伝統的な日本語文法においては、終止形を基本形として、用言を未然形、連用形、終止形、連体形、已然形(仮定形)、命令形の六つの形に変化する物として扱う。但し、実際にはこれらの形は同形となることもしばしばある。文語においてはナ行変格活用が、口語においては形容動詞が全て活用形が違っている。
動詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用形 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
上代 | -a | -i | -u | -u | -ë | -e | |||
動詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用形 | |
中古 | 書く | か | か | き | く | く | け | け | カ行四段活用 |
会ふ | あ | は | ひ | ふ | ふ | へ | へ | ハ行四段活用 | |
読む | よ | ま | み | む | む | め | め | マ行四段活用 |
未然、連用、終止と連体、已然と命令で、それぞれ形が違っている活用。さらに、上古においては已然形がエ段乙類と命令形がエ段甲類との書き分けがあった。後に、推量の助動詞「む」が「う」へと変化した結果、かかむ>かかう>かこう、と変化した。現在の五段活用とは綴りの仕方が違うだけで実質同一である。
言語学的には子音語幹動詞である。
動詞 | 語幹 | 未然系 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用形 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
上代 | -a | -i | -i | -u | -ë | -e | |||
動詞 | 語幹 | 未然系 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用形 | |
中古 | 有り | あ | ら | り | り | る | れ | れ | ラ行変格活用 |
居り | を | ら | り | り | る | れ | れ | ラ行変格活用 |
「在り」、「居り(をり)」、「侍り(はべり)」、「いまそかり」の四語しか例が無い活用。侍りは這ひ在り殻変化したと考えられている。「あり」が他の語の語尾に付き、形容詞のカリ活用、形容動詞、助動詞「り」、「けり」、「たり」、「なり」、「めり」の活用を引き起こすためこれらも実質ラ変といえる。現代語では五段活用に合流。子音語幹動詞。
動詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用形 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
上代 | -a | -i | -u | -uru | -ere | -e | |||
動詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用形 | |
中古 | 死ぬ | し | な | に | ぬ | ぬる | ぬれ | ね | ナ行変格活用 |
去ぬ | い | な | に | ぬ | ぬる | ぬれ | ね | ナ行変格活用 |
「死ぬ」、「去ぬ」の二語しか例の無い活用。また、未然形から命令形まで全て形が違う。そのため、活用形というのはこの活用を元に定められた。上の二語以外には助動詞「ぬ」がこの活用を起こす。現代では五段活用に合流。子音語幹動詞。
動詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用行 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
上代 | -i | -i | -iru | -iru | -ire | -iyö | |||
動詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用行 | |
中古 | きる | (き) | き | き | きる | きる | きれ | きよ | カ行 |
にる | (に) | に | に | にる | にる | にれ | によ | ナ行 | |
ひる | (ひ) | ひ | ひ | ひる | ひる | ひれ | ひよ | ハ行 | |
みる | (み) | み | み | みる | みる | みれ | みよ | ミ行 | |
いる | (い) | い | い | いる | いる | いれ | いる | ヤ行 | |
ゐる | (ゐ) | ゐ | ゐ | ゐる | ゐる | ゐれ | うぃる | ワ行 |
「い(射・鋳・沃)る」「き(着)る」「に(似・煮)る」「ひ(干・簸)る」「み(見)る」「ゐ(居・率)る」またはいずれかの複合語のみである。上代仮名遣いは、全てイ甲である。射る等がヤ行となっているのは「矢」などのほかの単語からの推測である。
動詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用形 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
上代 | -ï | -ï | -u | -uru | -ure | -ï(yö) | |||
動詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用形 | |
中古 | 起く | お | き | き | く | くる | くれ | きよ | カ行上二段活用 |
上二段活用の動詞「生く」は元々四段活用だったものが上二段に転じた。逆に上二段活用「恨む」は後に四段活用に転じた。ヤ行上二段活用は、「老ゆ」、「悔ゆ」、「報ゆ」の三つのみ。上代日本語では、い乙音。母音語幹動詞。
動詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用形 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
上代 | 蹴る | く | ゑ | ゑ | ゑる | ゑる | ゑれ | ゑよ乙 | |
動詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用形 | |
中古 | 蹴る | ○ | け | け | ける | ける | けれ | けよ | カ行下一段活用 |
下一段活用は文語においては、蹴るの一語のみである。上古までさかのぼると「くゑる」という下二段活用だったことが分かる。現在は五段活用に吸収されている。母音語幹動詞。
動詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用形 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
上代 | -ë | -ë | -u | -uru | -ure | -ë(yö) | |||
動詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用形 | |
中古 | 受く | う | け | け | く | くる | くれ | けよ | カ行下二段活用 |
ア行下二段活用は「得(う)」、「心得」、「所得」の三つ、ヤ行下二段活用は「植(う)う」、「飢(う)う」、「据(す)う」の三つのみ。現在は下一段活用に変化した。上代日本語ではエ乙が使われる。母音語幹動詞。
動詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用形 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
上代 | す | 〇 | せ | し | す | する | すれ | せ(よ乙) | |
s | -e | -i | -u | -uru | -ure | -se(yö) | |||
動詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用形 | |
中古 | す | 〇 | せ | し | す | する | すれ | せよ | サ行変格活用 |
「す」、「おはす」とその複合語の活用。いくつかの活用が合流した結果複雑な活用となったと思われる。来との対比や完了の助動詞「り」のついた形が「せり」であることから古くは命令形は「せ」であったと推測される。口語においても文語に近い活用をしている。
動詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用形 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
上代 | 来 | 〇 | こ乙 | き甲 | く | くる | くれ | こ乙 | カ行変格活用 |
k | -ö | -i | -u | -uru | -ure | -ö | |||
動詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | 活用形 | |
中古 | 来 | 〇 | こ | き | く | くる | くれ | こ こよ |
カ行変格活用 |
「来(く)」の一語とその複合語のみの活用。命令形に接尾辞「よ」が無い形が残っている。現代語においても変格活用として他の活用とは異なる活用を起こすが、一部方言では否定形が「きん」、「きいひん」のように連用形と合流することが見受けられる等、活用に揺れがある。また、使用頻度も他の活用と比べて少なく、遠い将来、他の活用との合流を起こす可能性が有る。
活用 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
上代 | ク活用 | -け甲 (-くあら) |
-く (-くあり) |
-し | -き甲 (-くある) |
-け甲 -け甲れ |
||
-ke | -ku | -si | -ki | -ke -kere |
||||
シク活用 | -しけ甲 | -しく | -し | -しき甲 | -しけ甲 -しけ甲れ |
|||
-sike | -siku | -si | -siki | -sike -sikere |
||||
活用 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | ||
中古 | ク活用 | 本活用 | -く | -く | -し | -き | -けれ | |
カリ活用 | -から | -かり | -かる | -かれ | ||||
シク活用 | 本活用 | -しく | -しく | -し | -しき | -しけれ | ||
カリ活用 | -しから | -しかり | -しかる | -しかれ |
形容詞は終止形を除き-kを語幹とする形態ができている。但し、シ系列でも「うまし国」のように連体形となり得る場合もあったし、語幹に「さ」をつけて名詞化する方法もあった。また、上代の時点では、語幹用法や「ミ語法」「ク語法」といった用法があった一方で、カリ活用が未発達であった。動詞と同じく助詞、助動詞をつけるために、連用形に動詞「あり」をつけたカリ活用が中古以降定着した。但し、已然形「けれ」は伝統的に本活用に含まれているが、本来はこれも「あり」の已然形「あれ」が接続した形であると考えられる。
中古以降、連体形で「イ音便」が発達し、その位置を占めた。近畿方言を中心に、連用形でも「ウ音便」が進行し、現代にいたるまで西国全域で一般になっている。東国では発達しなかったものの「ありがとう」「おはよう」「おめでとう」「辛うじて」などの慣用表現などにその影響が見える。
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令系 | |
---|---|---|---|---|---|---|
ナリ活用 | なら | なり に |
なり | なる | なれ | なれ |
タリ活用 | たら | たり と |
たり | たる | たれ | たれ |
形容動詞はもともと助詞「に」や「と」に動詞「あり」が接続したものであり、連用形の一方は活用形というよりも本来の形が表出したものといえる。両者の違いはナリ活用が和語に、タリ活用が漢語に使われることにある。現代ではナリ活用がダ活用に、タリ活用がタルト活用になっている。なお、形容動詞という品詞区分が存在せず、名詞に助詞や助動詞が付属したものとしてとらえる立場もある。
現代語においては、活用が整理されている。まず、以下のようになる。
また、已然形は仮定形に変化していった。
その結果、以下のように整理されることとなった(○は当該活用を行わないことを示す。また、Qは促音を示す。例えば美しいは「美しかった」と過去形にできるが、助動詞「た」の前に来るのは連用形である)。
品詞 | 活用 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 仮定形 | 命令形 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
動詞 | 五段活用 | -a -o |
-i | -u | -u | -e | -e |
上一段活用 | -i | -i | -iru | -iru | -ire | -iro -iyo |
|
下一段活用 | -e | -e | -eru | -eru | -ere | -ero -eyo |
|
下二段活用 | ○ | ○ | -u | -uru | ○ | ○ | |
カ行変格活用 | -o | -i | -uru | -uru | -ure | -oi | |
サ行変格活用 | -i -e -a |
-i | -uru | -uru | -ure | -iro -eyo |
|
形容詞 | -karo | -ku -kaQ -u |
-i | -i | -kere | ○ | |
形容動詞 | ダ型活用 | -daro | -de -daQ -ni |
-da | -na | -nara | ○ |
タルト型活用 | ○ | -to | ○ | -taru | ○ | (-tare) |
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最終更新:2024/12/05(木) 04:00
最終更新:2024/12/05(木) 03:00
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