メイケイエール (英:Meikei Yell, 香:齊叫好)とは、2018年生まれの日本の競走馬である。
2021年クラシック世代を代表する狂気の名古屋走りお嬢様アイドル牝馬。
主な勝ち鞍
2020年: 小倉2歳ステークス(GIII)、ファンタジーステークス(GIII)
2021年: チューリップ賞(GII)
2022年: シルクロードステークス(GIII)、京王杯スプリングカップ(GII)、セントウルステークス(GII)
概要・来歴
メイケイエール Meikei Yell / 齊叫好 |
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生年月日 | 2018年2月23日 |
馬種 | サラブレッド |
性・毛色 | 牝・鹿毛 |
生産国 | 日本 |
生産者 | ノーザンファーム (北海道安平町) |
競り価格 | 2600万円 (2019年セレクトセール) |
馬主 | 名古屋競馬株式会社 |
調教師 | 武英智(栗東) |
主戦騎手 | 武豊(-2021.8) 池添謙一(2021.10-) |
馬名意味 | 冠名+応援(英語) |
初出走 | 2020年8月22日 |
抹消日 | 2024年3月27日 |
戦績 | 20戦7勝 [7-0-0-13] |
獲得賞金 | 3億4305万7200円 |
受賞歴 | |
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競走馬テンプレート |
父ミッキーアイル、母シロインジャー、母父ハービンジャーという血統。母名でピンときた人もいるかと思われるが、母の母は白毛馬初の重賞ホースであるユキチャンであり、その母シラユキヒメを祖とする白毛一族と同じファミリーである。もっともメイケイエールは祖父ディープインパクト由来の鹿毛だが。
ちなみに船橋競馬場所属の従兄弟マシンガン(こちらも鹿毛)と共にユキチャンにとって初めての孫世代、シラユキヒメから見ても初めての曾孫世代となる。残念ながらシラユキヒメは曾孫のデビューを見ることなく2019年5月に他界しているが…。
父はマイル・短距離戦線で活躍したディープインパクト産駒でこれが初年度産駒。母父はキングジョージなどを勝って種牡馬として来日、ディアドラやノームコアを輩出しまずまずの成績を収めている。
「メイケイ」の冠名を掲げる馬主の名古屋競馬株式会社は、中京競馬場の施設管理を業務とする企業。唯一外部企業としてレース場をJRAへ貸し出しており、同時に中央競馬の企業馬主も務めるという割と珍しい企業である。
1歳: 天才少女、落札
オーナーの名古屋競馬(株)は2019年のセレクトセールで牡馬を探していたものの、潤沢な資金を持っているわけではなかったために、百万円単位の札束バトルが繰り広げられるセレクトセールではめぼしい牡馬はどれもこれも高額すぎて手が出なかった。そんな折、世話になっていた武英智調教師から「牝馬で一頭…どうしても気になってて、見ていただきたい子がいるんです」と紹介され、同社が(同社にとっては相当大盤振る舞いの)2600万円[1]で競り落としたのがシロインジャーの2018、のちのメイケイエールであった。
この時は係員の指示に問題なく大人しく従う姿を見せていた(下動画の23:38辺りから)。
馬名は同社の伝統で社内公募され、「みんなに応援してもらえる馬になって欲しい」という願いを込めてメイケイエールと名付けられた。そして、彼女は後にその願いをピタリと体現したアイドルホースとなっていく。
2歳: 天才少女、デビュー
2020年8月、福永祐一を鞍上に小倉競馬場でデビュー。新馬戦では行きたがるそぶりは見せたが内枠もあってそれほど極端ではなく、直線はスッと持ち出されて豪脚を披露。1200m戦なのに持ったまま5馬身差をつける圧勝でデビュー勝ちを決める。
続いて同じ舞台の小倉2歳ステークス(GⅢ)では武豊に乗り替わり。前走以上に引っかかった上に大外を回らされたが、直線では再び鋭い末脚を発揮。1番人気モントライゼを難なくかわして重賞初制覇を飾る。
父ミッキーアイル産駒と管理する武英智調教師にとっても初のJRA重賞初制覇となった。
3戦目は地元関西に戻ってのファンタジーステークス(GⅢ)。200mの距離延長となったこのレースもやはり外で派手に引っかかり、早々と先団に進出。しかしまたも直線では手応えの違う脚で後続馬を振り切り3連勝を飾る。この時の勝ち時計は1分20秒1。2歳芝1400mのレコードタイムであった。
4戦目はさらに距離を延長し、遂にGI初挑戦となった阪神ジュベナイルフィリーズ。重賞2勝の実績は上位だったが、距離延長が不安視され3番人気にとどまる。1番人気は同じく重賞2勝を含む3戦全勝、しかも当歳時からの幼馴染かつ同じ白毛一族でこちらはきちんと白毛のソダシであった。
大外枠からのスタートとなったメイケイエール。やはり道中は相当掛かったが、これまでのキャリアの中では比較的スムーズな競馬になった。しかし1600m戦でこのロスは大きく、直線で一時は先頭に立つ勢いだったが最後に脚色が鈍り4着。初黒星を喫した。
3歳: 天才少女、暴走、迷走
牝馬クラシック戦線: チューリップ賞(GⅡ)・桜花賞(GⅠ)
阪神JFでワンツーとなったソダシとサトノレイナスが桜花賞に直行する中、メイケイエールはトライアルのチューリップ賞に出走。気性面の不安は明らかだったが、出走馬のうち重賞ホースは自身のみ。さすがに格が違うとあって1.6倍の断然人気に推される。
最内枠から好スタートを決めた…まではいいのだが、周囲を囲まれるやエキサイト。その掛かりようはこれまでの比ではなく、「ロデオどころか獅子舞」「(馬主の名前から)名古屋走り」とまでコメントされるほどの暴れようを見せる。結局武豊も抑えるのを諦め、3角で先頭に立つめちゃくちゃな競馬に。直線に入った頃には全く手応えがなくなった…かに見えたのだが、後続各馬が追ってきてもなかなか先頭を譲らない。結局内で粘ったエリザベスタワーともつれるようにゴール板を通過。判定の結果1着同着となり、重賞3勝目を手にした。しかしこれで35年連続重賞勝利(!?)となった武豊の表情はさえず、ポテンシャルで勝ったものの、気性面の課題がさらに膨らんだトライアルとなってしまった。
本番の桜花賞。中間に武豊が負傷離脱というアクシデントに見舞われ、代打として癖馬操縦と癖のある騎乗に定評がある横山典弘を鞍上に迎える。気性の不安は尽きなかったが、実力と実績からは見限るわけにもいかず、また「ノリならなんとかするんじゃないか」という期待もあり3番人気に支持される。
またちょうどこの頃、歴代競走馬を擬人化した美少女キャラによるレースゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」が爆発的なブームを起こしており、この話題を受けた名古屋競馬の中西社長が「是非ともメイケイエールもウマ娘に加えて欲しい」と発言。同ゲームのファンからもにわかに注目を浴びることになった。
だがしかし、陣営は当日シャドーロールやメンコ等の矯正馬具を全て外す拘束全解除での出走という奇策にでる。その結果は…レース前から制御不能な状態で、ゲートで立ち上がり出遅れ。さらにノリも早々に諦めるほどの掛かりようでまたも道中先頭に立つ大暴走。直線では早々にガス欠し、最下位18着の大惨敗。おまけにハミ受け不良で調教再審査まで食らい、さすがのノリも「競馬以前の問題」とバッサリ。ずっと囁かれながらなんだかんだ乗り越えていた不安が最悪の形で噴出し、また「ウマ娘」をきっかけに競馬を見始めた初心者には「出遅れ」「掛かり」[2]がどういう状態なのかをまざまざと見せつける結果となってしまい、ネット上では「二重人(馬)格」「エヴァ初号機」「こち亀の本田速人」まで形容されてしまった。
それだけに留まらず、メイケイエールに横からぶつかられ外に押し出される不利を受けて走る気を失い15着に沈む被害を受けたソングラインが、その後次走NHKマイルカップ2着→関屋記念3着→富士ステークス1着と、牡馬や古馬を交えたマイル重賞で連続して好走していることから、「もしソングラインがメイケイエールからの不利を受けていなければ桜花賞での入着、馬券に絡む展開も十分あり得たのでは?」という疑念が持たれるという遺恨を残す結果となってしまった。[3]
スプリント転向、しかし…: キーンランドカップ(GⅢ)・スプリンターズステークス(GⅠ)
桜花賞の結果を受け、陣営はオークス出走を回避しスプリント路線への転向を表明。平地調教再審査も無事にパスし、鞍上には武豊が戻って8月最終週のキーンランドカップ(GⅢ)から再始動することに。折しもこの年の夏競馬ではソダシ、ヨカヨカ、オールアットワンスと同期の3歳牝馬たちが次々に重賞で古馬を撃破する快進撃を続けており、その流れもあってか不安視されつつも実績のある古馬や同期牝馬のレイハリアらを抑えて1番人気に推される。
勝ち負け以前に果たして無事に走ってくれるのか、誰もが期待半分不安半分で見守る中迎えたレース本番だったが…。
結果はゲートで出遅れ、掛かりまくって強引に馬群に割り込み、道中早々に先頭に立った末に直線でガス欠してズルズル後退…と、桜花賞のコピペのようなレース展開で、勝ったレイハリアに0.3秒差をつけられる7着と完敗。武豊の操縦もあってか前走よりかはいくらか落ち着いていたものの、相変わらずの暴れぶりを見せつける結果に終わってしまった。レース後には武豊も「難しい馬。返し馬までは落ち着いていたのに輪乗りで気合が入り過ぎた」と肩を落とすしかなかった。
結果が結果だけにレース直後は陣営も次走の選択に迷うコメントを出していたが、その後予定通りに秋のスプリントGI、スプリンターズステークスへ向かう。凱旋門賞へ発った武の代わりに、鞍上には新たに過去に多くの暴れん坊やじゃじゃ馬を乗りこなしてきた癖馬マイスター・池添謙一を迎えた。また、陣営はメイケイエールに遠くではなく目の前を見させるように、障害レースで活躍する高田潤騎手を呼び出して丸太をまたがさせる練習を始めた。[4]メイケイエールが丸太を担いだわけではない。
夏に同じくスプリント路線で暴れたオールアットワンスとレイハリアは同レースを回避し、ヨカヨカは直前に故障引退。メイケイエールは唯一の3歳牝馬として3枠6番で出走となった。
スタート直後は馬群の後方に控えたように見え、「今日は折り合っている!」と実況にも驚かれるが、実際は外側へ派手な斜行をかまして外枠のタイセイビジョンとエイティーンガールに不利を与えてしまっていた。だがそのまま馬群の大外をブン回し、内有利の馬場と前残りのレース展開で、逃げ粘るモズスーパーフレアと外に持ち出したダノンスマッシュを更にその外から差し切りピクシーナイトの4着に入線。
相変わらずのじゃじゃ馬っぷりを見せつける[5]と共に、GI馬2頭を抑えるその底知れぬポテンシャルを改めて見せつけた。池添は斜行で不利を受けた2頭に詫びつつその気性難を語りながら、「今日の少しの我慢が今後のレースに生きてくれれば」とコメントした。なお斜行被害を受けたエイティーンガール、タイセイビジョンの2頭であるが、京阪杯で1、2着に入っておりソングラインの二の舞を起こしていた。
この後、陣営は年内休養を宣言。メイケイエール3歳の挑戦は4戦1勝で終了した。
4歳: 真面目過ぎる天才少女、覚醒
シルクロードステークス(GⅢ): 復活、そして覚醒の兆し
年が明け、古馬になったメイケイエール。始動戦はGI高松宮記念の前哨戦として、一月末に中京競馬場で行われるシルクロードステークス(GⅢ)が選ばれた。[6]
掛かり癖を考慮して調教では折り返し手綱[7]を使用し、顔にはパシュファイヤー[8]を着用。他にもビットガード[9]を外したり、チェリーローラーハミ[10]を装着するなど馬具に様々な工夫が施された。武英智調教師も「競馬では分からないが、後ろから馬に抜かされてもむきになることがない。」と、精神面の変化についてコメントした。
だがレース前に発表された枠番に、誰もが頭を抱えた。2枠3番。メイケイエールは他馬と走ると暴走してしまうため、陣営やファンは出来るだけ馬群から逃がしやすい外枠を望んでいた。にもかかわらず、ほぼ最内枠を引いてしまったのだ。引き続き鞍上を引き受けた池添謙一騎手もこの時は「できれば外目の枠が欲しかったので『終わった…』と思って…」と、絶望の心境であったとコメントしている。
迎えたシルクロードSの当日、メイケイエールは馬具フル装備の厳つい姿でパドックに現れる。馬具を装備しても相変わらずパドックでは落ち着いていたのが、強制力が強すぎる折り返し手綱だけはレースでは外す…はずだった。集合場所に向かった池添騎手に、陣営から「折り返し手綱を外すかどうかは騎手に任せる」という予想外の一言が飛び出す。池添騎手は困惑しつつ、このレースは高松宮記念の前哨戦でもあったため、折り返し手綱を付けたままレースをすることに決めたのだが、それは発走3分前のことだった。この件について、後に池添騎手は「ここ俺に責任負わせるか?」と苦笑いしつつ語っている。
こうして大きな不安と期待が入り交じる中、シルクロードSがついに発走。その直後、観客から悲鳴にも似た歓声が上がる。なんとメイケイエール、先頭に立つ(!?)。またいつもの如く騎手がコントロールしきれず暴走したと思われたのかもしれない。しかしこれは内枠という課題に対して、「腹を括って馬に任せて流す」という判断を下した池添騎手の狙い通りの展開だった。それに答えたのか、メイケイエールはヨレつつも好スタートを切ると真っ先に馬群を抜け出し、衝突の回避に成功した。池添謙一肝っ玉の采配である。
こうして一度ハナを取ったものの、すぐに外枠から逃げ馬が外から進出。そこで池添騎手が手綱を引くと、なんと指示に従いメイケイエールが抑えたのである(!?)。一度先頭に立って満足したのか、それとも馬具の工夫の成果か、はたまた精神面の成長の成果か。その後も前の馬を追うことも蛇行することも無く(!?)好位3番手で4コーナーを通過。ここで一列外に持ち出した池添が追い出すと、先行馬の間から突き抜け残り100mであっさりと先頭に。そして総崩れする先行馬達との差を1馬身、1馬身半と広げ、殺到する差し馬達に差を詰め切らさせないまま、1馬身差をつけてゴール板を通過。最終直線ではコロナ禍のGⅢとは思えないような歓声が上がっていた。
未だに危うさはあるものの、前走からは見違えるほどの競馬をしたメイケイエール。パトロールビデオでも以前のような他馬への問題行動もなかった(!?)。[11]ゴール直後には鞍上の池添も安堵した表情で天を仰ぎ、インタビューでは「内枠が当たってどうしようかと思ったが腹をくくってレースに行った。行きたがったが、我慢してくれて、ホライゾネットの効果もあって本当に上手に走ってくれたと思います。」と語った。
これまで折り合いが一切付いていなかったであろう彼女であったが、この回は騎手や陣営の努力が実り、初めて明確に折り合いが付いたレースとなった。彼女にとってとても収穫の大きい、約10ヶ月ぶり4回目の重賞制覇となった。
負けて強し、高松宮記念(GI)
久しぶりに白星を上げたメイケイエール。牧場でリフレッシュ後は予定通り春のスプリントGI高松宮記念に直行。シルクロードSにおいて内枠で好走した為か陣営は「枠はどこでも良い」と強気だったが、当日は8枠17番とこれまで渇望していた大外枠から発走となった。
迎えた本番。メイケイエールは前走と同じく好スタート(!?)を切ると、前年のモズスーパーフレアを上回る前半3ハロン33秒4のハイラップで逃げるレシステンシアを後目に外を追走。この日の中京競馬場の芝コースは前日の雨がかさんだ重馬場によって内有利の傾向にあり、このレースにおいても内を狙ってポジション争いをする馬が多い中、大外枠からの発走になってしまった彼女は内に入ろうにも既に埋まっていて入り切れない、苦しい追走となっていた。
迎えた最終直線では途中ヨレたファストフォースの影響で仕掛け遅れるもしぶとく脚を伸ばし、失速したレシステンシアを捉えてなんとか5着に入着した。勝ち馬のナランフレグとは0.1秒差、5着以内はクビハナ差と僅差の決着だった。
外に持ち出した馬が軒並み重い芝に苦しみ伸びあぐねる中で、唯一伸びたのはメイケイエールただ一頭のみ。しかもそんな圧倒的に不利な状況で掲示板に滑り込むという、スプリンターズSと同じく力は示した一戦だった。何よりこのときは(多少は首を上げる仕草を見せたが)前に行く素振りも見せず我慢をしており、これまで以上に折り合ってレースに臨んでいた。そういう意味では今後に期待が持てるレース結果だったと言っても過言ではない。
池添騎手も「力負けはしていない」としつつも、「これも競馬」と悔しさを滲ませた。
京王杯スリリングスプリングカップ(GⅡ)
次走は放牧を挟んで京王杯スプリングカップ。高松宮記念で折り合いがついた走りを見せたので、今後を見据えての1ハロン延長、府中の重賞挑戦とのことだった。武英智師は「レースの内容次第では秋のマイル挑戦もあり得る」とのコメント、また同世代の外ラチ斜行癖の癖馬リフレイムとの初対決など、大いに期待が集まっていた。
メイケイエールの枠の抽選結果は大外の8枠12番と気性的に絶好。そして前走までの実績を加味してか彼女が1番人気で迎えた本番、後に「京王杯スリリングカップ」とまで評されることになる伝説の珍レースの幕が上がる…。
まずゲートが開きスタートが切られる…前にギルデッドミラーが二度立ち上がり出遅れ。それを尻目にちゃんとスタートを切ったリフレイムは先頭で一番手を取り、大外メイケイエールはまずまずのスタートを見せて中団に取りつく…のだがどこか様子がおかしい。
池添騎手が腰を上げて長く手綱を持ち、必死に彼女を抑えているではないか!
前二走は(多少掛かる様子はあったものの)なんとか折り合いをつけていたのだが、それらよりさらに酷く掛かっており、あの武豊がジェットスキー状態になったチューリップ賞を思い出させる有様。それでも池添騎手の手腕と外のコース取りがあってか、彼女は何とか4コーナーを回る頃には折り合いが付き、直線に向いた後は先頭のリフレイムがいつものように外へ外へとヨレていく中追い出して一気に加速し先頭に立つ。ソラを使う場面はあったものの、彼女をマークしていたスカイグルーヴの追撃を半馬身凌ぎ、重賞5勝目。牝馬の京王杯SC勝利は2010年のサンクスノート以来12年ぶり、4歳牝馬の勝利となると2000年のスティンガー以来22年ぶりとなる快挙。そして彼女は馬主の名古屋競馬にとっても歴代トップの賞金を稼いだ所持馬となった。
…とはいえ、距離延長には課題を残す結果になったといえる。「折り合いはどうだったか?」というインタビュアーの質問に対して、池添騎手は息を切らしながら「いやー、キツかったですね」(デジャヴ?)と返し、「ここ2走よりも一番キツかった」「しんどかった」ととても1400mのレース後とは思えないほどげっそりした顔で答えていた。一部で冗談のように言われていた"距離延長したら馬よりも騎手の体力が保たないのでは"という説が現実のものになってしまったのである。当然ながら、レース前に語られていた秋のマイル路線への挑戦はボツに。
猛烈な掛かりから直線向いての強烈な加速、そしてソラを使いつつも再加速して勝つという、メイケイエールの強さと危うさを強烈に示したレースだったと言える。
詳しくは単独記事も参照 → 京王杯スリリングカップ
セントウルステークス(GⅡ)
京王杯SCの勝利で安田記念の優先出走権を獲得したメイケイエールだったが、この後は予定通り放牧へ。二度目の挑戦となるスプリンターズステークスを目標に、秋はセントウルステークスから始動することになった。
そのセントウルS、ブリーダーズカップ・マイルへの出走を見据えて出走してきたソングラインと人気を二分する形になるも、当日はメイケイエールが単勝オッズ1.7倍の圧倒的1番人気に推されることに。
スタートからほどなく、少し掛かりながらも先頭集団4頭のすぐ後ろ5番手につけ、直線に入ると池添騎手の合図で一気に加速。残り200mを過ぎるとファストフォースをかわして先頭に立ち、最後は2馬身半突き放してゴール。中京競馬場が芝の傷みが少ない開幕週で高速決着が出やすい馬場だったこともあり、前半3ハロン32秒5のハイペースと、後半3ハロン32秒9の驚異的な末脚が組み合わさって出されたゴールタイムは1分6秒2。彼女はビッグアーサーが2016年の高松宮記念で出した3歳以上中京芝1200mのコースレコード1分6秒7を0秒5上回る新コースレコードを叩き出したのであった。
前半がハイペースとなったこともあってか、鞍上の池添騎手も「今日は楽でした」と話すほど彼女は道中行きたがる素振りも無かった。そして好位追走から一気に差し切った横綱相撲は圧巻である。
ちなみに、池添騎手は彼女が最近になってゲートを少し嫌がる様子を見せ始めたことには「まぁ…いいんじゃないですか?そこまで迷惑かけてないですし」と一笑しながら答えていた。まるで他馬に迷惑をかけるレベルでゲートを嫌がった馬が居たかのような口ぶりである。
呪いからは逃げられない、スプリンターズステークス(GI)
次走は大目標であるスプリンターズS。今年の高松宮記念覇者ナランフレグをはじめ、3歳勢からはウインマーベル、同じミッキーアイル産駒のナムラクレアと実力馬も揃った。彼女は1番人気に支持された。だが、昨年のホープフルステークスから、JRAの平地GIでは1番人気が1度も勝ててないのだ。
スタートは順調。無事に先行集団に取り付き、4コーナー差し掛かったあたりでは4番手集団にいた。だが、その後大きく失速。終わってみれば上がり600mは16頭中3番目に遅い35秒4。結果として14着に沈んだ。騎手の池添謙一は首をひねりつつ「あえて敗因を挙げるなら中2週」といったのであった。
初めての海外遠征、香港スプリント(G1)
当初、香港スプリントの招待がなかったが、追加招待を受け、受諾。当然、初めての海外競走である。
ところが、2つの問題が発生した。1つ目は香港スプリントでは折り返し手綱が使用できないこと。これはいつか卒業しなければならないものではあったのでそれほど大きな問題ではなかった。もう1つが非常に面倒で、11月26日阪神7レースにて、ロードドミニオンに騎乗していた池添謙一が5着入線後に落馬負傷してしまったことである。こちらはオーストラリアで活躍する名手ジェームズ・マクドナルド騎手に乗り替わることで対応したが、テン乗りの癖馬に対して不安に思う人は多い。発表された枠順は14頭立ての14番と大外であり、スプリント戦と考えるなら大きく不利ではあるが、万が一の事があっても大事になり辛い枠に入ったのは幸いと言えるかもしれない。
迎えた本番ではそれほど出遅れることは無くスタートを切り、後方寄りのポジションに位置取る……と思いきややはり掛かって先団に取りついていった。しかしそこはオーストラリアの名手マクドナルド騎手、手綱を抱えながら折り合わせて3番手をキープしながらコーナーを回って行く。しかし迎えた直線では前を走るサイトサクセスを捉える事が出来ず、そうこうしている内に後方で脚を溜めていた香港勢に差され、最終的には5着と掲示板を確保するに留まった。とはいえ日本馬としては最先着であり、前述した不安要素や不利な要素を考慮すればこれは大健闘と言ってもいいだろう。
5歳: 乙女心を燃やして
繊細な心に傷ついて、高松宮記念(GI)
調教師によれば、5歳になっての初戦は高松宮記念。鞍上は池添謙一に戻った。3枠5番とよい内枠を引いた…ように見えたのだが、この日は雨の不良馬場であった。
道中、やはり掛かったメイケイエール。4コーナーを過ぎ直線に差し掛かった時、前へも横へも抜け出せない。こうなってしまっては勝ち目はなく、ファストフォースがGI制覇するのを遠くで見送る12着へと沈んでいった。
周りが不安になる、安田記念(GI)
香港GⅠチェアマンズスプリントプライズの招待を辞退し、次走はヴィクトリアマイルを予定しているとのことだった。あの大暴走した桜花賞以来のマイル戦、順調に行けば同じ白毛一族のソダシとの久々の対決であると期待されたが、5月11日朝、左前肢にフレグモーネ[12]を発症したことから回避することになった。陣営によれば幸いにして症状は軽度で回復も早いとのことで、在厩のまま調整を行い、安田記念を目標とすることに。ヴィクトリアマイルのあとソダシも向かうとのことで、結局ここで久々の対決がかなうことになった。
なお、出走するメンバーは
- 2021年NHKマイルカップ覇者で、2023年の読売マイラーズカップを制して復活をアピールするシュネルマイスター
- 2022年安田記念覇者で、2023年ヴィクトリアマイルを制しGI2勝目をあげたソングライン
- 2023年大阪杯を制して晴れてGI馬となり、初めて2000m以外の距離に挑むジャックドール
- 2022年マイルチャンピオンシップ覇者で、2023年ドバイターフで5着に入ったセリフォス
- 2020年阪神ジュベナイルフィリーズ・2021年桜花賞・2022年ヴィクトリアマイル覇者で、今年もヴィクトリアマイル2着としたメイケイエールの親戚の白毛馬ソダシ
- 2021年・2022年とフェブラリーステークスを連覇し、2022年にマイルチャンピオンシップ南部杯も制し、2023年サウジカップでは3着として、三度芝へ挑むカフェファラオ
- 2022年高松宮記念覇者ナランフレグ
- 2023年NHKマイルカップ覇者シャンパンカラー
- 2022年NHKマイルカップ覇者ダノンスコーピオン
- 2022年朝日杯フューチュリティステークスを制し、クラシック路線ではなくマイル路線に向かうが2023年NHKマイルカップは12着に惨敗し雪辱を期すドルチェモア
とGI馬10頭が登録し、2023年ダービー卿チャレンジトロフィー覇者のインダストリアが除外1番手となる魔境と化した。そんなレースだが、出遅れてナランフレグと同じように後方からのスタートとなり、15着と惨敗。
前に行くのに体力を使い果たしたか、気持ちが切れてしまったか…と思われていたが、後日、レース中に落鉄、蹄球を負傷していたことが報道された。
新馬具導入、再起なるか、スプリンターズステークス(GI)
安田記念での負傷以来、次走報は明らかにされていなかった。そんな中発売された彼女のファンブック、その記載から彼女の進退についての憶測が巷で囁かれ始めた折、秋のG1戦線開幕となる10月1日に実施されるスプリンターズステークスが復帰戦として発表された。
出走メンバーにはナランフレグやピクシーナイトといったおなじみの強敵に加え、1番人気を受けたナムラクレアのほか、ソダシの全妹ママコチャをはじめとした新世代も加わり早くも激戦の様相を呈していた。
メイケイエールは復帰戦であることや中山コースでの成績が芳しくなかったことから出走馬確定時点では安田記念に続いての2ケタ人気となったが、4枠8番という絶好の枠を手に入れたこともあり最終的には5番人気に推されることになった。新しく導入したエッグバットハッピーターン[13]で調子が良かったことと、枠順確定前に武英師が述べた「枠順次第では折り返し手綱を外してもいい」という発言も注目を集める中、ついにレース当日を迎えたメイケイエールは…
折り返し手綱だけでなく、パシュファイアー、そしてメンコまで外していた。
重賞初出走だった小倉2歳ステークス以来となるフルパージである。(特徴的な白薔薇に見惚れてこの事実を見逃しかけた者もいたことだろう)
さて肝心の競争内容だが、結論から言うと折り合っていた。やや行きたがる素振りこそ見せたが常識の範囲内、好位置へのコース取りも池添騎手に従いスムーズに行い、最終直線でもライバルに負けじと闘争心を燃やして加速を行うなどおよそファンが見たかったすべての行動を行っていた。
コースとの相性不利故か加速が乗り切らず、最終的に先団からは離されてママコチャの5着と敗れはしたが久々の掲示板入り。
ぶっつけ本番だった秘策の成功、そして一時は衰えたなどとも言われた彼女の闘争心は未だ健在であることが確認され、彼女の成長を見せながらの掲示板確保という着順以上に収穫の多いレースとなったのだった。
世界に羽ばたけ BC・フィリー&メアスプリント(GI)
なんと、米サンタアニタパーク競馬場で実施予定のブリーダーズカップへの遠征参加を表明。参加レースは当初芝1,000mのブリーダーズカップ・ターフスプリントとダート1,400m(⁉)のブリーダーズカップ・フィリー&メアスプリントの両睨みとなっていた。しかし、前者は除外対象であったことから、陣営は後者のブリーダーズカップ・フィリー&メアスプリントを選択。ミッキーアイル産駒はダートも得意とすることから注目される一方でダートは初挑戦でしかもアメリカダートは日本の砂主体ではなく土主体。勝負の行方に目が離せない。となったのだが、9頭立てで最下位に沈んでしまった。どうやらダートは合わないようである。
日本に戻ったら、5歳の末ということもあり、次々と世代戦で一緒に走った馬たちが引退していき、2020年阪神ジュベナイルフィリーズを走った馬で、現役を続けるのは彼女しかいなくなってしまった。
6歳: エンドロールへ向けて
メイケイエールの活躍もあり、他の馬にも折り返し手綱がしばしば用いられるようになったが、レース中に金具が外れるといったトラブルが頻発したため、折り返し手綱が禁止になり、もう後戻りはできなくなった。そして、彼女の引退時期も迫ってくるのであった。
やる気を取り戻せ、京都牝馬ステークス(GIII)
国内復帰初戦は京都牝馬ステークス。3番人気に支持されたものの、中団前のほうでレースを進めるも、後ろから上がってくる馬にどんどん抜かれていき、終わってみれば10着に撃沈。とはいえ、前進気勢は失われていなかったか、ガイガイいくようなそぶりは見せており、本番での一撃は期待できる敗北となった。
ラストラン、高松宮記念(GI)
そしてその後、高松宮記念をラストランとして引退することが発表された。この高松宮記念には香港の*ビクターザウィナーも遠征してきて、自らのホームで外国馬を迎え撃つことになった。そして、その当日に引退式が行われることも発表された。
レースは小雨降る重馬場に。そしてその*ビクターザウィナーが逃げる形になり、メイケイエールは中団に。3コーナーから4コーナーで前へ行こうとするが、この日は内の馬場が伸びるような状態。外から走る彼女は懸命に追ってはいたが最後は力尽きて沈んでゆき、結果としてマッドクールの9着に終わった。
それぞれの夢へと 僕らを繋ぐ『YELL』
そして、当日の全レース終了後に引退式が行われた。
なお、G1未勝利馬が引退式を行うのは2002年のダイワテキサス以来で、中京競馬場で引退式が行われることは史上初のことであった。
大寒桜も雨に濡れる悪天候にも関わらず多くのファンが集い、いきものがかりの『YELL』が流れる中、メイケイエールが登場。
式には名古屋競馬の関係者や武英智調教師と厩舎のスタッフ、池添騎手が出席し、厩舎での裏話やその競走生活での苦労話などが話され、時折笑い声が上がる引退式とは思えないような和気あいあいとした雰囲気の中で式は進んだ。
式が終わり、いよいよ別れの時。
ウィナーズサークルを離れ、地下馬道へと入ってゆくメイケイエール。
スタンド前に集ったファンからの多くの「ありがとう」の言葉を受け、メイケイエールはターフを去っていった。
その後3月27日に競走馬登録を抹消。今後はノーザンファームにて繁殖入りする予定である。
古馬戦線でも着々と実績を伸ばし、盛り上がりを見せた2021年クラシック世代。その中でも注目の一頭として人気を集めたメイケイエール。危うさと強さ、そしてアイドル性が同居する、真面目過ぎる天才少女のハラハラドキドキのレースは、多くの人の心に残るであろう。
願わくば彼女の仔が、取ることが出来なかったG1の制覇を果たすことを祈りたい。
気性について
とにかくレースでのお転婆では済まない暴れぶりが印象に残るメイケイエールだが、普段は「大人しくて品のいいお嬢さま」「とにかく真面目で一生懸命」と関係者が口を揃える程大人しい。現に調教再審査を喰らった時は一切問題なく合格しているし、その直後に鞍上の武豊が呆れ口調で「(調教の問題じゃないから)意味ないよこれ」とこぼすぐらいには調教で暴れる事はない。
どうもレース中、他の馬に囲まれた途端に何かのスイッチが入ってしまうバーサーカー気質らしい。
彼女の難しさは何が何でも先頭に立とうとする性格、そして先頭に立ったら立ったで満足してしまうのかソラを使って[14]減速してしまう、大胆に言い換えるならばムキになるあまり"競馬のルール"が飛ぶという真面目さの極端な空回りにある。
無理にでも先頭を取ろうとするタイプにはこれまでもダイタクヘリオスなどが挙げられ、彼らの陣営はそれならばと逃げ・大逃げに徹することで彼らの才能を開花させていった。しかし、彼女はスタートが下手な方なので先頭を取るまでに大きく消耗してしまううえ、先頭を取れたとしてもソラを使ってしまうのでそもそも逃げに回れないという点がレースを難しくしており、バーサーカー気質と合わせて前例のないタイプの気性難となっている。気性難の馬につきものの「蹴り癖注意」を表す尻尾リボンが着いていないことも、一般的な暴れ馬とは訳が違うことを示している証左であり、様々な癖馬を乗りこなしてきた池添騎手をして初めてのタイプと言わしめた。それでも中京芝1200のレコードホルダーなのだから恐ろしい。
ちなみにこの獅子舞仕草は、鞍上が抑えようと手綱を引いた力を左右に振って逃がそうとしている無駄に洗練された無駄のない無駄な動きらしく、騎手が手綱を引き絞っているのに引き絞った感覚を感じないとコメントするほど。なお、そうやって全力で首を振るせいでロクに前を見ていなかったらしく、折り返し手綱でようやく制御可能だったそうな。
また、馬房では怒っているような素振りを見せるが、近付くと甘えてくるツンデレ気質も持ち合わせているらしい[15]。なお、武英智師曰く一番ツンになるのは池添騎手とのこと[16]。
一方で担当の吉田厩務員によればご機嫌斜めの時は歯を鳴らして威嚇してくるそうで、「ツンの強度が…もう少し優しくなってほしいですね」と言われている。それでもいつも耳を絞って怒られていたらしい荻野調教助手よりは間違いなく良好な関係だったと思う。
桜花賞後の制裁を巡る場外乱闘
メイケイエールの馬生を語るにあたっては、2021年桜花賞後の制裁内容を巡って発生した競馬ファン同士の場外乱闘について特記しておかねばならないだろう。
JRAよりメイケイエールに課された制裁は上記項目にあるように平地調教再審査のみであり、それ以上でも以下でもない。またメイケイエール陣営も迷惑をかけた陣営への謝罪行脚と次へ向けた立て直しを粛々と行っていた。
だがこの裁定に不満を表し、メイケイエールへのより重い制裁、具体的には出走停止処分あるいは陣営による自主引退を望む者(以下処罰派と呼称)、処罰派に対して反対しメイケイエールをいかに改善できるかを考える者(擁護派と呼称)の二つの立場から激論を交わすこととなった。両派の意見は主に以下の通り。
〇処罰派
- メイケイエールの危険騎乗とも呼べるレース中の暴走は桜花賞以前からも散見されており、今回ついに他馬が大きく不利を受けるレベル、人馬の命にかかわる多重重大事故と紙一重の事案に発展した。今後一層の悪化は予見されても良化するとは思われない。取り返しのつかない事案を起こす前に引退するべき。
- 牡馬であれば気性が悪い場合であっても去勢手術を行うことで一定の対策とできるが、メイケイエールは牝馬でありその対策は不可能。繁殖牝馬という道もあるのだからそちらへ転向してはどうか。
- レースに予想外は付き物とはいえ、現在の状況に鑑みれば今後メイケイエールと同じレース、近い枠順になった馬及び陣営はレースまでの仕上げにかけた努力をレースごとパーにされてしまうどころか無事に生還できるかも危ぶまざるを得ず、安全を期すためにレース運びを大きく変えざるを得なくなりそうした態度はレース事態に大きな影響を与えるだろう。公正競馬の観点からそれは健全と呼べるのか。
〇擁護派
- 気性難であっても大成した競争馬の例は過去を見ても枚挙に暇がない。ましてメイケイエールは2歳重賞を3勝した有望株であり、この一件をもって判断するのは早計である。
- 調教師だけでなく騎乗した騎手からもメイケイエールのレース外での素行が優良そのものであることが知られている。けじめを付けさせるというならレースだけで暴走してしまう原因を突き止めそれを改善してレースに臨み無事に終えてみせることこそがメイケイエール陣営のけじめのつけ方ではないのか。
- JRAからの制裁は平地調教再審査と確定しておりそれがすべてである。仮にメイケイエールに追加処罰が課されるようなことがあればそれが先例となってしまう。メイケイエールのように才能を予感させ実績を出している”上澄み”側の競走馬ですら気性難が起こしうる事案防止のために引退を余儀なくされるなら、そうでない多数の競走馬や競走馬候補は最初から道が閉ざされてしまうことになる。
処罰派の言い分は言い方こそ言い掛かりのようなものもあったが、桜花賞の内容を踏まえての指摘としてはまっとうな懸念でもあった。一方擁護派においてはメイケイエールがレースで見られる課題点を解決するためにどのようなことが必要かを真剣に論じる向きが見られた。本記事掲示板の最初期のページにも当時の論争の名残がとどめられている。
どこまで行ったところで無責任な場外乱闘でしかないのだが、折しも世間では第三次競馬ブームとも呼ぶべき現象が始まっており、界隈に新たなファン層が多く流入してきたこともあってメイケイエールの去就には関係者・ファン問わず数多くの人の注目と関心が集まり、また論争はさらに活発となった。
ターニングポイントとなったのは2022年シルクロードステークス。
前年のスプリンターズステークスにて池添謙一の登用により掲示板入りを果たしたことで、「もしかすると、もしかするのかもしれない」という希望が高まった状態で迎えたこのGⅢレースにおいて、メイケイエール陣営は試合に勝ち、そして勝負にも勝った。
以来、メイケイエールに対する意見は擁護派が大勢を占めるようになりその後の競馬ファンからの受け入れられ方はご存知の通りである。
記録だけで見ればたかが重賞レースの1勝とも見えるが、この1勝はメイケイエール陣営やメイケイエール信じ続けたファンだけでなく、制御の難しい競走馬を抱える多くの陣営にとっても追い風となったと述べても過言ではないだろう。それほどまでに、メイケイエール陣営がここで勝ち取った1着はこの上なく大きな意味があると信じられるものであった。
折り返し手綱は”魔法の道具”か?
シルクロードステークス以来、メイケイエールの復調に貢献した馬具が折り返し手綱である。
これを使用したことでメイケイエールの制御度合いと戦績が格段に向上したこと、また当初公式レースでの使用が推奨されていなかったこともあり、ファンの中には折り返し手綱を使えば格段に有利になるレギュレーション違反の”魔法の道具”なのではないかと見る向きもあった。実際はどうだったのだろうか。
結論から述べればむしろその逆である。
折り返し手綱とは本来練習用の馬具であり、馬の挙動を大きく制限する(=本来のポテンシャルを大きく損なう)ことで騎手の指示に従いやすくさせるもので拘束具としての意味合いが強いものである。
またこれを使用する騎手の側も本来の手綱とは別に折り返し手綱を加え、片手に2本ずつの手綱を握ることになり、それぞれを場合によって握り替える(当然落とさないように)必要があるため騎乗時の負担が大きく増え、人馬とも全力を出すことが大変困難となる。(メイケイエールの主戦となった三冠ジョッキーかつ大ベテランでもある池添謙一騎手をして騎手への負担が非常に大きいと言わしめた)
実戦で使おうものなら自身の弱体化は必至な上に事故原因にもなりかねないことから使用が推奨されていなかったとみるべきであろう。
事実メイケイエールの一定の成功を受け実戦に折り返し手綱を採用した陣営が複数見られたが必ずしもそれが勝利に貢献したとは限らず、またレース中に折り返し手綱を落としてしまいあわや大事故もあり得たという数度の事故を経て本格的な大事故防止のため公式に使用が禁止された。
メイケイエールが折り返し手綱によって勝利を掴めたのは、ひとえに制限を加えられてなお有り余る本馬の実力と陣営のたゆまぬ努力、そして主戦であった池添謙一の磨かれた知識と経験・制御技術あってのものであった。
備考・余談
- 同じ白毛一族であるソダシはメイケイエールからみて叔従母(いとこおば)にあたる。
- 出身牧場も同じノーザンファームで、当歳時は馬房が隣同士かつ放牧地も同じ、しかもずっと仲良しだったという幼馴染でもある。なお、その放牧地でリードホースを勤めていたのはかのビワハイジであった。
- (普段は)おとなしい気性で調教も真面目に取り組み、レース中も常に前進気勢があるメイケイエールに対し、ソダシは気性が荒く嫌がると徹底して嫌がり、レースにそれほどやる気がない場面も見られるという対照的な面がある。
- 二頭に連日でレースがあると両方勝つというジンクスがあり、2020年9月5日にソダシが札幌2歳ステークスで勝った翌日は小倉2歳ステークスでメイケイエールが勝利し、2022年5月14日の京王杯SCでメイケイエールが勝利した翌日はヴィクトリアマイルでソダシが勝利している。
- テレビ東京のウイニング競馬が京王杯スプリングカップを中継した回のED曲は放課後ティータイムの「GO!GO!MANIAC」だったのだが、その歌詞が暴走癖のメイケイエール(や斜行癖のリフレイム)に符号しており、ツイッターのトレンドになるほど話題に上っていた。
- 獅子舞だのロデオだの言われながらも戦績は[7-0-0-13]と堅実に勝利は重ねていたのだが、1位か馬券外のどちらかと成績はかなり極端。ただ、馬券外でも掲示板入りか撃沈かでだいたい半々なので、なんやかんや賞金はしっかり稼いでいる孝行娘でもある。
- 走法や馬体自体については、騎手・調教師共に「スプリンターのストライドではない」「(折り合いさえ付けば)いくらでも(距離は)伸ばせる」と言及しているが、やはり掛かり癖が大きく足を引っ張っており、短距離以上のレースを走るのは2022年9月の現状では難しいようだ。
- なお、池添騎手は自身のInstagram Liveでファンから「有馬記念は行ける?」と聞かれたとき、「もう(僕の)腕が引きちぎれます、無理です」と返答している。もはや悲鳴
- しかし2023年高松宮記念後、メイケイエール陣営から次走ヴィクトリアマイルに出走予定が明らかにされ、ツイッターでは上の返答を踏まえてか「池添の腕」がトレンド入り。当の池添騎手も「わしのを腕トレンドすな💦」(原文ママ)とツッコミ。
- そして安田記念後、腕は無事だったが手はぶっ壊れたらしく、数日後登板したプロ野球始球式に影響したとか。
- 引退式では馬主の名古屋競馬㈱加藤慎也社長の挨拶で「腕がちぎれそうになりながら」といじられ、一同の笑いを誘った。
- 4歳時、2022年の夏に京都競馬場の第2回アイドルホースオーディションが開催され、10頭が選ばれるSTEP1を無事に通過。STEP2では京王杯スプリングカップでも戦ったリフレイム、「さぁ…頼んだよ」オニャンコポン、Twitterをする馬アフリカンゴールド、黄金旅程ステイゴールドなど、そうそうたる面子と戦い、無事に上位5位のアイドルホースに1位で選出。これで特別仕様のぬいぐるみ制作も決定。なお、特別仕様のプレゼントは100名限定であるが、通常仕様はターフィー通販クラブでも販売が予定されている。
- ちなみに京王杯スプリングカップ仕様のため、パシュファイヤー及び折り返し手綱付きのフルアーマー状態。
- 上述のアイドルホースオーディション期間中に、突如netkeiba.comで特集「メイケイエールの夏休み」がスタート。ネット上では冗談で公職選挙法違反ではとの声もあがった。
- なお特集が好評だったことにより、特集第2弾「メイケイエールの新学期」、特集第3弾「メイケイエールの選抜大会」も発表されている。
- なお特集が好評だったことにより、特集第2弾「メイケイエールの新学期」、特集第3弾「メイケイエールの選抜大会」も発表されている。
- 単独写真集『メイケイエール写真集 一生懸命、全力疾走』も2022年9月16日に発売。
- セレクトセール2022にて「ラファダリの2021」という牝馬が上場された。メイケイエールと同じミッキーアイル産駒の牝馬で、競り落としたのはこれまたメイケイエールと同じ名古屋競馬株式会社である。後に「メイケイアリッサム」と名付けられたこの馬にも期待がかかる。
- netkeibaのインタビュー企画「クセ馬図鑑」で、池添騎手が鞍上を務めた牝馬の話題になった際、メイケイエールは「彼女までなら。結婚はちょっと…」との評価。[17]
- アメリカ遠征の現地調教ではソングラインやデルマソトガケらとともに行動する機会が多い様子。ソングラインとの仲は良好で、またデルマソトガケにとってのお姉さんポジに落ち着いているのだとか。
- ラストランとなった2024年の高松宮記念では、「ベストターンドアウト賞」にメイケイエールが選ばれている。「『最もよく躾けられ、最も美しく手入れされた出走馬を担当する厩務員』の努力を称え表彰する」(JRA公式サイトより)賞であり、メイケイエール陣営が積み上げた努力と愛情の証ともいえるだろう。
血統表
ミッキーアイル 2011 鹿毛 |
ディープインパクト 2002 鹿毛 |
*サンデーサイレンス | Halo |
Wishing Well | |||
*ウインドインハーヘア | Alzao | ||
Burghclere | |||
*スターアイル 2004 鹿毛 |
*ロックオブジブラルタル | *デインヒル | |
Offshore Boom | |||
*アイルドフランス | Nureyev | ||
*ステラマドリッド | |||
シロインジャー 2013 白毛 FNo.2-w |
*ハービンジャー 2006 鹿毛 |
Dansili | *デインヒル |
Hasili | |||
Penang Pearl | Bering | ||
Guapa | |||
ユキチャン 2005 白毛 |
*クロフネ | *フレンチデピュティ | |
*ブルーアヴェニュー | |||
シラユキヒメ | *サンデーサイレンス | ||
*ウェイブウインド |
クロス: *サンデーサイレンス 3×4(18.75%)、*デインヒル 4×4(12.5%)
関連動画
獅子舞の始まり(チューリップ賞)
名古屋走りお嬢様(桜花賞)
↑から一年後
2022年京王杯スプリングカップ(スーパー癖馬大戦)
2022年セントウルステークス
引退式
MAD、解説動画等
関連静画
関連ニコニコQ
関連コミュニティ・チャンネル
関連リンク
関連項目
- 競馬
- 競走馬の一覧
- 2021年クラシック世代
- 名古屋競馬株式会社 - 馬主
- ユキチャン - 祖母
- ダイタクヘリオス - パドックまでは真面目で大人しいが、レースになるとかかって暴走してしまう馬
- タイテエム / アルクトス - 陣営がウマ娘化を逆オファーしている競走馬
- 名古屋走り
- バーサーカー
- トールギス
- 二重人格
- 本田速人
脚注
- *正確にはこれに消費税208万円と保険料40万円が加わって2848万円。
- *いずれも同ゲーム内にレース中の状態異常として登場する。
- *ただし、ソングラインには桜花賞以前より右回り苦手説もあり、「接触がなくとも好走できなかったのでは?」という意見も一部にはある。だがどちらにせよ、桜花賞では接触によりソングラインの気持ちが切れてしまい、本来の力を発揮できなかったということには変わりはない。
- *「メイケイエールに秘策あり!」みんなの投稿ニュース - 2021年9月17日 より引用
- *当然このレース展開にはハミ受け不良による平地調教注意と鞍上池添への戒告処分が下った。
- *本来は京都競馬場で開催される重賞競走だが、京都競馬場の改修にあたり、前年度に引き続き中京競馬場で催された。奇しくも高松宮記念とは同コース。
- *腹帯から「はみ環」を通した特殊な手綱。特に首を上げる癖のある馬に対し、首を下げるよう矯正するために使われる。レース本番では使わない予定だったが、直前になって池添騎手と厩務員の相談の結果、着用したままシルクロードSに挑むことになった。
- *馬具の一種。ホライゾネットともいう。メンコに似た外観で、目穴のところにメッシュのあるカップがついている。レース中に跳ねる砂や異物が目に当たるのを嫌がる馬などに使うのが一般的だが、視界を遮る効果もあるため、走りに集中させる目的で使われる事もある。
- *馬具の一種。ハミ身に装着するゴムの頬当てで、口を開けた際にハミが口内に入ってしまうような馬や口角が傷ついている馬に使われるが、気が強い馬や口向きに問題ある馬に使うと逆に引っ掛かる危険性がある。
- *ハミ身にさくらんぼのような形をした甘味のするローラーが付いている特殊なハミ。このローラーのおかげで唾液の分泌が促され、馬が心地よくハミを受け入れる効果がある。ハミに敏感な馬に有効。
- *なおスタート直後に隣枠のルッジェーロに何度かぶつかってはいたが、このタイミングでの接触はよくあることのため、あまり問題視されない。
- *蜂窩織炎。細菌による皮下組織の化膿性疾患で、治療には抗生剤や抗炎症薬の投与を行う
- *ハミ環が口角への当たりが柔らかくなる形状になっており、ハミ身にはスウィートアイアンという、舌が触れると甘さを感じる金属を用いたハミ。
- *馬が走るのに集中していない状態のこと。
- *東京スポーツ『【シルクロードS】“危うさをはらんだ馬”メイケイエール 暴走ではなく「どんな馬にも負けたくない!」の頑張り屋さん/トレセン発秘話』2022年1月28日(金)記事より引用
- *BS11「BSイレブン競馬中継」2022年9月11日放送分より
- *なお、結婚するならカレンチャン。スイープトウショウは彼女でもキツいとの評。
親記事
子記事
- なし
兄弟記事
- ソダシ
- リフレイム
- ダノンザキッド
- エフフォーリア
- ユーバーレーベン
- シャフリヤール
- ピクシーナイト
- バスラットレオン
- タイトルホルダー(競走馬)
- ファインルージュ
- ステラヴェローチェ
- ソングライン
- ジャックドール
- フライトライン
- バーイード
- アリーヴォ
- シャマル(競走馬)
- EST(競馬)
- テーオーロイヤル
- ロマンチックウォリアー
- カリフォルニアスパングル
- レモンポップ
- レベルスロマンス
- ドバイオナー
- イグナイター(競走馬)
- プログノーシス
- スルーセブンシーズ
- マイネルグロン
- ディヴィーナ
- アイコンテーラー
- ペプチドナイル
- ローレルリバー
- インペラトリス
- テンハッピーローズ
- ヴォイッジバブル
- ノースブリッジ(競走馬)
- ブレークアップ
- ディクテオン
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