メイケイエール(英:Meikei Yell, 香:齊叫好)とは、2018年生まれの日本の競走馬である。
2021年クラシック世代を代表する狂気の名古屋走りお嬢様アイドル牝馬。
主な勝ち鞍
2020年: 小倉2歳ステークス(GIII)、ファンタジーステークス(GIII)
2021年: チューリップ賞(GII)
2022年: シルクロードステークス(GIII)、京王杯スプリングカップ(GII)、セントウルステークス(GII)
概要・来歴
メイケイエール Meikei Yell / 齊叫好 |
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生年月日 | 2018年2月23日 |
馬種 | サラブレッド |
性・毛色 | 牝・鹿毛 |
生産国 | 日本![]() |
生産者 | ノーザンファーム![]() (北海道安平町) |
競り価格 | 2600万円 (2019年セレクトセール) |
馬主 | 名古屋競馬株式会社 |
調教師 | 武英智(栗東) |
主戦騎手 | 武豊(-2021.8) 池添謙一(2021.10-) |
馬名意味 | 冠名+応援(英語) |
戦績 | 14戦7勝 [7-0-0-7] |
獲得賞金 | 3億1306万円 (2022年9月現在) |
受賞歴 | |
競走馬テンプレート |
父ミッキーアイル、母シロインジャー、母父ハービンジャーという血統。母名でピンときた人もいるかと思われるが、母の母は白毛馬初の重賞ホースであるユキチャンであり、その母シラユキヒメを祖とする白毛一族と同じファミリーである。もっともメイケイエールは祖父ディープインパクト由来の鹿毛だが。ちなみに船橋競馬場所属の従兄弟マシンガン(こちらも鹿毛)と共にユキチャンにとって初めての孫世代、シラユキヒメから見ても初めての曾孫世代となる。
父はマイル・短距離戦線で活躍したディープインパクト産駒でこれが初年度産駒。母父はキングジョージなどを勝って種牡馬として来日、ディアドラやノームコアを輩出しまずまずの成績を収めている。
「メイケイ」の冠名を掲げる馬主の名古屋競馬株式会社は、中京競馬場の施設管理を業務とする企業。唯一外部企業としてレース場をJRAへ貸し出しており、同時に中央競馬の企業馬主も務めるという割と珍しい企業である。
1歳: 天才少女、落札
オーナーの名古屋競馬(株)は2019年のセレクトセールで牡馬を探していたものの、潤沢な資金を持っているわけではなかったために、百万円単位の札束バトルが繰り広げられるセレクトセールではめぼしい牡馬はどれもこれも高額すぎて手が出なかった。そんな折、世話になっていた武英智調教師から「牝馬で一頭…どうしても気になってて、見ていただきたい子がいるんです」と紹介され、同社が(同社にとっては相当大盤振る舞いの)2600万円[1]で競り落としたのがシロインジャーの2018、のちのメイケイエールであった。
この時は係員の指示に問題なく大人しく従う姿を見せていた(下動画の23:38辺りから)。
馬名は同社の伝統で社内公募され、「みんなに応援してもらえる馬になって欲しい」という願いを込めてメイケイエールと名付けられた。そして、彼女は後にその願いをピタリと体現したアイドルホースとなっていく。
2歳: 天才少女、デビュー
2020年8月、福永祐一を鞍上に小倉競馬場でデビュー。新馬戦では行きたがるそぶりは見せたが内枠もあってそれほど極端ではなく、直線はスッと持ち出されて豪脚を披露。1200m戦なのに持ったまま5馬身差をつける圧勝でデビュー勝ちを決める。
続いて同じ舞台の小倉2歳ステークス(GⅢ)では武豊に乗り替わり。前走以上に引っかかった上に大外を回らされたが、直線では再び鋭い末脚を発揮。1番人気モントライゼを難なくかわして重賞初制覇を飾る。
父ミッキーアイル産駒と管理する武英智調教師にとっても初のJRA重賞初制覇となった。
3戦目は地元関西に戻ってのファンタジーステークス(GⅢ)。200mの距離延長となったこのレースもやはり外で派手に引っかかり、早々と先団に進出。しかしまたも直線では手応えの違う脚で後続馬を振り切り3連勝を飾る。この時の勝ち時計は1分20秒1。2歳芝1400mのレコードタイムであった。
4戦目はさらに距離を延長し、遂にGI初挑戦となった阪神ジュベナイルフィリーズ。重賞2勝の実績は上位だったが、距離延長が不安視され3番人気にとどまる。1番人気は同じく重賞2勝を含む3戦全勝、しかも当歳時からの幼馴染かつ同じ白毛一族でこちらはきちんと白毛のソダシであった。
大外枠からのスタートとなったメイケイエール。やはり道中は相当掛かったが、これまでのキャリアの中では比較的スムーズな競馬になった。しかし1600m戦でこのロスは大きく、直線で一時は先頭に立つ勢いだったが最後に脚色が鈍り4着。初黒星を喫した。
3歳: 天才少女、暴走、迷走
牝馬クラシック戦線: チューリップ賞(GⅡ)・桜花賞(GⅠ)
阪神JFでワンツーとなったソダシとサトノレイナスが桜花賞に直行する中、メイケイエールはトライアルのチューリップ賞に出走。気性面の不安は明らかだったが、出走馬のうち重賞ホースは自身のみ。さすがに格が違うとあって1.6倍の断然人気に推される。
最内枠から好スタートを決めた……まではいいのだが、周囲を囲まれるやエキサイト。その掛かりようはこれまでの比ではなく、「ロデオどころか獅子舞」「(馬主の名前から)名古屋走り」とまでコメントされるほどの暴れようを見せる。結局武豊も抑えるのを諦め、3角で先頭に立つめちゃくちゃな競馬に。直線に入った頃には全く手応えがなくなった……かに見えたのだが、後続各馬が追ってきてもなかなか先頭を譲らない。結局内で粘ったエリザベスタワーともつれるようにゴール板を通過。判定の結果1着同着となり、重賞3勝目を手にした。しかしこれで35年連続重賞勝利(!?)となった武豊の表情はさえず、地力の差で勝ったには勝ったものの、気性面の課題がさらに膨らんだトライアルとなってしまった。
本番の桜花賞。中間に武豊が負傷離脱というアクシデントに見舞われ、代打として癖馬操縦と癖のある騎乗に定評がある横山典弘を鞍上に迎える。気性の不安は尽きなかったが、実力と実績からは見限るわけにもいかず、また「ノリならなんとかするんじゃないか」という期待もあり3番人気に支持される。
またちょうどこの頃、歴代競走馬を擬人化した美少女キャラによるレースゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」が爆発的なブームを起こしており、この話題を受けた名古屋競馬の中西社長が「是非ともメイケイエールもウマ娘に加えて欲しい」と発言。同ゲームのファンからもにわかに注目を浴びることになった。
だがしかし、陣営は当日シャドーロールやメンコ等の矯正馬具を全て外す拘束全解除での出走という奇策にでる。その結果は……レース前から制御不能な状態で、ゲートで立ち上がり出遅れ。さらにノリも早々に諦めるほどの掛かりようでまたも道中先頭に立つ大暴走。直線では早々にガス欠し、最下位18着の大惨敗。おまけにハミ受け不良で調教再審査まで食らい、さすがのノリも「競馬以前の問題」とバッサリ。ずっと囁かれながらなんだかんだ乗り越えていた不安が最悪の形で噴出し、また「ウマ娘」をきっかけに競馬を見始めた初心者には「出遅れ」「掛かり」[2]がどういう状態なのかをまざまざと見せつける結果となってしまい、ネット上では「二重人(馬)格」「エヴァ初号機」「こち亀の本田速人」まで形容されてしまった。それだけに留まらず、メイケイエールに横からぶつかられ外に押し出される不利を受けて走る気を失い15着に沈む被害を受けたソングラインが、その後次走NHKマイルカップ2着→関屋記念3着→富士ステークス1着と、牡馬や古馬を交えたマイル重賞で連続して好走していることから、「もしソングラインがメイケイエールからの不利を受けていなければ桜花賞での入着、馬券に絡む展開も十分あり得たのでは?」という疑念が持たれるという遺恨を残す結果となってしまった。[3]
スプリント転向、しかし……: キーンランドカップ(GⅢ)・スプリンターズステークス(GⅠ)
桜花賞の結果を受け、陣営はオークス出走を回避し、スプリント路線への転向を表明。平地調教再審査も無事にパスし、鞍上には武豊が戻って8月最終週のキーンランドカップ(GⅢ)から再始動することに。折しもこの年の夏競馬ではソダシ、ヨカヨカ、オールアットワンスと同期の3歳牝馬たちが次々に重賞で古馬を撃破する快進撃を続けており、その流れもあってか不安視されつつも実績のある古馬や同期牝馬のレイハリアらを抑えて1番人気に推される。
勝ち負け以前に果たして無事に走ってくれるのか、誰もが期待半分不安半分で見守る中迎えたレース本番だったが……。
結果はゲートで出遅れ、掛かりまくって強引に馬群に割り込み、道中早々に先頭に立った末に直線でガス欠してズルズル後退……と、まるで桜花賞の再現のようなレース展開で、勝ったレイハリアに0.3秒差をつけられる7着と完敗。武豊の操縦もあってか前走よりかはいくらか落ち着いていたものの、相変わらずの暴れぶりを見せつける結果に終わってしまった。レース後には武豊も「難しい馬。返し馬までは落ち着いていたのに輪乗りで気合が入り過ぎた」と肩を落とすしかなかった。
結果が結果だけにレース直後は陣営も次走の選択に迷うコメントを出していたが、その後予定通りに秋のスプリントGI、スプリンターズステークスへ向かう。凱旋門賞へ発った武の代わりに、鞍上には新たに過去に多くの暴れん坊やじゃじゃ馬を乗りこなしてきた癖馬マイスター・池添謙一を迎えた。また、陣営はメイケイエールに遠くではなく目の前を見させるように、障害レースで活躍する高田潤騎手を呼び出して丸太をまたがさせる練習を始めた。[4]メイケイエールが丸太を担いだわけではない。
夏に同じくスプリント路線で暴れたオールアットワンスとレイハリアは同レースを回避し、ヨカヨカは直前に故障引退。メイケイエールは唯一の3歳牝馬として3枠6番で出走となった。
スタート直後は馬群の後方に控えたように見え、「今日は折り合っている!」と実況にも驚かれるが、実際は外側へ派手な斜行をかまして外枠のタイセイビジョンとエイティーンガールに不利を与えてしまっていた。だがそのまま馬群の大外をブン回し、内有利の馬場と前残りのレース展開で、逃げ粘るモズスーパーフレアと外に持ち出したダノンスマッシュを更にその外から差し切りピクシーナイトの4着に入線。
相変わらずのじゃじゃ馬っぷりを見せつける[5]と共に、GI馬2頭を抑えるその底知れぬポテンシャルを改めて見せつけた。池添は斜行で不利を受けた2頭に詫びつつその気性難を語りながら、「今日の少しの我慢が今後のレースに生きてくれれば」とコメントした。なお斜行被害を受けたエイティーンガール、タイセイビジョンの2頭であるが、京阪杯で1、2着に入っておりソングラインの二の舞を起こしていた。
この後、陣営は年内休養を宣言。メイケイエール3歳の挑戦は4戦1勝で終了した。
4歳: 真面目過ぎる天才少女、覚醒
シルクロードステークス(GⅢ): 復活、そして覚醒の兆し
年が明け、古馬になったメイケイエール。始動戦はGI高松宮記念の前哨戦として、一月末に中京競馬場で行われるシルクロードステークス(GⅢ)が選ばれた。[6]
掛かり癖を考慮して調教では折り返し手綱[7]を使用し、顔にはパシュファイヤー[8]を着用。他にもビットガード[9]を外したり、チェリーローラーハミ[10]を装着するなど馬具に様々な工夫が施された。武英智調教師も「競馬では分からないが、後ろから馬に抜かされてもむきになることがない。」と、精神面の変化についてコメントした。
だがレース前に発表された枠番に、誰もが頭を抱えた。2枠3番。メイケイエールは他馬と走ると暴走してしまうため、陣営やファンは出来るだけ馬群から逃がしやすい外めの枠を望んでいた。にもかかわらず、ほぼ最内の枠を引いてしまったのだ。引き続き鞍上を引き受けた池添謙一騎手もこの時は「できれば外目の枠が欲しかったので『終わった……』と思って……」と、絶望の心境であったとコメントしている。
迎えたシルクロードSの当日、メイケイエールは馬具フル装備の厳つい姿でパドックに現れる。馬具を装備しても相変わらずパドックでは落ち着いていたのが、強制力が強すぎる折り返し手綱だけはレースでは外す……はずだった。集合場所に向かった池添騎手に、陣営から「折り返し手綱を外すかどうかは騎手に任せる」という予想外の一言が。池添騎手は困惑しつつ、このレースは高松宮記念の前哨戦でもあったため、折り返し手綱を付けたままレースをすることに決めたのだが、それは発走3分前のことだった。この件について、後に池添騎手は「ここ俺に責任負わせるか?」と苦笑いしつつ語っている。
こうして大きな不安と期待が入り交じる中、シルクロードSがついに発走。その直後、観客から悲鳴にも似た歓声が上がる。なんとメイケイエール、先頭に立つ(!?)。またいつもの如く騎手がコントロールしきれず暴走したと思われたのかもしれない。しかしこれは内枠という課題に対して、「腹を括って馬に任せて流す」という判断を下した池添騎手の狙い通りの展開だった。それに答えたのか、メイケイエールはヨレつつも好スタートを切ると真っ先に馬群を抜け出し、衝突の回避に成功した。池添謙一肝っ玉の采配である。
こうして一度ハナを取ったものの、すぐに外枠から逃げ馬が外から進出。そこで池添騎手が手綱を引くと、なんと指示に従いメイケイエールが抑えたのである(!?)。一度先頭に立って満足したのか、それとも馬具の工夫の成果か、はたまた精神面の成長の成果か。その後も前の馬を追うことも蛇行することも無く(!?)好位3番手で4コーナーを通過。ここで一列外に持ち出した池添が追い出すと、先行馬の間から突き抜け残り100mであっさりと先頭に。そして総崩れする先行馬達との差を1馬身、1馬身半と広げ、殺到する差し馬達に差を詰め切らさせないまま、1馬身差をつけてゴール板を通過。最終直線ではコロナ禍のGⅢとは思えないような歓声が上がっていた。
未だに危うさはあるものの、前走からは見違えるほどの競馬をしたメイケイエール。パトロールビデオでも以前のような他馬への問題行動もなかった(!?)。[11]ゴール直後には鞍上の池添も安堵した表情で天を仰ぎ、インタビューでは「内枠が当たってどうしようかと思ったが腹をくくってレースに行った。行きたがったが、我慢してくれて、ホライゾネットの効果もあって本当に上手に走ってくれたと思います。」と語った。
これまで折り合いが一切付いていなかったであろう彼女であったが、この回は騎手や陣営の努力が実り、初めて明確に折り合いが付いたレースとなった。彼女にとってとても収穫の大きい、約10ヶ月ぶり4回目の重賞制覇となった。
負けて強し、高松宮記念(GI)
久しぶりに白星を上げたメイケイエール。牧場でリフレッシュ後は予定通り春のスプリントGI高松宮記念に直行。シルクロードSにおいて内枠で好走した為か陣営は「枠はどこでも良い」と強気だったが、当日は8枠17番とこれまで渇望していた大外枠から発走となった。
迎えた本番。メイケイエールは前走と同じく好スタート(!?)を切ると、前年のモズスーパーフレアを上回る前半3ハロン33秒4のハイラップで逃げるレシステンシアを後目に外を追走。この日の中京競馬場の芝コースは前日の雨がかさんだ重馬場によって内有利の傾向にあり、このレースにおいても内を狙ってポジション争いをする馬が多い中、大外枠からの発走になってしまった彼女は内に入ろうにも既に埋まっていて入り切れない、苦しい追走となっていた。
迎えた最終直線では途中ヨレたファストフォースの影響で仕掛け遅れるもしぶとく脚を伸ばし、失速したレシステンシアを捉えてなんとか5着に入着した。勝ち馬のナランフレグとは0.1秒差、5着以内はクビハナ差と僅差の決着だった。
外に持ち出した馬が軒並み重い芝に苦しみ伸びあぐねる中で、唯一伸びたのはメイケイエールただ一頭のみ。しかもそんな圧倒的に不利な状況で掲示板に滑り込むという、スプリンターズSと同じく力は示した一戦だった。何よりこのときは(多少は首を上げる仕草を見せたが)前に行く素振りも見せず我慢をしており、これまで以上に折り合ってレースに臨んでいた。そういう意味では今後に期待が持てるレース結果だったと言っても過言ではない。
池添騎手も「力負けはしていない」としつつも、「これも競馬」と悔しさを滲ませた。
京王杯スリリングスプリングカップ(GⅡ)
次走は放牧を挟んで京王杯スプリングカップ。高松宮記念で折り合いがついた走りを見せたので、今後を見据えての1ハロン延長、府中の重賞挑戦とのことだった。武英智師は「レースの内容次第では秋のマイル挑戦もあり得る」とのコメント、また同世代の外ラチ斜行癖の癖馬リフレイムとの初対決など、大いに期待が集まっていた。
メイケイエールの枠の抽選結果は大外の8枠12番と気性的に絶好。そして前走までの実績を加味してか彼女が1番人気で迎えた本番、後に「京王杯スリリングカップ」とまで評されることになる伝説の珍レースの幕が上がる……。
まずゲートが開きスタートが切られる……前にギルデッドミラーが二度立ち上がり出遅れてしまう。それを尻目にちゃんとスタートを切ったリフレイムは先頭で一番手を取り、大外メイケイエールはまずまずのスタートを見せて中団に取りつく……のだがどこか様子がおかしい。
池添騎手が腰を上げて長く手綱を持ち、必死に彼女を抑えているではないか!
前二走は(多少掛かる様子はあったものの)なんとか折り合いをつけていたのだが、それらよりさらに酷く掛かっており、あの武豊がジェットスキー状態になったチューリップ賞を思い出させるような走行状態であった。それでも池添騎手の手腕と外のコース取りがあってか、彼女は何とか4コーナーを回る頃には折り合いが付き、直線に向いた後は先頭のリフレイムがいつものように外へ外へとヨレていく中追い出して一気に加速し先頭に立つ。ソラを使う場面はあったものの、彼女をマークしていたスカイグルーヴの追撃を半馬身凌ぎ、重賞5勝目。牝馬の京王杯SC勝利は2010年のサンクスノート以来12年ぶり、4歳牝馬の勝利となると2000年のスティンガー以来22年ぶりとなる快挙。そして彼女は馬主の名古屋競馬にとっても歴代トップの賞金を稼いだ所持馬となった。
……とはいえ、距離延長には課題を残す結果になったといえる。「折り合いはどうだったか?」というインタビュアーの質問に対して、池添騎手は息を切らしながら「いやー、キツかったですね」(デジャヴ?)と返し、「ここ2走よりも一番キツかった」「しんどかった」とげっそりした顔で答えていた。一部で冗談のように言われていた"距離延長したら馬よりも先に騎手の体力が保たないのでは"という説が現実のものになってしまったのである。当然ながら、レース前に語られていた秋のマイル路線への挑戦は立ち消えとなってしまった。
猛烈な掛かりから直線向いての強烈な加速、そしてソラを使いつつも再加速して勝つという、メイケイエールの強さと危うさを強烈に示したレースだったと言える。
詳しくは単独記事も参照 → 京王杯スリリングカップ
セントウルステークス(GⅡ)
京王杯SCの勝利で安田記念の優先出走権を獲得したメイケイエールだったが、この後は予定通り放牧へ。二度目の挑戦となるスプリンターズステークスを目標に、秋はセントウルステークスから始動することになった。
そのセントウルS、ブリーダーズカップ・マイルへの出走を見据えて出走してきたソングラインと人気を二分する形になるも、当日はメイケイエールが単勝オッズ1.7倍の圧倒的1番人気に推されることに。
スタートからほどなく、少し掛かりながらも先頭集団4頭のすぐ後ろ5番手につけ、直線に入ると池添騎手の合図で一気に加速。残り200mを過ぎるとファストフォースをかわして先頭に立ち、最後は2馬身半突き放してゴール。中京競馬場が芝の傷みが少ない開幕週で高速決着が出やすい馬場だったこともあり、前半3ハロン32秒5のハイペースと、後半3ハロン32秒9の驚異的な末脚が組み合わさって出されたゴールタイムは1分6秒2。彼女はビッグアーサーが2016年の高松宮記念で出した3歳以上中京芝1200mのコースレコード1分6秒7を0秒5上回る新コースレコードを叩き出したのであった。
前半がハイペースとなったこともあってか、鞍上の池添騎手も「今日は楽でした」と話すほど彼女は道中行きたがる素振りも無かった。そして好位追走から一気に差し切った横綱相撲は圧巻である。
ちなみに、池添騎手は彼女が最近になってゲートを少し嫌がる様子を見せ始めたことには「まぁ…いいんじゃないですか?そこまで迷惑かけてないですし」と一笑しながら答えていた。まるで他馬に迷惑をかけるレベルでゲートを嫌がった馬が居たかのような口ぶりである。
呪いからは逃げられない、スプリンターズステークス(GI)
次走は大目標であるスプリンターズS。今年の高松宮記念覇者ナランフレグをはじめ、3歳勢からはウインマーベル、同じミッキーアイル産駒のナムラクレアと実力馬も揃った。彼女は1番人気に支持された。だが、昨年のホープフルステークスから、JRAの平地GIでは1番人気が1度も勝ててないのだ。
スタートは順調。無事に先行集団に取り付き、4コーナー差し掛かったあたりでは4番手集団にいた。だが、その後大きく失速。終わってみれば上がり600mは16頭中3番目に遅い35秒4。結果として14着に沈んだ。騎手の池添謙一は首をひねりつつ「あえて敗因を挙げるなら中2週」といったのであった。
初めての海外遠征、香港スプリント(G1)
当初、香港スプリントの招待がなかったが、追加招待を受け、受諾した。当然、初めての海外競走である。
ところが、2つの問題が発生した。1つ目は折り返し手綱が使用できないこと。これはどこかで卒業しなければならないものではあったのでそれほど大きな問題ではなかった。もう1つの問題が非常に面倒で、11月26日阪神7レースにて、ロードドミニオンに騎乗していた池添謙一が5着入線後に落馬負傷してしまったことである。こちらはオーストラリアで活躍する名手ジェームズ・マクドナルド騎手に乗り替わることで対応したが、テン乗りの癖馬に対して不安に思う人は多い。発表された枠順は14頭立ての14番と大外であり、スプリント戦と考えるなら大きく不利ではあるが、万が一の事があっても大事になり辛い枠に入ったのは幸いと言えるかもしれない。
迎えた本番ではそれほど出遅れることは無くスタートを切り、後方寄りのポジションに位置取る……と思いきややはり掛かって先団に取りついていった。しかしそこはオーストラリアの名手マクドナルド騎手、手綱を抱えながら折り合わせて3番手をキープしながらコーナーを回って行く。しかし迎えた直線では前を走るサイトサクセスを捉える事が出来ず、そうこうしている内に後方で脚を溜めていた香港勢に差され、最終的には5着と掲示板を確保するに留まった。とはいえ日本馬としては最先着であり、前述した不安要素や不利な要素を考慮すればこれは大健闘と言ってもいいだろう。
調教師によれば、5歳になっての初戦は高松宮記念を予定しているとのこと。鞍上は池添謙一に戻る予定。
古馬戦線でも着々と実績を伸ばし、盛り上がりを見せる2021年クラシック世代。その中でも注目の一頭として人気を集めるメイケイエール。危うさと強さ、そしてアイドル性が同居する、真面目過ぎる天才少女のハラハラドキドキのレースはこれからも続く。
気性について
とにかくレースでのお転婆では済まない暴れぶりが印象に残るメイケイエールだが、普段はそんな様子は全く無いらしく、関係者は「大人しくて品のいいお嬢さま」「とにかく真面目で一生懸命」と口を揃えている。現に調教再審査を喰らった時は一切問題なく合格しているし、その直後に鞍上の武豊が呆れ口調で「(調教の問題じゃないから)意味ないよこれ」とこぼすぐらいには調教で暴れる事はない。
どうやらレース本番で他の馬に囲まれた途端に何かのスイッチが入ってしまうバーサーカー気質のようである。
彼女の難しさは何が何でも先頭に立とうとする性格、そして先頭に立ったら立ったで満足してしまうのかソラを使って[12]減速してしまう、大胆に言い換えるならばムキになるあまり"競馬のルール"が飛んでしまうという真面目さの極端な空回りにある。
無理にでも先頭を取ろうとする気性の馬はこれまでもダイタクヘリオスなどが居り、彼らの陣営はそれならばと逃げ・大逃げに徹することで彼らの才能を開花させていった。しかし、彼女はスタートがそこまで上手くないので先頭を取るまでに大きく消耗してしまううえ、先頭を取れたとしてもソラを使ってしまうのでそもそも逃げに回れないという点がレースを難しくしており、バーサーカー気質と合わせてこれまで居なかったタイプの気性難となっている。気性難の馬につきものの「蹴り癖注意」を表す尻尾リボンが着いていないことも、一般的な暴れ馬とは訳が違うことを示している証左である。
後に池添謙一騎手が明言した所によると、獅子舞と言われる程の首を左右に振り回す仕草は鞍上が抑えようと手綱を引いた力を左右に振りながら逃がしていると言う状況であり、騎手ですら手綱を引き絞っているのに引き絞った感覚を感じないと言う無駄に高等テクニックを使用している。挙句の果てにはそうやって全力で左右に首を振るせいで一切前を見ていないと言う状態であり、折り返し手綱を付ける事でようやく制御が可能であるとの事。
また、馬房では怒っているような素振りを見せるが、近付くと甘えてくるというツンデレ気質も持ち合わせているらしい[13]。なお、武英智師曰く一番ツンになるのは池添騎手とのこと[14]。
備考・余談
- 同じ白毛一族であるソダシはメイケイエールからみて叔従母(いとこおば)にあたる。
- 出身牧場も同じノーザンファームで、当歳時は馬房が隣同士かつ放牧地も同じ、しかもずっと仲良しだったという幼馴染でもある。なお、その放牧地でリードホースを勤めていたのはかのビワハイジであった。
- (普段は)おとなしい気性で調教も真面目に取り組み、レース中も常に前進気勢があるメイケイエールに対し、ソダシは気性が荒く嫌がると徹底して嫌がり、レースにそれほどやる気がない場面も見られるという対照的な面がある。
- 二頭に連日でレースがあると両方勝つというジンクスがあり、2020年9月5日にソダシが札幌2歳ステークスで勝った翌日は小倉2歳ステークスでメイケイエールが勝利し、2022年5月14日の京王杯SCでメイケイエールが勝利した翌日はヴィクトリアマイルでソダシが優勝している。
- テレビ東京のウイニング競馬が京王杯スプリングカップを中継した回のED曲は放課後ティータイムの「GO!GO!MANIAC」だったのだが、その歌詞が暴走癖のメイケイエール(や斜行癖のリフレイム)に符号しており、ツイッターのトレンドになるほど話題に上っていた。
- 獅子舞だのロデオだの言われながらも2022年12月時点での戦績は[7-0-0-7]と堅実に勝利は重ねているのだが、1位か馬券外かのどちらか(しかもほぼ半々)と成績はかなり極端。
- 走法や馬体自体については、騎手・調教師共に「スプリンターのストライドではない」「(折り合いさえ付けば)いくらでも(距離は)伸ばせる」と言及しているが、やはり掛かり癖が大きく足を引っ張っており、短距離以上のレースを走るのは2022年9月の現状では難しいようだ。
- 4歳時、2022年の夏に京都競馬場の第2回アイドルホースオーディションが開催され、10頭が選ばれるSTEP1を無事に通過
。STEP2では京王杯スプリングカップでも戦ったリフレイム、「さぁ…頼んだよ」オニャンコポン、Twitterをする馬アフリカンゴールド、黄金旅程ステイゴールドなど、そうそうたる面子と戦い、無事に上位5位のアイドルホースに1位で選出
。これで特別仕様のぬいぐるみ制作も決定。なお、特別仕様のプレゼントは100名限定であるが、通常仕様はターフィー通販クラブでも販売が予定されている。
- 単独写真集『メイケイエール写真集 一生懸命、全力疾走
』も2022年9月16日に発売。
- セレクトセール2022にて「ラファダリの2021
」という牝馬が上場された。メイケイエールと同じミッキーアイル産駒の牝馬で、競り落としたのはこれまたメイケイエールと同じ名古屋競馬株式会社である。新たなメイケイを冠する名が付けられるであろう馬にも、期待がかかる。
血統表
ミッキーアイル 2011 鹿毛 |
ディープインパクト 2002 鹿毛 |
*サンデーサイレンス | Halo |
Wishing Well | |||
*ウインドインハーヘア | Alzao | ||
Burghclere | |||
*スターアイル 2004 鹿毛 |
*ロックオブジブラルタル | *デインヒル | |
Offshore Boom | |||
*アイルドフランス | Nureyev | ||
*ステラマドリッド | |||
シロインジャー 2013 白毛 FNo.2-w |
*ハービンジャー 2006 鹿毛 |
Dansili | *デインヒル |
Hasili | |||
Penang Pearl | Bering | ||
Guapa | |||
ユキチャン 2005 白毛 |
*クロフネ | *フレンチデピュティ | |
*ブルーアヴェニュー | |||
シラユキヒメ | *サンデーサイレンス | ||
*ウェイブウインド |
クロス: *サンデーサイレンス 3×4(18.75%)、*デインヒル 4×4(12.5%)
関連動画
獅子舞の始まり(チューリップ賞)
馬具全解放で暴れ放題(桜花賞)
↑から一年後
2022年京王杯スプリングカップ(スーパー癖馬大戦)
2022年セントウルステークス
MAD、解説動画等
関連ニコニコQ
関連コミュニティ・チャンネル
関連商品
関連リンク
関連項目
- 競馬
- 競走馬の一覧
- 2021年クラシック世代
- 名古屋競馬株式会社 - 馬主
- ユキチャン - 祖母
- ダイタクヘリオス - パドックまでは真面目で大人しいが、レースになるとかかって暴走してしまう馬
- タイテエム / アルクトス - 陣営がウマ娘化を逆オファーしている競走馬
- 名古屋走り
- バーサーカー
- トールギス
- 二重人格
- 本田速人
脚注
- *正確にはこれに消費税208万円と保険料40万円が加わって2848万円。
- *いずれも同ゲーム内にレース中の状態異常として登場する。
- *ただし、ソングラインには桜花賞以前より右回り苦手説もあり、「接触がなくとも好走できなかったのでは?」という意見も一部にはある。だがどちらにせよ、桜花賞では接触によりソングラインの気持ちが切れてしまい、本来の力を発揮できなかったということには変わりはない。
- *「メイケイエールに秘策あり!」みんなの投稿ニュース - 2021年9月17日
より引用
- *当然このレース展開にはハミ受け不良による平地調教注意と鞍上池添への戒告処分が下った。
- *本来は京都競馬場で開催される重賞競走だが、京都競馬場の改修にあたり、前年度に引き続き中京競馬場で催された。奇しくも高松宮記念とは同コースである。
- *腹帯から「はみ環」を通した特殊な手綱。特に首を上げる癖のある馬に対し、首を下げるよう矯正するために使われる。レース本番では使わない予定だったが、直前になって池添騎手と厩務員の相談の結果、着用したままシルクロードSに挑むことになった。
- *馬具の一種。ホライゾネットともいう。メンコに似た外観で、目穴のところにメッシュのあるカップがついている。レース中に跳ねる砂や異物が目に当たるのを嫌がる馬などに使うのが一般的だが、視界を遮る効果もあるため、走りに集中させる目的で使われる事もある。
- *馬具の一種。ハミ身に装着するゴムの頬当てで、口を開けた際にハミが口内に入ってしまうような馬や口角が傷ついている馬に使われるが、気が強い馬や口向きに問題ある馬に使うと逆に引っ掛かる危険性がある。
- *ハミ身にさくらんぼのような形をした甘味のするローラーが付いている特殊なハミ。このローラーのおかげで唾液の分泌が促され、馬が心地よくハミを受け入れる効果がある。ハミに敏感な馬に有効。
- *なおスタート直後に隣枠のルッジェーロに何度かぶつかってはいたが、このタイミングでの接触はよくあることのため、あまり問題視されない。
- *馬が走るのに集中していない状態のこと。
- *東京スポーツ『【シルクロードS】“危うさをはらんだ馬”メイケイエール 暴走ではなく「どんな馬にも負けたくない!」の頑張り屋さん/トレセン発秘話
』2022年1月28日(金)記事より引用
- *BS11「BSイレブン競馬中継」2022年9月11日放送分より
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