変動相場制とは、正確には変動為替相場制度というもので、外国為替相場に関する制度の1つである。フロート制とも呼ばれる。
特定の外国通貨と自国通貨の名目為替レートの変動幅を抑制せず、名目為替レートの変動を市場原理に任せる制度を変動相場制という。
英語を交えた表現だとフロート制になる。フロート(float)とは木片や浮き輪のような軽いものが水の上に浮かぶ様子を示す言葉である。
変動相場制には2種類があり、そのうち1つは政府や中央銀行の為替介入がまったく行われないもので、自由変動相場制とか完全変動相場制という。英語で言うとフリー・フロート(free float)とかクリーン・フロート(clean float)となり、英語混じりの表現だと自由フロート制とか完全フロート制とか純粋フロート制となる。
「自由変動相場制(完全変動相場制)を実際に採用している国はほとんど存在しない」といわれることがある[1]。
変動相場制には2種類があり、そのうち1つは政府や中央銀行の為替介入がたまに行われるもので、管理変動相場制という。英語で言うとマネージド・フロート(managed float)となり、英語混じりの表現だと管理フロート制となる。
ダーティー・フロート(dirty float 汚らしいフロート)と呼ぶこともあるが、政府や中央銀行に対する否定的感情がにじみ出た表現である。
政府が「自国通貨が安すぎる」と思ったら中央銀行が自国通貨買い・外国通貨売りの為替介入をしてマネーサプライMと外貨準備高を減らしつつ自国通貨を押し上げる。日本なら円買いドル売りの為替介入をして円高ドル安に導く。
政府が「自国通貨が高すぎる」と思ったら中央銀行が自国通貨売り・外国通貨買いの為替介入をしてマネーサプライMと外貨準備高を増やしつつ自国通貨を押し下げる。日本なら円売りドル買いの為替介入をして円安ドル高に導く。
そうした為替介入をたまに行うのが管理変動相場制である。
固定相場制や中間的為替相場制は、特定の外国通貨と自国通貨の名目為替レートの基準値を発表し、そこからの変動を抑制するという制度である。
変動相場制の管理変動相場制は、特定の外国通貨と自国通貨の名目為替レートの基準値を発表せずに秘密にしたまま政府と中央銀行がときおり為替介入するものである。
日本が変動相場制に移行したのは1973年2月14日のことだが、それ以来ずっと管理変動相場制を採用している。維持すべき為替レートの幅について特に宣言しないが、「急激な為替変動には対応する」としばしば財務大臣が発言していて、実際に急激な為替変動が起こったときには為替介入をする。
国際金融のトリレンマに従うと、変動相場制を採用する国は1種類だけになる。すなわち大国開放経済の国である。
ただし経済学では、国際金融のトリレンマで発生する3種類の国家だけではなく、変動相場制を採用する小国開放経済の国も分析対象にすることが多い。
大国開放経済の国と「変動相場制を採用する小国開放経済の国」の共通点というと、貿易や国際的資本移動の自由を追求し、自由貿易を重視するところである。
米ドル(アメリカ合衆国ドル)が国際貿易の決済に使われる基軸通貨として唯一の存在であると仮定する。
変動相場制を採用したうえで輸出を拡大すると、米ドルを稼ぐ人が増えるので外国為替市場で米ドルを日本円に両替する人が増え、円買いドル売りが強まり、円高ドル安になり、名目為替レートが下落し、短期において価格が硬直的なので実質為替レートが下落し、輸出しにくくなる。つまり、輸出すればするほど輸出しにくくなる。
変動相場制を採用したうえで輸入を拡大すると、輸入の支払いのため米ドルを欲しがる人が増えるので外国為替市場で日本円を米ドルに両替する人が増え、円売りドル買いが強まり、円安ドル高になり、名目為替レートが上昇し、短期において価格が硬直的なので実質為替レートが上昇し、輸入しにくい状況になっていく。輸入すればするほど輸入しにくくなる。
これを変動相場制の自動調整メカニズムという。
インフレ抑制のためには輸入を続けて国内のモノを増やすことが選択肢の1つだが、変動相場制ではその選択肢を継続的に採用できない。デフレ脱却のためには輸出を続けて国内のモノを減らすことが選択肢の1つだが、変動相場制ではその選択肢を継続的に採用できない。
ちなみに、一切の貿易をせず一国だけの閉鎖経済だけで完結する国があり、完全な閉鎖経済の国と呼ぶことができる。そういう国は「インフレ抑制のための輸入」という選択肢を採用できないし、「デフレ脱却のための輸出拡大」という選択肢を採用できない。とても意外なことだが、一切の国際貿易をしない閉鎖経済の国と変動相場制を採用した開放経済の国は似ているところがある。
両者を比較して表にまとめると次のようになる。
| 完全な閉鎖経済の国 | 貿易や国際的資本移動の自由を追求していて変動相場制を採用する国 | |
| 輸入を続けて国内のモノを増やしてインフレ抑制する方法 | 一切採用できない | 継続力が弱い |
| 輸出を続けて国内のモノを減らしてデフレから脱却する方法 | 一切採用できない | 継続力が弱い |
長所は、政府や中央銀行が日常的に為替介入をする業務から開放され、政府が外貨準備高の増減に対して神経をすり減らす必要が無くなるというものである。
1950年代から1960年代前半の日本は固定相場制を採用していたが、外貨準備高が少なかった。好景気になって投資が増えて輸入が増えると円安ドル高の方向に力が働くのでそれを防ぐため円買いドル売りの為替介入をしていたが、そうしているうちに外貨準備高が底を付きそうになることがあった。そのたびに日銀が利上げをして好景気を無理矢理に終わらせて、投資を減らして輸入の増加を食い止めていた。これを国際収支の天井といった。変動相場制を採用すると、こういう胃が痛むような苦労から解放される。
1940年代から1960年代の日本は固定相場制を採用していたが、外貨準備高が少なかった。このため日本政府は、アメリカ合衆国のガリオア資金とエロア資金から米ドルを借り入れたし、アメリカ合衆国が多額の出資をする世界銀行から米ドルを借り入れた。こうした米ドルの借り入れは債務不履行(デフォルト)の可能性がある危険な債務であった。変動相場制を採用すると、こういう苦労から解放される。
変動相場制を採用するのなら、政府や中央銀行は外貨準備高を全く持たなくても国家を運営できるようになる。
変動相場制を採用すると名目為替レートが変動し、物価が硬直的な短期において実質為替レートも変動し、輸出の確実性が低くなり、企業が輸出に関する見通しを立てにくくなり、企業が在庫投資や設備投資といった投資を行いにくくなる。企業が設備投資を行わなくなると将来において資本ストックが減り、将来において国家の供給力が減少する。
輸出に備えた設備投資を考えている企業にとって、名目為替レートが下落して(自国通貨高になって)物価が硬直的な短期において実質為替レートが下落して輸出しにくくなることは非常に恐ろしいことである。変動相場制を採用すると名目為替レートの過度の下落を抑制できなくなり(過度の自国通貨高を抑制できなくなり)、物価が硬直的な短期において実質為替レートの過度の下落を抑制できなくなり、企業の設備投資を促進できなくなり、投資を拡大して総需要を拡大して正の需要ショックを引き起こすことが難しくなる。
日本において1990年代に円高ドル安が進行し、企業が国内に工場を建設しなくなり、産業の空洞化と呼ばれる事態になった。
また、変動相場制を採用すると名目為替レートが変動し、物価が硬直的な短期において実質為替レートも変動し、輸入の量が変動して国内の物資の供給が不安定になり、資本の量が減る不利な供給ショックが起こりやすくなる。
輸入をして原材料を調達する企業にとって、名目為替レートが上昇して(自国通貨安になって)物価が硬直的な短期において実質為替レートが上昇して輸入しにくくなることは非常に恐ろしいことである。変動相場制を採用すると名目為替レートの過度の上昇を抑制できなくなり(過度の自国通貨安を抑制できなくなり)、物価が硬直的な短期において実質為替レートの過度の上昇を抑制できなくなり、輸入量が減ることを抑制できなくなり、資本の量が減る不利な供給ショックを抑制することが難しくなる。
日本において2022年のウクライナ戦争以降に円安ドル高が進み、企業の原材料費などが増え、企業の経営が苦しくなる事態になった。
まとめていうと次のようになる。変動相場制を採用すると、投資の拡大を通じて正の需要ショックを起こすことが難しくなり、輸入の固定化を通じて資本の量が減る不利な供給ショックを防止することが難しくなる。
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最終更新:2025/12/13(土) 09:00
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