91年 天皇賞(春)。
メジロマックイーン、父子三代制覇。
絶対の強さは、時に人を退屈させる。
メジロマックイーンとは、1987年生まれの競走馬。親子三代天皇賞制覇、春の天皇賞連覇を達成した名馬である。
主な勝鞍
1990年:菊花賞(GI)
1991年:天皇賞(春)(GI)、阪神大賞典(GII)、京都大賞典(GII)
1992年:天皇賞(春)(GI)、阪神大賞典(GII)
1993年:宝塚記念(GI)、産経大阪杯(GII)、京都大賞典(GII)
この記事では実在の競走馬について記述しています。 この馬を元にした『ウマ娘 プリティーダービー』に登場するウマ娘については 「メジロマックイーン(ウマ娘)」を参照して下さい。 |
概要
主演作12本。
名優。人はメジロマックイーンをそう呼んだ。名前が同じだから、という理由だけではない。力強く、華麗にターフを駆ける姿が、ハリウッドの大スターと重なって見えたからだ。たぐいまれなるスピードをもつステイヤーは、父子三代の天皇賞制覇、そして自身も2年連続その栄冠に輝く偉業を達成する。通算成績21戦12勝。つねに主役であることを求められ、観客に夢と感動をあたえつづけてくれたスターホースであった。
父メジロティターン、母メジロオーロラ、母父*リマンドという血統。半兄に菊花賞・有馬記念を勝利したメジロデュレンがいる。メジロ牧場は天皇賞(しかも3200mの)制覇を最大目標としており、特にメジロ牧場社長だった北野豊吉が「ティターンの子で天皇賞に勝て!」と遺言してからは、徹底して長距離的な配合をしていた。メジロマックイーンはその結晶だったといって良い。
体質が弱い上に大型馬で、仕上がりは遅れてデビューは3歳になってから。出世も遅く、血統的に向いていると思われた菊花賞にも、前哨戦とした嵐山ステークス(1500万下)で直線にて進路を失うミスから2着となり収得賞金を加算できず、危うく賞金不足で出られないところであった。
しかし賞金上位馬の回避もあって何とか出走。血統派の支持を集めて4番人気。レースは4コーナー先頭という強引なレースだったが、押し切って圧勝。ちなみにこの時、1番人気は牧場で一緒に育ったメジロライアンで、杉本清アナウンサーは「メジロでもマックイーンのほうだ!」と叫んだ訳だが、後でビデオかなんかで見た世代からすれば杉本アナウンサーの実況の意味が分からないと言われる事だろう。ちなみに秋はこの後お休みして有馬記念には出なかった。もし出ていたら「ライアン!」ではなく「マックイーン!」という声が聞こえたかどうかは定かではない。
次の年、内田浩一騎手から武豊騎手に乗り変わる。中京開催の阪神大賞典を圧勝して迎えた天皇賞は当然の1番人気。レースは全く危ないところが無いレース振りで完勝。見事親子三代天皇賞制覇を達成したのであった。武豊騎手は馬上で北野豊吉の遺影を掲げたという。
宝塚記念ではゴール前物凄い勢いで追い込んだもののメジロライアンに届かず2着だったが、秋は京都大賞典を楽勝。勇躍、秋の天皇賞へ向かった。
ところがメジロマックイーンはここで歴史に残る大失態を犯すのである。メジロマックイーンは13番枠。東京2000mは現在でこそマシになったが、その当時はスタートしてすぐに2コーナーがあるというコース設定だった。メジロマックイーンは珍しく絶好のスタートを切り、武豊騎手はこれは前に位置取りすべきだということで馬を前に、インコースへ持っていった。ところがこの時、メジロマックイーンのインコースには内枠だから前に行きたい馬が殺到していたのである。メジロマックイーンが内に寄ったことで行き場を無くした馬たちは立ち上がり、中には落馬寸前になる者もいた。
そうとは知らない武豊騎手とメジロマックイーンは直線でプレクラスニーを競り落とし、6馬身差でゴールしてしまった。勝ったものと思った武豊騎手は柴田政人騎手が止めるのも聞かずウイニングランまでやってしまった。
結果は18着降着である。GIレース1着馬が降着の憂き目にあったのはこれが史上初であった。
これでけちがついたのか、続くジャパンカップは直線で凄まじい切れ味を見せたアメリカの*ゴールデンフェザントに置いていかれて4着完敗。有馬記念はダイユウサクの一世一代の大駆けにやられて2着。
仕切り直して翌年。阪神大賞典を楽勝して天皇賞に向かった。そこに、前年の二冠馬トウカイテイオーが出走してきたのである。父に無敗の三冠馬シンボリルドルフを持つ、このフワフワと変な歩き方をする馬は無敗の戦績と見た目の良さもあって絶大な人気を誇っていた。父と同じ岡部幸雄騎手を背に産経大阪杯を勝ち、無敗記録を伸ばして天皇賞に乗り込んできたのである。「地の果てまで駆けてしまいそう」とトウカイテイオーの乗り味を語った岡部に対し「あちらが地の果てなら僕のは天にまで昇りますよ」と武豊が応じたライバル心むき出しの騎手のコメントも相まって対決ムードは最高潮。あれほど盛り上がった天皇賞春は記憶に無い。
このレース、なんとマックイーンは2番人気だった。昨年の優勝馬。しかも前哨戦の3000mを楽勝して不安要素も全く無い。騎手は既に春の天皇賞に3勝もしている武豊。その馬が2.2倍の2番人気である。1番人気のトウカイテイオーは3200mなど走ったことも無かった。
この座は譲れない
聞こえてきたのは
退陣を迫る民たちの声
帝位を狙う若き勇者の足音
だが私の中ではプライドが
まだ燃え続けていた
当然マックイーンが勝った。杉本アナウンサーは「どんなもんだい、メジロマックイーン、どんなもんだいといったところ」と実況したが、ゴールの瞬間マックイーンが鼻息をフンと吹くのが見えたものである。競馬ファンは思わず「舐めてましたスイマセン」とマックイーンに謝った。
これはもう、どれだけ強くなるか、と思った矢先、メジロマックイーンは骨折してしまう。ちなみにこの時患った左前脚部第一指節種子骨骨折というのは予後不良級の骨折であり、一つ間違えばその後のマックイーンの活躍は無かっただろう。
復帰は翌年春だった。産経大阪杯を如何にも太いなぁという馬体ながらレコードで楽勝。このレースの強さは長期休養明けとは思えないくらいであり、これはもう天皇賞も決まり!と誰もが思っていた。
そう思わなかった陣営もいた。ライスシャワーである。前年の菊花賞を制し、血統的にもステイヤーだったライスシャワーにとって、春の天皇賞は是が非でも欲しいタイトルだった。そのタイトルをメジロマックイーンから奪うために、関係者はライスシャワーに過酷な調教を施した。その結果的場均騎手が「もう馬には見えなかった」と言った様な研ぎ澄まされた馬体に仕上がっていた。
そして迎えた天皇賞。先行したメジロマックイーンの後ろにニンジャの様に張り付く黒い馬体。直線入り口で堂々先頭に立ったマックイーンを外から物凄い脚でねじ伏せたのはライスシャワー。メジロマックイーンの天皇賞春3連覇の夢はライスシャワーのレコード駆けの前に絶たれたのだった。
旧7歳で骨折明け、マックイーンは衰えてしまったのか? いや、全くそんなことはなかった。次走の宝塚記念では、強力なライバルが不在だったとは言え、道中外目をずっと走って、4コーナーも大外ブン回しで2着以下を置き去りすると言う規格外の強さで圧勝。秋初戦の京都大賞典では、2400mを2分22秒7という驚異的なコースレコードで走破し、この年のジャパンカップを勝つレガシーワールドに3馬身半差をつける圧勝。古馬になってから一度もいいことのなかった秋シーズン、ついに満願成就がなることを疑い得ないようなパフォーマンスである。
だが、好事魔多し、天皇賞秋の最終追い切り後に繋靭帯炎を発症してしまう。陣営はここでキッパリと引退を表明。長い戦いの日々が終わった。
メジロマックイーンは超一流馬にしては珍しく6歳まで走り、最後まで成績が落ちないという稀有な馬であった。しかも骨折で休んだ以外は絵に描いたようなローテーションを守り、敬遠する馬も多い宝塚記念にもきっちり出走する。しかも4歳以降の成績は安定感抜群。しかし戦績に比べて人気が高いとは言えない馬であった。もちろん中央競馬トップクラスのスターホースとしての人気はあったが、オグリキャップのようなアイドルには至らなかった、という意味である(比較の相手が悪すぎるけれど、何しろ芦毛最強伝説の直接の後継者である)。
メジロマックイーンは引退後種牡馬になる。ノーザンダンサー系の牝馬につけ易いのが売りの血統と社台スタリオンステーション早来に繋養されていたという環境面もあり、社台の*ノーザンテーストの牝馬につけたらきっと面白い子が出るよ、と期待されていたが遂にGI馬は出せなかった。重賞馬はそこそこ出したもののほとんど牝馬で、唯一の重賞勝利牡馬だったホクトスルタン(目黒記念)は残念ながら障害転向後故障で予後不良となってしまった。
2023年には唯一後継種牡馬として登録されていた2005年産駒のギンザグリングラスが死去。現役時代は中央・地方合わせて109戦して3勝という成績だったのだが、血統をつなぎたいという理由で繁殖入りしていた。彼の遺した産駒からメジロマックイーンの父系を繋ぐ馬は果たして現れるのだろうか。
ところで、社台スタリオンステーション早来に繋養されていたメジロマックイーンの隣には希代の大種牡馬*サンデーサイレンスが繋養されていた。*サンデーサイレンスと言えば有名な俺様馬。気に入らなければ誰にでも噛み付くという凶暴さで知られている。やってきた新入りのメジロマックイーンにも最初は威嚇を見せたらしい。しかし、マックイーンが無視を決め込んでると、どうした訳かサンデーサイレンスはマックイーンを気に入ってしまったらしい。終いには「恋人」と評されるくらいの仲になったのだとか。なんでも隣り合った放牧地から顔を伸ばしあって見詰め合っていたとか何とか。
ちなみに、メジロマックイーンは母の父として優秀な成績を収めており、ドリームジャーニー、オルフェーヴルの全兄弟に加え、ゴールドシップ、タイセイレジェンドと4頭のGI馬を出している。内、ドリームジャーニー、オルフェーヴル、ゴールドシップは恋人サンデーサイレンスの息子ステイゴールドの子である。
2006年、19歳の誕生日に心不全のため急逝。父・メジロティターンは当時まだ健在であり、あまりに早すぎる最期であった。彼が黄金時代を築き上げたメジロ牧場は2011年解散。なんとも、時代の流れと世の無常を感じる話である。
血統表
メジロティターン 1978 芦毛 |
メジロアサマ 1966 芦毛 |
*パーソロン | Milesian |
Paleo | |||
*スヰート | First Fiddle | ||
Blue Eyed Momo | |||
*シェリル 1971 鹿毛 |
*スノップ | Mourne | |
Senones | |||
Chanel | Pan | ||
Barley Corn | |||
メジロオーロラ 1978 栗毛 FNo.7-c |
*リマンド 1966 栗毛 |
Alcide | Alycidon |
Chenille | |||
Admonish | Palestine | ||
Warning | |||
メジロアイリス 1964 黒鹿毛 |
*ヒンドスタン | Bois Roussel | |
Sonibai | |||
アサマユリ | ボストニアン | ||
トモエ | |||
競走馬の4代血統表 |
Mejiro McQueen(1987)←Mejiro Titan(1978)←Mejiro Asama(1966)←Partholon(1960)
←Milesian(1953)←My Babu(1945)←Djebel(1937)←Tourbillon(1928)←Ksar(1918)
←Bruleur(1910)←Chouberski(1902)←Gardefeu(1895)←Cambyse(1884)←Androcles(1870)
←Dollar(1860)←The Flying Dutchman(1846)←Bay Middleton(1833)←Sultan(1816)
←Selim(1802) ←Buzzard(1787)←Woodpecker(1773)←Herod(1758)←Tartar(1743)
←Croft's Partner(1718)←Jigg(1701)←
Byerley Turk(1679)
父系が滅びつつあるバイアリータークの血を、シンボリルドルフとともに日本で発展させた功績は大きい。
もっとも、それも長くは続かなかったが。
ただ、先述の通りギンザグリングラスという後継がいるため、血を次代につなぐことはできている。
母系の方でも、明治40年に小岩井農場へと導入された輸入牝馬の一頭アストニシメントを祖先に持ち、日本の土着血統、基礎牝系に属する。
主な産駒
- エイダイクイン (1995年産 牝 母 ユキノサンライズ 母父 ホリスキー)
- タイムフェアレディ (1998年産 牝 母 トキファイター 母父 カツラギエース)
- ヤマニンメルベイユ (2002年産 牝 母 ヤマニンアリーナ 母父 *サンデーサイレンス)
- ホクトスルタン (2004年産 牡 母 ダイイチアピール 母父 *サンデーサイレンス)
- ギンザグリングラス (2005年産 牡 母 ニドクリキリコ 母父 *サンキリコ)
- ディアジーナ (2006年産 牝 母 アイネスターキン 母父 *ビショップボブ)
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関連コミュニティ
関連リンク
関連項目
- 競馬
- 競走馬の一覧
- 1990年クラシック世代
- 武豊
- メジロデュレン
- ステマ配合
- ドリームジャーニー
- オルフェーヴル
- ゴールドシップ
- サンデーサイレンス
- トウカイテイオー
- ダイユウサク
- イクノディクタス
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