三角形ABCが与えられたとき、角Aから辺BCの中点Mへ引いた線分を中線という。
このとき、線分AB、ACと、線分BM、CMの長さの間に以下の関係が成り立つ。
AB=ACの二等辺三角形のとき、直角三角形の定理であるピタゴラスの定理となる。
ベクトルを太字で書くことにする。つまり、ABは長さ、ABはベクトルをあらわす。
BM2=(|AC-AB|/2)2=(AC2+AB2-2AB・AC)/4
AM2=(|AC+AB|/2)2=(AC2+AB2+2AB・AC)/4
中線定理は図形に基づいた定理であるが、図形の問題としてみると応用が狭くあまり面白みがない。しかし、抽象ベクトル空間に内積を与える定理として重要な意味を持つ。
ベクトル空間Xの元aに対して以下の3つの性質を持つ非負の実数を返す関数||・||が与えられたとき、||a||をaのノルムという。ノルムはベクトルの「長さ」を一般化したものと考えることができる。
一つ目の条件の逆「||a||=0ならばa=0」はノルムの正定値性という。3つ目の条件は三角不等式と呼ばれ、これも三角形に関係した定理である。
このようなノルムを備えたベクトル空間のことをノルム空間という。Fが複素数のときは複素ノルム空間、実数のときは実ノルム空間と区別することが多い。
同じベクトル空間であっても異なるノルムを定義する事ができる。従って、一般のノルム空間は必ずしも内積を持つと限らず、ノルムから内積を作ることができない場合がある。しかし、ノルムが中線定理を常に満たすとき、ノルムから内積を復元することができる。逆に、ベクトル空間が内積を持つとき、内積から定義されたノルムは中線定理を常に満たす。
つまり、「ノルム空間が中線定理を満たす⇔ノルム空間が内積を持つ」ということが言える。
以下はその証明である。
内積を〈φ, ψ〉と表記する。このとき、ノルム||φ||は√〈φ, φ〉で与えられる。
||φ+ψ||2+||φ-ψ||2=(||φ||2+||ψ||2+〈φ, ψ〉+〈ψ, φ〉)+(||φ||2+||ψ||2-〈φ, ψ〉-〈ψ, φ〉)
=2(||φ||2+||ψ||2) ■ (AM、BMに対応するベクトルがφ、ψであることに注意)
なので、
〈φ, ψ〉={(||φ+ψ||2-||φ-ψ||2)-i(||φ+iψ||2-||φ-iψ||2)}/4
とあらわされる。これを偏極恒等式という。
実ノルム空間の場合は〈φ, ψ〉={(||φ+ψ||2-||φ-ψ||2)}/4である。
複素ノルム空間が中線定理を満たすとする。このとき、2つのベクトルφ、ψから生成されるある複素数〈φ、ψ〉として、〈φ, ψ〉={(||φ+ψ||2-||φ-ψ||2)-i(||φ+iψ||2-||φ-iψ||2)}/4 を考える。
このとき、〈φ, ψ〉が内積の定義である次の5つの条件を満たすことを確認する。
第一引数(φ)と第二引数(ψ)のどちらに共役線形性を適用するかは書籍によって異なる。だいたい物理分野と数学分野で分かれている様子。
〈ψ, φ〉={(||ψ+φ||2-||ψ-φ||2)-i(||ψ+iφ||2-||ψ-iφ||2)}/4
={(||φ+ψ||2-||φ-ψ||2)+i(||φ+iψ||2-||φ-iψ||2)}/4
〈φ, φ〉={(||φ+φ||2-||φ-φ||2)-i(||φ+iφ||2-||φ-iφ||2)}/4
={||2φ||2ーi(||(|1+i|2-|1-i|2)φ||2)}/4=||φ||
ノルムの定義より、〈φ, φ〉=0ならばφ=0、逆も成り立つ。
〈iφ, ψ〉={(||iφ+ψ||2-||iφ-ψ||2)-i(||iφ+iψ||2-||iφ-iψ||2)}/4= i〈φ, ψ〉
〈φ, -ψ〉={(||φ-ψ||2-||φ+ψ||2)-i(||φ-iψ||2-||φ+iψ||2)}/4= -〈φ, ψ〉
なので、
〈φ, ψ〉+〈θ, ψ〉={(||φ+ψ||2-||φ-ψ||2)-i(||φ+iψ||2-||φ-iψ||2)}/4+{(||θ+ψ||2-||θ-ψ||2)-i(||θ+iψ||2-||θ-iψ||2)}/4
={(||φ+ψ||2+||θ+ψ||2)-(||θ-ψ||2+||φ-ψ||2)-i(||φ+iψ||2+||θ+iψ||2-||φ-iψ||2-||θ-iψ||2)}/4
={(||φ+θ+2ψ||2+||φ-θ||2)-(||φ+θ-2ψ||2+||φ-θ||2)-i(||φ+θ+2iψ||2+||φ-θ||2)+i(||φ+θ-2iψ||2+||φーθ||2)}/8
={(||φ+θ+2ψ||2-||φ+θ-2ψ||2)-i(||φ+θ+2iψ||2-||φ+θ-2iψ||2)}/8
θ=0のとき、〈φ, ψ〉=〈φ, 2ψ〉/2 なので、〈φ, ψ〉+〈θ, ψ〉=〈φ+θ, ψ〉
nを自然数、f(λ)=〈λφ, ψ〉とする。f(n)=〈nφ, ψ〉=n〈φ, ψ〉=nf(1)、f(1)=〈(m/m)φ, ψ〉=mf(1/m)
なので、f(n/m)=(n/m)f(1)
ここから、ノルムが連続ならばf(λ)は連続関数となる。つまり、〈λφ, ψ〉=f(λ)=λf(1)=λ〈φ, ψ〉
4.と同様に進める。
実ノルム空間の場合は〈φ, ψ〉={(||φ+ψ||2-||φ-ψ||2)}/4とし、同様に証明を進める。 ■
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最終更新:2025/12/15(月) 18:00
最終更新:2025/12/15(月) 17:00
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