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ですがそんな理由があったとしても、私なんぞという他人を入れる理由にはなりません。
そのことを聞いてみると、彼は少し驚いたような顔をして、少し悩みだしました。
しばらくすると、彼は訥々と語りだしました。

最初は興味本位で話を聞いてやるか、ぐらいの気持ちであったそうです。
この時点ではただの他人でございました。
しかし告白もどきやら自分の悩みやらを話すようになり、ここで変化が生じました。
親しい人には逆に話せない、自分の根幹の悩み。誰にも話せない悩み。
これらを、ろくに自分のことを知らない他人になら話せた理由。
それは、「話したところで相手には聞く以外何も出来ない」という安心感。
そして「誰かに話さねば潰れてしまう」程に追い詰められている精神から来るものであったそうです。

そう、私が彼へ自分の悩みを泣きながらに話せた理由。
これも彼が話した理由と合致しておりました。
赤の他人へ依存するという奇妙な関係は、この理由から成り立っていたのです。

サンエイサンキュー

みなみたま

ひがしはま

みのおおた

いなやわた

彼は話し終えたあと、失礼なことを言ったかと謝ってきました。
とんでもない、自分も同じように相手を利用していたのです。改めて自分もそう語り、こちらからも謝り返しました。
そうして何度か謝り合いを繰り返していると、いつの間にやら随分と時間がたっていました。
このままでは埒が明かない、と彼は笑い、一つの提案をしました。
「自分を利用する代わりに、相手も利用させてもらう」という提案です。
つまり、自分が悩みを相手に話す代わりに、自分も相手の悩みに乗る。ギブアンドテイクの関係でございます。
そしてもうひとつ、「自分から相手の領域へ踏み込むことは極力しない」という提案がなされました。
悩みを話しやすい、利用しやすい、心地の良い関係を保つため…自分が話せると思ったことのみを相手に話す。
この2つの提案を元に、私達の相互利用の関係は確固としたものになりました。

きたしのだ

ぬまのはた

かわみなみ

むかいちば

きたまつど

たかじょう

友人でも他人でもない、ふわふわと宙に浮いた関係。
これは私にとっても、彼にとっても非常に心地の良いものでした。
何を言っても許される…というわけではございませんが、普段は周りの人間に言えない悩みも自由に話せる。
相手の悩みさえ聞いていれば、自分の悩みも聞いてもらえる。
負担は軽く、得られるものは大きい。傷つけることもなければ傷つくこともない。
「たった二人の中で、完成した世界が出来上がっていた」と、彼は後に語っていました。
大げさだしロマンチックに過ぎる言い方だ、と思いましたが、しかし間違っては居ませんでした。
他者の介入もなく、二人だけで傷を舐め合い、癒やし合う空間。
私はこの場所に依存しきっていましたし、彼もそうでありました。