馬主(うまぬし/ばぬし/ばしゅ)とは、競走馬の所有者のことである。一口馬主は正確には馬主ではない。
概要
馬主は、大量の支出が発生することから、経済的基盤が何よりも重要視される。このため、馬主になるためには、以下のような条件を満たす必要がある(海外馬主については今回は考慮しないものとする)。
- 個人の場合当該人物が、組合の場合組合の構成員全員が、法人の場合、代表者が以下の項目に該当しない
- 精神の機能の障害により馬を適正に出走させるにあたって必要な認知、判断および意思疎通適切に行うことができない
- 破産して復権を得ていない
- 禁錮以上の刑に処せられた。刑法34条の2の規定により、禁錮以上の刑の執行が終わってから10年間、罰金以上の刑に処せられないで10年以上経過した場合、処せられた事実はないものとして扱われる
- 公営競技に関する各種法律(競馬法・日本中央競馬会法・自転車競技法・小型自動車競技法・モーターボート競技法)の規定に反して罰金の刑に処せられた。罰金刑の執行が終わってから5年間、罰金以上の刑に処せられないで5年以上経過した場合、処せられた事実はないものとして扱われる
- 競馬に関与することを禁止され、もしくは停止されている
- 暴力団員もしくはそれに準ずるものである
- 中央競馬であればJRAの経営委員会の、地方競馬であればNARの運営委員会の委員である
- 中央競馬であればJRAの、地方競馬であればNARもしくは地方競馬に関係する地方公共団体の役員もしくは職員である
- 中央競馬であれば調教師・騎手・調教助手・騎手候補者・厩務員、地方競馬であれば調教師等の厩舎関係者である
- IIIもしくはIVにより登録を取り消された、不正登録した、馬主登録証等の偽造を行った、名義借り・名義貸しを行ったことにより馬主登録が取り消されてから5年が経過していない
- 調教師に競走馬を継続して預託することが困難である
- 申請があったときにJRAが追加の書類もしくは出頭を求めたにも拘わらず、それを拒んだ(中央競馬の場合に限る)
- 住民基本台帳に記載されていない
- その他、競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある(国内で開催されている競馬を賭けの対象とする可能性がある事業や会員制競馬予想業を営むもしくはそれに関連するものに関しても、要するにこれの具体化であると編集者は判断)
- 未成年である
- 法人の場合、IからX、XIIからXVに該当するものが役員にいる
- 法人かつ地方競馬の場合、定款に競馬事業を明示していない(軽種馬の生産または育成を事業目的にしている場合を除く)
- 組合の場合、競馬へ出走させるための組合でない
- 組合の場合、IからX、XIIからXVに該当するものが組合員にいる
- 個人馬主の場合、おおむね以下の条件を満たす
- 法人馬主の場合、おおむね以下の条件を満たす
- 組合馬主の場合、3名以上10名以下であり、各個人の出資比率が10%以上50%未満であり、各構成員が個人馬主・法人馬主・もしくは他の組合馬主の組合員でなく、組合員の中で代表者1名が特定されており、おおむね以下の条件を満たす
- 軽種馬を生産している中央競馬個人馬主の場合、おおむね以下の条件を満たす
- 軽種馬を生産している中央競馬法人馬主の場合、おおむね以下の条件を満たす
まず、1については、要するに「競馬の公正さを害する人は馬主になれない」「認知能力がない人は馬主になれない」ということを規定している。
1のXIだが、具体的にその回避条件の経済的な部分を書き下したものが2から4であると思ってもらえばよい。
なんでこのような厳しい条件を要求しているのかというと、競走馬の維持には、お金がとてもかかるためである。とあるサイトによれば、委託料が月あたり中央競馬の場合60万円程度、地方競馬の場合8万円から35万円程度かかる上、保険料などもかかることを考えたら、そうやすやすと馬主資格を認めるわけにはいかないのである。
なお、個人馬主が死亡した場合、1か月間は元の名義で走らせることができるが、その後は以下のいずれかをとる必要がある。
- すでに馬主資格を保有している他の馬主に売却する
- すでに馬主資格を保有している相続人が相続する
- 馬主資格を持たないが、馬主資格の条件を満たす相続人が馬主資格を取得し、相続する
- 馬主資格を持たず、馬主資格の条件のうち資産要件を満たさない相続人が相続馬限定馬主の資格を取得し、相続する。この相続馬限定馬主は、以下のような制約がある
一口馬主との関係について
一口馬主は馬主ではないわけだが、複雑な仕組みで成り立っている。まず、馬主に対して一口馬主が直接出資しているわけではない。これを行ってしまうと「名義貸し」という違反行為になってしまうためである。
ではどのような構成になっているかというと、このような形になっている(参考文献)。
- 法人として、クラブ法人と愛馬会法人の2つが存在する
- 愛馬会法人は、競走馬をクラブ法人に現物出資している
- クラブ法人が、法人馬主として中央競馬・地方競馬に馬主登録している
- 愛馬会法人に対して、一口馬主は出資を行う
- 賞金などはクラブ法人が受け取り、そこから各種控除をした後の賞金を愛馬会法人に分配したのち、その愛馬会法人が一口馬主に対して賞金などの分配を行う
これにより、名義貸しなどの問題を回避している。
なお、共有馬主とは異なる。こちらは馬主資格を持つ者(個人または法人)同士で共同で競走馬を保有する仕組みである。この場合は、共同所有している馬主同士で費用を直接負担する義務を負う。また、代表馬主がいて、その代表馬主が最終的な決定を担う。勝負服もその代表馬主のものを用いる。
馬主の収入と費用
上記で書いた通り、馬主には相当な費用がかかる。今回中央競馬を想定する。主にかかる費用としては、
- 馬の購入費用 - 馬による。1度だけ発生。数百万円から数億円が多い
- 厩舎への委託費用 - 中央競馬の場合月60万円から70万円(入厩時)
- 放牧時の費用 - 放牧している場合でも月20万円から40万円(エサ代などがメイン)
- 放牧地と厩舎間の移送費用 - 放牧地へ移送する費用もかかる。なお、厩舎と国内の競馬場の間の輸送費用は発生しない(JRAが負担)
- 治療費 - 怪我したり病気になったら都度発生する
- 保険料 - 年1回発生。平地競走の競走馬の場合、概ね馬の価格の3%から5%くらいになることが多い
一方、収入は以下のものがある(詳細はこちらを参照)
- 特別出走手当 - これは全額馬主に入る。新馬・未勝利競走の場合42万3000円が基本(ここから加算減算が発生する)
- 本賞金 - 競走馬が5着以内に入った場合に入る。例えば平地未勝利戦で3着になった場合、130万円なので、馬主にはその8割、104万円が入る
- 出走奨励金 - 競走馬が6着から9着(重賞及びオープン特別は10着)に入った場合に、1着とのタイム差が所定時間内だった場合(重賞・オープン特別の場合は未勝利・未出走でない限りタイム差要件はない)に入る。例えば2歳新馬で8着になった場合、42万円なので、馬主にはその8割、33万6000円が入る
- 特別出走奨励金 - 3(4)歳以上のGIレースで11着以下に入った場合に、大阪杯・天皇賞(春)・宝塚記念・天皇賞(秋)・ジャパンカップ・有馬記念は200万円、それ以外は150万円。馬主にはその8割(つまりそれぞれ160万円、120万円)が入る。また3(4)歳以上芝1800m以上のGII競走で11着以下に入った場合も馬がオープンなら100万円、3勝クラスなら50万円(これも馬主にはそれぞれ80万円、40万円)が、所定のタイム差以内であれば入る。また、有馬記念ファン投票で10位以内の馬が出走した場合、ワールドオールスタージョッキーズ・ヤングジョッキーズシリーズでも入る
- 距離別出走奨励賞 - 3(4)歳以上芝1800m以上の、オープン・3勝クラス・2勝クラスと、1勝クラスの特別競走に出走した馬のうち、10着以内に入った馬に対して交付される。例えば3歳以上2勝クラス芝2000mの競走で5着に入った場合、26万円の8割、20万8000円が入る
- 内国産馬奨励賞 - 内国産馬で5着以内に入った場合に入る。例えば2歳新馬で1着になった場合、170万円の8割、136万円が入る
- 内国産牝馬奨励賞 - 内国産の牝馬で、牝馬限定戦以外の新馬・未勝利戦(3歳春季まで)で5着以内に入った場合に入る。例えば2歳未勝利で3着になった場合、35万円の8割、28万円が入る。
- 付加賞 - 特別競走で3着以内に入った場合、特別登録料のうち1着7割・2着2割・3着1割が賞金として入る。なお、付加賞に関しては調教師の取り分はなく、平地競走の場合9割が馬主に入る
- 馬主賞品 - 優勝した馬の馬主に対して、所定の金額相当の賞品と競走を記録したDVDが入る
先ほど書いた「8割」というのは、元の賞金額のうち、10%を調教師が、5%を騎手が、5%を厩務員がとった残りの8割という意味である。障害競走の場合は騎手の取り分が7%に増えるため、馬主には78%が帰属することになる。同様に「9割」は障害競走の場合88%になる。
確かに、いろいろお金を手に入れる手段はありそうに見えるが、勝ち上がらなければその恩恵を受けることすらままならないので、大半の競走馬は赤字になる。
馬主協会
馬主を束ねる団体として、「馬主協会(馬主会)」がある。活動内容としては会員(馬主)同士の相互交流、情報交換から、会員が手にした賞金の一部を原資とした地域福祉活動・災害復興などへの助成・寄付、また、競馬の主催団体に対して馬主としての意見や要望を伝える役割もある。さらには、協会が所属する競馬場で行われる重賞競走への賞品(優勝杯や盾など)提供を行ったりもする。
歴史的には戦前から各地域にあった競馬の主催団体「競馬倶楽部」を祖とする団体である。
中央競馬の馬主協会は全10場に対応する形で10団体が存在。地方競馬は県単位で馬主会・馬主協会が存在する。
名称 | 会長 | |
---|---|---|
札幌馬主協会 | 岡田牧雄 | レックススタッド代表、メーヴェ・メロディーレーンの馬主 |
函館馬主協会 | 高橋則行 | 「リキサン」冠の馬主 |
福島馬主協会 | 伊東純一 | |
新潟馬主協会 | 飯塚知一 | シャドウゲイトの馬主 |
中山馬主協会 | 西川賢 | 歌手「山田太郎」。本名で馬主活動中。日本馬主協会連合会会長。 |
東京馬主協会 | 森保彦 | |
中京馬主協会 | 生田敏成 | |
京都馬主協会 | 大八木信行 | 元レーシングドライバー。「ダイシン」冠の馬主。 |
阪神馬主協会 | 木村昌三 | 「ランド」「キシュウ」冠の馬主。 |
九州馬主協会 | 小田切有一 | オレハマッテルゼ、モチ、ほか珍名馬で有名な馬主。 |
ニコニコ大百科に記事がある馬主
関連リンク
関連項目
脚注
- *名義は「Derrick Smith, Mrs John Magnier & Michael Tabor」
- *正式な馬主名義は田中はな(田中角栄夫人)
- *両馬とも正式な馬主名義は前田晋二(ノースヒルズ代表者・前田幸治氏の弟)
- *両馬とも萩本企画の名義(アンブラスモアは当初は個人名義)
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