代金を後で銀行振り込みあるいは現金持ち込み支払いしてもらうという約束」のことをいう。
受取手形は、販売代金として受け取った手形(約束手形か為替手形)のことをいう。
電子記録債権は、販売代金として受け取った電子記録債権のことをいう。
企業の貸借対照表には、資産の部に売掛金と受取手形の欄がある。この2つは明治時代以来の伝統的な形態である。
電子記録債権は、2008年12月1日以降に始まったサービスで、新しいものである。これを貸借対照表でどう扱うかは各企業によって対応が分かれている。受取手形の金額に追加している企業もあるし、「電子記録債権」という欄を作ってそこに書いている企業もある。
売掛債権と未収債権の比較
売掛債権に対して、未収債権というものがある。この2つは似ているが、ある点で異なる。
売掛債権も未収債権も、「銀行預金を将来受け取ることのできる権利」であり、つまり、債権である。
売掛債権は、その企業の本業で得られる債権を指し、その企業本来の商品・サービスを販売したときに発生する。
一方で、未収債権は、その企業の本業以外で得られた債権を指す。たとえば、コピー機を事務の備品として所有していた飲食店経営企業が、コピー機を中古品リサイクル業者に売り飛ばして、中古品リサイクル業者から手形で代金をもらったとする。これがまさに未収債権である。
未収債権は、たまにしか発生しない。売掛債権は企業が営業活動するたびに発生する恒常的なものだが、未収債権はポツン、ポツンとしか発生しないのが普通である。
未収債権にも、3つの形態がある。「ある期日までに銀行振り込みしてもらうという約束」と、手形と、電子記録債権である。ただし、3形態をわざわざ項目に分けることをせず、この3形態の合計金額を貸借対照表の資産の部に「未収金」として書く。
売掛債権の反対語は買掛債務
売掛債権の反対語は買掛債務で、商品を買って発生した代金支払いの債務のことをいう。貸借対照表の負債の部に書かれる。
売掛債権には、売掛金、受取手形、電子記録債権という3つの形態がある。これら3つの反対語は買掛金、支払手形、電子記録債務で、いずれも貸借対照表の負債の部に書かれる。
未収債権の反対語は未払債務であり、未収金の反対語は未払金である。
以上のことを分かりやすく表にまとめると、以下のようになる。
資産の部 | 負債の部 | |||
会社の本業で発生する。恒常的なもの | 売掛債権 | 売掛金 | 買掛債務 | 買掛金 |
受取手形 | 支払手形 | |||
電子記録債権 | 電子記録債務 | |||
会社の本業以外のことで発生する。ポツンポツンとしか現れない | 未収債権 | 未収金 | 未払債務 | 未払金 |
売掛金と売掛債権の混用
売掛金というのは売掛債権の形態の1つなのだが、売掛金という表現に代えて「売掛債権」と表現する例が多く見られる。
電子記録債権の記録機関として最大手なのが、でんさいネットである。でんさいネットのwebサイトには、電子記録債権のことを紹介するページがあるが、そこで売掛金のことを「売掛債権」と呼んでいる。
関連リンク
Wikipedia記事
コトバンク記事
関連項目
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