果てなき物語
負けん気の強い彼女の子は
男まさりの女帝となり
その娘もまた
優美な女王として名を馳せた。そして女王の遺児は
気鋭の勇将として
荒々しく世を統べる。子らに伝わる野生と
孫たちに受け継がれる品格。
血の物語は果てなく続く。
ドゥラメンテ(Duramente)とは、2012年生まれの日本の競走馬である。鹿毛の牡馬。
通算成績9戦5勝[5-4-0-0]
主な勝ち鞍
2015年:皐月賞(GI)、東京優駿(GI)
2016年:中山記念(GII)
この記事では実在の競走馬について記述しています。 この馬を元にした『ウマ娘 プリティーダービー』に登場するキャラクターについては 「ドゥラメンテ(ウマ娘)」を参照してください。 |
超良血の……問題児?
馬名の由来はイタリア語で「荒々しく、はっきりと」という音楽用語。
父は非SS系の中心として活躍するキングカメハメハ、母はエリザベス女王杯連覇のアドマイヤグルーヴ。オークス馬ダイナカールから女帝エアグルーヴとつながってきた良血の中の良血である。アドマイヤグルーヴは2012年10月に死亡したため、ドゥラメンテが最後の子である。
デビュー前から高い素質が見込まれたが、トモの緩さがあったため焦らず調教を積み、2歳10月にデビュー。圧倒的人気に推された初戦は出遅れが響いたか2着に敗れる。続く未勝利戦でもゲート内で暴れるという気の悪さは見せたが、レースでは人気に応えて先行集団から一気に突き抜け6馬身差で圧勝。素質の片鱗を見せつける一方、ゲート再審査も頂いてしまう。
再審査に無事通り、復帰したのは明けて3歳1月のセントポーリア賞。やっぱり1倍台の圧倒的1番人気に推されると、中団から全くレベルの違う末脚で5馬身差の楽勝。初戦で負かされたラブユアマンとは、上がりが1秒も違った。
続いて挑んだのは、近年出世レースとされた共同通信杯。中1週の厳しいローテーションではあったが、4戦連続で1倍台の1番人気に推される。初めてゲートを決めて先行したのだが、これが仇となったか道中掛かり気味になり、鞍上の石橋脩ともうまく折り合えずちぐはぐな競馬になってしまう。それでも直線で一旦は先頭に立つものの、内で完璧に立ち回ったキャリア1戦のリアルスティールにかわされ2着に敗れた。
・・・というわけで、デビュー直後から並外れた力は見せつけていたものの、常に気性の悪さという問題がついて回っていた。名は体を表すというが、とにかく能力も気性も荒々しい若馬だったのだ。
さて、共同通信杯は2着に敗れたとはいえ賞金は加算できた。そこで陣営はトライアルを使わず、思い切って除外覚悟で皐月賞直行を選択。そして無事に出走することになった。その後恐ろしいものを見ることになるとも知らずに・・・。
狂気と衝撃の二冠達成
皐月賞では初の中山コースということもあってかやや控えめの3番人気。初めて1番人気を譲る形となった。鞍上には、JRA所属になったばかりのミルコ・デムーロを迎える。
ゲート入りの前から何やら間抜け不自然な歩きを見せていたドゥラメンテ。今回も若干出負けしたが、内枠ということもあり無理せず後ろの内々でレースを進める。3コーナー手前から内をじわりと進出。縦長だった馬群が固まり、そのまま各馬が4コーナーを回ろうとしたその時だ。「おい、なんだあれ!?」
テレビを見ていた競馬ファンはぶったまげた。なんか1頭、コーナードリフトでもしたかのように大外までぶっ飛んできた奴がいるんですけど。
・・・他ならぬドゥラメンテであった。どうやら、インから外に振ろうとしたらそのまま吹っ飛んでしまったらしい。鞍上のミルコも「スゴい怖かった…」と語ったが見ていたこっちも肝が冷えたわ。
レースに話を戻そう。大外まで横っ跳びしたドゥラメンテが体勢を立て直している間、前では完璧なレースを見せたリアルスティールが、しぶとく粘る3戦無敗のキタサンブラックに襲いかからんとしていた。しかし、そんな2頭の激闘などおかまいなしに、ドゥラメンテは残り200mから猛烈なスパート。100mあまりでリアルスティールを捉えたかと思うと、なおも飽き足らず、結局1馬身半余り突き放して優勝した。
断っておくが、これは皐月賞である。つまり直線が短くゴール前が急坂なことで有名な中山競馬場でのパフォーマンスである。あまりのレースぶりにフジ実況の吉田伸男は「これほどまでに強いのか!!」と絶叫した。
上がり3ハロンは破格の33秒9(ディープインパクトの皐月賞より速い)。ちなみに上がり2位は34秒5。なんかもう・・・別次元である。レースレーティングは119と、ディープとオルフェーヴルを抑えて皐月賞史上最高のレーティングを獲得した。少なくとも21世紀の三冠馬2頭の同時期より上と評価されたのである。更にこの勝利で、ドゥラメンテは曾祖母ダイナカールから親子4代GI制覇。牝系からの4代GI制覇は史上初の快挙だった。
ついでに、鞍上のミルコ・デムーロはJRA所属騎手としては初のGI勝利になった。インタビューに受け答えするミルコの日本語もかなりうまくなってた。少なくとも岩田よりは。
とはいえ、世紀の大斜行とゴール前の早過ぎガッツポーズが見過ごされるはずもなく。馬はお咎めなしでもミルコは開催4日間の騎乗停止を食らい、天皇賞(春)に騎乗できなくなってしまった。「裁決員スゴイ怒ってた」そうだが、当たり前だ。まあ調整ルームでRTして30日乗れなかったJRA同期のあいつよりマシだと思えば・・・。
迎えた東京優駿は、前走のえげつない勝ち方もあり当然一番人気。しかし一方では、荒すぎる気性から距離を不安視する声もないではなかった。あるいは切れ味がすごすぎてマイラーじゃないかという予想もあった。・・・そういえば親父のキングカメハメハも、ダービーの前には一部からマイラーじゃないかと思われてたとか・・・。
最近のダービーとしては不利な14番ゲートからスタートしたドゥラメンテ。「1,2コーナーでは行きたがった」とミルコは述懐するが、こちらからはとてもそうは見えないほど落ち着いて中団でどっしりと構える。そのまま直線を向くと、またも破壊力抜群の末脚が炸裂。あっという間に前を抜き去ると、そのまま吹っ飛んだり大斜行することもなく、迫るサトノラーゼンとサトノクラウンをも寄せ付けず、見事二冠達成した。
勝ちタイムは2分23秒2。かつて、父キングカメハメハが殺人的ハイペースの果てに刻んだレコードタイムをコンマ1秒更新するダービーレコードだった。正々堂々の真っ向勝負だろうと、その実力は別次元にあることを最高の舞台で証明してみせた。ダービーで得たレースレーティングは121。またもオルフェ(120)を超え、ダービー史上最高のレーティングとなった。ちなみにディープのダービーのレーティングは119。つまりドゥラメンテは、二冠を制した時点でも21世紀の三冠馬2頭より上だと見られているということである。ほんまかいな。
鞍上のミルコ・デムーロは2003年のネオユニヴァース以来12年ぶりのダービー制覇。JRA騎手として初のダービーで掴んだ栄光に、「あの時(2003年)はガイジン騎手だった。JRAの騎手になれて本当によかった。日本の騎手になった実感が湧いた」と泣きはらした。今回といいエイシンフラッシュの最敬礼といいヴィクトワールピサのドバイといい、なんとも絵になる騎手である。
怪我に泣いた日々
ミルコは「ネオ以上。凱旋門賞もチャンスがある」と語り、ファンもこの馬の進路に期待を寄せていた…のだが、放牧先で両前脚の骨折が判明。全治半年で復帰は来春以降となり、三冠も、斤量の有利な3歳の凱旋門挑戦も夢と散ってしまった。
思えば父キングカメハメハも、ハイペースのダービーを乗り越えた秋になって故障、引退となっている。皮肉なことに、同じくハイペースのダービーの覇者となった息子にもその運命はついて回ってしまう。
復帰は来年春、東の古馬王道重賞中山記念。いわゆる「スーパーGII」に名を連ねるこのレース、2016年もその名に違わず実力馬が揃った。なにせ皐月賞馬3世代揃い踏みである。ドゥラメンテは9か月の休み明け、しかも+18kg。陣営も完調ではないという反応で、不安要素は満載だった。
それでも蓋を開ければ2.1倍の一本被り。レースも中団から手応えよく直線で伸び、最後は後方待機のアンビシャスに詰め寄られたがクビ差振り切って勝利。完勝とはいかなかったが、休み明けで七割くらいの出来だったことを考えれば上々の滑り出しとなった。
一時はドバイワールドカップ挑戦が取り沙汰され、「ダートに合うのか?」と不安視する声があったものの、ドバイシーマクラシックに出走する方向に固まった。堂々ドバイに乗り込むが、調教師の眼鏡を頭突きで吹っ飛ばすなど、落ち着きのない姿を見せていた。そして直前になって、右前脚を落鉄するアクシデントが発生。装蹄もできず、なんと右前脚は裸足のまま出走することになってしまう。それでも中団後方から末脚を伸ばし懸命に前を追うが、最後は前年のキングジョージ馬Postponedに突き放され2着に終わった。同日のドバイターフでリアルスティールが圧勝しており、皐月、ダービーと下してきた同期生に異国の地では逆転される格好となってしまった。
帰国後はグランプリ宝塚記念に出走。昨今の宝塚記念にしては珍しく17頭と頭数が多く、また天皇賞馬なりたてほやほやのキタサンブラックや前年覇者ラブリーデイなど、GI馬6頭が揃った。ドゥラメンテは昨年秋以降活躍できなかったのが響いたか、ファン投票は6位と案外な結果(このときの1位は同期のキタサンブラック)だったが、本番は1.9倍の一本被り。しかしこの日は雨の影響で、稍重の発表以上に馬場が渋っており、切れ味勝負のドゥラメンテにとっては不利な舞台だった。案の定ドゥラメンテは重馬場に体力を消耗。最後は意地で脚を伸ばしてキタサンブラックを捕えるが、そこまで。重馬場巧者且つ、完璧に立ち回った牝馬マリアライトにはクビ差届かず、2着に敗れてしまう。
悲劇はそれにとどまらなかった。ゴール直後、ドゥラメンテは最も馬場の悪化していたところでバランスを崩して故障、直後にミルコは下馬し、ドゥラメンテは馬運車で運ばれた。直後の検査で左前脚の跛行と診断され、凱旋門賞の断念はこの時点で決定。さらにその後の検査で左前脚の球節の腫れや靭帯、腱などに複数の炎症が確認され、競争能力喪失と診断。そのまま引退となってしまった。世界王者となりえたはずの駿才は、その才能を活かし尽せぬままターフを去ってしまったのである。凱旋門賞をはじめ多くのファンが見た夢も夢のままに終わってしまった。
引退、そして早すぎる最期
9戦5勝2着4回。生涯連は外さなかったものの、僅か9戦しかできなかったことは余りにも惜しまれる。海外でも好勝負はできたと思われるだけに残念でならないが、競馬は勝ち負け以前に出られなければ勝てない世界。ドゥラメンテは「未完の大器」の域を出ないまま第二の人生に入る。
二冠を制している時点で十分名馬なのだが、なにしろその二冠が桁違いの内容であったし、後にJCや春天連覇も果たすほどの馬となったキタサンブラックには一度として先着を許していない。破格の能力を持っていると誰しもが感じていただけに「これで終わるはずじゃなかったのに」というのがファンや関係者の思いだろう。
2017年から種牡馬として繋養開始。父キングカメハメハが体調不良で種付け数も減少しているが、後継者にはすでに叔父のルーラーシップやロードカナロアがおり、ドゥラメンテはキンカメ×SS×トニービンという主流ぞろいの血統が大きな制約となった。しかし、その中でも初年度産駒のタイトルホルダーが2021年の弥生賞ディープインパクト記念を勝利。皐月賞では2着と好成績を収め、秋の菊花賞でGI初勝利を挙げる好スタートを切った。
ところがその数ヶ月前である2021年8月30日、繋養中の社台SSで急性大腸炎を発症。経過は悪化の一途を辿り、翌8月31日に9歳という若さでこの世を去ってしまった。産駒は僅か5世代。種付け料も上がり始めていた矢先、あまりにも惜しい早世となった。
翌2022年、残された産駒が次々に覚醒。桜花賞ではスターズオンアースが7番人気の低評価を覆して勝利を挙げ、2年連続で産駒からクラシックタイトルを掴んだ仔が産まれた。さらにスターズオンアースは優駿牝馬(オークス)でも3番人気の評価から優勝、牝馬二冠を手にした。
そして、古馬になったタイトルホルダーも大活躍。天皇賞(春)を7馬身差で圧勝すると、続く宝塚記念も持ち前のスタミナで押し切って快勝し、現役最強に名乗りを挙げた。これで2022年の春競馬で産駒がGIを4つ制覇するという快挙を達成。
秋になっても勢いは止まらず、JBCレディスクラシックにてヴァレーデラルナが強豪揃う中、3歳ながら勝利。ダートGI競走でも産駒がその名を刻んだ。さらには2歳戦線でもリバティアイランドが阪神JFを、ドゥラエレーデがホープフルSをそれぞれ勝利。最終的に地方も含めて初年度産駒デビューから3年目で年間GI7勝という、SSやディープも成し得なかった空前の記録を樹立した。
2023年上半期は古馬戦線のタイトルホルダーやスターズオンアースこそ苦戦したが、クラシック世代が前年の勢いそのままに躍動。リバティアイランドは圧倒的な強さで2年連続となる二冠牝馬となり、シャンパンカラーは父の苦手とした重馬場を克服しNHKマイルカップを勝利。
そして下半期、リバティアイランドがさらに圧倒的な強さで秋華賞を制し、史上7頭目の牝馬三冠を達成。父が果たせなかった三冠を天国に捧げた。ちなみに秋華賞当日はアドマイヤグルーヴの命日であり、三冠全て一番人気に支持されながらスティルインラブに阻まれ1勝もできなかった祖母にも捧げる偉業を成し遂げた。さらに菊花賞は春クラシックに間に合わなかったドゥレッツァが人気3頭(うち2頭は同期のキタサンブラック産駒とサトノクラウン産駒)を蹴散らして5連勝で菊花賞を奪取。同年の3歳GI7戦のうちドゥラメンテ産駒が5勝という凄まじい成績を残した。その後GⅠ勝利はJBCレディスクラシック(勝利馬アイコンテーラー)を加えた6勝止まりで前年超えこそならなかったが、ジャパンカップでリバティアイランド2着&スターズオンアース3着、有馬記念はスターズオンアース2着&タイトルホルダー3着と大レースで着実に賞金を加算。最終的にロードカナロアを約2億円差で振り切り、自身初のJRAリーディングサイアーを獲得した。
産駒が活躍すればするほどファンの脳が焼かれる早世が惜しまれるドゥラメンテ。2023年一杯で現役生活を終えたタイトルホルダーが種牡馬入りしており、偉大な才能は次代へ引き継がれていく。
余談
- ドゥラメンテが馬場で時折やる変な行進(下の動画)は、ドゥラメンテの曾祖母であるダイナカールやアメリカの女傑ゼニヤッタにも似たような癖があったそうで、岡部幸雄元騎手曰く緊張しているときのしぐさらしい。レースになればえげつない能力を見せるのに、本番までは緊張でガチガチということなのか。なんかかわいい。
血統表
キングカメハメハ 2001 鹿毛 |
Kingmambo 1990 鹿毛 |
Mr. Prospector | Raise a Native |
Gold Digger | |||
Miesque | Nureyev | ||
Pasadoble | |||
*マンファス 1991 黒鹿毛 |
*ラストタイクーン | *トライマイベスト | |
Mill Princess | |||
Pilot Bird | Blakeney | ||
The Dancer | |||
アドマイヤグルーヴ 2000 鹿毛 FNo.8-f |
*サンデーサイレンス 1986 靑鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Nothirdchance | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
エアグルーヴ 1993 鹿毛 |
*トニービン | *カンパラ | |
Severn Bridge | |||
ダイナカール | *ノーザンテースト | ||
シャダイフェザー |
クロス:Northern Dancer 5×5×5(9.38%)
主な産駒
2018年産
- アイコンテーラー (牝 母 ボイルトウショウ 母父 *ケイムホーム)
- アヴェラーレ (牝 母 *アルビアーノ 母父 Harlan's Holiday)
- アリーヴォ (牡 母 *エスメラルディーナ 母父 Harlan's Holiday)
- タイトルホルダー (牡 母 *メーヴェ 母父 Motivator)
- バーデンヴァイラー (牡 母 ヴィートマルシェ 母父 *フレンチデピュティ)
2019年産
- ヴァレーデラルナ (牝 母 *セレスタ 母父 Jump Start)
- サウンドビバーチェ (牝 母 *スクービドゥー 母父 Johan Cruyff)
- スターズオンアース (牝 母 *サザンスターズ 母父 Smart Strike)
2020年産
- シーズンリッチ (牡 母 エバーシャルマン 母父 ハーツクライ)
- シャンパンカラー (牡 母 *メモリアルライフ 母父 Reckless Abandon)
- シングザットソング (牝 母 *ザガールインザットソング 母父 My Golden Song)
- ドゥーラ (牝 母 イシス 母父 キングヘイロー)
- ドゥラエレーデ (牡 母 マルケッサ 母父 オルフェーヴル)
- ドゥレッツァ (牡 母 *モアザンセイクリッド 母父 More Than Ready)
- リバティアイランド (牝 母 *ヤンキーローズ 母父 All American)
- ルガル (牡 母 *アタブ 母父 New Approach)
2021年産
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