Modern Monetary Theory(MMT)とは、日本語で現代貨幣理論と訳される理論である。
大手メディアでは現代金融理論と表記されることも多いが、一部から誤訳とされ批判されている。
現代貨幣理論は、通貨の本質を説明しつつ政府の経済政策を論ずるマクロ経済理論である。2020年現在における主流派経済学(新古典派経済学)のうまく説明できないことを難解な理論や数式を多用せずに説明できるため、近年話題になっている。
採用している貨幣論は、信用貨幣論と、国定信用貨幣論(租税貨幣論)である。
巷で話題になってる点は大まかに言うと、
という7点である。
このうち、1.から5.まではMMT独特の考え方といってよい。6.と7.はMMTを支持していない人にも同調される考え方である。
等を予測した実績がある。これらはいずれも主流派経済学では説明ができなかったことである。
また、現代貨幣理論が推奨している政策は
といったものがあり、経済(景気、物価、金融)の安定を重視している。
ロイターやWSJ等の海外メディアがMMTに関する日本語記事を掲載した後、日経新聞やNHKや朝日新聞などがMMTに関して批判的に取り上げている。日本の財務省はMMTを批判する論者の声を収集し、資料にまとめて、MMT反対の姿勢を鮮明にした。
MMTは国定信用貨幣論(租税貨幣論)を採用している。
国定信用貨幣論とは、「通貨は、政府の徴税権の対象物である」という考え方であり、「政府は、徴税権力によって好きなように通貨を作り出すことができる」という考えを導き、政府の通貨発行権を強く認めるものである。
西村博之は「財政が税収に束縛されないなら無税国家も可能、MMT論者を応援して無税国家をめざしましょう」と主張していたが(記事)、MMTは国定信用貨幣論を軸とするため、徴税を重視し、無税国家は不可能であると説明する。
国定信用貨幣論は政府の通貨発行権をはっきりと認める考えであり、政府紙幣の発行を認めるものである。
政府紙幣を通貨に採用したときの経済運営は、次のようになる。
政府は政府紙幣を発行しながら、必要なだけ支出することができる。何よりもまず政府支出が先行することをスペンディングファースト(Spending First)という。政府紙幣を民間にばらまきすぎると金余りになって金利が下がりすぎてしまうので、金余りを抑えて金利を上げるために国債を発行して国債市場に売り飛ばす。国債とは、政府紙幣を回収するための掃除機であり、財源獲得のための手段ではない。
MMTの提唱者の経済学者は、政府紙幣を理想視しているのか、政府紙幣を使った経済運営と酷似したことを主張している。
政府は中央銀行と統合政府を形成している。統合政府はキーストロークで通貨を発行しながら、必要なだけ支出することができる。何よりもまず政府支出が先行することをスペンディングファースト(Spending First)という。通貨を民間にばらまきすぎると金余りになって金利が下がりすぎてしまうので、金余りを抑えて金利を上げるために国債を発行して国債市場に売り飛ばす。国債とは、通貨を回収するための掃除機であり、財源獲得のための手段ではない。
以上のことをL・ランダル・レイやステファニー・ケルトンが主張している[1]。彼らは「政府と中央銀行は統合政府を形成していて、政府支出の際は統合政府が即座に通貨発行する」という言い回しが大好きである。
2020年現在のアメリカ合衆国も、日本も、政府紙幣ではなく、中央銀行が発行する不換銀行券を通貨に採用している。そのため、政府はまず最初に国債を売却して不換銀行券を獲得しなければならず、スペンディングファーストは不可能なのだが、MMT支持者たちはそういう現実を無視し、あくまで政府紙幣風の「統合政府による通貨発行」という考え方にこだわる傾向がある。
「国債売却がファーストで、政府支出がセカンドだ」というと、MMTの支持者は手厳しく批判してくる[2]。
不換銀行券を使っているという現実に適応しようとする姿勢がやや薄いところが、MMT支持者たちの欠点といえるだろう。
MMTにおいては、自国通貨建て国債で財政破綻した国家はない点と、財政破綻した国家は共通通貨建て国債か外貨建て国債を発行して償還できなかったという点と、自国通貨建て国債は中央銀行に買い取らせることができる点を強調する。
そのため、政府が自国通貨建て国債を発行して国債発行額を増やすことは何ら問題が無いとし、税収を上回る政府支出をしてもよいのだ、と主張することになる。
国債発行における制約はインフレ率で、財政出動をして政府がモノやサービスの需要を作った場合に上昇するインフレ率を2~3%程度にまで抑えねばならない、と論ずる。
従って、自国通貨建て国債発行に際して、金額について考えるのが無駄であり、インフレ率についてのみ考えればよい、と論ずる。自国通貨建て国債の発行額をひたすら気にして、自国通貨建て国債の発行を抑制しようとする心理的傾向を国債恐怖症というのだが、MMTは国債恐怖症とは全く正反対の考え方をする。
MMTにおいて頻繁に論じられるのが「政府の赤字は民間の黒字、政府の黒字は民間の赤字」という点である。民間に黒字をもたらしたいのなら、政府は積極的に国債を発行し、赤字支出をしなければならない、と主張する。
デフレ時に政府の国債発行額を減らすこと、すなわちプライマリーバランスの黒字化追求をすると、政府以外の経済主体、すなわち民間の黒字を減らすことになり、デフレが深刻化する。このことを体現したのが、1997年にデフレに突入した後の日本だとされる。
実際の世界各国は、海外との貿易を行っている。このため経常収支のことも考えなければならない。MMTはゴッドリーの恒等式を使って経済を論じることが多い。
MMTは、民間部門の黒字を目指すことを非常に重視しており、民間部門が赤字になってバブル経済となることをなんとしても避けるべきだと論ずる。1990年の日本のバブル崩壊も、2001年のITバブル崩壊も、2007年のサブプライムローン問題や2008年リーマンショックも、すべて民間部門が赤字になったから発生したと指摘している。
就業保証プログラム(Job Guarantee Program JGP)とは、後述する通り米国のMMT支持者から主張されている政策の1つである。「最後の雇い手」と表現されることもある。
おおまかに説明すると、政府が全国民に対し、生活できる程度の給与で無制限に仕事を供給するというものである。
政府が、ある程度の待遇で労働者を集めるから、ブラック企業においてJGP以下の待遇で働いている労働者はブラック企業から離れ、ブラック企業が淘汰されるであろう。逆に好景気になれば民間企業の待遇はJGPより良くなるので、民間企業の求人に対する供給制約にもならないだろうという政策である。
ブラック企業を撲滅し、労働者を保護する政策といえる。
MMTは国定信用貨幣論(租税貨幣論)を軸としており、政府が通貨発行権を行使して予算を組むことを容認している。そして、租税というのはインフレを抑制するために行っている、と論じている。これを機能的財政論という。
その考え方をさらに進めて、財源を確保するために税金を国民へ課しているのではなく、国民の好ましくない行動に罰を与えて国民の行動を誘導するために税金を国民へ課しているのだ、と主張する。これは「税金は罰金」の考え方という。
2020年現在において、「税金は国家を建設する資金」ととらえ、「税金を払うことは国家の建設に手を貸す行動で、とても名誉な行動」と賛美し、「税金を納めることで、国政に発言する権利を受けるのだ」という考え方をする人がしばしば見受けられる。そういう考え方は、高額納税者が低額納税者に対して威圧的な態度を取ることを容認して社会の分断を生んでしまうし、制限選挙(納税額の多寡で選挙権を決める選挙)や格差社会に直結するのである。
MMTの機能的財政論は、「税金は罰金」「税金を払うことは、政府の理想視する行動から少し離れている行動をした証拠で、あまり偉くない行動」と考える傾向にある。また、納税できない経済的弱者にも選挙権を認める普通選挙をもたらす考え方である。
このように、MMTの機能的財政論は、人々の抱く国家観にも大きな影響を与えるものである。
信用創造を「返済能力があると信用した相手に対し、銀行が無から銀行預金を生み出して、銀行預金を貸し付ける行動」と考えるのは、銀行関係者の間において常識となっている。
MMTは、銀行関係者の常識をそのまま引き継いでいる。
「銀行の信用創造によってマネーストックが増えていく。マネーストックの増加に伴い、マネタリーベースが必要とされるようになるので、中央銀行がマネタリーベースを発行して増やしていく。つまり、マネーストックの増加がマネタリーベースの増加を引き起こす」という考え方がある。この考え方を内生的貨幣供給理論という。
MMTは、内生的貨幣供給理論を支持している。
内生的貨幣供給理論の詳細については、マネタリーベースの記事や買いオペレーションの記事も参照されたい。
内生的貨幣供給理論の反対概念は、外生的貨幣供給理論という。「中央銀行の量的緩和でマネタリーベースを増やせば、マネーストックの増加をもたらす」という考え方である。
MMTは、「負債」「債務」という会計学の用語について、既存の定義からかなり離れた独特な定義を与えている。
MMTは、「通貨とは、政府の徴税債権を消滅させるものである。ゆえに通貨は、政府にとって負債である」という表現をする[3]。
これは要するに、「通貨は政府の債権の対象物なので、政府にとって負債である」というわけであり、「債権対象物は、債権者にとって負債である」と言い換えているのである。
こういう言い方は、あまり一般的ではなく、MMT独自の言葉遣いである。
MMTの言い方を真似ると、次のようになるのだが、
この紫枠で囲った文章は、簿記に通じた人を混乱させるものだろう。
2016年のアメリカ合衆国大統領選挙に向けたアメリカ民主党の予備選挙を戦ったバーニー・サンダース上院議員は、予備選挙後にステファニー・ケルトンを自身の顧問として迎え入れた。ケルトンは経済学者で、MMTの主唱者の一人である。
アメリカ民主党では、この予備選挙後にサンダース派とも言える急進左派候補が増加傾向にあり、その代表的存在がAOCのニックネームで親しまれるアレクサンドリア・オカシオ・コルテスである。彼女は下院選の党内予備選挙でベテラン議員に勝利し、ニューヨーク市内の選挙区から29歳で下院議員に当選した。これだけならただの若い女性議員だが、過激ともいえる経済政策を提案して注目されたのだ。
AOCはグリーン・ニューディールと呼ばれる政策を発表した。環境対策に投資するだけでなくインフラ投資により全国民に雇用を保障する政策である。このうち全国民に雇用を保障する政策は就業保証プログラム(Job Guarantee Program、JGP)と呼ばれ、MMTを唱える学者のほとんどが提案する政策であることに留意したい。
このグリーン・ニューディールにかかる費用をどう賄うかというところで、AOCがMMTを支持したことから、米国では議会やFRBを巻き込んだ一大論争となったのだ。米国ではしばしば財政赤字が問題視されていて、政府には債務上限が課せられており、この額を超える政府財政赤字を抱える場合、議会で法案を通さなければいけない。これを財政の崖という。AOCは、MMTを支持しつつ、「財政の崖など関係ない」という強硬な姿勢を見せた。
このように米国では左派・リベラルの側から主張されているのが現状である。
2017年1月にアメリカ合衆国大統領へ就任したドナルド・トランプは、超大量に国債を発行しつつ、軍備拡張とインフラ建設へ政府支出を大量に注ぎ込み、MMTの体現者と評されるほどの行動をとった。積極財政を敢行しながらもインフレ率は2%台と堅調である(資料)。ドナルド・トランプは、共和党の大統領にしては異色の存在で、労働者保護や雇用創出を重視するなど左派寄りの姿勢を見せている。
学術面ではポストケインジアンの先生方によって既に紹介されていたが、政治から見たときに日本でのMMTは右派により主張されたのが最初であろう。
保守系の論客であり経済左派でもある中野剛志は『富国と強兵』においてMMTを取り上げ、2019年5月には一般向けのMMT解説本を出版し、さらにはネット上でいくつかの記事を著述した。京都大学の藤井聡や経済評論家の三橋貴明も好意的に取り上げている他、立命館大学の松尾匡も一定の理解を示している。
この藤井聡と国会議員の安藤裕、西田昌司の根拠地が京都であることからか、彼らを中心とした日本のMMT支持派の一派は、財務省がそう呼んだことから京都学派と呼ばれる場合がある。実態としては西部邁の雑誌『表現者』関係者を中心としている。
2020年現在、国会でMMTに一定の理解を示す議員は、西田昌司(自民党)、安藤裕(自民党)、山本太郎(れいわ新選組)、そして大門実紀史(共産党)が挙げられる。そのうち、西田昌司と大門実紀史は国会の質疑で肯定的に取り上げている。偶然にも全員が関西にゆかりのある人物で、うち山本太郎以外は京都が選挙区に含まれる人物である。
2020年現在の日本政治において、MMTは主に右派のうち経済左派(いわゆる財政出動派。リフレ派は含まない)により支持されるのが中心になっている。しかし、ごく一部ながら左派からも支持する勢力が現れている。
現代貨幣理論に影響を与えた学者たちの一覧は、次のようになる。生年月日順に並べた。
名前 | 風貌 | Wikipedia | 国籍 | 備考 |
ゲオルク・フリードリヒ・クナップ | ○ | ◇ | 国定信用貨幣論を提唱 | |
アルフレッド・ミッチェル=イネス | ○ | ◇ | 信用貨幣論を提唱 | |
ジョン・メイナード・ケインズ | ○ | ◇ | ||
アバ・ラーナー | ○ | ◇ | 機能的財政論を提唱 | |
ハイマン・ミンスキー | ○ | ◇ | 経済・金融の不確実性を論じた | |
ワイン・ゴッドリー | ○ | ◇ | ゴッドリーの恒等式を提唱 | |
ウォーレン・モズラー | ○ | ◇ | モズラーの名刺説を語った | |
ビル・ミッチェル | ○ | ◇ | ||
L・ランダル・レイ | ○ | ◇ | ||
ステファニー・ケルトン | ○ | ◇ |
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最終更新:2024/11/26(火) 09:00
最終更新:2024/11/26(火) 08:00
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