富士見ミステリー文庫とは、富士見書房がかつて発行していたライトノベルのレーベル。
初期にはあまりの地雷率の高さから「存在自体がミステリー」と言われ、いわゆる「LOVE寄せ」などレーベルとしては迷走を続けながらも、それなりに多くの名作・良作を輩出し、読者から色んな意味で愛されたレーベルである。
富士見ミステリー文庫の歴史は2000年11月20日、南房秀久『ハード・デイズ・ナイツ レクイエムは君の―』、あざの耕平『Dクラッカーズ 接触-touch-』、深沢美潮『菜子の冒険 猫は知っていたのかも。』など8タイトルの刊行で幕を開けた。当時はいわゆるミステリーブームの末期の頃であり、それに乗っかる形で富士見ファンタジア文庫の派生レーベルとして誕生したのである。
富士ミスの幕開けから遅れること約1年、角川スニーカー文庫も〈スニーカー・ミステリ倶楽部〉なるレーベルを創設して、ライトノベルと一般ミステリーの中間のような作品を送り出していたが、富士ミスはもっとライトノベル寄りの方向性の作品を送り出していた。
が、ライトノベル的なストーリーやキャラクターの魅力と、ミステリーとしての謎解き要素を両立した作品を書ける作家がそうそういるはずもない。結果、刊行作品は玉石混淆……というかほぼ石ばかりの状態となり(雑破業『なばかり少年探偵団』や谷原秋桜子『激アルバイター・美波の事件簿』など一部で高く評価される作品もあるにはあったが)、「レーベルの存在自体がミステリー」と評されることになる。
そして2002年1月には、自前の新人賞である富士見ヤングミステリー大賞第1回大賞受賞作の深見真『ブロークン・フィスト 戦う少女と残酷な少年』が刊行される。この作品の読者の度肝を抜くトンデモ密室トリックはひとしきり語りぐさとなり、富士見ミステリー文庫=地雷原という認識は広く知れ渡ることとなった。
そんな混迷状態のスタートを切った富士見ミステリー文庫だったが、もちろん作品の全てが地雷だったわけではなく、初期から刊行されていた『Dクラッカーズ』や水城正太郎『東京タブロイド』シリーズなどは一定の評価を得て人気シリーズとなり、レーベルを支えた。太田忠司『レンテンローズ』もヒットし、早見裕司『Mr.サイレント』などが脇を固め、相変わらず地雷率は高かったものの、それなりにラインナップは弾が揃い始める。後に電撃文庫で『9S〈ナインエス〉』で人気を博すことになる葉山透も、ヤングミステリー大賞第1回の最終候補作『ルーク&レイリア 金の瞳の女神』でこのレーベルからデビューし、一定の評価を得た。
2003年1月にはヤングミステリー大賞第2回受賞作家として、師走トオル『タクティカル・ジャッジメント』、時海結衣『業多姫』、上田志岐『ぐるぐる渦巻きの名探偵』が登場。上遠野浩平の『しずるさんシリーズ』も開始し、毎月20日だった発売日を4月から電撃文庫と同じ10日に変更するなど電撃文庫の隣に並べて貰おうという姑息な生き残り策を図り始める。が、電撃文庫と発売日を同じくした結果、電撃文庫にスペースを奪われ棚の隅っこに追いやられてしまうという大失策であったというのがもっぱらの評判。
そんな中、初期からの看板シリーズであった『Dクラッカーズ』はミステリー要素と決別しアクション小説に特化し始めてから非常に高い評価を集め、良い意味で注目を集め始める。そんな流れの中、2003年10月・11月の刊行を休止し、12月、レーベルは大幅なリニューアルを敢行。本家富士見ファンタジア文庫と同様に白枠に区切られていた表紙イラストを裏表紙まで続く1面絵にし、背表紙のデザインも変更、そして「ミステリーの枠に囚われない」と称して帯にでかでかと「L・O・V・E!」の文字を配するという、いわゆる「LOVE寄せ」という本末転倒というかレーベルに「ミステリー」の文字が入ること自体がミステリーになるという方針転換を図る。同時期、『Dクラッカーズ』『東京タブロイド』などが相次いで完結した。
レーベルのリニューアルと前後して、桜庭一樹『GOSICK -ゴシック-』や新井輝『ROOM NO.1301』といったその後のレーベルの看板となる作品に加え、野梨原花南『マルタ・サギーは探偵ですか?』、小林めぐみ『食卓にビールを』、第3回新人賞受賞作から壱乗寺かるた『さよならトロイメライ』などがスタートし、初期を支えた『Dクラッカーズ』『東京タブロイド』と入れ替わるようにラインナップは充実していった。
2004年11月にはのちに直木賞作家となる桜庭一樹の出世作『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』を刊行し評判を呼ぶ。これが呼び水だったのかどうかは不明だが、2006年頃には葉山透『ニライカナイをさがして』、新井輝『さよなら、いもうと。』、鈴木大輔『空とタマ』などの単発読み切りでの良作を多く送り出した。また2006年には新人賞の最終選考からデビューした上月雨音『SHI-NO -シノ-』が人気シリーズとなる。
その一方、中村九郎『ロクメンダイス、』のような賛否両論真っ二つの作品を新人賞から輩出、また『ネコのおと リレーノベル・ラブバージョン』という怪作リレーノベルを生み出すなど、色んな意味でチャレンジ精神旺盛なところを残したレーベルでもあった。
こうして富士ミスはいちライトノベルレーベルとして独り立ちした……に見えたが、もともと「ライトノベル・ミステリー」レーベルとして富士見ファンタジア文庫から派生した富士ミスがミステリーを捨てるということは、すなわち富士見ファンタジア文庫との差別化が困難になるということでもあり、ラインナップの充実に反してレーベルの立ち位置は微妙になっていくことになる。
2007年から、富士ミスは徐々に刊行数が減っていく。『GOSICK』の刊行がストップし、『タクティカル・ジャッジメント』の師走トオルなどの人気作家もシリーズが終わるとともに富士見ファンタジア文庫などに移籍することが多くなり、レーベル全体が縮小、富士見ファンタジア文庫への統合へ舵を切ることになった。
2008年にはヤングミステリー大賞の終了が告知され、『さよならトロイメライ』や後期の人気シリーズであった海冬レイジ『夜想譚グリモアリス』が富士見ファンタジア文庫へ移籍。本格的に富士ミス終了が現実味を帯びる。
そして2009年3月、『SHI-NO』と『ROOM NO.1301』の2作の完結をもって、富士見ミステリー文庫は約8年半の歴史に幕を閉じた。最終的に刊行されたのは全315タイトルであった。
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最終更新:2025/12/13(土) 02:00
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