キズナ(Kizuna)とは、2010年生まれの競走馬・種牡馬である。青鹿毛の牡馬。
主な勝ち鞍
2013年:東京優駿(GI)、ニエル賞(仏G2)、京都新聞杯(GII)、毎日杯(GIII)
2014年:産経大阪杯(GII)
名前の由来
名前の由来となったのは、そのまま日本語の「絆」である。
この名前になった経緯であるが、話は2011年に遡る。
本馬と同じノースヒルズで生産され、2011年のフェブラリーSを制したトランセンドが、日本ダート界の代表として世界最高賞金のドバイワールドカップ挑戦へ準備を進めているとき、東日本大震災が起きた。国内が大混乱に陥る中、関係者の懸命な努力により、同馬はそのレースで2着に健闘。更に1着には、同じく日本のヴィクトワールピサが入線し、 世界最高賞金を誇るレースで日本の競走馬がワンツーフィニッシュを成し遂げるという大快挙を成し遂げた。
これら関係者の努力に感動したオーナーの一族が、人同士のつながりの大切さを示す意味も込め、「次の世代で一番良い馬をキズナ(絆)と名づけよう」と決めたという。
そうしてキズナと名付けられたのが、キャットクイルの2010こと本馬である。リヤンドファミユとは別に何の関係もない。
また、同年生まれのアイルランド生まれ、フランス調教の牝馬にもKizuna(キズナ)と名付けられ、のちに繁殖牝馬として日本に輸入されている(この競走馬はキズナIIと呼ばれている)。
デビューから2連勝
栗東の佐々木晶三厩舎に入厩し、2012年10月7日に京都芝1800mでデビュー。鞍上には、厩舎の主戦である佐藤哲三ジョッキーを迎えた。全兄に皐月賞馬キャプテントゥーレを持つ良血馬・リジェネレーションも出走していたが、これを抑えて1番人気に支持される。レースでは道中中団に付けると、最後の直線で鋭く伸び2馬身差の快勝。
2戦目は同条件の黄菊賞(京都芝1800m・500万下)に出走。こちらにも全兄にダービー馬ロジユニヴァースを持つ良血馬・トーセンパワフルも出走していたが、やはりこれを抑えて1番人気に支持される。当日は雨が降っており馬場は稍重の発表。 渋る馬場で末脚は持つのか?という下馬評もあったが、直線に入り外に持ち出すと、前の馬をあっさりと交し切り、最後は手綱を抑える余裕を見せての圧勝。
鞍上の佐藤騎手をして「自分が能力を出すのにマイナスになることをしなければ、馬の方が連れて行ってくれると思います」と称賛するほどであった。レース後、次走はラジオNIKKEI杯2歳Sとすることが発表された。
主戦の怪我から武豊への乗り替わり
ここまで何事も無く順調に進めてきたキズナだったが、ここでアクシデントが襲う。
主戦を務めていた佐藤哲三騎手が、2012年11月24日の京都10Rでバランスを崩して落馬。 馬から振り落とされ、芝の上を高速で滑った佐藤は、そのまま内回りコースの柵の支柱に激突。これにより、左上腕骨開放骨折・左肩甲骨骨折・L4(腰椎)横突起骨折・左尺骨骨折・右大腿骨骨幹部骨折・左足関節脱臼骨折・右第一肋骨骨折・右肘関節(尺骨)脱臼・右下腿部裂創・外傷性気胸(その他感染症の合併症も発症)という、見ているこちらが思わず顔をしかめてしまうほどの大怪我を負ってしまう。
佐藤騎手の騎乗は絶望的になり[1]、キズナの鞍上が誰になるかが注目された。
武騎手は2010年の怪我以降は有力馬の騎乗依頼が激減し、この時点で2013年のクラシックで有力と言えるような馬は、500万条件を勝ったティーハーフただ一頭と言える状況であった。それ故に、今後のクラシックまでずっと乗ってくれる騎手を求めている陣営と、有力馬を求める名手の思惑が一致したのだろう(近年キズナの佐々木厩舎の馬に武騎手が乗ることはほとんどなかった)。
初の敗北から狂い出す歯車
そして鞍上に武豊騎手を迎えたキズナは、暮れのラジオNIKKEI杯2歳S(GIII)に出走する。朝日杯フューチュリティステークスを回避してきた有力馬が集まり、年によってはこちらの方が注目されることもあるレースであるが、やはり今年も7頭立てと頭数が少ないながらも有力馬が揃うこととなる。
その中キズナは初めて2番人気となる。1番人気に推されたのは、オークス馬シーザリオの仔であるエピファネイアであった。エピファネイアはこれまで新馬戦→OP戦と無傷の2連勝を飾っており、その勝ちっぷりも上々。鞍上の福永祐一騎手の悲願の牡馬クラシック制覇を、この馬が叶えるのではないかと評価は高かった。
レースは、やはり少数頭立てらしく、最初の1000mが66.0秒という超スローペースで進んでいく。そんな中、キズナと武豊騎手は前から2番手という、今までのレースぶりからすると前の方につけてレースを運んでいき、エピファネイアはその後ろの3番手につける展開となった。
4コーナーから追い出して、直線すぐ手前で先頭のバッドボーイの前に出るも、後ろからエピファネイアが来て交わされてしまう。武騎手も懸命に追うも差は縮まらず、それどころか一度交わしたバッドボーイに交わされ返されてしまい、3着。
無敗同士の戦いはエピファネイアに軍配が上がり、エピファネイアの評価は更に上昇。対してキズナは「最後バッドボーイにも交わされるあたり、意外とそうでもないんじゃないか?」という評価を下げる格好となってしまう。
明けて3歳、ラジオNIKKEI杯2歳Sで賞金を加算できなかったキズナは、クラシックの出走権利を得るために、皐月賞トライアルの弥生賞(GII)へ駒を進める。ここには先述のエピファネイアの他、札幌2歳S・東京スポーツ杯2歳Sを勝ち、朝日杯フューチュリティステークスでも2着に入ったコディーノが出走。
キズナはこれらに次ぐ3番人気と、ラジオNIKKEI杯2歳Sよりも人気を落とすことになった。
レースでは、中団よりやや後ろで競馬を進めて直線の末脚に賭けるも、鞍上の進路判断のミスもあり伸び切れず、伏兵馬にも交わされ5着。この時点で、皐月賞出走は絶望的となった。
毎日杯への強行軍、そして復活
しかし、なんとしても賞金を加算したい陣営は、中2週で毎日杯(GIII)への出走を決定する。この選択に「無理をさせすぎではないか」と疑問の声もあったが、相手は今までの相手に比べれば格落ちするものであり、単勝1.5倍の圧倒的一番人気に推される。
レースは最初の1000mが58.6秒とハイペースで進む。キズナは後方3番手待機から最後の直線で上がり34.3の脚を見せて、2着に3馬身差を付ける快勝。待望の初重賞勝利を飾ると同時に賞金も加算し、クラシック出走を可能とした。
しかし陣営は、「中2週続きではダービーも皐月賞もみんななくしてしまう。全てはダービーのため」と、ここから更に中2週となる皐月賞出走を嫌い、早々に皐月賞回避を表明。京都新聞杯から日本ダービーへと向かうプランを提示した。
そしてダービーの叩き台として京都新聞杯(GII)に出走。ここでもやはり有力な相手はおらず、単勝1.4倍の圧倒的支持を受けた。レースでは、スタートで後手を踏んでしまい、最後方からの競馬になってしまう。しかし、4コーナーで大外に持ち出して直線に向くと、上がり3ハロン最速の34.5秒の脚を使い、残り200mのところで前の馬を並ぶ間もなく交し切り、最後は流す余裕を見せる完勝。2戦連続で圧倒的1番人気に応えてみせて重賞2勝目。
ラジオNIKKEI杯2歳S・弥生賞で落とした評価を挽回してみせたのである。
更にレース後、キズナ陣営は凱旋門賞に登録することを発表。ダービーを勝ったならば凱旋門賞に出走する可能性があることを明かした。
第80回日本ダービー
そして万全の態勢で迎えた日本ダービー (GI)。
1枠1番と絶好の最内枠に入ったこと、前走の勝ちっぷりが良かったこと、直線長い東京競馬場ならば末脚が決まるだろうという期待、そしてダービー4勝の最多記録を持つ武豊騎手と様々な要素が相まって、皐月賞馬ロゴタイプやエピファネイアらを抑えて1番人気に推されることになる。
ゲートが開くと、武豊騎手は無理して前に付けることはせず、やはり後方待機策を取る。メイケイペガスターが捲ったりエピファネイアが躓いたりといろいろあったが、我関せずでじっとレースを進めていく。そのまま直線に入ると、残り500mから徐々に外に持ち出しにかかり、残り300mでようやく前が開き追い出しにかかる。
一方その頃先頭争いは、 粘る先行集団に外からエピファネイアが強襲。残り100mで先頭に立った。
「おお、ようやく福永騎手が牡馬クラシックを勝ったか!」と思ったのもつかの間、外から白い帽子の馬がものすごい勢いで突っ込んでくるではないか。 そう、キズナである。一瞬先頭に立ったエピファネイアを、まさに父ディープインパクトを彷彿とさせるような、目の覚める末脚で残り50mであっさりと交わす。そして半馬身差を付けてのゴール。
2010年に生を受けた7197頭の頂点に立つ、第80回日本ダービー馬の誕生の瞬間であった。
更にこれは、記録づくめの勝利でもあった。馬主の前田晋二氏、管理する佐々木晶三調教師は共にダービー初勝利。武豊騎手はこれで日本ダービー通算5勝。これは歴代1位の記録である。というより、そもそも日本ダービーを3勝以上したのはこの時点で武豊騎手のみである[2]。
さらにキズナ自身も、史上8組目となる父ディープインパクトとのダービー父仔制覇であると同時に、史上初となる父仔共に同一騎手によるダービー勝利という珍しい記録も達成した。
そしてこのダービーで実況を担当したアオシマバクシンオーによるキャリア屈指の迷実況も当時のファンに語られる内容だったのだが、それはまた別のお話。
その後
2013年は凱旋門賞(仏G1)に挑戦。前哨戦のニエユ賞(仏G2)で1着になり、欧州馬場の適性も見せて期待が高まったが、凱旋門賞本番では4着に敗れる。
2014年は、天皇賞(春)(GI)で1番人気に支持される。しかし4着に敗北し、直後骨折が発覚。2014年は休養に回された。
2015年は京都記念から始動。古馬の主力として期待されたが、京都記念(GII)では3着。続く大阪杯(当時GII)では、牝馬ラキシスの2着。その後、天皇賞(春)(GI)では1番人気に支持されるも7着と完敗してしまう。
その後休養に入り、秋での復活を目指していたが、9月に屈腱炎を発症。そのまま引退することとなった。通算14戦7勝。
種牡馬として
2019年に産駒デビュー。この年にファーストクロップサイアー1位、2歳リーディングでも父ディープインパクトに次ぐ2位にランクインし、好調な滑り出しを見せた。2019年にディープインパクトが死亡したので、後継種牡馬として期待がかかる。
種牡馬としては初年度からデアリングタクトを輩出したエピファネイアに後れを取る形にはなったが、2021年に初年度産駒のアカイイトがエリザベス女王杯を制覇し、見事GⅠサイアーとなった。2022年は安田記念でソングラインが勝利し、牡馬混合GⅠの勝利を達成。ソングラインは2023年にもGⅠ2勝を挙げた。2024年にはジャスティンミラノが皐月賞を勝ち、産駒4年連続GⅠ勝利になるとともに初の牡馬GⅠ馬及びクラシックレース勝利馬も現れた。この年は産駒GⅠ勝利こそこの1勝のみだったが、世代、芝砂問わず産駒が続々と重賞を勝利。最終的に189勝・重賞15勝を記録し、2位ロードカナロアに4億円差をつけ初のJRAリーディングサイアーに輝いた。同年は2歳世代だけで重賞3勝を挙げ、2歳リーディングも併せて獲得している。
傾向としてはレースに前向きで先行力がある産駒が多く、逃げてそのまま押し切るパターンも見られ、この辺りは母父のStorm Catが強く出ていると見られている。一方で母系によっては差し馬や長距離馬も産まれており、こちらは父のディープインパクトが出ていると言うべきか(参考リンク1、参考リンク2
)。
ダートでも捲り逃げの個性派・テリオスベルをはじめとした重賞馬が出ている。キズナのパワー系統は地方ダートにも相性が良い模様。
血統表
ディープインパクト 2002 鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
*ウインドインハーヘア 1991 鹿毛 |
Alzao | Lyphard | |
Lady Rebecca | |||
Burghclere | Busted | ||
Highclere | |||
*キャットクイル 1990 鹿毛 FNo.13-a |
Storm Cat 1983 黒鹿毛 |
Storm Bird | Northern Dancer |
South Ocean | |||
Terlingua | Secretariat | ||
Crimson Saint | |||
Pacific Princess 1973 鹿毛 |
Damascus | Sword Dancer | |
Kerala | |||
Fiji | Acropolis | ||
Rififi |
クロス:Northern Dancer 4×5(9.38%)
父は言わずと知れた七冠馬・ディープインパクト。母はアメリカで重賞3勝を挙げた*キャットクイル。
半姉に桜花賞などGI3勝を挙げたファレノプシス(父*ブライアンズタイム)、半兄にアメリカで走ってそのまま同国で種牡馬入りしているサンデーブレイク(父*フォーティナイナー)。
近親には三冠馬ナリタブライアン、GI3勝のビワハヤヒデなどの重賞馬が並ぶ良血馬である。
主な産駒
2017年産
- アカイイト (牝 母 ウアジェト 母父 *シンボリクリスエス)
- アブレイズ (牝 母 エディン 母父 ジャングルポケット)
- キメラヴェリテ (牡 母 *ルミエールヴェリテ 母父 Cozzene)
- クリスタルブラック (牡 母 アッシュケーク 母父 *タイキシャトル)
- シャムロックヒル (牝 母 *ララア 母父 Tapit)
- 主な勝ち鞍 2021年マーメイドステークス(GIII)
- ディープボンド (牡 母 ゼフィランサス 母父 キングヘイロー)
- テリオスベル (牝 母 アーリースプリング 母父 *クロフネ)
- ハギノアレグリアス (牡 母 タニノカリス 母父 *ジェネラス)
- ビアンフェ (騸 母 ルシュクル 母父 サクラバクシンオー)
- マルターズディオサ (牝 母 *トップオブドーラ 母父 Grand Slam)
2018年産
- ステラリア (牝 母 *ポリネイター 母父 Motivator)
- ソングライン (牝 母 ルミナスパレード 母父 *シンボリクリスエス)
- バスラットレオン (牡 母 バスラットアマル 母父 New Approach)
- ファインルージュ (牝 母 パシオンルージュ 母父 *ボストンハーバー)
2019年産
2020年産
2021年産
- クイーンズウォーク (牝 母 *ウェイヴェルアベニュー 母父 Harlington)
- サンライズジパング (牡 母 *サイマー 母父 Zoffany)
- シックスペンス (牡 母 *フィンレイズラッキーチャーム 母父 Twirling Candy)
- ジャスティンミラノ (牡 母 *マーゴットディド 母父 Exceed and Excel)
- ジューンテイク (牡 母 アドマイヤサブリナ 母父 *シンボリクリスエス)
2022年産
- エリキング (牡 母 *ヤングスター 母父 High Chaparral)
- サトノシャイニング (牡 母 *スウィーティーガール 母父 Star Dabbler)
- ショウナンザナドゥ (牝 母 *ミスエーニョ 母父 Pulpit)
- ナチュラルライズ (牡 母 レディマドンナ 母父 Distorted Humor)
- ブラウンラチェット (牝 母 *フォエヴァーダーリング 母父 Congrats)
- 主な勝ち鞍 2024年アルテミスステークス(GIII)
- マジックサンズ (牡 母 コナブリュワーズ 母父 キングカメハメハ)
- リラエンブレム (牡 母 *デルフィニアII 母父 Galileo)
- レーゼドラマ (牝 母 *シアードラマ 母父 Burning Roma)
関連動画
関連静画
関連項目
脚注
- *結果としてこのレースが2014年に現役引退した佐藤騎手の現役最後の騎乗となった。ちなみに佐藤騎手の引退決意の決め手としてキズナが関係しているのだが、このエピソードについては佐藤哲三騎手の大百科記事を参照。
- *2021年に福永祐一騎手が、2024年に横山典弘騎手がそれぞれ3勝目をあげている。
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