インフレーション(inflation)とは、物価の上昇と通貨価値の下落が継続的に発生していることを示す経済学の用語である。インフレと略される。対義語はデフレーション(デフレ)。
もともとの意味は膨張する、膨らませるという意味。「すさまじい勢いでの膨張」という意味で別の分野でも使われる(宇宙ヤバイ)。またスラングとして、「無駄に増え過ぎ」「増やせばいいってもんじゃねーぞ!」という意味でも使われる。
需給のバランスが崩れて需要過多・供給過少になったとき、また市場に出回る通貨の量(マネーストック)が過剰になったことによって発生する。
前者は国の荒廃によって物資が不足した場合などに、後者は通貨の増発や政情不安などによって通貨の信用が失われた場合などに発生するようである。
インフレの中で極端なものはハイパー・インフレーションという。
最古では、紀元前三世紀からインフレが確認されている。
インフレーションは、実物資産の名目価値を高め、金融資産の目減りをもたらす。そのため、インフレーションは実物資産や金融負債のある者にとってはプラスとなり、現金や預貯金などの金融資産を有する者にとってはマイナスとなる。
「年間インフレ率○%が10年続いたときに、物価がどれだけ上がり、通貨価値がどれだけ下がるか」というのを示す表を掲載しておく。
| インフレ率 | 物価 | 通貨価値 | 備考 |
| -3% | 0.74倍 | 1.36倍 | デフレ |
| -2% | 0.82倍 | 1.22倍 | デフレ |
| -1% | 0.90倍 | 1.11倍 | デフレ |
| 0% | 1.00倍 | 1.00倍 | |
| 1% | 1.10倍 | 0.91倍 | |
| 2% | 1.22倍 | 0.82倍 | クリーピングインフレ |
| 3% | 1.34倍 | 0.74倍 | クリーピングインフレ |
| 4% | 1.48倍 | 0.68倍 | |
| 5% | 1.63倍 | 0.61倍 | 高度成長期並みインフレ |
| 6% | 1.79倍 | 0.56倍 | 高度成長期並みインフレ |
| 7% | 1.97倍 | 0.51倍 | 高度成長期並みインフレ |
インフレになると通貨価値が下がるので「貯蓄するとお金の価値が下がっていく。それなら、貯蓄よりも土地や株(会社所有権)といったモノを買おう」という考えが広まる。銀行は「貯蓄してもらうため、利子を増やそう」と考えるようになる。
インフレに強いのは不動産(土地・建物)、株(会社所有権)、宝飾品(金塊、宝石)である。インフレになったら同時にそれらの価格が上昇するので、全く平気と言える。ちょっと検索すると財テクに詳しい人が「○はインフレに強い」と語る文章が多数ヒットする(検索例1、検索例2、検索例3、検索例4)
インフレになると、借りたときより借金を返すときの方が通貨の実質的な価値が低くなっているため、返済額が同じであっても実質的には返済額が下がったのと同じことになる。そのためインフレは、既に借金のある者にとってはプラスとなる。
ハンバーガー1個300円の時に300円を借りると、その300円でハンバーガーを1つ買える。借金300円を返すときにインフレになってハンバーガーが1個600円まで値上がりしていたとすれば、金額は同じ300円でも、実質的な返済負担は0.5倍にも減少したことになる。ハンバーガー1つ分の借金に対してハンバーガー0.5つ分の返済をしたことになり、借金した人にとっては得である。
将来的にインフレが予想される場合、上記理由により返済価値の実質的な減少が見込まれるため、「お金をドカンと借りて投資や消費をした方が得だ」と考えるようになり、家計の消費や企業の投資を活発化させる。
インフレーションでは、物価の上昇に伴い賃金も上昇するが、物価の上昇に比べると賃金の上昇は遅れ、また上昇幅も少ないため、労働者の実質賃金は低下する。一方、労働者の実質賃金が低下するため雇用側としては人を雇いやすくなり、失業率は低下する。この失業率が下がることによって利益の分配先が増えることも、賃金の上昇が物価の上昇に比べて抑えられることの原因の一つになっている。結果、インフレーションは現在失業中の者や不安定な雇用者にとってはプラスとなり、既に安定した職についている者にとってはマイナスとなる。
インフレが進んで、安定した職に就いている者が損をした例は、第一次世界大戦の好景気に伴うインフレである。ヨーロッパ諸国から軍需物資の注文が殺到し、造船業などの分野で空前の好景気となって一気に経済成長が進んだが、インフレになり、物価が上がり、賃金労働者は生活苦となった。大戦景気というWikipedia記事には、インフレによる生活苦が記述されている。
インフレにおいては、債権者や安定した職に就いている者が損をして、債務者や失業者が得をする。勝ち組が苦しみ、負け組が勝ち組に追いついていく。
このため、国内の経済格差がじわじわと縮小していき、格差社会が解消されていく傾向がある。
インフレーションを抑制する政策には、金融政策と財政政策がある。また、労働政策や通商政策もインフレ抑制に向けた効果がある。
金融政策は、中央銀行(日本なら日銀、アメリカ合衆国ならFRB)が単独で実行する。
金融引き締めをして、市中銀行の貸出限度額を減らして、世の中に出回る通貨の量(マネーストック)が減るように誘導する。
市中銀行というのは、日銀当座預金の額が少ないほど、貸し出し限度額が少なくなって貸し出ししにくくなる(準備預金制度の記事で解説されている)。
日銀が公開市場操作をして市中銀行に保有国債を売り(売りオペレーション)、市中銀行の日銀当座預金を減らして、市中銀行の貸し出し可能金額を減らす。
日銀が政策金利を引き上げて、市中銀行が日銀当座預金を高い金利で借りる状況にして、市中銀行の日銀当座預金が増えにくい状況にして、市中銀行の貸し出し可能金額が増えにくくなるようにする。政策金利を上げることを利上げという。
ちなみに日銀の政策金利は短期金利に影響を与える。日銀の政策金利の利上げにより、世の中の短期金利がことごとく上がり、借り手にとって厳しくなり、消費が沈静化する。
財政政策は、予算議決権を持つ国会(立法府)と予算編成権・予算執行権を持つ内閣(行政府)が共同で行う。
政府の支出を減らし、公共事業を減らし、公共事業関連の民間企業の売り上げを減らし、その企業の社員の給料を減らして、個人消費を沈静化させる。こうした政策を緊縮財政と呼ぶ。
国債発行額を減らす。
増税して消費の沈静化を図る。とくに、消費意欲の高い貧困層向けの増税が効果的である。なかでも消費税は、消費活動に対する直接的な罰金であり、消費を冷え込ませる強力な力を持っている。
消費の沈静化をはかるため、消費を活発に行う若年層・新婚世帯・子育て世帯への支援をとりやめるか、縮小する。高校教育有償化、大学教育有償化、大学学費の引き上げ、奨学金の金利引き上げ、奨学金の返済義務の免除の停止、結婚した世帯への支援金(結婚新生活支援事業費補助金)の減額、児童手当(子ども手当)の減額、など。
公務員の雇用を減らしたり、政府機関を民営化したりして、安定した収入を持つ人を減らし、消費の沈静化をはかる。
公務員の給与を引き下げる。公務員の給与を引き下げることで、世の中の大企業の給与を引き下げる効果がある。中央政府や地方自治体は、就職市場において大企業と競合しており、優秀な高学歴学生を奪い合っている。中央政府や地方自治体が公務員給与を引き下げることで、大企業は「我々も給与を引き下げることができる。そういうことをしても、優秀な学生が公的職場に流れることはないだろう」と安心するようになり、大企業の賃下げが進んでいく。
国内の人々の労働時間を操作する労働政策も、インフレを抑制する効果がある。
労働基準監督署の人員を減らして世の中の企業への監視が行き届かないようにしたり、労働基準法の適用を緩和したりして、長時間労働を増やし、労働者の余暇を減らし、消費を沈静化させる。「お金はあるけど、仕事が忙しくてお金を使うヒマがない」という状況を作り上げる。
労働基準法が厳格に適用される公的職場(公務員の職場)の雇用を減らす。そうすると、「労働基準法を厳格に守らなくてもいい。そうしても、人的資源が公的職場に流れる心配がない」という気運が世の中全ての企業に広まり、長時間労働が増えて、労働者の余暇が減って、消費が沈静化する。
所得税の累進課税を弱めて、労働意欲を刺激して、「仕事すればするほど金を稼げる」という状況にして、長時間労働を好む社会的風潮を作り上げ、労働者の余暇を減らし、消費を沈静化させる。
インフレを抑制するには、供給の増大を図ればいい。
日本の家電業界では時が経つにつれて生産技術が向上して大量生産が可能となり、商品の値段が次第に下落していくことが多い。それと同じことが一国の経済全体でも起こるとインフレ抑制となる。
最も手っ取り早い供給の増大は、自由貿易の促進である。関税を下げて安価な海外製の製品を大量に輸入すれば、供給が一気に増大してモノが満ちあふれ、物価が下がってインフレが抑制されていく。
インフレが発生すると、中央銀行がなにもしなくても、自然と金利が上昇していく。その結果として、多少ながらもインフレを押さえ込む方向に力が働く。
インフレになると需要が増えるので、市中銀行の貸し出しが増えていく。市中銀行は、貸出限度額を増やすため、銀行間取引市場で他の市中銀行から日銀当座預金を借りようとする。
銀行間取引市場で日銀当座預金を借りようとする方が優勢になり、無担保コール翌日物の金利が上昇していく。世の中の短期金利は無担保コール翌日物の金利を参照にして決まるので、短期金利も上昇していく。すると市中銀行の短期貸し出しの金利が上昇していく。その結果として、多少ながら消費を沈静化する作用が働き、インフレを押さえ込む方向へ進む。また、市中銀行は思うように銀行間取引市場で日銀当座預金を借用できず、貸し出しが伸びず、消費が沈静化していく。
インフレになると需要が増えるので、市中銀行の貸し出しが増えていく。市中銀行は、貸出限度額を増やすため、手持ちの国債を売却して日銀当座預金を得ようとする。
インフレになると通貨価値が下がるので「現在の100万円の方が、将来の100万円よりも価値が高い」という計算が働き、国債市場で機関投資家が国債を売るようになる。
国債が売られると国債の価格が下がり、国債の利回りが上昇する(固定利付債の記事を参照のこと)。つまり、インフレになると国債の利回りが上昇する。
世の中の長期金利は、国債の利回りを参照にして決まる。このためインフレになると長期金利が上昇していく。すると自動車や住宅のローンの金利が上昇していく。その結果として、多少ながら消費を沈静化する作用が働き、インフレを押さえ込む方向へ進む。
過度のインフレが発生すると、中央銀行は人工的に金利を上昇させる。その結果として、インフレを押さえ込む方向に力が働く。
インフレになると需要が増えるので、市中銀行の貸し出しが増えていく。市中銀行は、貸出限度額を増やすため、銀行間取引市場で他の市中銀行から日銀当座預金を借りようとする。
中央銀行は売りオペを行い、銀行間取引市場における日銀当座預金の貸し手をさらに少なくさせる。
銀行間取引市場で日銀当座預金を借りようとする方が圧倒的に優勢になり、無担保コール翌日物の金利が上昇していく。つまり短期金利が上昇する。市中銀行は思うように銀行間取引市場で日銀当座預金を借用できず、貸し出しが伸びず、消費が沈静化していく。
ハイパー・インフレは、外国に占領されるんじゃないかとか革命が発生するんじゃないかといったように通貨発行主体の継続性が疑われた場合に発生しやすい。同時に、戦争などで国土が荒廃して市場に供給される物資そのものが決定的に不足している場合が多い。
このような状態では通貨の信用がほとんど消失し、天文学的額面の紙幣が発行されたり紙幣の重量を測って取引を行うような事態が出来する。これは同時に政府の統治能力が極端に低下していることを意味しており、社会全体が荒廃する結果さらに経済の荒廃が進行する。このような状態ではヤミ経済が横行し物価統計自体が推測に頼らざるを得なくなるようなことも多い。
ハイパーインフレの例としては第一次世界大戦後のドイツや、最近ではジンバブエやベネズエラが有名。第一次世界大戦後のドイツでは、戦争で荒廃し国土の一部を失った上に支払い不能な巨額の賠償金を課されたために極端な財政赤字となったことが発端である。パン一個が1兆マルクに達した、本を買うのに札束をスーツケースにつめていったなどと逸話には事欠かない。
画像検索すると、ハイパーインフレ名物ともいえる札束の画像が見つかる(検索1、検索2、検索3)
史上最も激烈なハイパーインフレに見舞われたのは第二次世界大戦後のハンガリーであるとされており、このときには10垓ペンゲー紙幣が印刷されている(発行はされていない。発行されたのは1垓まで)。
ハイパーインフレの正式な定義は、アメリカの経済学者フィリップ・ケーガンによると「月率50%」となる。月率50%が1年間続くと年率で1万2975%になるので、「年率1万3千%がハイパーインフレ」といわれることが多いのだが、それは正しい表現ではない。
また、国際会計基準ではハイパーインフレを「3年以内に累積100%、物価がちょうど2倍になる」と定義している。例えば、年率26%のインフレが3年続くと、(1×1.26×1.26×1.26=2.000となるので)累積100%となる。ある年が年間15%、次の年が年間20%、その次の年が年間45%となると、(1×1.15×1.20×1.45=2.001となるので)累積100%となる。「年率26%程度のインフレが3年」と憶えておいても良いだろう。
フィリップ・ケーガンの定義は瞬間的な速さを重視するもので、月率のインフレ率データを作成しなければその定義に該当する現象が起きているかどうか分からない。
国際会計基準の定義は3年間通しての持続性を重視するものである。年率のインフレ率データさえあれば、その定義に該当する現象が起きたかどうかを把握できる。
近代化以前の日本において、しばしばインフレーションが発生した記録が残っている。有名なものは江戸時代に荻原重秀が貨幣を改鋳して起こした「元禄・宝永のインフレ」である。
近代化してからもしばしばインフレとなった。この記事で1902年以降の日本のインフレ率が掲載されているので、それに基づいて表を作成する。
| 年 | 年間インフレ率 | 解説 |
| 1946年 | 289.2% | 敗戦直後のインフレ。空襲で生産設備に打撃が与えられ、需要に対して供給が追いつかない状況だった。それに加え、円建てで発行された戦時国債を新規通貨発行で返済していったため、これだけのインフレとなった。 |
| 1918年 | 33.2% | 第一次世界大戦の好景気に伴うインフレ。ヨーロッパ各国から日本に軍需物資の注文が殺到し、需要に対して供給が追いつかなくなってインフレになった。米価も上昇し、大正米騒動が勃発した。 |
| 1974年 | 23.1% | 第1次オイルショックのインフレ。第4次中東戦争の末に産油諸国がOPECを結成し、原油価格を釣り上げた。石油価格が急上昇し、世の中の生産力に打撃が与えられた。 |
| 1951年 | 17.2% | 朝鮮特需のインフレ。1950年に朝鮮戦争が勃発し、朝鮮半島で戦うアメリカ軍からの発注が急増し、需要に対して供給が追いつかなくなった。 |
| 1980年 | 7.8% | 第2次オイルショックのインフレ。産油国イランで革命が起こって原油輸出が止まり、石油価格が急上昇し、世の中の生産力に打撃が与えられた。 |
主なインフレは以上の通りである。「ハイパーインフレは年間26%が3年続くなどして3年以内で物価が2倍になる状態」と国際会計基準が定義しており、それによると敗戦直後のインフレと、1917~1919年のインフレが、ハイパーインフレに該当する。
1940~1942年の3年間は物価が1.94倍、1942~1944年の3年間は物価が1.88倍なので、ハイパーインフレに該当しない。
高度経済成長期のインフレ率は5~7%の範囲に収まっている。昭和末のバブル景気のインフレ率は2~3%と、極めて穏当な水準で推移していた。
2013年3月に日本銀行総裁に黒田東彦が就任して異次元金融緩和を行ったら2014年のインフレ率が2.6%にまで上昇したが、2014年4月に消費税が8%に引き上げられたからか2015年以降のインフレ率が伸び悩んでいる。インフレターゲットを年率2%に設定しているが、達成できていない。
世の中は通貨以外にも様々なインフレに包まれている。
要するに、「ありがたみがどんどん減っていく」と言うこと全般を指す。
急上昇ワード改
最終更新:2025/12/10(水) 17:00
最終更新:2025/12/10(水) 17:00
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