仏教やキリスト教に派閥があるように、神社にも系列といえるものが存在する。
皆さんのご近所にも神社が複数があったりするかもしれない。
「なんでこんなに近所にあるんだよ。かぶってるよ。まとめろよ。」
と疑問に思うかも知れないが、それはローソンとセブンイレブンがごくごく近所にあるのと同じ理由である。
つまるところ、祀っている神様が違う。よって決してかぶってはいないのだ。(いや、本当にかぶっている場合もあるが)
本記事では、その祀っている神様にはどういうものがあるのかを紹介する。
神社系列をよく理解するためには、勧請(かんじょう)というシステムについて知っておかなければならない。
勧請は分霊ともいい、ある神社の神様のパワーを他の神社に分けることである。
神道教義上、分られたパワーは元の神様のものと全く同じ働きをし、なおかつ元の神様のパワーは一切損なわれない。
上述のような素晴らしい性質を利用して、ある神社を勧請元にして新たな神社が作られたり、或いは既存神社に祭神が追加されたりする。こうして神社の系列が形成されるのであるが、まあフランチャイズのようなものである。
また、本家から勧請しようと、分家筋から勧請しようと神様の力は同じなのだが、せっかくだから有名なところから・・・と思うのは人の性である。というわけで、大抵の系列神社は総本社、宗社とよばれる大元の神社から直接勧請を受ける場合が多い。
例外的なのは八幡神社で、ここは
大分県宇佐神宮 -> 京都府岩清水八幡宮 -> 神奈川県鶴岡八幡宮
という勧請経路になっているが、それぞれ本社、近畿支部、関東支部の役割をはたすことにより、各拠点が多くの神社の勧請元になっている。これは本家である宇佐神宮の地理的な問題もあるかもしれない。
本朝に神社系列数多しといえども、その圧倒的系列神社数で業界に君臨する系列が2つ存在する。
それが稲荷と八幡である。
この稲荷と八幡の両系列は大手系列の中でも突出しており、一部ではスーパーメジャーと呼ばれ穀物業界で言う所のカーギルとADMもかくやという権勢を誇っている。
次いで多いのが伊勢系神明神社、天満宮となり以上4つで全神社の70%以上を占めるのではないだろうか。
以下、4大系列及びその他メジャーな系列について紹介していく。
「それは私のお稲荷さんだ!」という箴言でお馴染み、宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)を祭神とする神社。スーパーメジャー系列の1つ。
とにかく数が多い。多すぎるせいか資料によって1万社単位で数が違う。
パねぇっす。
ここではとりあえず20000社~40000社程度としておくが、個人宅の庭や事業所にあるような邸内社をカウントするならばこんなものでは済まない。日本の神社の3割は稲荷などという都市伝説もあるほどである。
実は神社本庁の調査によると稲荷神社は意外と少なく3000社程度となっているが、これは境内末社や相殿、小規模神社をカウントしなかったためかと思われる。小規模神社が多いのも稲荷の特徴だろう。
古代稲荷神は渡来人秦氏の氏神であった、やがて記紀神話の宇迦之御魂神と習合、神仏習合においては荼枳尼天と習合する。明治期の神仏分離で荼吉尼天は習合から排除され現在は稲荷神=宇迦之御魂神という形で落ち着いてる。ちなみにこの宇迦之御魂神は古事記、日本書紀に出てくるのだが特にエピソードもなく名前しか出ないモブキャラである。
さて、稲荷という名が示す通り稲荷神はもともと農業関係の神様であるが、時代が下るにつれ商業や産業全般の属性が追加されていき、今やオールマイティーな経済産業性能を誇る。江戸時代には通販まがいの勧請システムが確立し爆発的に普及、更にキツネというお馴染みのマスコットキャラクターもあり死角が見えない。まさに庶民の守護神と言えよう。
ちなみにキツネは稲荷神そのものではなく、眷属といって稲荷神の使い、部下であるのでお間違えの無いように 。
京都府伏見稲荷大社が稲荷信仰の総本社と言われる。全国の稲荷神社は伏見から勧請を受けている場合が多い。
通称「はちまん様」、八幡神を祀る神社。系列社は全国で約25000社を数えるスーパーメジャー系列の1つ。
八幡神は仲哀天皇と神功皇后の息子である応神天皇と同一とされたため、たいていの場合八幡神社の主祭神は応神天皇(誉田別尊)となっている。
平安時代までは朝廷、鎌倉以降は武家権力という時の権力層と密接に結びついており非常に政治的な神様でもある。スポンサーが権力層であるせいか個々の系列神社はそれなりの規模を持つ場合が多い。神社本庁の調査によると八幡系の神社数は第一位となっている。
イメージとしては庶民的なお稲荷さんとは対照的にフォーマルでお固い感じ。
軍神ということで御神徳は護国、戦争勝利などの軍事関係なのだが、一般人には関係が薄いため勝負事全般、無病息災、家内安全、セキュリティ関係となっている神社が多い。また、八幡神が鍛冶翁の姿で顕現したという伝説もあり冶金及び火の神、水の神としての属性も持つとされる。明治期、八幡市に日本初の官営製鉄所が作られたのも偶然とは思えない。
八幡神は元々、九州の豪族宇佐氏の氏神だったらしい。御神徳パネェということから朝廷公認となり、中央に進出、その後源氏の守護神として多くの武士にリスペクトされたため全国制覇を成し遂げる。また八幡神は神仏習合の先駆けとなった神様としても有名で、8世紀には東大寺大仏建立に協力した功績により「八幡大菩薩」という神号を受けている。
総本社は大分県宇佐神宮。
また、上述の大分県宇佐神宮、京都府石清水八幡宮、福岡県筥崎宮、神奈川県鶴岡八幡宮の4つをもって俗に三大八幡という。(お察し下さい。)
皇室の祖神である 天照大御神(あまてらすおおみかみ)を祀る神社。
系列社は神明社、皇大神社、天祖神社などの名前が付く場合が多い。通称「お伊勢さん」。
伊勢神宮を宗社とする伊勢信仰の神社は全国で10000~18000社程度が存在し、4大系列の1つとなっている。
国家神道時代においては神社ヒエラルキーの頂点に君臨する伊勢神宮を擁するという、かつての山口組でいえば山健組のような存在。また、現在の神社本庁においても伊勢神宮は神社のトップに位置づけられている。
皇室の祖神、記紀神話での大メジャー神である天照大御神、その本地仏は大日如来と、これでもかというくらい豪華な要素を持つ系列である。
天照大御神が太陽神ということで農業関係者の支持が厚く、江戸時代には新田開発の際に神明神社が建立されるといったことが多かったという。
総本社は三重県伊勢神宮(正式には単に「神宮」) 。
学問の神様として有名な菅原道真公を祀る神社。天神さまとも。4大系列の1つ。
不遇の死を遂げた菅原道真公の霊を「怒っちゃイヤよ?」と鎮めるために創建されたのが天満宮の起源であるが、公が大変に聡明な人物であったためいつのまにか学問の神様ということにされ、現在では学生、受験生に大人気の神社となる。何故だ。
西暦903年に没した人物を祀るため天満宮は西暦10世紀以後の創建となり、6世紀、7世紀、神話時代モノがゴロゴロしている神社業界ではやや新参の部類である。しかしながら、この天満宮系神社が日本全国に10000社前後展開していることを鑑みるに 菅公の御神徳おそるべしと言わざるをえない。
天満宮は日本全国に存在するが、道真公が太宰府で没したことから特に九州地方に多いとされる。
道真公の霊廟である福岡県太宰府天満宮、朝廷による鎮魂社を起源とする京都府北野天満宮が共に総本社とされ、全国の天満宮、天神社、菅原神社の勧請元となっている。
宗像三女神すなわち 田心姫神(たごりひめ)、多岐津姫(たぎつひめ)、市杵嶋姫(いちきしまひめ)の三柱を祀る神社。
三姉妹とは何という・・・・。
誰が長女、次女、三女かは文献によりまちまちなのではっきりとは分からないが、特に市杵嶋姫は人気があり、後世、仏教の弁財天との習合を経てアイドル的存在に成長したという。その人気ゆえに市杵嶋姫だけを祀る神社もある。
海の神様である宗像三女神は、古来より航海安全等の海事関係の神様として崇敬を集めてきた、そのため神社の立地は瀬戸内海沿いを中心に海辺に多い。
宗像三女神は元来、宗像大社の神々であることは確かだが、同じ神を祀る厳島神社が宗像大社からの勧請を契機に創建されたというわけでもないらしい。ここでは宗像三女神系として一緒にしているが厳密な系列は異なる。
宗像神社の総本社は福岡県宗像大社。厳島神社の総本社は広島県厳島神社。
系列神社数は両系列合わせて7000社ほど。
諏訪大明神たる建御名方神(たけみなかたのかみ)とその妻である八坂刀売神(やさかとめのかみ)を祀る神社。通称「諏訪さま」。
もともと諏訪地方には土着神として洩矢神(もりやしん)という神様がいたが、外部から建御名方神が殴りこんできたため戦争になり、負けた洩矢神は国を明け渡したという。
諏訪神社は新潟県、長野県に特に多く分布している。御神徳は狩猟と軍事関係ということで、武士の崇敬を集めた。
諏訪信仰の神社は全国に5000社ほどあり、総本社は長野県諏訪大社である。
疫病、厄除けの神様として須佐之男命(すさのおのみこと)を祀る神社系列。通称は「祇園さん」。
現代では形式上須佐之男命が祭神となっているが、明治期の神仏分離以前は須佐之男と同一視された牛頭天王(ごずてんのう)という神様を表看板にしており、神社の名前も祇園社、牛頭天王社などという名前だった。
この牛頭天王とは一体何かというとイマイチ来歴がはっきりしない神様で、もちろん記紀神話には出てこないし、さりとて仏教関係かというと必ずしもそうでもないらしい。一応、釈迦の生誕地である祇園精舎の守護神という設定がなされており、起源に関する説もいくつかあるのだが、定説は無いようだ。
現在、牛頭天王信仰の神社は八坂神社、津島神社、広峯神社、八雲神社、天王神社、素盞嗚神社、弥栄神社、祇園神社などといった神社名になっている。
京都府八坂神社を総本社とする八坂神社系列が2000社。愛知県津島神社を総本社とする津島神社系列が3000社。
家都御子神(けつみこのかみ)、熊野速玉男神(くまのはやたまおのかみ)、熊野牟須美神(くまのむすみのかみ)を中心とした計12柱の神々である熊野権現を祀る神社。
系列神社は、熊野神社、熊野社、十二所神社などという名前になっている。
山岳信仰、自然信仰を起源とする熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)から勧請を受けた系列社は全国的な分布を示し、その数は3000社弱である。
海神である底筒男命(そこつつおのみこと)、中筒男命(なかつつおのみこと)、表筒男命(うわつつのおのみこと)の住吉三神を祀る神社系列。
通称は「すみよしさん」あるいは「すみよっさん」。
この三神はイザナギが黄泉の国から命からがら脱出したあとの禊において出現した神で、 後にかの有名な神功皇后の三韓征伐に力を貸したというエピソードを持つ。
そのせいか住吉神社には神功皇后も祀られている場合が多い。
海の神様ということで古来より漁師や船乗りからの崇敬が厚かったようである。
系列社は全国2000社あまりを数え、大阪府住吉大社が総本社とされる。
火の神である火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)、別名、火産霊(ほむすび)を祀る神社系列。
放火の神様ではなく防火の神様として信仰されている。
迦具土はイザナギとイザナミの子供として生まれるが、その火の属性ゆえ、出産時に母であるイザナミのアレが燃えてしまう。結果イザナミは死亡するのだが、これに怒った旦那のイザナギは「こんな子はいらん!」と迦具土を殺してしまう。哀れ迦具土の出番はこれだけであった。
秋葉、愛宕共に山岳信仰を端緒とし、修験道、仏教と深く結びついて発展した。
系列神社数は京都府愛宕神社を総本社とする愛宕系が800社、静岡県秋葉山本宮秋葉神社を総本社とする秋葉系が600社程度。
藤原氏の氏神として武甕槌(たけみかづち)、経津主(ふつぬし)、天児屋(あめのこやね)、比売神(ヒメガミ)の四神を祀る神社系列。 この四神を総称して春日神(かすがのかみ)という。
一氏族のための神社という非常にプライベートな起源をもつものの、 藤原氏の荘園や国司任地、春日大社の社領などにポコポコ創建され全国に1000以上の系列社を持つに至る。
さすがは藤原氏である、そのへんの木っ端氏族とは格が違った。
総本社は奈良県春日大社。
埼玉県大宮氷川神社より勧請を受けた神社系列。
祭神は氷川神/須佐之男命。
八坂神社や津島神社も須佐之命を主祭神とする神社系列であるが、氷川神社は土着神である氷川神とその習合神である須佐之男命を祀っているため、牛頭天王とその習合神である須佐之男命を信仰する八坂や津島の祇園信仰とは起源が異なる。
全国で250社程度存在するが、うち約230社は埼玉県(160)と東京都(70)に分布するという超ローカル系列。
江戸幕府初代征夷大将軍徳川家康公を祀る神社。
江戸時代に発生した系列であるため、系列神社の創建は17世紀以降と、神話レベルが珍しくない神社業界ではニワカ非常に若い部類となる。
とはいえ江戸時代には幕府の威光により続々と創建され500社を超える隆盛を示す。しかしながら明治に入ると政府から仕分け対象にされ、数が激減、現代では130社程度となっている。
家康公の霊廟である栃木県東照宮(日光東照宮)を総本社とする。
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最終更新:2025/12/14(日) 02:00
最終更新:2025/12/14(日) 02:00
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