新進棋士奨励会 単語

シンシンキシショウレイカイ

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新進棋士奨励会とは、日本将棋連盟のプロ将棋棋士養成機関である。通称「奨励会」
将棋のプロを目指す全国の子どもたちが集い、四段昇段=プロ入りを目指して戦い続ける場所である。

そこがどんなところかは…以下のプロ棋士の言葉から感じ取ってもらえるかもしれない。

Q.「奨励会の三段リーグってどんな感じですか?」

A1.
「対局前に、将棋盤がぐらんぐらん揺れて見えるんです。自分がまっすぐ座れてないんじゃないかって。だから両手を畳について身体を支えるんだけど、それでも盤が揺れて見えるんです。…こんなことは、プロになってから一度もないです」

A2.
「奨励会は首にロープを掛けられた状態で将棋を指す。まともな将棋なんて、指せるわけがない」

(回答は共に、野月浩貴八段)

概要

1935年に発足。将棋連盟の財政事情や昇段への人数調整などで何回かの制度変更を経て、1987年度に現在の『三段リーグを突破した上位2名がプロ棋士になれる』制度の大枠が確立した。

奨励会に入会した子供たちは、原則として6級よりスタートする。奨励会6級でもアマチュア4段(都道府県のアマトップクラスくらい)程度には強い。奨励会に入会出来るだけで「並大抵の才能ではない」とされ、全国の才能たちがプロ棋士を目指してしのぎを削る。

月に2回、関東と関西で行われる「例会」で奨励会員と対局し、規定の成績を収めると昇級・昇段する。逆に悪い成績を取り続けると降級・降段もある。二段までは関東・関西の奨励会員同士で対局が組まれるが、三段までたどり着くと関東・関西の三段を合わせた「三段リーグ」に組み込まれ、年2回行われる「三段リーグ」で18回戦を戦い上位2名が四段昇段=プロ入りとなる。

すなわち、四段になれるのは年間わずか4人。「三段リーグ次点」を2回獲得して四段になるケースを含めても、最大で6人しかいない。

プロにも数多く勝利する強豪アマに対して「プロ編入試験」が開催される例外も存在するが、「奨励会を突破しなければプロになれない」鉄の掟は揺るぎないものであり、将棋に青春の全てを捧げた少年少女たちの聖域として存在している。

奨励会への入会方法

入会のルート自体は年を追うごとに増え、2017年現在では以下の方法がある。

  1. 満19歳以下でプロ棋士の推薦を受けて入会試験を受け、合格すれば入会
  2. 満15歳以下で将棋連盟主催の小・中学校全国大会ベスト4以上を収めれば、
    棋士の推薦無しで試験を受験可能
  3. 奨励会の下部機関「研修会」で「15歳以下でA2」「18歳以下でS」まで昇級すると、
    奨励会6級に入会できる
  4. 満22歳以下でアマチュア公式戦大会で優勝/準優勝し、プロ棋士から推薦を受ければ受験可能
    (合格すると、この場合は初段からスタート)
  5. 6大アマチュア大会のいずれかで優勝し、プロ棋士から推薦を受けるといきなり「三段リーグ」に編入出来る試験を受けられる。合格すれば三段編入。ただし、この制度を利用した場合は2年以内に三段リーグを突破しなければならない。

基本的には「小学生低学年で将棋道場の大人を全員なぎ倒せる、とんでもなく強いお子さん」が奨励会に入れる(かも)。

「新進棋士」を育成する機関である以上、原則として若さに重点を置いている…が、近年のアマチュア強豪の中にはプロをもなぎ倒す強者が出現しているため、才能を受け入れるべく狭い門戸が僅かながら広がっている。

奨励会、何がそんなに厳しいの?

奨励会、最大の鉄の掟とは「年齢制限」である。
満21歳の誕生日までに初段になれなければ、そして満26歳の誕生日を含む三段リーグ終了までに四段に昇段できなければ、強制的に退会となる。(三段リーグに限っては、リーグで勝ち越し続ける限り満29歳までの延長が認められている)

年齢制限は「将棋指し以外の人生を早いうちに探せるように」と言うことではあるが、才能と青春の全てを懸けて将棋に打ち込んできた少年少女たちの悲喜こもごもが凝集される掟でもある。大崎善生氏の「将棋の子」や、天野貴元氏の「オール・イン」、瀬川晶司プロ(特例でのプロ編入試験を突破しプロ棋士となった)の「泣き虫しょったんの奇跡」など、年齢制限が生み出してきた人間ドラマを描いた作品も数多い。

「鬼の住処」、奨励会

記事冒頭で掲げた野月八段の言葉や、前述の文芸作品で描かれたように、「鬼の住処」とまで呼ばれる奨励会の苛烈さを表すエピソードは枚挙に暇がない。その一方で、「三段リーグには2つ階段がある。一つは天才達のために用意されたエスカレーター、もうひとつを残りの30人ほどで争う」と言うitumon氏の言葉のように、天才の中の天才たちが軽やかに駆け抜けていく煌めきを目撃できる場所でもある。

そんな奨励会の光と影を表すエピソードを、いくつか以下に紹介したい。

「中学生プロ棋士」たち

奨励会制度が発足して以来、中学生でプロになった棋士は僅かに5人。加藤一二三、谷川浩司、羽生善治、渡辺明、藤井聡太のみである。いずれも名人を獲得、永世名人位を獲得、永世六冠、初代永世竜王、デビュー以来28連勝無敗、と棋史に名を残す存在となっている。将棋の世界においては、早熟はそのまま大器である…と考えてもいいのかもしれない。

「鬼勝負」

30人から、多いときでは40人ほどが僅か2枠の昇段枠を懸けて戦う三段リーグ。あと一歩のところで涙を呑み、夢破れて去っていく三段も多い。平成25年・第53回三段リーグ最終戦・18回戦、26歳の鈴木肇三段と27歳の宮本広志三段が「勝った方が三段リーグ残留、負けた方が奨励会強制退会」と言う鬼勝負に臨むこととなった。

互いの将棋人生を懸けた戦いは二転三転の末、宮本三段に軍配が上がる。宮本三段は直後の第54回三段リーグで2位を獲得し、28歳にしてプロ棋士となった。奨励会入会から、実に15年目の春だった。

敗れてプロへの夢を絶たれた鈴木三段は奨励会退会後、将棋教室を開きつつアマチュア強豪として活躍。第32期アマ王将位も獲得している。

「2手目にて、投了」

平成15年・第33回三段リーグ。年齢制限にて退会が決まっていた佐藤佳一郎三段は、最終戦・遠山雄亮三段との対戦にて、1時間もの長考の末、2手目を指さず投了した。次点1回、3位1回、4位3回。紙一重のところで夢を掴みきれなかった佐藤三段の胸中は察するに余りある。一方の遠山三段は2年後、年齢制限を迎えた最後の3段リーグで2位に入り、念願のプロ入りを果たした。後の遠山Pである。

「廊下に崩れ落ちる」

平成7年・第18回三段リーグ。年齢制限を迎えていた中座真三段は、今期でプロになれなければ諦める決意で当期リーグに臨んでいた。しかし迎えた最終局、今泉健司三段に敗れて自力昇段を逃してしまう。野月浩貴、藤内忍、木村一基、ライバル3人全てが負けなければ昇段できない。絶望で朦朧としながら帰ろうとした中座三段に、「中座さん、おめでとうございます」と声がかかった。

ライバル3人が全て敗れたこと、それに伴い中座三段が2位となったことを伝えたのは、一度は中座三段を絶望に叩き落とした今泉三段だった。あまりの奇跡に理解が追いつかず、廊下に崩れ落ちる中座三段の写真は語り草となっている。

「コンピュータ将棋開発者として」

激しい競争を勝ち抜かなければならない奨励会では、初段に手が届かず去っていく者も多い。巨瀬亮一奨励会員もその一人である。1級まで進んだ巨瀬氏だったが、初段への年齢制限がチラつく中で退会を選択。別の道を選ぶこととなった。

コンピュータ将棋開発者に転身した巨瀬氏は、ドワンゴ主催の「将棋電王トーナメント」に自身の開発した将棋ソフト「AWAKE」で参加。第2回に大本命と目されたponanzaを抑えて優勝を果たし、「電王戦FINAL」への出場権を獲得した。自分が作り上げたソフトが、自分が諦めたプロ棋士との勝負の舞台に立てる。「言葉にならないほど嬉しい」と声を詰まらせながら喜びの弁を語った巨瀬氏だったが…詳細は「電王戦FINAL」の記事に譲りたい。

奨励会と女性、女流棋士

奨励会は完全実力主義であり、男女の別は一切ない。強ければ上に行き、負ければそれまでの世界である。しかし将棋を指す女性の絶対数がまだ少ないこともあり、2017年時点で四段昇段を果たした女性は存在しない。現在、三段リーグには里見香奈(女流棋士との掛け持ち)、西山朋佳の2名が在籍し、女性初のプロ棋士を目指して戦い続けている。

将棋の女性への普及を主な目的として作られた「女流棋士」は将棋のプロ制度とは分離されたものであり、女流棋士になるためには「研修会」で所定の成績を収める必要がある。こちらも年齢制限があり、その厳しさは奨励会と同じく関わる人々の感情を揺さぶり続けている。

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