信用創造(credit creation)とは、銀行が手持ちの現金よりもずっと多くの銀行預金を貸し付けることができる現象を指す言葉である。
銀行は、企業・家計に貸し付けることによって、企業・家計から現金を受け取っていないにも関わらず銀行預金を新規に発行することができる。このため預金創造(money creation)とも言われる。
「銀行は、万年筆で預金通帳に金額を書き込むだけで預金を創造できる」と説明されることがある。この説明を万年筆マネー(fountain pen money)という。ジェームズ・トービンという経済学者が言い始めた言葉である。
Aさんという人が民間銀行から住宅購入資金の融資を受けるとき、民間銀行はAさんの銀行口座の預金残高の数字を書き足すことで融資する(信用創造)。
Aさんは預金残高を減らし、住宅販売会社の預金残高を増やして、そうやって銀行振り込みで支払いを済ませて住宅を購入する。住宅販売会社がAさんと同じ銀行に口座を持っている場合、民間銀行は手持ちの現金を一切減らさずに済ますことができる。
Aさんは数十年かけて銀行にお金を貢ぐようになり、銀行が創造した銀行預金を後押しする存在になる。
円滑な信用創造を可能にするには、5つの条件がある。
この5条件が揃っていれば、銀行は手持ちの現金の額が少なくても、極めて円滑に、巨額の銀行預金を創造することができる。
3.と4.と5.は、とても達成しやすい。現金を持ち歩いて支払いするよりも銀行振り込みで済ます方が圧倒的にラクである。銀行に口座を開設することは誰でも無料で行うことができる。多額の現金を手元に置いておくのは盗難のリスクが高まって危険なので、ほとんどの人が現金引き出しをできるだけ避けて銀行預金のままにする。3.と4.と5.は、たいしたハードルではない。
※実を言うと、3.と4.と5.は達成しなくてもなんとかなる。そのことは『信用創造の解説(上級者向け)』の項目で解説する。
簡単に達成できないのは、1.と2.である。長年にわたって律儀に銀行へ借金返済し続ける人をきちんと見つけ出すのは、なかなか難しい。ちゃんとした職に就いていて経済力があり、真面目にきちっと銀行へお金を貢ぎ続ける人は、銀行にとって金蔓(かねづる)である。
金蔓(かねづる)が見つかれば信用創造できる。金蔓(かねづる)が見つからなければ信用創造できない。
銀行の信用創造は、金蔓(かねづる)によって支えられているのである。
円滑な信用創造には以上の5条件が必要であることを理解した上で、もういちど信用創造を定義すると、以下のようになる。
銀行預金から大量の現金を引き出す人が滅多に現れないという前提のもと、長期間にわたりお金を貢ぎ続ける金蔓(かねづる)を当てにして、現金をまだ受け取っていないのにもかかわらず銀行が新たな銀行預金を作り出すこと
1万円を預金している預金者を100人抱えるニコニコ銀行があるとする。このとき、ニコニコ銀行の持っている現金の総額は100万円で、預金の総額も100万円である。この、預金者から集めた現金を本源的預金という。
ニコニコ銀行のもとに、ドワンゴ工業という会社が「3,000万円を貸してください。その3,000万円でカドカワ商事から工作機械を買って事業拡大したいんです。カドカワ商事はニコニコ銀行に口座を持っています」と言ってきたので、ニコニコ銀行の営業部は融資を決意し、ドワンゴ工業という会社がニコニコ銀行に開設している口座に、3,000万円の預金額を新たに書き入れた(信用創造)。
融資した翌日にドワンゴ工業の口座からカドカワ商事の口座へ3,000万円の銀行振り込みが行われ、ドワンゴ工業は工作機械を手に入れた。
ニコニコ銀行の預金額は3,100万円になった。(本源的預金の100万円と、カドカワ商事の3,000万円)
ドワンゴ工業は、今後長い間かけて現金3,000万円を返済することになった。ニコニコ銀行にとって、ドワンゴ工業という会社の返済能力が3,000万円分の資産となった。カドカワ商事の銀行預金3,000万円はニコニコ銀行にとっての負債(現金にしてくれと要求されたらそうしなければならない)なので、これで釣り合いがとれている。
ニコニコ銀行は、本源的預金の額100万円を大きく上回る3,000万円をいきなり貸し出している。融資先と、融資先にとっての支払先が、同じニコニコ銀行に口座を持っているので、極めて円滑に銀行預金を作り出した。
手持ちの現金(本源的預金)は、銀行の融資の足かせにならない。つまり、「銀行は貸し出しのための現金を必要としていない」というのが、銀行の業務の実態である。
銀行の貸し出しの上限額は、準備預金制度で定められている。その制限内なら、いくらでも貸し出しできる。
個別の案件においては、借り手の返済能力が融資の上限となる。例えば、年収200万の人が「10億円の家を買うので融資してくれ」と言ってきても、一生かけても返済できないだろうと予測されるので、貸し出しをやめよう、と判断することになる。「金利を付けて返済することができない」と言う人に対しても、銀行が損をすると予測されるので、貸し出しをやめよう、と考えることになる。
日本語の信用創造に相当するのは、英語のcredit creationである。信用創造(credit creation)の際には、借り手の返済能力を信用することが必須となり、信用することでお金が創造される。銀行の業務の実態を示した巧妙な言葉だと言える。
借り手の返済能力が銀行にとっての資産となり、創造した銀行預金は銀行にとっての負債となる。資産と負債がぴったり同額で一致する(実際には、利子を徴収するので、資産の方が少し多い)。
信用創造は借り手の返済能力によって成り立つ。もう少し分かりやすい言い方をすると、信用創造は長期にわたって銀行へ金を貢ぎ続ける金蔓(かねづる)によって成り立つのである。
銀行は準備預金制度によって準備預金(日本なら日銀当座預金)を所有することを義務づけられている。こうした準備預金は貸し出しの原資を確保するためではなく、銀行間の送金や、銀行・政府間の送金などに使われている。
例えば、Aさんがニコニコ銀行の口座からひろゆき銀行の口座に100万円を移動させたとする。このとき、ニコニコ銀行からひろゆき銀行へ銀行間送金を行い、日銀当座預金を100万円分移動させている。
Aさんがニコニコ銀行の口座から100万円を納税するとする。このとき、ニコニコ銀行から政府へ銀行・政府間送金を行い、日銀当座預金を100万円分移動させている。
こうした送金を行うため、銀行は日銀当座預金を持つことになる。
これまで述べてきた信用創造の例え話は、いずれも、「銀行から融資を受ける人と、銀行から融資を受けた人にとっての支払先が、同じ銀行に口座を持っていると、円滑に信用創造が行われる」と説明してきた。
本項目では、銀行から融資を受ける人と、銀行から融資を受けた人にとっての支払先が、異なる銀行に口座を持っているときにも、信用創造が成立することを解説する。
1万円を預金している預金者を100人抱えるニコニコ銀行があるとする。このとき、ニコニコ銀行の持っている現金の総額は100万円で、預金の総額も100万円である。この、預金者から集めた現金を本源的預金という。
ニコニコ銀行のもとに、ドワンゴ工業という会社が「3,000万円を貸してください。その3,000万円でカドカワ商事から工作機械を買って事業拡大したいんです。カドカワ商事はひろゆき銀行に口座を持っています」と言ってきた。
ニコニコ銀行の営業部がカドカワ商事に電話を掛けて「ウチに口座を開設しませんか」と誘っても「弊社はひろゆき銀行にお金をまとめたいのです」と言う。ニコニコ銀行の営業部は渋い顔をした。
ニコニコ銀行が銀行間取引市場の金利を調べると、2%で日銀当座預金を借用できることが分かった。このため、2%よりも高い金利をドワンゴ工業に課せば、ちゃんと利益が出ることが分かった。
ニコニコ銀行の営業部はドワンゴ工業に対し「金利8%で融資します。それでよろしいですか」と持ちかけ、ドワンゴ工業は「はい、その金利で結構です」と答えた。これで交渉成立である。
ニコニコ銀行は、ドワンゴ工業がニコニコ銀行に開設している口座に、3,000万円の預金額を新たに書き入れた(信用創造)。
それと同時に、ニコニコ銀行は銀行間取引市場でカワカミ銀行から2%の金利で日銀当座預金3,000万円を借り入れ、ニコニコ銀行の日銀当座預金は3,000万円になった。
融資した翌日にドワンゴ工業のニコニコ銀行口座から、カドカワ商事のひろゆき銀行口座へ3,000万円の銀行振り込みが行われ、ドワンゴ工業は工作機械を手に入れた。それに合わせて、ニコニコ銀行とひろゆき銀行の間で送金が行われ、ニコニコ銀行の日銀当座預金は0万円になり、ひろゆき銀行の日銀当座預金は3,000万円増えた。
ニコニコ銀行の預金額は100万円のままである。(本源的預金の100万円)
ドワンゴ工業は、今後長い間かけて現金3,000万円を返済することになった。ニコニコ銀行にとって、ドワンゴ工業という会社の返済能力が3,000万円分の資産となった。ニコニコ銀行がカワカミ銀行から借りている日銀当座預金3,000万円分がニコニコ銀行にとっての負債なので、これで釣り合いがとれている。
この例え話を読むと分かるように、信用創造したばかりの銀行預金を他の銀行へ振り込まれても、特に問題がない。銀行間取引市場で日銀当座預金を借りて、その日銀当座預金を送金すればいい。
借り手に対して、銀行間取引市場で借りる金利よりも高い金利で貸し付ければ、ちゃんと利益が出る。このことを業界用語で「きちんと利ざやを稼げている」と表現する。貸し付けの金利と、銀行間取引市場で借りた時の金利との差額を利ざやと言う。
したがって、信用創造をさらに詳しく上級者向けに定義すると、以下のようになる。
銀行間取引市場よりも高めの金利を付けて返済してくれる金蔓(かねづる)を当てにして、現金をまだ受け取っていないのにもかかわらず銀行が新たな銀行預金を作り出すこと
銀行間取引市場よりも高めの金利を返済者が負担してくれるのなら、信用創造した銀行預金を他の銀行に振り込まれても大丈夫だし、信用創造した銀行預金を現金にされても困らない。
※ここまでの記述の資料・・・横山昭雄『真説 経済・金融の仕組み』87ページ、建部正義『はじめて学ぶ金融論 第2版』53ページ、ランダル・レイ『MMT現代貨幣理論入門』185~192ページ。一番詳しく解説しているのはランダル・レイの本。
『信用創造の解説 (入門者向け)』では、信用創造した銀行預金が同一の銀行内で滞留することを想定して説明している。実際にそうなることは珍しくなく、住宅販売会社の従業員全員が住宅販売会社と同じ銀行に口座を持っていたら、会社が従業員に給料支払いしても信用創造した銀行預金が同一銀行内に滞留し続けるわけである。
入門者向けの説明の中で、さりげなく、日銀当座預金や銀行間送金のことを教え込んでおく。それが、次の上級者向け解説で役に立つ。
『信用創造の解説 (上級者向け)』では、さらに世界を拡張して、信用創造した銀行預金が銀行の外へ流出することを想定して説明している。この解説を理解するには日銀当座預金や銀行間送金のことを知っておかねばならない。いきなり上級者向け解説をするのは、初心者にとって難しいと思われる。
銀行が貸し出して信用創造することで、世の中全体の銀行預金の総量が純粋に増加する。
銀行から融資を受けた人が返済をすると、世の中全体の銀行預金の総量が純粋に減少する。
このことを理解するために、次の例え話を読んでみよう。
ニコニコ銀行のもとに、ドワンゴ工業という会社が「3,000万円を貸してください。その3,000万円でカドカワ商事から工作機械を買って事業拡大したいんです」と言ってきたので、ニコニコ銀行はドワンゴ工業に3,000万円を融資した。その瞬間、信用創造が行われたので、世の中全体の銀行預金の総量が3,000万円増えた。
融資を受けたドワンゴ工業は、3,000万円をカドカワ商事の口座へ振り込み、工作機械を購入した。この行為を経ても、世の中全体の銀行預金の総量は全く変化していない。
ドワンゴ工業は生産に励み、色んな企業に向けて自社の商品を販売し、1億円を売り上げ、販売先の各企業から合計1億円の銀行振り込みを受け、銀行預金を1億円増やした。この行為を経ても、世の中全体の銀行預金の総量は全く変化していない。
ドワンゴ工業はニコニコ銀行へ3,000万円の返済を2回に分けて行うことにした。
1回目の返済でドワンゴ工業は1,500万円を返済した。その際、ニコニコ銀行は、ドワンゴ工業の口座の数字を書き換え、預金額を1,500万円分減らした。この瞬間、世の中全体の銀行預金の総量が1,500万円減った。
2回目の返済でドワンゴ工業は1,500万円を返済した。その際、ニコニコ銀行は、ドワンゴ工業の口座の数字を書き換え、預金額を1,500万円分減らした。この瞬間、世の中全体の銀行預金の総量が1,500万円減り、この話の冒頭の時点にまで逆戻りした。
「この世の全ての債務者が借金を全て返すと、世の中の銀行預金がなくなってしまう」と言う人がいるが、それは以上の例え話を読むとだいたい理解できる。銀行が融資をした直後は、世の中の銀行預金の総量がドーンと増える。債務者が銀行に返済をするたびに世の中の銀行預金の総量がじわじわと減っていき、債務者が完済すると、銀行が信用創造した分の銀行預金が完全に消えてしまう。
欧州中央銀行(ECB)はこのページで「銀行預金は貸付をするたびに発生する。貸付に対する返済が全て行われて借金完済となると、銀行預金はゼロに戻る」と書いているし、中野剛志はこの本の98ページで「貸出しによって、預金という貨幣が創造されるのです。そして、借り手が債務を銀行に返済すると、預金通貨は消滅するのです」と書いている。それらの文章をさらに分かりやすくしたのが、この項目である。
日本国内の民間銀行は、信用創造で自分の銀行の預金額を増やしている。貸し付けるたびにどんどん預金額が増えていく。
ところが、預金を無限に増やすことは許されていない。すべての民間銀行が貸付金額を増やしすぎると、世の中に出回るお金の量(マネーストック)が増えることになり、激しいインフレを招くことが危惧されるからである。
信用創造を制限するために用意されているのが、準備預金制度である。詳細は、当該記事を参照のこと。
信用創造を廃止することは可能である。既存の法規制の範囲内でそれを実現できるし、2020年現在の時点で検討されている貨幣制度を使ってもそれを実現できる。
世界各国には準備預金制度というものがあり、その制度で銀行の信用創造を制限している。
「銀行の準備率を100%にする」と布告するだけで、銀行の信用創造を全て禁止することができる。準備率100%の銀行は、発行する銀行預金と全く同額の日銀当座預金を常に用意しなければならない。銀行が1億円の貸し出しをするときには、貸し出しする前に1億円の日銀当座預金をどこかから借りる必要がある。
準備率100%の銀行は信用創造が全くできなくなり、現金をどこかから借りてから又貸しするサラ金・街金と同程度の存在になる。
2020年1月現在、世界各国の中央銀行が中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)を研究している。
中でも熱心なのが中国で、デジタル人民元の導入を検討している。
日本銀行も中央銀行デジタル通貨(CBDC)の研究を進めており、「日銀当座預金を一般人も使えるようにすることで、中央銀行デジタル通貨を導入することになる」などと論じていると報じられている。
こうした中央銀行デジタル通貨(CBDC)の特徴は、民間銀行が信用創造することができない、という点である。中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行できるのは中央銀行ただ1つのみであり、民間銀行が信用創造で増殖させることが不可能である。
日銀当座預金というのも、日本銀行が発行する負債であって、それ以外の銀行は一切発行できず、増殖させることができない。
中央銀行デジタル通貨(CBDC)が経済の主流になると、銀行は信用創造が全くできなくなり、現金をどこかから借りてから又貸しするサラ金・街金と同程度の存在になる。
※この項の資料・・・記事1、記事2、記事3
日本の新聞やテレビ局や官公庁などでは、銀行の業務の実態に反した表現をするケースがしばしば見受けられる。
下線を引いた部分が、間違っている部分となる。銀行は集めた現金を貸し出しているのではないし、日銀当座預金を現金に換えてその現金を民間の企業・家計に貸し出しているわけでもない。
銀行の貸し出しは信用創造で、現金を必要とせず、預金の数字を書き換えるだけでポンポンと貸し出している。政府によって定められた準備預金制度をクリアするために、ある程度の現金を日銀に預け入れて、日銀当座預金として確保しているだけである。
イングランド銀行(イギリスの中央銀行)は、季刊誌(2014年春号)で、次のように解説している。
One common misconception is that banks act simply as intermediaries, lending out the
deposits that savers place with them.
これを日本語訳すると「『銀行はお金の仲介者で、預金者が預けたお金を貸し出している』というのはありがちな誤解(common misconception)である」となる。
グレゴリー・マンキューという人は著名な経済学者で、マクロ経済の教科書を書いたら大ヒットしたことで知られる。マンキューの教科書は世界中の経済学部で使用されているというが、そのマンキュー教科書で信用創造が解説されている。
Aさんが第一銀行に1000ドルを預けた。このときの第一銀行の資産は現金1000ドル、負債は銀行預金1000ドルである。(銀行預金は銀行にとっての負債、Aさんにとっての資産である)。
第一銀行は準備・預金比率20%として貸し出しすることに決めた。第一銀行はBさんに対して現金800ドルを貸し出して200ドルは銀行の金庫に残した。Bさんは現金800ドルを手にしたので、これで世の中に流通する貨幣(マネーストック)は800ドル増えたことになる。このように、銀行の貸し出しによって世の中に流通する貨幣が増えることを信用創造という。
Bさんは、借りた現金800ドルをCさんに支払い、Cさんから財・サービスの提供を受けた。Cさんは第二銀行に現金800ドルを預金した。このときの第二銀行の資産は現金800ドル、負債は銀行預金800ドルである。
第二銀行は準備・預金比率20%として貸し出しすることに決めた。第二銀行はDさんに対して現金640ドルを貸し出して160ドルは銀行の金庫に残した。Dさんは現金640ドルを手にしたので、これで世の中に流通する貨幣(マネーストック)はさらに640ドル増えたことになる。これが信用創造である。
Dさんは、借りた現金640ドルをEさんに支払い、Eさんから財・サービスの提供を受けた。Eさんは第三銀行に現金640ドルを預金した。このときの第三銀行の資産は現金640ドル、負債は銀行預金640ドルである。
第三銀行は準備・預金比率20%として貸し出しすることに決めた。第三銀行はFさんに対して現金512ドルを貸し出して128ドルは銀行の金庫に残した。Fさんは現金512ドルを手にしたので、これで世の中に流通する貨幣(マネーストック)はさらに512ドル増えたことになる。このように、信用創造は無限に続いていく。
グレゴリー・マンキュー『マンキューマクロ経済学Ⅱ応用篇【第3版】235~237ページ
グレゴリー・マンキューの頭の中では「銀行は、預金者から預かった現金を貸し出す」ということになっているようで、そのため、こういう説明になっている。
こういう説明方法を又貸し説明とか又貸しモデルによる説明という。又貸しとは、現金を借りたうえでその現金をさらに貸し出すこと。
第一銀行は準備・預金比率20%で現金を1000ドル持っているのだから、預金額を最大で5000ドルまで膨らますことができる(1000÷0.2=5000。この計算については準備預金制度の記事を参照のこと)。Aさんの銀行預金は1000ドルなので、この時点でのBさんに対する最大貸付額は4000ドルとなる(5000-1000=4000)。第一銀行はBさんに対して800ドルだけしか貸していないが、もっと多く貸すことができる。しかし、グレゴリー・マンキューは「銀行は手持ちの現金の一部しか貸すことができない」と思っているようで、「第一銀行はBさんに対して4000ドル貸すことができる」という発想ができないらしい。
グレゴリー・マンキューは大変に権威のある経済学者である。その経済学者さんの言うことを軽々しく否定するのは気が引けるのだが、やはり、言わなければならない。「グレゴリー・マンキューの信用創造の説明は、現実の銀行の業務を反映していない」と勇気を持って断言する必要がある。
イングランド銀行というのはイギリスの中央銀行で、グレゴリー・マンキューに引けを取らないほど権威のある存在である。そのイングランド銀行が「銀行は、預金者から預かった現金を貸し出しているのではない」と言っているのだから、そっちを引用してグレゴリー・マンキューに対抗しなければならない。
信用創造は国会においてもしばしば話題になる。
2019年4月4日の参議院決算委員会において、西田昌司参議院議員が、日本銀行の黒田東彦総裁に対して質問し、黒田総裁は「銀行預金は、企業や家計の資金需要を受けて銀行などが貸し出しなどの与信行動、信用を与える行動、すなわち信用創造を行うことにより増加することになるということで、この点も委員御指摘のとおりであります」と答弁している。西田議員の質問のシーンはこちら、黒田総裁の答弁のシーンはこちら。
2019年5月23日の参議院財政金融委員会において、西田昌司参議院議員が、日本銀行の雨宮正佳副総裁に対して質問し、雨宮副総裁は「決済性預金口座というものを提供している銀行だけが、その与信行動により、自ら貸し出しと預金を同時に作り出すことができるわけであります。私が例えばノンバンクに行って金を借りるときには、ノンバンクはどちらかで調達してその金を私に貸してくれるわけですけれども、銀行は私に金を貸すときには、私の預金口座に記帳すると、で、後から預金が発生するという格好になります。これを信用創造と言っておるわけでありますけれども、この点で銀行はノンバンクなど他の金融機関とは異なる機能を持っているというふうに理解しております」と答弁している。雨宮副総裁の答弁のシーンはこちら。
こうした国会議事録のPDFファイルは、このページの「簡単検索」で検索するとすぐに見つかる。
| 96~109ページに信用創造についての文章がある。イングランド銀行季刊誌2014年春号を引用して信用創造を解説している。 | |
| 現代貨幣理論(MMT)の第一人者が書いた本。185~192ページに、銀行の信用創造についての解説がある。 | |
| 筆者は日銀に長く勤めた人。 信用創造がすべての発端であり、本源的預金というのは存在しない、という考え方を80~86ページで論じている。 「マネタリーベースが増えるとマネーストックが増える」という考え方とそれに基づく量的緩和を何度も批判している。この考え方を外生的貨幣供給理論(外生説)という。 「マネーストックが増えると、それに応じて中央銀行がマネタリーベースを新規発行して増やすのである」と論じている。この考え方を内生的貨幣供給理論(内生説)という。 デフレはグローバリズムと自由貿易による労働分配率低下・賃金低下が原因である、と26ページや31~34ページや45ページで論じている。この考え方を輸入デフレ論という。 文体がやや読みにくいのが難点だろうか。体言止めの文章が多く、「金融をよく知っている人が気ままに書いた随筆」といった感じの文章になっている。ただ、内容自体は明晰であり、経済の基礎用語をある程度頭に入れてから読むと、すらすら読める。 福井俊彦第29代日銀総裁が推薦文を書いている。 |
|
| 筆者は商学博士号を取得し、商学部教授を長年勤めた人。 金融業界への就職を目指している商学部の学生用の教科書として本書は執筆された。 「銀行を金融仲介機関として位置づけるのは正しくない」「銀行の信用創造から全てが始まる」と27~31ページで述べており、イングランド銀行季刊誌2014年春号と軌を一にしている。 47ページで「本源的預金というのはどこから来るのか?」と述べ、本源的預金が必要とされる考え方(グレゴリー・マンキューの教科書のような又貸し説明)に疑義を呈している。 「マネタリーベースが増えるとマネーストックが増える」という外生説の考え方とそれに基づく量的緩和を122~129ページで批判している。 大学教授というのは研究者であると同時に教育者であることを求められる。そのためか、本書は読みやすい文体で書かれている。 各章の最初に、筆者の教え子が書いたイラストが載っている。どういうイラストかというと、ほのぼの4コマ漫画系とでも言えばいいだろうか。金融業界の仕組みについて解説するというカチカチにお堅いテーマの書にかわいいイラストが入っていて笑ってしまう。 |
急上昇ワード改
最終更新:2025/12/12(金) 17:00
最終更新:2025/12/12(金) 17:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。