小惑星探査ロボット「ミネルバ」 単語


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ミネルバ

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小惑星探査ロボット「ミネルバ」とは、宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部(JAXA/ISAS)が運用した小惑星探査機である。
愛称はローマ神話の技術・工芸の女神ミネルヴァにちなみ、「MIcro/Nano Experimental Robot Vehicle for Asteroid(超小型小惑星探査用ロボット実験機)」の頭文字からとられでいる。

概要

小惑星の地表を走破によって探査する事を目的として作られた完全自立型探査ロボット。
(地表探査用の移動探査機は「ローバ」と呼ばれる。MINERVAは広義のローバであり、同時に自律性を有するためロボットでもあることから、この記事ではロボットの表記を使用する)
工学実験探査機「はやぶさ」の探査オプションとして搭載される。

2003年5月9日、内之浦宇宙観測所よりM-Ⅴロケット5号機によってはやぶさに搭載されて打ち上げられる。
2006年11月12日小惑星イトカワに到達したはやぶさより放出。

移動方法は内蔵フライホイールの遠心力反動を利用したホッピンク。(内部トルカ方式。一回につき約7m移動)
自律行動に関して、内部機器温度を自分で見張ることにより、内部温度が高くなると一部の機能を停止させ、残りの機能で運用する。内部機器温度があまり高くない小惑星上の朝、あるいは夕方に活動し、搭載したフォトダイオードにより太陽方向を認識する。朝には夜の方向に、夕方には昼の方向にホップすることにより、内部温度を低くするようなサバイバル機能も有する。(ただし、生存と写真撮影を優先して動きまわることを目的とした移動コンセプトを有するため、多くの探査機に必須である「目的地を定めてそちらに向かう」目的地収束能力は持たなかった。詳しくは後述。)
撮影した写真についても何も映っていない(宇宙を写した)部分を自分で消去したのちに、残った情報量に優先度をつけて送信する仕組みになっている。

直径:12cm 高さ:10cm 重さ:591g
CPU      :宇宙仕様32bit RISC(約10MIPS) 
               SH-3 日立製作所製(当時)
メモリ      :ROM 512KB RAM 2MB
FLASH    :ROM 2MB
OS       :μITRON 3.0
通信      :9,600bps 通信距離:約20km
発電能力   :太陽電池 約2W
民生仕様デジタルカメラ 3基(120pixl×160pixl)
温度センサー 3基
フォトダイオード 6基 搭載
運用オペレーター1名

SH-3(SH7708)

ISASが昔、宇宙仕様として発注、ロット買いしたものの残り。SH-3シリーズとしては最初期のものだがWIndowsCEにも対応できる器用な子。どのくらいの演算速度のCPUかというと、モバイル機器Zaurus(MIシリーズ)がこれを搭載。この前世代のSH-2がセガサターンに、次世代のSH-4がドリームキャストに使われている。

カメラ

当時の開発者が使用していたVAIO用外付けカメラ。画素数が異常に小さいと思われるが、開発当事(2000年頃)、モバイル用カメラではこのぐらいの画素数しかなかった。開発者が直にソニーへ仕様を問い合わせて、メインボードとはUSB規格でつないである。ただ、民生品の小さい仕様変更が通知なしにチョクチョク行われるので苦労したとか。CPU:SH-3は宇宙仕様のものではあるが、カメラについては市販品と同じものを使用している。ちゃんと放射線テストとかにクリアしてるけどね。だから、最大級の太陽フレアを浴びてもちゃんと写真が撮れた。(スゲェ・・)

太陽電池

面積が小さいので、最も発電効率の良い宇宙用ガリウム砒素代用電池を使用。でも正規品を買うと高いのでEMCORE社の太陽電池の生産ラインで発生する切れっ端(ハギレ)をミネルバ用サイズに切り出してもらった。もちろん、お得価格で。

蓄電池

そんなものは積んでいない・・・・というのは冗談で、通常のニカド、ニッケル水素、リチウムイオン電池のような化学反応を伴なう2次電池は積んでいない。なぜならイトカワ表面の温度が日陰-100℃/日なた100℃(予想値)というトンデモ環境なので、電解液が凍結や沸騰してしまい化学反応が上手く行われない。(冷凍庫に電池を入れた後、ミニ四駆を走らせると・・・・ね) だから電池は電気製品ではなく化学製品と言われている。
当時、ようやく使い物になると考えられた電機二重層コンデンサを開発者が展示会の某社ブースで見つけて、社名を出さないことを条件として作ってもらった。コンデンサは化学反応を伴わないので温度の変化に『比較的』強い。まぁ50時間動けばいいんだし。

 その他、詳しいスペックやどういうものを使っているかはwikipediaをみてください。

NASAに勝った小型化発想力

本来、はやぶさにはNASAが製作する「nano-rover」という走破型探査ロボットが、深宇宙追跡ネットワークを利用させてもらう代わりに乗るはずであった。
ミネルバはその余ったスペースにあわよくば載せてもらう「おまけ」でしかなかった。(だからミネルバの成果についてはは「はやぶさミッション」の採点表項目には含まれていない。)

ところがこの「nano-rover」、はやぶさに搭載して打ち上げられる為の容量・重量・耐振動性能制限をなかなか満たす事が出来ず、さらに車輪式ではイトカワの環境下では反動でろくに走行できない可能性やレゴリス(地表に積った微粒子状の砂)が駆動系に悪影響を与える可能性があること、さらにははやぶさの打ち上げが2回延長された事もあり開発費が膨れ上がってしまった為(約25億円。ちなみにはやぶさは127億円)、搭載計画からの撤退を表明。

それに対しミネルバは簡素かつ小型化が容易で外部に駆動系のない内部トルカ方式、部品に民生品を多く使うことで約3千万円という桁違いの低価格で開発に成功。(但し、本来の計画外のプロジェクトな為、予算は無し!必要経費はメーカーや研究所からの持ち出しに…)

こうして地上走破探査はミネルバが一任することになったのである。
小さいことならどこにも負けない日本の技術力、ここに極まれりである。

ミネルバの予算と重量に関する余談

研究チームすら小型であったミネルバ、完成時点でのコスト3000万円。これは超低予算(自転車一台分のお金でジェット機を作ったようなもの)だが、実は、初期にはもっと安く設定されていた。

……それで宇宙用の部品など、使えるはずもない。
最初から、民生品を使うしかない値段だったのだ。 

また彼女に割り当てられた質量も、「1kg未満」という非常にあいまいなもの。
搭載場所の都合上、サイズもむろん、制限されていた。
厳しい小型化要求を潜り抜けるために、随所に工夫が凝らされている。
むろん、小型化ゆえに機材が搭載できず切り捨てられたものもあり、その一つが以下に述べるナビゲーション精度であった。

ミネルバのナビゲーション

一般に、表面探査を行う機体(ローバと呼ばれる)は「自分の現在地情報を有し」「目標地点を定めて」情報収集を行う。しかしミネルバのコンセプトは

  • do not pursue the precise localization
    (現在地の正確な同定を行わない)
  • do not pursue the reachablity to the specified location.
    (特定の目的地点に辿り着く努力をしない)
  • get the images/data at as many different places as possible
    (とにかく多数の画像、データの収集を行う)

となっている。(編者注:関連論文があれば情報追加願います)
これを平たく(超意訳的に)云えば、

・ミネルバ
 『超フリーダム・ホッピング方式採用。あたしの居場所?目標の設定?道順?難しいことわかんない(^-^) 』

・JAXAの中の人
 「たくさん遊んで(跳ねて)、たくさん写真を撮って、たくさん楽しいことを教えて(データ送って)ね!」

って感じであろうか?

ミネルバは、できる子。でも、「物理的な事情」により、ちゃんとしたお勉強をさせてあげられなかった子。中の人たちが、その天真爛漫なミネルバに教えられることは、本当に少し。じゃあ、生き残る事と情報収集にすべてを任せよう!と、限られた能力と情報のやり取りの中での考え抜かれたのは、本能まっしぐら的のナビゲート方法。はたから見ればおつかいを覚えきれない子供を送り出す心境、というか何も考えずに飛び跳ね撮りまくる姿はまさにアホの子。潔い取捨選択である。

次世代機以降は目的地収束能力を備えさせるべく、研究開発がすすめられている。

イトカワ沖、運命の16分

イトカワへ旅する道中、ミネルバは時折地球からの呼び掛けに応じ、はやぶさに抱かれた状態でコンピュータが起動する-50℃以上になるのに2時間かけてその体を温めたり、カメラテストを行いながら、静かに眠ってイトカワに降り立つその時を待ち続ける。

2006年9月 はやぶさ、イトカワに到達。
11月12日 8時45分 ミネルバ、降下に向けて起動開始。
この日までにはやぶさの姿勢制御の要であるリアクションホイールが3基中2基が故障。十分な姿勢制御が保証できない状況に陥っており、(本来ならリアクションホイールが2基残っていれば十分だったのだがそれも叶わず、なんとか化学エンジンを吹かすことで能力不足を補っていたが、これは帰還時に使う分の燃料を逼迫する方法で、あまり無理や長期にわたって利用出来る方法ではなかった)備えが完全と言える状態ではなかった。

15時7分38秒 地球から、イトカワの上空55mにホバリングしたはやぶさに対し、ミネルバ放出を指令。

 

この命令が遥か彼方のはやぶさに届くまでの時間、約16分―――

 

約40分後 ミネルバを無事分離、ミネルバから現在の状況が正常に送信されることを確認する。
しかし3時間後、本来ならイトカワが夜になり、電力の関係で送信が途絶えるはずのミネルバからなおデータが送信されていることによって、ミネルバが想定されていた状況に無い事がわかる。
(ちなみにこの時ミネルバは自身がホッピング中と認識して、そういう状態にあるとデータを送信していた)

あらためてはやぶさのデータを確認した結果、ミネルバ放出指令がはやぶさに届く16分の間にはやぶさは上昇を開始。結果イトカワから200m上空、毎秒15cmで遠ざかる状態からミネルバが放出されたことが分かった。
イトカワの引力脱出速度は秒速15~20cm。これによりミネルバがイトカワに届く可能性は、ほぼ無くなってしまった。

11月13日9時32分20秒 通信可能圏内からの離脱により、ミネルバは約18時間の短い探査の役目を終え、はやぶさとの交信を絶った。
開発担当者はこの後もミネルバからの通信が回復する可能性を信じ、2週間中継器のスイッチを入れて待ち受けていたという。

はやぶさがイトカワ沖を去って幾年月、ミネルバは今もなおイトカワと寄り添うように静かに眠っているはずである。
あの時の奮闘の日々の記憶と共に―――

ミネルバが遺したもの

イトカワ地表には降り立つ事が出来なかったミネルバだが、多くのものを交信が途絶える18時間の間に遺してくれた。

リアクションホイールが壊れたことによって十分な姿勢制御をとることが出来なかったはやぶさは、この教訓によってさらに精度の高い接近プロセスを学ぶことが出来、結果イトカワへのターゲットマーカー投下・接地を成功させることが出来た。
また多くの部品を精度の高い宇宙仕様のものではなく民生部品で製作したミネルバが-60度以下の宇宙空間や史上最大規模の太陽フレアにさらされつつも約2年の休眠期間を無事に過ごし、18時間も元気に活動した事、遥か彼方で地球-母機-子機間のデーター中継が無事に行われていることが確認できたことは、これからの衛星開発に大きな実績と自信を残したと言えよう。


ミネルバははやぶさから射出後、  はやぶさとの交信範囲から離れるまで、自分の体調や温度などりの状況をけなげにはやぶさに送り続けた。
それと同時にミネルバはりの写真も撮り続けた。ミネルバ自身の記憶・通信の制約から撮った写真のうちゴミ(何も写っていない)と判断した写真は消去し、ちゃんと被写体が存在する写真のみはやぶさに、そして地球で見守る「父親」へ送るように教育されていた。
その結果、通信可能だった間に送られてきた写真はたったの一枚、しかも120×160pixlのさらに下部分を消去した写真であった。
そこに映っていたものは、はやぶさの太陽電池パネルの一部、そう「遥かなる距離を共に旅した親友の姿」だった。

民生部品をに作られ過酷な旅路を二年間、時には太陽風に焼かれながらも撮影された一の写真は、任務を全うできなかった悔しさ、寂しさを感じさせるとともに、自分を頑丈に作ってくれた親と、ここまで無事に送り届けてくれたはやぶさへの「この写真だけは」という文字通り精一杯の感謝の気持ちであるかのようにも思えてくる。

関連動画


「ミネルバ」と、旅を共にした小惑星探査機「はやぶさ」の着陸までをつづるドラマ。


ニコ動で確認できた、記録動画を除いて最初の「ミネルバ」単独動画。

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