AMステレオ放送 単語


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エイエムステレオホウソウ

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AMステレオ放送とは、中波ラジオ(AM放送とかAMラジオ)の音声をステレオ化し伝送する放送システムである。

概要

AMステレオ放送は歴史が古く、1926年にアメリカで初の特許が取られた(NHKの前身、社団法人東京放送局<JOAK>が開局したのは1925年<大正14年>だから翌年)。その後いろいろな方式が考案され第二次世界大戦後の1960年前後に各地で実験放送が行われたが、FMラジオの普及を優先させたために二の次になった。

特徴はFMステレオ放送に比べて、サービスエリアが広い、マルチパス(電波の乱反射)による音質低下がない、カーラジオなどの移動しながらの受信に強い、ラジオ受信機内蔵アンテナでも十分受信できる、周波数の占有幅が狭くて済むとの利点がある一方夜間に混信が起きやすいという問題を抱えている。

日本においては「AMラジオのFM化」といわれ音楽やラジオドラマ、野球中継などステレオ放送とのことを全面に押し出した番組編成がされた。しかしNHKが参入しなかったこととFMとの音質差を埋めることができずに収束していった。

なお、同時期のラジオの付加価値化としてFMラジオを使ったFM文字多重放送(JFNの見えるラジオなど)がある。

複数波方式

日本では1952年(昭和27年)12月にNHK(日本放送協会)が、NHKラジオ第1を左信号(L信号)、NHKラジオ第2を右信号(R信号)とした「中波ラジオ2波方式」で放送する形で試験やサービスを開始した。

  • 二元立体ラジオ試験放送:1952年12月4日~6日の深夜0時30分から放送
  • 立体音楽堂:1953年6月~1964年4月5日
  • 夜のステレオ:1961年4月7日~1965年4月3日

1958年(昭和33年)には北海道放送(HBC)が「中波ラジオテレビ2波方式(ラジオとテレビ音声)」を組み合わせた放送を、ニッポン放送と文化放送もNHKと同じく「中波ラジオ2波方式」で放送をした。

さらに1959年(昭和34年)にNHKはNHKラジオ第1、NHKラジオ第2、NHK教育テレビ(Eテレ)音声を使い3chステレオ放送を実施した(三元立体音楽堂、ある意味やったぜ!ただし体験できるのはお金持ちとそのお友達だけ...)。

しかし日本政府は1968年(昭和43年)に電波法施行規則改正により「1局1波だけで再現できる放送がステレオ放送!!」と定義して、複数局や複数波を使ったステレオ放送を事実上禁止した。

1局1波方式

1962年(昭和37年)7月21日から1964年(昭和39年)まで、TBSラジオが毎週土曜、日曜に独自の1波方式「AFM方式(AM-FM方式)」による実験放送を実施した(呼出符号:JO2KR)。

1985年(昭和60年)の国際科学技術博覧会のAMラジオイベント放送局(放送試験局として開設)「ラジオきらっと」の閉局後に設備を転用してコールサイン「BTAステレオ実験」として実験放送を行った(855kHz、出力1kW)。運営者は放送技術開発協議会中波ステレオ放送委員会、運用者は文化放送。実験放送は約2年間。

アメリカでは自由競争で方式を決めることになりモトローラ方式が事実上勝利した。1991年(平成3年)日本の郵政省が国内ではモトローラ方式を標準とすることに決定。翌1992年(平成4年)に本格導入した。

代表的な方式は

  • モトローラ方式(C-QUAM)
  • カーン方式(ISB)
  • マグナボックス方式(AM-PM)
  • ベラー方式(AM-FM)
  • ハリス方式(V-CPM)

である。ハリス方式を除いて甲乙つけがたい。

1985年2月現在のアメリカの採用局数
  • モトローラ方式:約200局
  • ハリス方式:約100局
  • カーン方式:約100局
  • マグナボックス方式:2~3局
  • ベラー方式:0局

モトローラ方式(C-QUAM)

Compatible Quadrature Amplitude Modulation

1926年アメリカ電信電話会社が開発した「QAM(Quadrature amplitude modulation、直交振幅変調)」をベースとしたもの。この技術は2つの信号を90度位相をずらすことで多重させる仕組み。

1977年にノーマン・パーカー、フランシス・ヒルベルト、坂家芳雄によって発明された。

L信号とR信号で和信号(L+R)を振幅変調し、差信号(L-R)を直角変調、さらにパイロット信号を加えて多重させることで狭い帯域でL信号とR信号を送る方式。従来の受信機は和信号を受信することでモノラルで聴くことができる。

パイロット信号は25Hz。

ゼネラルモーターズデルコ事業部が1984年にカーラジオ(?)に採用したことから動き始めた可能性がある。

送信機側AMステレオエキサイター(AM Stereo Exciter)

送信所でAMステレオ信号を作り出す装置。エキサイターとは日本語で励振器という。

  • ブロードキャストエレクトロニクス社製:AX-10 - Wikipediaによると九州朝日放送(KBCラジオ)が採用していた。公式配布の説明書(英語PDF)。不明瞭ながら機器の外観写真あり
  • ハリス社製:AMS-G1 - フランス、オーストラリア、アメリカで約300局が採用。後で語るハリス方式(V-CPM方式)ではない機器
  • ハリス社製:STX-1A、STX-1B - たぶん旧製品。世界最大のネットフリマ「eBay」の出品説明によると80年代の製品とのこと。説明書(英語PDF)。機器の外観写真あり

参考動画

ハリス社製「AMS-G1」AMステレオエキサイター紹介 YouTube(英語)

米国アイオワ州アイオワシティにあるAMラジオ局「1630 KCJJ」で使われていたエキサイターをステレオサービス終了後に譲ってもらったのだそうです。

受信機側デコーダIC

AMラジオに組み込まれ、受信したAMステレオ信号をオーディオのステレオ信号に戻すIC。秋葉原でも単体小売りしていたらしい。

  • モトローラ製MC13020P(カーオーディオ向け)、MC13022P(高級機むけ)、MC13024P(1チップラジオ用)
  • 東芝製TA8120P(MC13020Pのセカンドソース)、TA8124P/F(同調指示つき)

ステレオ受信する際の処理は

(L+R)+(L-R)=2L...左信号

(L+R)-(L-R) =2R...右信号

カーン方式(ISB)

周波数多重方式。通常対称である側帯波を非対称にすることで左右の信号を載せる。アメリカで普及している。2台のラジオ受信機のダイヤルをそれぞれ少しだけ前後にずらすだけでステレオに聞こえるようになる。

パイロット信号は15Hz。

関連用語

  • DSB-WC:全搬送波両側波帯
  • DSB:抑圧搬送波両側波帯
  • SSB:抑圧搬送波単側波帯
  • ISB:独立側波帯

マグナボックス方式(AM-PM)

和信号(L+R)で振幅変調、差信号(L-R)で位相変調を行い多重している。本命であった。従来の受信機は和信号を受信することでモノラル放送として受信できる。

パイロット信号は5Hz。

受信機側デコーダIC

  • ナショナルセミコンダクター製LM1981
  • 東芝製TA7402P、TA7406P
  • 三洋製LA1130、LA1150、LA1900
  • シグネティックス製TDA1072、TDA1576、TDA1578

ステレオ受信する際の処理は

(L+R)+(L-R)=2L...左信号

(L+R)-(L-R)=2R...右信号

ベラー方式(AM-FM)

パイロット信号は10Hz。

たぶん和信号(L+R)を振幅変調(AM)、差信号(L-R)を周波数変調(FM)にして多重するのだと思う。従来の受信機は和信号を受信することでモノラル放送として受信できる。

特許問題があったために撤退。

ハリス式(V-CPM)

モトローラ方式と同じく直交変調方式を採用。結局早々にパイロット信号をモトローラ方式に変更してモトローラ方式吸収されるように撤退した。

日本国内での実験ではモノラル放送との両立性に疑問があった。

受信機側デコーダIC

  • ハリス社製HS3604

日本の実施局

日本ではモトローラ方式で開始したものの、NHKは全国展開すると放送法上全国均一にする義務がある以上費用面の問題が生じる上に、NHK-FMを既に放送しているためメリットもないことから導入を見送ったほか、民放でもこれまたステレオ化する事で様々な費用面の問題が生じる事もあり、結果として主に大都市圏の民放のみの実施となった。AMステレオを受信できるラジオも通常よりも割高なのも普及のネックになった。
さらに送信設備もモトローラが2000年代半ばまでに製造・保守を打ち切り、老朽化した設備の更新ができなくなった事、対応ラジオも生産終了した事から、実施していた各局も順を追うようにステレオ放送を終了している。
とはいえ、ステレオ化した設備は、その後もradikoなどのインターネット配信やワイドFMなどで活用されている。

※終了している放送局も含む

※●JRN(TBSラジオ系)、▲NRN(文化放送・ニッポン放送系)、■JRN・NRNの両方加盟(クロスネット局)、★非加盟局

北海道地区

  • ■北海道放送(HBCラジオの記事あり) - 札幌局(1287kHz)のみ実施。1992年(平成4年)8月1日開始、2010年(平成22年)2月28日終了。 
  • ▲札幌テレビ放送(STVラジオ) - 札幌局(1440kHz)のみ実施。1996年(平成8年)10月7日開始、2010年(平成22年)3月28日終了。

東北地区

実施局なし。

関東甲信越地区

  • ●東京放送(TBSラジオ) - 954kHz。1992年(平成4年)3月15日開始、2011年(平成23年)1月30日終了。
  • ▲文化放送 - 1134kHz。1992年(平成4年)3月15日開始、2012年(平成24年)2月5日終了。
  • ▲ニッポン放送 - 1242kHz。1992年(平成4年)3月15日開始、2024年(令和6年)3月31日終了。

東海北陸地区

  • ▲東海ラジオ放送 - 1332kHz。1992年(平成4年)4月4日開始、2012年(平成24年)5月13日終了。
  • ●中部日本放送 - 1053kHz。1992年(平成4年)4月4日開始、2021年(令和2年)1月10日終了。

関西地区

  • ■朝日放送 - 1008kHz。1992年(平成4年)3月15日開始、2010年(平成22年)3月14日終了。
  • ■毎日放送 - 1179kHz。1992年(平成4年)3月15日開始、2010年(平成22年)2月28日終了。
  • ★ラジオ大阪 - 1314kHz。1993年(平成5年)3月29日開始。
  • ■和歌山放送 - 1431kHz。1996年(平成8年)7月14日開始。

中国四国地区

  • ■山陽放送 - 1494kHz。1992年(平成4年)10月5日開始、2011年(平成23年)3月終了。
  • ●中国放送 - 1350kHz。1992年(平成4年)10月1日開始、2011年(平成23年)3月13日終了。

九州沖縄地区

  • ●RKB毎日放送 - 1278kHz。1992年(平成4年)4月1日開始、2010年(平成21年)5月30日終了。
  • ▲九州朝日放送 - 1413kHz。1992年(平成4年)4月1日開始、2007年(平成19年)4月1日終了。
  • ■熊本放送 - 1197kHz。1993年(平成5年)10月1日開始、2008年(平成20年)9月28日終了。

海外実施局

米国

米国では1982年7月より放送開始。方式は5方式で放送されているが同年3月4日FCCが統一せず市場競争での自然淘汰により統一する方針をとった。モトローラ方式とカーン方式がしのぎを削っている。KDKAは世界初の商業放送局で有名だが、AMステレオ放送の本放送でも世界初。

  • KDKA - 1982年7月23日開始(カーン方式)
  • KTSA - 1982年7月開始(カーン方式)

韓国

  • SBS - 1993年7月1日開始(韓国初、モトローラ方式)、1999年1月から2000年代初頭に終了と推定

1局1波方式AMステレオ放送を活用した主な番組

  • ツインビーPARADISE(文化放送):1993年10月-
  • ステレオドラマもっと!ときめきメモリアル(文化放送):1995年4月-

年表

複数波方式時代

  • 1952年(昭和27年):NHKが第1放送と第2放送の2波を利用して放送
  • 1958年(昭和33年)6月:北海道放送が中波+テレビ音声の組み合わせで実験放送

1波方式へ

  • 1962年(昭和37年):TBSラジオが1波方式で実験放送(JO2KR)
  • 1968年(昭和43年):郵政省(当時)が1波方式での放送とのルールを定める
  • 1986年(昭和61年):BTAステレオ実験開始

1波方式実用化

  • 1992年(平成4年)3月15日:東京放送(TBSラジオ)、文化放送(QR)、ニッポン放送(LF)、朝日放送(ABCラジオ)、毎日放送(MBSラジオ)が本放送を開始
  • 1992年(平成4年)4月1日:RKB毎日放送、九州朝日放送(KBCラジオ)がサービス開始
  • 1992年(平成4年)4月4日:中部日本放送(CBCラジオ)、東海ラジオ放送(SF)がサービス開始
  • 1992年(平成4年)8月1日:北海道放送(HBCラジオ)がサービス開始
  • 1992年(平成4年)10月1日:中国放送(RCCラジオ)がサービス開始
  • 1992年(平成4年)10月5日:山陽放送(RSKラジオ)がサービス開始
  • 1993年(平成5年)3月29日:ラジオ大阪(OBC)がサービス開始
  • 1993年(平成5年)10月1日:熊本放送(RKKラジオ)がサービス開始
  • 1996年(平成8年)7月14日:和歌山放送(WBSラジオ)がサービス開始
  • 1996年(平成8年)10月7日:札幌テレビ放送(STVラジオ)がサービス開始。国内最後の採用

収束へ

  • 2007年(平成19年)4月1日:九州朝日放送(KBCラジオ)サービス終了
  • 2008年(平成20年)9月28日:熊本放送(RKKラジオ)サービス終了
  • 2010年(平成22年)2月28日:北海道放送(HBCラジオ)サービス終了
  • 2010年(平成22年)3月21日:札幌テレビ放送(STVラジオ)サービス終了
  • 2010年(平成22年)5月30日:RKB毎日放送サービス終了
  • 2011年(平成23年)1月30日:東京放送(TBSラジオ)サービス終了
  • 2011年(平成23年)3月:山陽放送(RSKラジオ)サービス終了
  • 2011年(平成23年)3月13日:中国放送(RCCラジオ)サービス終了
  • 2012年(平成24年)2月5日:文化放送(QR)サービス終了
  • 2012年(平成24年)2月28日:毎日放送(MBSラジオ)サービス終了
  • 2012年(平成24年)3月14日:朝日放送(ABCラジオ)サービス終了
  • 2012年(平成24年)5月13日:東海ラジオ放送(SF)サービス終了
  • 2021年(令和2年)1月10日:中部日本放送(CBCラジオ)サービス終了
  • 2024年(令和6年)3月31日:ニッポン放送(LF)サービス終了

関連項目

  • ステレオ
  • ラジオ
    • AMラジオ
    • FMラジオ
      • FMステレオ放送
      • ワイドFM
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