フレスコ画修復シリーズとは、ニコニコ静画でのタグの一つである。
スペインで「世界最悪の絵画修復」と揶揄されるキリストの修復画を元にしたパロディ作品に付けられるタグである。
発端は2012年8月23日のニュースである。スペイン北東部のアラゴン州サラゴサ県ボルハ市(Borja)郊外のサントゥリオ・デ・ミセリコルディア村(Santurio de Misericordía)にある教会の、聖母マリアの祭壇脇の壁面に、「ボルハの『この人を見よ』」と呼ばれる小さなフレスコ画があった。『この人を見よ』(羅: Ecce Homo, エッケ・ホモー)とは刑場へ曳き立てられていく直前のイエス・キリストを描いたもので、嘲弄を浴びせる群衆を一喝したピラトの言葉と共に教会芸術の定番モティーフとなっている。
1930年代、最晩年のサラゴサの伝統画家エリアス・ガルシア・マルティネス(Elías García Martínez)は「(聖母マリアの)慈悲の聖所」という名を持つこの村を休暇で訪れ、聖母への献身を込めて僅か2時間でこの肖像画を書き上げたという。しかし80余年もの歳月の流れの中で小さな肖像画はすっかり痛み、表面がひび割れてボロボロになってしまっていた。
このような場合、プロの修復士の手で劣化前の状態に見事に修復されるのが通例であり、画家の子孫たちが修復費用の寄付を申し出るなど水面下で事が進んでいく中、セシリア・ヒメネス・スエコ(Cecilia Giménez Zueco)という一人の信心深い82歳のおばあちゃんが「こんなボロボロのキリスト様じゃかわいそう」と義憤にかられ、市や教会などに許可を得て修復を始めたのである。実はスエコおばあちゃんはプロの画家であり、何度も個展を開くほどの腕前であるほか、これまでも幾つかの修道院等の古い宗教画の小さなレタッチ等を行ってきたため、色々と適任ではあった(資格を持ったプロの修復士ではない)。
スエコおばあちゃんは早速作業を開始するが、下地処理を施していない壁に直接描かれていた絵は劣化が著しく、下塗り塗料を塗布した所で初日の作業を終えた。だがその翌日、「サルみたいなえらく個性的な絵姿のキリスト様(→ リンク)」が展示されていることに驚いた教会の参拝客が通報し、一躍大きな話題を呼んでしまう。
前述のように作業はまだ途中どころか序盤も序盤であり、ここから手直しに入っていく段階だったのだが、マルティネスの孫が「作品を滅茶苦茶にされた」と落胆し、村役場は「どのようにすれば作品を元の状態に戻せるか調査する」とコメントするなど大慌て。その上「市側も教会にも許可を取らず修復した」というフェイクニュースまで流れ、スエコおばあちゃんは世界から悪者扱いされてしまった。
このニュースは修復中の絵面の面白さとともに世界中に発信され、『この猿を見よ』(西: Ecce Mono, エクセ・モーノ)と題されるなど笑いものになると同時に賛否両論を生んだ。例えば「これはこれで味がある」「気持ちがこもっていればこれも立派なキリストだ」「彼女なりの絵心を加えたんだ」「これこそが彼女の心の中にある、ありのままのキリストの姿だ」など素人からプロの現代画家に至るまで肯定的に捉える声もあり、(まだ修復中なのに)絵画修復の在り方にまで一石を投じることになった。
しつこく言うように「修復途中」だったこの絵だが、ニュースが発信されたことで思わぬ人気を呼び、教会を訪れる観光客が急増。入場料やTシャツなどのグッズ収入などでボルハ市がウハウハに。修復画自体もカルト的な人気がが発生し、「修復作業を進めないで」という署名まで集まった。
なお、修復後のフレスコ画に関わる著作権料(グッズ収入など)の49%をスエコおばあちゃんが受け取ることになった(51%は教会の運営団体が所有)。得た収益は「慈善目的で使用した」とのこと。
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最終更新:2025/12/13(土) 04:00
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