ゾンビ(dawn of the dead/1978) 単語

ゾンビ

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「ゾンビ(dawn of the dead/1978)」とは、アメリカ・ハリウッドで製作されたホラー映画である。ジョージ・A・ロメロ監督・脚本、ダリオ・アルジェント製作。音楽はゴブリン、特殊メイクは本作で俳優としても出演するトム・サビーニが担当した。

現在でいうゾンビ(モダン・ゾンビ、人食いゾンビ)を広く一般に認知させ、また本来のゾンビ像をいちじるしく変えてしまった作品とも言える。

概要

ホラー映画監督、ジョージ・A・ロメロによる「リビングデッドサーガ」の第二弾であり、前作「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド/ゾンビの誕生(night of the living dead/1968)」の続編にあたる。

「ナイト~」は作家リチャード・マシスンの傑作「地球最後の男(the lastman on earth/1964)」で描かれた「全人類が吸血鬼となった世界で、一人残った人間によるマイノリティとマジョリティの逆転の悲劇」という内容を換骨奪胎し、それまでのホラー映画では魔術師や邪僧の下僕程度にすぎなかったゾンビに、新たな個性を与えた最初の作品である。

モダン・ゾンビの「人を食い」「増殖する」という吸血鬼的性質は、この「地球最後の男」に起因している。人間を食うというおぞましい描写に加え、極限状態における人間ドラマ、社会への批判、不安を丹念に描いたことで、「ナイト~」は低予算、ドライブインシアター放映という状況でありながら欧米圏で大ヒットした。

彼の才能に目を付けたイタリアのホラー監督ダリオ・アルジェントが製作(資金集め)を申し出、よりスケール感を増した映画として作られたのが本作にあたる。幸いにして潤沢な資金が集まり、巨大ショッピングセンターを借り受けることができたおかげで、ロメロの構想はほぼ完全に再現。露出した内臓をむさぼり食う残酷描写と、ロメロならではの社会派的脚本が組み合わされた本作は、最高のゾンビ映画として30年以上経過した現在も高い評価と根強いファンを持ち続けている。

ストーリー

人食いゾンビが市街地にあふれはじめ、人々は終末の予兆を感じていた。テレビ局に勤めるフランは、恋人でヘリパイロットのスティーブに郊外への脱出をもちかけられる。一方、スティーブの友人でSWAT隊員のロジャーは、テロリストが潜むアパートを攻撃中にゾンビの集団に襲われ、その場で肝の太さを見せた黒人の同僚ピーターをヘリでの脱出計画に誘う。

かくしてヘリに乗り込んだ四人は、鹿狩りさながらにゾンビ狩りを楽しむ市民や軍人を眼下に見ながら上空をさまよい続ける。だが、どこに行ってもゾンビが現れぬ場所はなかった。もはやこの星は生ける人住むの世界ではなくたったのか……。絶望にうちひしがれかけた頃、彼らは郊外に建つ巨大なショッピングセンターを見つけた……。

 原因は不明。後述の日本公開バージョンでは宇宙のどこかにある星が爆発し、その放射線の影響でゾンビ化、となっているが、これはオリジナルの付け足し。ロメロにとって「なぜ」かはどうでもよく、事件によって引き起こされるドラマこそ主眼であるようだ。)

公開バージョン

本作には監修者によるバージョン違いがいくつかあり、内容に大きな変化はないものの、編集部分や音楽演出の違いによって雰囲気は若干異なってしまっている。

  • ダリオ・アルジェント監修版(119分) 製作のダリオ・アルジェントが自らの感性と都合で編集したバージョン。ゴブリンによる音楽が景気よく流れるため、陰鬱な内容との違和感を禁じ得ない。最も多くの国で劇場公開されたバージョンであるらしい。
  • ジョージ・A・ロメロ監修版(125分) 監督・脚本のロメロが自分の意図どおりに編集したバージョン。ゴブリンの音楽を多様せずに陰鬱な雰囲気を強め、ドラマ部分をしっかり見せる内容となっている。全米公開されたバージョンであり、本作のファンの多くが支持しているのもこちらと思われる。
  • 日本公開版(105分) ダリオ・アルジェント編集版をもとに、一部残酷描写をカットし、代わりに上記したゾンビ化の原因を付け足したバージョン。ゾンビ化の原因部分は日本版のみのオリジナル。


このほかにも、ゾンビブーム再燃に伴う微妙なバージョン違いが発売されているが、それらも基本的にアルジェント、あるいはロメロ編集版に手を加えたものである。

後世に与えた影響

本作が公開された70年代は「悪魔のいけにえ」「ハロウィン」「エクソシスト」「エイリアン」「ジョーズ」「オーメン」「キャリー」「イレイザーヘッド」といったホラーの傑作が続出し、80年代にまで至る一大ホラーブームが幕を開けた時代であった。もちろん本作もその呼び水の一本となり、スラッシャー(殺人鬼)系やオカルト系よりも多数の類似品が生産された(その多くが、日本ではあまり発売されなかったが)。

ゾンビ映画量産の理由は「演技が簡単なのでモンスター役は素人でOK」「顔色を悪くして血糊をつければ特殊メイク完了」「ドラキュラやオカルトもののように特別なセットも必要なし」と、製作が非常に容易だったためである。雨後のタケノコのごとく無数に生えたゾンビ映画だったが、もちろんヒットしたのは稀。ただし中には「死霊のはらわた(evil dead/1981)」でサム・ライミ、「ブレインデッド(braindead/1992)」でピーター・ジャクソンという、のちの名クリエイターを輩出することもあった。

当のロメロの「リビングデッドサーガ」は三作目「死霊のえじき(day of the dead/1985)」で一応の完結を迎えるが、これは資金が思うように集まらず、構想の後半部分のみを映像化したという不本意な内容であった。

しかし世の中は巡るもので、若いころに本作に影響を受けた世代が作り上げたプレイステーション用ゲーム「バイオハザード」が世界的にヒット。その映画化作品「バイオハザード(resident evil/2001)もまたヒットし、粗製乱造ですたれかけたゾンビ映画業界が再び活気づく。

とはいえ、80年代のゾンビ飽和状態すらかくやと思える「~オブザデッド」を冠する映画だらけになったのは、ザック・スナイダー監督による本作のリメイク「ドーン・オブ・ザデッド(dawn of the dead/2004)」が原因、というのは皮肉と言うべきか宿命と言うべきか……。

この再度のゾンビブームを受け、御大ロメロも「ランド・オブ・ザデッド(land of the deead/2005)」「ダイアリー・オブ・ザ・デッド(diary of the dead/2007)」「サバイバル・オブ・ザ・デッド(survival of the dead/2009)」三本のゾンビ映画を撮ったものの……。感想は視聴した方それぞれのものということで。

バイオハザードを作ったカプコンによる新たなゾンビゲーム「デッドライジング」の舞台がショッピングセンターなのは、もちろん本作の影響である。が、陰鬱で絶望的な雰囲気はあまりなく、コスプレしながらタイムリミットまでゾンビとたわむれるのが主な遊び方となっている。

トム・サビーニについて

本作のヒットによって、ホラー業界に二人のプチ・スター(リィやカッシング並ではないので、あくまでプチ)が誕生している。ひとりは主役四人のうち、もっとも頼りがいのある黒人SWAT・ピーターを演じたケン・フォリー。もうひとりが後半にヒゲ面のバイカー役で出演するトム・サビーニである。

物語後半において、主張の強いルックスの悪役として登場するサビーニは、実は非常に気さくで明るい性格であるらしく、ホラー業界内にファンが多い。そのため本作をオマージュしたような役柄での出演依頼が多く、ホラー映画ファンなら一度くらいは目にしたことがあるだろう。……無惨な殺され役で。

サビーニはベトナム従軍の経験を生かし、本作の特殊メイキャップを担当しているが、この時期はまだ経験が浅く、いかにも作り物感は否めない。しかしこの後、数々の傑作ホラーで特殊メイクを担当し、技術を高めていくことになる。続編「死霊のえじき」を見れば、その進化ぶりが一目瞭然であろう。また、のちにはホラー映画の監督業もこなしている。

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