シリーン(Selene)とは、1919年イギリス産まれの牝馬の競走馬である。
Mumtaz Mahalと並ぶ20世紀を代表する名繁殖馬の一頭。
1895年にイギリス産まれの同名のCyllene(シリーン又はサイリーン)というNearcoの祖先となる牡馬がいるが、本稿では1919年産まれの牝馬の方を取り扱う。ちなみにCylleneは本馬の母父父だったりする。
父Chaucer(チョーサー)、母Serenissima(セレニシマ)、母父Minoru(ミノル)という血統。
父のChaucerはSt. Simonの産駒で半弟に大種牡馬Swynfordがいる。競走馬としてはイマイチであったが、種牡馬として多くのステークス優勝馬を輩出。また母父としては大成功を収め、シリーンの他に、大種牡馬Nearcoの父Pharosやイギリスリーディングサイアー4回のFairwayなどを輩出した牝馬Scapa Flowの父として血統史の中に残り続けている。
母Serenissimaは第一次世界大戦の影響で競走馬としてはそれほど出走出来ず活躍出来なかったが、シリーン以外にもイギリスクラシック優勝馬を産むなど活躍。
母父Minoruは時のイギリス王エドワード7世が所有し、イギリス王名義として初めてダービーを獲得した馬だが、種牡馬としてはセレニシマ以外の実績は殆ど無く当時のロシア帝国に輸出されたという馬であった。
本馬を生産・所有したのは第17代ダービー伯爵という人で、ザ・ダービー・ステークスの名前の由来となった第12代ダービー伯爵の玄孫に当たる人物であった。
マルセル・ブサックやフェデリコ・テシオなど名ブリーダー達には独自の配合理論を用いて馬産を行っているが、このダービー伯爵にも一つ特徴的な配合理論があった。
それは「3×4」のインブリード……俗に言う「奇跡の血量」である。彼の生産した馬はこの配合が多数を占めており、本馬にはPilgrimage(ChaucerやSwynfordの祖母)の3×4のクロスがある。
こうして産まれた本馬であるが、体格が非常に小さく、成長しても15.4ハンド(156cmくらい)にしかならず、この馬体ではクラシックを戦うのは無理だろうと言う判断のせいでクラシックに登録を見送ってしまった。
この当時のイギリス競馬の背景として、雄大な馬体こそが大事であり、小さな馬体は劣るという考えが強く通っていた事もあった。
しかしながらデビューしたら小柄な馬体も何のその、2歳の成績が11戦8勝2着2回3着1回と複勝率100%の大活躍で、3歳時はクラシック登録が無かったが為に早い段階から古馬を相手にレースをするが、それを相手に2着2回の接戦を演じる。
秋シーズンになると連勝街道。最後となったレースではMumtaz Mahalの半姉でのちのジョッキークラブステークス優勝馬Lady Juror含む牡馬牝馬の強豪が集まったハンプトンコートグレート3歳ステークスで、これを3馬身差で完勝。
3歳時も11戦8勝の優秀な成績を残し、調教師のラムトン師は翌年も走らせたかったが、ダービー伯爵の意向で繁殖入りが決まり引退。
馬体の小ささだけで登録を見送ったばかりにクラシックには縁が無かったものの、ダービー伯爵とラムトン調教師はこの反省を生かし、本馬より更に小柄に産まれた息子では同じ徹を踏む事は無かった。
引退後の翌年、牧場に入ったものの、運営を任されていた人物は小柄な馬体では出産に耐えられないのではないかと考え、種付けをするのは成長した来年以降にしたらどうかとダービー伯爵に進言した。
しかし、ダービー伯爵はその進言を退けて4歳時にPhalaris(Nearcoの父父)と交配し、本馬は翌年にSickle(St. Simon3×4・Cyllene3×4)という馬を生んだ。3歳での引退と、この種付けの判断が無ければ現代競馬は全く違うものになったかもしれない。
何故か? Sickleの直系子孫にNative Dancerが産まれるからである。Native DancerがいなければNorthern DancerもMr. Prospectorもいないのである。そんな競馬が考えられるだろうか?
その翌年には同じくPhalarisの仔のPharamondを産む。この馬の子孫にもTom FoolとBuckpasserがおり、父系は衰退したものの母系として絶大な影響を与えている。
その後も南米の血統に影響を与えるHunter's Moonという馬を生み出しているが、何と言っても語るべきは6番目の子供であるHyperion(St. Simon3×4)であろう。
Hyperionはシリーンよりも小柄であったが、母の反省を活かしちゃんとクラシックに登録してダービーとセントレジャーを獲得している。
種牡馬としても大成功であり、イギリスリーディングサイアーを6回獲得し、また母父としてCitation、Nearctic(Northern Dancerの父)、*テスコボーイ(トウショウボーイの父)を出すなど影響力は絶大である。
ファミリーラインは今でも残っており、2016年のオークス馬シンハライトの一族がシリーンの母系である。
直系子孫にNative Dancer・Hyperionを産み出したシリーン、Nasrullah・Mahmoud・Royal Chargerを産み出したMumtaz Mahal。
この両馬の血を引かない馬は恐らく現代に存在しないであろう。
20世紀初頭に産まれた両馬によって現代競馬は成り立っていると言っても過言ではない。
Chaucer 1900 黒鹿毛 |
St. Simon 1881 鹿毛 |
Galopin | Vedette |
Flying Duchess | |||
St. Angela | King Tom | ||
Adeline | |||
Canterbury Pilgrim 1891 栗毛 |
Tristan | Hermit | |
Thrift | |||
Pilgrimage | The Palmer | ||
Lady Audley | |||
Serenissima 1913 鹿毛 FNo.6-e |
Minoru 1906 黒鹿毛 |
Cyllene | Bona Vista |
Arcadia | |||
Mother Siegel | Friar's Balsam | ||
Galopin Mare | |||
Gondolette 1902 鹿毛 |
Love One | See Saw | |
Pilgrimage | |||
Dongola | Doncaster | ||
Douranee |
玄孫の活躍
掲示板
4 ななしのよっしん
2019/10/09(水) 03:24:57 ID: KdQIRYbvn+
牝系の記事を書いてくれるプレミアム会員さまは貴重なので応援してます。
ラフレッシュ・サンチャリオット・アレフランセ・ダリアなどの有名な牝馬の記事も期待しています。
あと当時の6号族の評価もあればもっとよかったです
5 ななしのよっしん
2019/11/16(土) 14:05:08 ID: Hiw3V0YBLP
シリーン(1895年生の牡馬)の記事を作成しましたので、あらためてここの記事名を「シリーン(1919年生の牝馬)」に変更して、曖昧さ回避の記事を作成することを提案しますけど、いかがでしょう。
下のリンクに曖昧さ回避の記事案を作成しておきました。
https://
6 ななしのよっしん
2023/07/09(日) 19:52:11 ID: qW2Zkmi92s
作成された方がまだ活動しているかどうかわからないのですが、本文中の「15.4ハンド(156cmくらい)」ってどこから引かれました?
https://
(この解釈だと“15.4 hands”は64インチ≒163cmくらいになります)
情報源お持ちでしたら教えていただけると助かります
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最終更新:2025/03/28(金) 09:00
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