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この記事は第614回のオススメ記事に選ばれました! よりニコニコできるような記事に編集していきましょう。 |
ユニークな名称の化合物の一覧とは、独特で面白い、ちょっと変な名前の物質を集めた記事である。
「化学って難しい」「ぜんぜん分からん」という方でも、ちょっと興味をもってもらえそうな、ユニークな名前の化学物質を一覧にした。
たとえば、外国語なのに日本語みたいな名前の化学物質や、特徴的な形から面白い命名をされた化学物質などがある。日本語が由来になっていたり、ただの偶然だったりする。もし、この記事を眺めて名前に違和感を覚えなかったなら、それはあなたがどっぷりと化学に染まっているためかもしれない。
ヤ行
ワ行
艦船を擬人化したような名前だが、化学における「アズレン」は美しい青色の分子。青を意味する“Azul”が名前の由来。7員環と5員環からなるが芳香族性をもち、誘導体は抗炎症作用をもつ。
「アホエン」は、ニンニク由来の分子。ニンニクの独特な香りのもとである「アリシン」が、食用油などに溶けると生成される。
インターネットスラングを連想させる名前だが、「アホス」という分子は複数存在する。いずれも構造中にリン(Phosphorus)を含むため、名前にホス(phos/fos)が用いられた可能性がある。
「アリスキレン」は、アリス・キレンという女性ではなく、高血圧症の治療薬。レニンという血圧上昇に関わる分子を阻害することで、血圧を下げる。ただし、有効性より毒性のほうが強いとされる。同効薬に「レミキレン」があり、姉妹のような印象も受ける。
「アリストニトリンA」は、インドールアルカロイドの一種。幻想郷に住まう七色の人形遣いと水平思考の河童のことではない。ちなみに「アリストレン」や「ニトリン」といった名前の分子もある。
正式な名称は「ジスルフィラム」。「アンタブス(Antabuse)」は海外の商品名だが、どちらかといえば「アンタビュース」という読みが主流。アルコール依存症の治療薬で、これを服用するとお酒を少し飲んだだけで気分が悪くなる。
「ウルシオール」は、文字通りウルシに含まれる分子(上記の構造式は一例)。ウルシの接触皮膚炎(かぶれ)の原因となる。
「オカダ酸」は、下痢性貝毒の一種。クロイソカイメンという海綿動物から単離された。クロイソカイメンを発見した動物学者の岡田弥一郎氏の姓が学名に使われており、学名から物質名が命名されたため、このような名前となっている。
「オカムラレン」は紅藻由来の分子。シクロプロパン環やエポキシド環も特徴的だが、臭素原子やアレン構造までもつ。命名の由来はこの成分を含む紅藻の種小名“okamurai”と、その特徴的なアレン構造だろう。
「オクタン」は、8つの炭素をもつ飽和炭化水素。18種類の構造異性体がある。水タイプのポケモンと同名だが、こちらは水とは馴染まない。なお、ガソリンのオクタン価は、オクタンの構造異性体のうち「イソオクタン」が指標となっている。
「オシメン」「ミルセン」は、どちらも植物に含まれるモノテルペン。いくつかの構造異性体がある。よい香りがするため香料として利用される。植物の属名から命名されているため、推しメン(一推しメンバー)見る専とは関係ないが、これらテルペン・テルペノイドには興味深い性質をもつ分子も多く、推せる分子種といえる。
「オパイン」は、植物に対する病原性をもつリゾビウム属菌(アグロバクテリウム)によって生合成される分子の総称で、アミノ酸とケト酸または糖が縮合してできる。構造式で示した「サッカロピン」はアミノ酸のリシンとケト酸のα-ケトグルタル酸が縮合したもので、ヒトの体内でも合成される。
「オリンピセン」は、5つの環からなる芳香族炭化水素。オリンピックのシンボル(五輪マーク)に似ていることに由来する。sp3混成軌道の炭素原子(ほかの原子と単結合のみで結合している炭素原子)が1つだけある。オリンピセンでは5つの輪が接しているが、5つの別々の輪が連なる「オリンピアダン」という分子も合成されている。
一般に「カルボン酸」といえば、カルボキシ基(-COOH)をもつ酸(Carboxylic acid)を指すが、これは名前そのものが「カルボン酸(Carvonic acid)」である。そして、このカルボン酸もカルボキシ基をもつため、カルボン酸の中のカルボン酸といえる。
女性名のような可憐な響きの名前だが、「カレン」はローズマリーやマツなどに含まれるモノテルペン。甘く刺激的な香りで、咳を鎮める効果があるとのこと。
ギリシャ神話の神だったり、冥王星の衛星だったり、ゲーム『スーパーマリオ』シリーズの敵キャラクターだったりする名前だが、化学における「カロン」は海や潮の匂いのする香料。マリン系の香水に添加される。香水メーカー“Camilli Albert Laloue”が命名の由来とのこと。
「クエン酸」は体内のクエン酸回路の構成要素で、食品添加物、洗剤の成分、痛風の治療薬としても知られるヒドロキシ酸。食えないことはないし、サプリメントとして市販もされている。
「クマリン」「クマロン」は、いずれも酸素原子を含むヘテロ環式化合物。ゆるキャラのような可愛らしい名前だが、クマとは無関係。このうちクマリンは桜餅の香りの成分である。また、これらを部分構造としてもつフラノクマリン類は、グレープフルーツなどに含まれており薬物との相互作用の原因となる。
「クラウンエーテル」は、-CH2-CH2-O-構造が環状に連なってできるエーテル。環を構成する原子の数と酸素の数から、「12-クラウン-4」「15-クラウン-5」「18-クラウン-6」のように呼ばれる。環の内側にその環の大きさに応じて金属イオンを取り込む性質があり、たとえば12-クラウン-4はLi+と錯体を形成する。チャールズ・ペダーセン氏らはクラウンエーテルの開発によりノーベル化学賞を受賞した。
正式な名称は「クラリスロマイシン」で、マクロライド系抗生物質(抗菌薬)の一つ。大正製薬が女性名のような「クラリス」の名で製造販売している。ちなみに、開発のもとになった抗生物質は「エリスロマイシン」というのだが、こちらは今のところ「エリス」としては販売されていない。
貴ガス元素のクリプトン(Krypton)や、初音ミクを開発したクリプトン(Crypton)ではなく、石鹸に添加される香料の「クリプトン(Cryptone)」である。天然にも存在している。
「クリリンH」は配糖体。デオキシ糖のない「クリリンG」という分子もある。いずれも最強の地球人とは関係ないが、スピロ構造とステロイド構造をもっているので強そうな印象はある。
正式な名称は「デソモルヒネ」で、麻薬・鎮痛薬の一種。ロシアなどではガソリンやシンナーなどを用いて密造され、それが「クロコダイル」と呼ばれている。毒性や腐食性のある不純物が混じり、常用すると壊疽を引き起こして骨が露出するが、デソモルヒネの依存性のため使用を止められず数年で死亡する。
「ゲラニルゲラニル二リン酸」は、「ゲラニル二リン酸」にさらに「ゲラニル基」がついたため、このような名となった、テルペノイド生合成の中間生成物。七五調で語呂がよい。置換基名のもとになった「ゲラニオール」の名は、ゼラニウムの旧属名“Geranium”に由来する。ちなみに、ゲラニルの「ニ」はカタカナだが、二リン酸の「二」は漢数字なので間違えないように注意。
「ゲンチジン酸」は、バファリンの成分であるアスピリンが代謝されてできる物質の一つ。「ホモゲンチジン酸」は、アミノ酸のチロシンやフェニルアラニンの代謝中間体の一つ。つまり、どちらも私たちの体内でできる分子。ちなみに、有機化学において“Homo”は原子が挿入されていることを意味するため、ほかにもホモな分子は数多く存在する。例を挙げれば「ホモセリン」「ホモシスチン」など。
「コチニン(Cotinine)」は「ニコチン(Nicotine)」のアナグラム(文字を並べ替えて別の言葉にする言葉遊び)。タバコに含まれるニコチンが、体内で代謝されるとコチニンになる。
男性名のような名前だが、「コリン(Choline)」は、神経伝達物質アセチルコリンなどの材料となる栄養素。「コリン(Corrin)」はビタミンB12を構成するヘテロ環式化合物。
「ゴルゴステロール」や「アカンステロール」はステロイド構造をもつ分子。構造も似ており、まるで間違い探しである(どこが違うか見比べてみよう)。ちなみに、「ゴルゴネン」や「アカントール」といった分子もある。
「コロネン」は、7つの環からなる芳香族炭化水素。菓子パンのコロネではなく、太陽のコロナに由来するが、コロネを正面(前方?)から見たように見えなくもない。美味しそうな名前だが発がん性があるため、食べないほうがよいだろう。
「サルブタモール」は、気管支を拡張させ呼吸を楽にする交感神経β受容体刺激薬。気管支喘息の発作治療に用いられる。筋肉を増強させる作用もあり、国際大会などではドーピングの禁止薬物として検査の対象となっている。サルやブタの販売店とは関係なく命名されたが、こうしたβ刺激薬はブタに飼料として与えられることがあり、豚肉として選手が意図せず摂取してしまう事例がある。
「サルフラワー」は硫黄を含むヘテロ環式化合物。その構造がヒマワリ(サンフラワー)に見えることから、この名がついた。
「サンタレン」「サンタロール」は、どちらもビャクダン(白檀)に含まれるセスキテルペン・セスキテルペノイド。ビャクダンの学名に由来するので、ポルトガルやブラジルの同名の都市やサンタさんとは関係ない。
「シクロアワオドリン」は、徳島文理大学の研究グループが合成した環状オリゴ糖。構造式の見た目から、徳島の阿波踊りに因んで命名された。環構造の中に別の分子を入れて安定化させること(包摂)ができるため、練りわさびの風味を長持ちさせるのに利用されているとのこと。
「ショウガオール」は、文字通りショウガに含まれる分子(上記の構造式は一例)。ショウガの辛味成分。ショウガには「ギンゲロール」という辛味成分も含まれており、乾燥や加熱によってより辛味の強いショウガオールになる。
「シネオール」は別名「ユーカリプトール」で、ユーカリ属植物に含まれるモノテルペノイド。清涼な香りがあり、食品添加物や香料として利用される。
「シネリン」はシロバナムシヨケギク(除虫菊)に含まれる成分で、殺虫作用をもつ。シネリンなどをもとにテトラメトリンやレスメトリンなどの殺虫剤が開発された(商品名としては大日本除虫菊のキンチョールが知られる)。
キャンプが趣味の高校生ではなく、「シマリン」は強心配糖体。心臓の働きを強めるため、薬として用いられる強心配糖体もあるが、不整脈を引き起こし死に至る危険もある。身近なところではフクジュソウの根に含まれる。キャンプでは食糧を事前に調達しておき、野草には手を出さないほうがよいだろう。
「シラン」は、メタンの炭素原子がケイ素原子に置き換わった構造の無機化合物。シランの水素原子がメチル基などに置き換わった有機ケイ素化合物もシランと呼ばれることがある。
「スカトール」は、糞便に含まれる分子で、その匂いの原因となるインドール誘導体。しかし、低い濃度では花の香りがし、実際にオレンジやジャスミンの花の香気成分でもある。香水やタバコに添加されるが、もちろん、工業的に合成されたものが使用されている。
「スペルマン」は正式な名称ではなく、研究者が冗談で呼んだもの。正式には「ジクチオプテレンC'」といい、褐藻のフェロモンである。スペルマンと呼ばれた理由は構造式を見れば一目瞭然だろう。ちなみに、ヒトの精子の大きさは60μm(0.06mm)とされるが、この分子は1nm(0.001μm)程度しかない。
「スペルミン」と「スペルミジン」は、いずれも精液から発見された分子。分解物とともに、その匂いの一因となるポリアミンである。なお、スペルミンを発見したのは、微生物学の父と称されるアントニ・ファン・レーウェンフック氏。ちなみに「ホモスペルミン」「ホモスペルミジン」という分子もある。
「スマネン」は、5員環と6員環からなる炭化水素。ちょうどサッカーボールのような構造をした「フラーレン」の部分構造でもある。サンスクリットやヒンディー語でヒマワリを意味する“Suman”に由来する。
「ズルチン」は人工甘味料、「フィロズルチン」はアマチャ(甘茶)に含まれる成分で、ともに甘い味のする分子。ただし、ズルチンは中毒や発がん性が問題となり、現在は使用禁止。名前は似ているが構造的な類似点はない。
「タブン」は、ドイツでもともと殺虫剤を目的として開発され、のちに化学兵器に転用された神経ガス。過去に日本で使用された「サリン」と同じG剤と呼ばれるコリンエステラーゼ阻害薬である。毒性が強く、殺虫剤としてはタブーとされたことが命名の由来。
「チラミン」は、アミノ酸のチロシンが脱炭酸してできるアミン。食物の発酵や腐敗によっても生じ、ワインやチーズ、チョコレートなどに含まれている。構造はカテコールアミンに類似しており、血圧上昇の要因となる。片頭痛の一因としても知られているが、ガイドラインでは摂取制限を勧告してはいない。
「ツヤ酸」は、ベイスギ(スギではなくヒノキ科植物の一種)から発見されたモノテルペノイド。化粧品に配合されるが、艶(つや)とは関係なく、抗菌作用があるため保存料としての利用。同系統の分子として「ヒノキチオール」がある。
「デカン」「ドデカン」「ウンデカン」は、それぞれ炭素数が10個、12個、11個のアルカン。七五調で語呂がよいが、この順で覚えると11と12が逆になるので注意。炭素数の少ないメタンやプロパンは常温では気体(ガス)だが、デカン・ウンデカン・ドデカンは常温で液体である。
「テストステロン」は代表的な男性ホルモン。生殖腺の発達、第二次性徴の発現、筋肉の増強などに関与する。精巣だけでなく、副腎皮質や卵巣でも生合成されるため、女性でも男性ホルモンによる調節を受ける。テストは捨ててかかると、あとで困るよ。
「TEMPO(テンポ)」は、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルのことで、有機合成化学における試薬。ラジカルであり、還元されて失活した触媒を再び活性に戻す再酸化剤であり、ラジカル反応を停止させるラジカル捕捉剤でもある。
「ドコサン」は炭素数が22個のアルカン。化粧品には水分の蒸発を抑え肌の潤いを保つためのエモリエント剤として配合される。どこ産かは製造販売元に聞いてみるほかないが、商品そのものは国産のものが販売されている。
「トラウマチン」は植物ホルモンで、外傷を負うと生成され組織の再生を促す。植物も傷つけられれば心的外傷(トラウマ)を負うのかもしれないが、語源が同じだけで直接の関連はない。一般にトラウマは精神的なものを意味するが、本来の“Τραύμα”は傷そのものを意味する。比喩的に心的外傷のみを指してトラウマと呼ぶのが定着した。
「トリコサン」は炭素数が23個のアルカン。美食屋四天王一の食いしん坊のような名前。ちなみに、構造式で示したn-トリコサンは分枝がないが、分枝のある構造異性体は5,731,579種類もある。
「ドンペリドン」は制吐薬(吐き気止め)であり、消化管機能を改善するドーパミンD2受容体拮抗薬。シャンパンのドンペリ(ドン・ペリニヨン)を連想させる名前であり、構造式の2つのベンゾイミダゾリノン構造もどことなくドンペリの瓶に見えてくる。ただし、単なる二日酔いに対しては適応外である。
「ナノプシャン」は、ヒトの形をした分子。名前は10億分の1を意味するナノと、『ガリバー旅行記』に登場する小人の国の住人リリプシャンに由来する。実際のナノプシャンの身長は2nm程度であり、まさにナノサイズの小人である。構造を一部変えてアスリートや学者に見立てたり、バレエダンサーにしたりできる。さらに、車のような構造でタイヤがきちんと回転する「ナノカー」も合成されている。
「アナターゼ型」は、二酸化チタン(TiO2)の結晶構造の一種。二酸化チタンの結晶構造として、ほかにルチル型、ブルッカイト型があるが、加熱により最も安定なルチル型に構造転移する。二酸化チタンは光触媒として実用化されており、アナターゼ型はルチル型より10倍ほど活性が高い。
「尿素」「尿酸」は、ともに尿に含まれる成分。尿素は親水性があり保水作用があるため、ハンドクリームに配合される。世界で初めて無機物から合成された有機物であり、有機物は生物のみが作り出せるという当時の定説を覆した。尿酸はいわゆるプリン体の最終代謝産物で、血中濃度が高まると結晶化し、痛風の原因となる。
逃げろとか叫びとか阿鼻叫喚な名前だが、「ニゲロース」は糖の仲間で「サケビオース」はその別称。ショ糖(砂糖)や乳糖などと同じ二糖に分類される。ブドウ糖が2つくっついた構造。ニゲロースはコウジカビの種小名“niger”に由来し、サケビオースは酒(Sake)に由来する。
「日本酸」は炭素数21のジカルボン酸。ハゼノキやウルシを原料とした木蝋に含まれる粘性の高い成分。木蝋の英名“Japan wax”に由来するものと推測される。
「ハウサン」は、構造が家(ハウス)のように見えるため、そう名付けられた炭化水素。3員環と4員環という歪みの大きい構造からなるため、家としては相当住みにくかろうと思われる。
「バスケタン」は、構造がバスケットのように見えるため、そう名付けられた炭化水素。その大きさと疎水性から、水分子1つでさえ入れるのは困難。
「バッカチン」はトリテルペンアルコールの一種。環状のペルオキシド構造(R-O-O-R')を有する。名前はこの成分を含有するシラキ属植物の種小名“baccatum”に由来する。天然物でペルオキシド構造をもつものは珍しい。
「バッカチンIII」はイチイ属植物に含まれるタキサン系の分子。抗がん薬として利用される「パクリタキセル」合成の前駆体となる。タキサン系の抗がん薬は、がん細胞の微小管の脱重合を阻害することで抗腫瘍作用を示す。
「ピクリン酸」は、その可愛い名前に反し、爆薬の一種。日露戦争では下瀬火薬として用いられた。爆薬として構造のよく似た「TNT(トリニトロトルエン)」が知られているが、ピクリン酸はフェノール構造のため反応性が高い。1917年にカナダで発生したハリファックス大爆発では、10,000人を超える死傷者を出した。
「ヒノキチオール」は、化学者である野副鉄男氏がタイワンヒノキから発見した分子。カルボニル基とヒドロキシ基が互変異性し、7員環部分の電子は酸素原子側に偏るため安定な芳香族性を示す。香料や抗菌薬として利用される。参考:野副鉄男『トロポノイド化学の育つまで』
「ピロリン」は、窒素を含むヘテロ環式化合物。二重結合の位置によって3種の構造異性体がある。カルバペネム系抗生物質(抗菌薬)やビタミンB12の部分構造である。ちなみに、二重結合がない分子は「ピロリジン」、二重結合を2つもつ分子は「ピロール」と呼ばれる。
国家・諸島のフィリピン(Philippines)ではないが、それに因んで命名された「フィリピン(Filipin)」は天然由来の抗真菌薬。フィリピン諸島の土壌の放線菌から発見された。二重結合が連続していることから、ポリエン系に分類される。
「フクシン」は赤紫色の染料。織物の染色やグラム染色(細菌の染色)に用いられる。グラム陽性菌は別の染料によって紫色に染まるが、大腸菌や緑膿菌などのグラム陰性菌はフクシンなどによって赤色に染まる。腹心や副審など同音異義語が多い。
「フラン」は、常温では液体だが沸点が31℃と低く、揮発しやすい可燃性液体。第4類危険物。きゅっとしてドカーンな悪魔の妹ほどではないかもしれないが、引火点が-35℃なので容易に引火する。誘導体は香料や医薬品などとして利用されている。また、砂糖と水を加熱してできる「カラメル」の分子構造は、このフランのポリマーとなっているのではないかと推定されている。
「プリン」は、DNAやRNAなどの核酸、いくつかの補酵素、うま味成分、カフェインや尿酸などを構成するヘテロ環式化合物。いわゆるプリン体という名称は、このプリンに由来する。
「プルプル酸」はバルビツール酸構造をもち、一般にはアンモニウム塩の「ムレキシド」として利用される試薬。プルプル酸自体は無色だが、ムレキシド粉末は赤紫色で、溶液にすると液性によって黄色(強酸性)や青紫色(アルカリ性)にもなる。動物の糞便に含まれ、抽出して染料としても用いられた。スライムとはあまり関係なさそうだ。
「フロ酸」は「フランカルボン酸」とも呼ばれるカルボン酸。3つ上の項目で扱った「フラン」にカルボキシ基がついた構造。名前から風呂を連想させるが、語源はラテン語の“Furfur”で、その意味は糠(ぬか)。2-フロ酸には抗菌作用があり、香料としても使用される。
「ペンギノン」は、構造がペンギンのように見えるため、そう名付けられた環状ケトン。構造式は紙面に書くため、足が右下と左下に出ているように書かれるが、実際の立体的な構造では前方と後方に出ている。可愛い構造式ランキングがあれば、上位にランクインするであろう分子。
「ゲンチジン酸」を参照。
「ポリゴン」は、一般には多角形のことだったりノーマルタイプのポケモンだったりするが、この「三リン酸ペンタナトリウム」もポリゴンである。「ポリゴン酸」という分子もあるが、構造はオクタリン構造をもつセスキテルペノイドで、また違う分子である。
「マジック酸」は「五フッ化アンチモン」と「フルオロスルホン酸」の混合物。硫酸より強い超酸(超強酸)の一つ。名前は、パーティーでロウソクを魔法のように溶かしたというエピソードに由来する。
「マジンドール」は、魔人も機巧少女(マシンドール)も関係なく、食欲を抑制する肥満症治療薬。日本で承認されている食欲抑制薬としては唯一のものだが、依存性が認められるため、食事療法や運動療法を実践しても改善しない高度肥満症にのみ適応となる。
「マツタケオール」は、文字通りマツタケに含まれるアルコールだが、シイタケなどの多くのキノコ、レモンバームなどのミントにも含まれる。英語圏では“Mushroom alcohol”とも呼ばれる。
「オシメン」を参照。
「ムスカリン」は、キノコに含まれるアルカロイド。すなわち毒で、大量に摂取すると副交感神経に作用して流涙、発汗、縮瞳(目の前が暗くなる)、腹痛、嘔吐、下痢、呼吸困難などを起こす。キノコに含まれる毒として、ほかに「ムスカゾン」というアミノ酸の構造をもつ分子もある。
「ムスコン」は、息子コンプレックス(イオカステーコンプレックス)の略ではなく、麝香(ムスク)に含まれる香料。15員環をもつ環状ケトンで、構造式は星みたいで可愛らしい。天然の麝香の取引はワシントン条約によって禁止されており、一般には香りは似るが構造的にはまったく異なる合成ムスクで代用されている。
「MOCA(モカ)」は、3,3'-ジクロロ-4,4'-ジアミノジフェニルメタンの別称で、その可愛らしい名前とは裏腹に、発がん性物質である。アニリン系の分子は膀胱がんのリスクがあり、同様の例に「o-トルイジン」「ベンジジン」「2-ナフチルアミン」などが知られている。
正式な名称は「クエン酸第二鉄水和物」で、高リン血症の治療薬。この女性名のような名前は「リンを治す」に由来する。薬理学上、重要なのは第二鉄(Fe3+)で、これが消化管内で食物中のリン酸と結合し、リンの吸収を抑制する。
「リブロース」は糖の一つ。果糖と呼ばれるフルクトースと同じケトースで、核酸(DNAやRNA)を構成するデオキシリボースやリボースと同じペントース(五炭糖)。リブロースにリン酸が結合した分子は、核酸の合成に使われる。霜降りになりやすく肉質がきめ細かな牛肉の部位とは関係ない。
「龍脳」は「ボルネオール」「ボルネオショウノウ」とも呼ばれるモノテルペノイド、香料。龍は高級・高貴なものに対する美称、脳は結晶性テルペノイドに共通する命名である。類似の例として、「カンファー」に「樟脳」、「メントール」に「薄荷脳」の名が与えられている。
正式な名称は「プレガバリン」で、神経障害性疼痛の治療薬(鎮痛薬)。構造式から分かるように、アミノ酸(γ-アミノ酸)である。ファイザー社が女性名のような「リリカ」の名で製造販売しているが、命名は“Lyric”(叙情詩)に由来する。2017年度、日本で最も売れた医薬品(国内売上高937億円)であった。
企業のローソン(Lawson)ではなく、「ローソン(Lawsone)」である。橙色の染料。少し構造を変えると赤色や黄色の染料にもなる。含有するミソハギ科植物ヘンナの属名“Lawsonia”に因む。
企業のローソン(Lawson)ではなく、「ローソン試薬(Lawesson's reagent)」である。化学者スヴェン=オーロフ・ローソン氏が普及させたため、そう呼ばれる。リンと硫黄からなる特異的な4員環構造、ジチアジホスフェタン環を有する硫化剤である。
「ロケッテン」は、構造がロケットのように見えるためそう呼ばれ始め、いつの間にか定着してしまったらしい炭化水素。「ゼトレン」「ダビダン」「フェリセン」などもそうだが、しばしば構造式の見た目から命名される。
「ロリリン」は、インドール構造を有し、8つの縮合した環をもつ分子。ロリータなリンちゃんではない。このロリリンはマイコトキシン、すなわちカビが生成する毒。名前はこれを生成するアクレモニウム属のカビの種小名に由来する。
正式な名称は「APINACA」で、合成カンナビノイド(大麻の成分の仲間)。これが日本のアイドルグループと同名の「AKB48」と俗に呼ばれるのは、「メタンフェタミン」をアイスやスピード、「コカイン」をコークやクラック、「MDMA」をエクスタシーと呼ぶように、隠語として使い、薬物への抵抗感を和らげるためだと推測される。現在は指定薬物として、規制の対象となっている。
「DS酸」は、ナフタレンスルホン酸を母核とし、ヒドロキシ基が2つ結合した分子。“Dihydroxy
「H酸」は、ナフタレンスルホン酸を母核とする分子。芳香環に結合したアミノ基と水酸基をもつため、酸性でも塩基性でもジアゾニウム化合物と反応する。アルファベット1文字を冠するナフタレンスルホン酸誘導体として、ほかに「C酸」「F酸」「G酸」「J酸」「K酸」「M酸」「R酸」「S酸」「T酸」がある。
「IQ」はヘテロサイクリックアミン(複素環式アミン)で、発がん性物質。一般に、ヘテロサイクリックアミンは肉や魚の焦げに含まれる。母核構造がイミダゾキノリン(Imidazo
「PR酸」はオクタリン構造をもち、2つのエポキシド構造ももつカルボン酸。ブルーチーズ製造に利用されるアオカビ、“Penicillium roqueforti”が産生する「PRトキシン」の代謝物と思われる。P. roquefortiを使用したチーズはロックフォールといい、フランス最古のチーズ、ブルーチーズの王様とされる。ロックフォールには強いうま味・塩味があり、ワインやハチミツと合うとPRされている。
「カエデ」はサンゴ由来の蛍光タンパク質。紫外線を当てると緑色から赤色へと変わり、緑色には戻らない性質があり、紅葉するカエデの名がつけられた。
「ソニック・ヘッジホッグ」は胚発生を制御するタンパク質。突然変異のショウジョウバエを用いた研究において、ハリネズミのように体表面全体がトゲトゲした変異体が発生したことから発見された。一連のタンパク質にはハリネズミ(Hedgehog)に関連した名前が付けられ、そのうちの一つがセガのキャラクター、ソニック・ザ・ヘッジホッグから命名された。
「ドロンパ」はサンゴ由来の蛍光タンパク質。青い光を当てると蛍光が消えるが、紫の光を当てると元に戻る性質があり、忍者がドロンしてパッと消えるさまになぞらえて命名された。
「ピカチュリン」は目の網膜にあり動体視力に関与するタンパク質。視細胞と双極細胞の間のわずかな隙間(シナプス間隙)に存在し、感知した光が電気信号に変換され情報として伝達される機構に関与すると考えられる。電気や素早い動きというキーワードから、ポケモンのピカチュウが命名の由来となった。
次の化合物は上記には掲載していない。とはいえ、ユニークな名称ではあるので、簡単に補足する。
本稿の執筆にあたり参考にした動画。本稿に掲載していない化合物もある。
本稿の執筆にあたり参考にした記事。本稿に掲載していない化合物もある。
本稿の執筆にあたり活用した辞書。ユニークな分子を探してみたい方はぜひ。
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最終更新:2025/12/12(金) 05:00
最終更新:2025/12/12(金) 04:00
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