日本国憲法第28条とは、日本国憲法第3章(国民の権利・義務)に存在する条文である。
憲法第28条は勤労者に対し、団結する権利(団結権)、団体交渉をする権利(団体交渉権)、その他の団体行動をする権利(団体行動権)を保障している。この3つの権利を労働三権という。
憲法第28条は勤労者に対して権利を保障している。日本国憲法第3章(国民の権利・義務)のなかで権利を保障する対象が「人」とか「国民」ではないのは第28条と第37条だけである。
労働三権の主体である勤労者は、労働組合法第3条で定義される労働者に当たり、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者」とされる[1]。公務員が勤労者に含まれるか否かについては消極説もあるが、判例は一貫して積極説の立場に立つ[2]。
19世紀、資本主義経済が発展する中で、労働者は低賃金・長時間労働などの劣悪な労働条件や失業のために厳しい生活を余儀なくされた。労働者と使用者(雇用主)の間の力の差のために、労働者は不利な立場に立たざるをえない。そのため、劣位にある労働者を使用者と対等の立場に立たせることを目的として、日本国憲法第28条により労働三権を保障している。さらに日本国憲法第27条で労働者の権利を保障し、第27条と第28条で労働基本権(広義)を保障している。
労働三権の内容は次の通りである。
1.の団結権は、日本国憲法第21条で保障される「結社の自由」の1つであるが、その中の労働組合結成権のみを指す。労働組合法第2条で労働組合が定義されており、労働者が労働条件の維持改善や経済的地位の向上を目指して結成する団体が労働組合であり、共済事業や福利事業のみを目的とする団体は労働組合ではなく、主として政治運動又は社会運動を目的とする団体は労働組合ではない。
1.の団結権は、団体としての意思を形成し行動する自由(団体自体の自由)を含み、団体内部の問題に公権力や使用者が不当に介入することを禁じるものであり、労働組合法第7条第3号でそのことが明示されている[3]。さらに、労働組合の構成員に対して合理的な範囲内において労働組合の指導者が服従を求めるという内部統制権も団結権に含まれる[4]。
2.の団体交渉権の中には、労働組合が使用者と合意して労働協約を結ぶ権利(労働協約締結権)が含まれる。労働協約は「職場の憲法」とも言われるほど効力が強く、労働協約に反する労働契約[5]や就業規則[6]が無効となる(労働組合法第16条、労働基準法第92条第1項)。労働協約の最長期間は3年である(労働組合法第15条)。
3.の団体行動権は争議権(争議行為を行う権利)と組合活動権(労働組合が争議行為以外の活動をする権利)で構成されるが、中核となるのは常に争議権である。このため「憲法第28条の労働三権は団結権と団体交渉権と争議権である」と表現することも多い[7]。
3.の団体行動権の中の組合活動権で保障される組合活動は、印刷物を回し読みすること、公園などで集会を開いてシュプレヒコールを上げること(「権利をがんばって主張するぞ~」「おぉ~」などと大声を上げること)、デモ行進をすること、などが例である。
労働三権は、国に対し労働者の「人間に値する生存」を保障する措置を要求する社会権[8]としての側面と[9]、それを制限するような立法その他の国家行為を禁止する自由権[10]としての側面を併せ持つ。
労働三権を具体的に保障するため、労働基準法・労働組合法・労働関係調整法のいわゆる労働三法が制定されている。
また、憲法第28条は労使の対等の実現や労働者の権利の保護を目的とする条規であるため、憲法第28条によって公営企業や官公庁の使用者だけでなく民間企業の使用者にも労働者の労働三権を尊重する義務が課せられる。つまり、憲法第28条は私人と私人の関係(私人間)において直接適用される。このことについては私人間効力論の記事も参照のこと。
日本の公務員は、団体行動権の中の争議権が一律に剥奪されている。罰則が厳しいものから並べると次のようになる。
争議行為を否定する法規 | 違反したときの罰則 | |
防衛出動命令を受けた自衛隊員(自衛官) | 自衛隊法第64条第2項、第122条第1号 | 7年以下の懲役又は禁錮 |
治安出動命令を受けた自衛隊員(自衛官) | 自衛隊法第64条第2項、第120条第1号 | 5年以下の懲役又は禁錮 |
いつもの自衛隊員(自衛官) | 自衛隊法第64条第2項、第119条第3号 | 3年以下の懲役又は禁錮 |
国家公務員の中のいわゆる非現業 | 国家公務員法第98条第2項、第111条の2第1号 | 3年以下の禁錮又は100万円以下の罰金 |
地方公務員の中のいわゆる非現業 | 地方公務員法第37条第1項、第62条の2 | 3年以下の禁錮又は100万円以下の罰金 |
地方公営企業の職員(地方公務員の中のいわゆる現業) | 地方公営企業等の労働関係に関する法律第11条第1項、第12条 | 解雇 |
行政執行法人の職員(身分は国家公務員) | 行政執行法人の労働関係に関する法律第17条第1項、第18条 | 解雇 |
特定地方独立行政法人の職員(身分は地方公務員) | 地方公営企業等の労働関係に関する法律第11条第1項、第12条 | 解雇 |
国会または地方議会に議決された予算に従って公権力の行使に関わる公務員を非現業の公務員という。非現業公務員の争議行為に対する罰則は3年以下の禁錮又は100万円以下の罰金で、厳しい。
国会または地方議会に議決された予算に従って権力を行使せずに財・サービスの提供をする公務員を現業の公務員という。地方公営企業の職員(地方公務員)や、かつての三公社五現業の内の五現業に関わる国家公務員が、現業公務員の典型例である。これらの争議行為に対する罰則は最高でも解雇である[11]。
主務大臣(監督官庁の大臣)または設立団体の長に認可された予算に従って財・サービスの提供をする公務員は行政執行法人職員(身分は国家公務員[12])と特定地方独立行政法人職員(身分は地方公務員[13])である。これらの公務員は、厳密に言うと現業公務員ではない。これらの争議行為に対する罰則は最高でも解雇である。
1925年に制定された治安維持法は労働運動を弾圧できる法律だった。
敗戦直後の1945年10月15日にGHQが治安維持法を廃止し、労働運動を許可した。そして労働組合法が1945年12月21日に国会で可決され、1946年3月1日に施行された。治安部門の公務員に対して労働三権を否定したものの、非現業公務員や現業公務員や公社職員に対して労働三権を認めて争議行為を許可した。
続いて労働関係調整法が1946年9月20日に国会で可決され1946年10月13日に施行された。非現業公務員に対して争議権を剥奪したが、現業公務員や公社職員に対する争議権の容認は続けられた。
しかし1947年2月1日にむけて国鉄の労働組合がゼネラル・ストライキ(二・一ゼネスト)を計画していたところ、それを察知したGHQが中止を命じた。そしてGHQの意を受けた芦田均内閣は1948年7月31日に政令201号を発して現業公務員の争議行為を禁止した。さらには国家公務員法・地方公務員法・公共企業体労働関係法などで現業公務員や公社職員(三公社五現業)の争議行為がすべて禁止されていった。
三公社五現業に対する争議行為の禁止は、1970年代の国鉄における順法闘争やスト権ストの実施理由となった。
21世紀現在も日本の公務員は一律で争議行為を禁止されている。
日本において、「治安部門に属する公務員」以外の公務員は団結権を保障されている。
ただし、公務員は労働組合に加入しない権利(消極的労働組合結成権)を認められていて、オープン・ショップ制となっている。国家公務員法第108条の2第3項や地方公務員法第52条第3項や行政執行法人の労働関係に関する法律第4条第1項や地方公営企業等の労働関係に関する法律第5条第1項によってそう定められている。
このため公務員の労働組合は使用者に対して「我々から除名された労働者が一定の期間を過ぎたあとにいずれの労働組合にも加入しないようなら、使用者はその労働者を解雇すべき」といった労働協約を結ぶことができず、組合員に対して「首脳部の言うことを聞けないのなら除名して、解雇に近づけてやる」ということができず、内部統制権が弱くなりがちで、労働組合としての組織力が弱くなりがちである。
ちなみに日本の民間企業の労働組合はたいていがユニオン・ショップ制になっている。「我々から除名された労働者が一定の期間を過ぎたあとにいずれの労働組合にも加入しないようなら、使用者はその労働者を解雇すべき」といった労働協約を結んでおり、内部統制権が強く、労働組合としての組織力がやや強い。
日本において、「治安部門に属する公務員」以外の公務員は団体交渉権を保障されている。
ただし、非現業公務員(国会または地方議会に議決された予算に従って公権力の行使に関わる公務員)は、使用者の管理・運営について団体交渉を行うことができず、労働協約締結権も持っていない。国家公務員法第108条の5第2項~第3項や地方公務員法第55条第2項~第3項によってそう定められている。
一方で、現業公務員(国会または地方議会に議決された予算に従って権力を行使せず財・サービスの提供をする公務員)は、使用者の管理・運営について団体交渉を行うことができないが、労働協約締結権を持っている。地方公営企業等の労働関係に関する法律第7条第1項によってそう定められている。
また、行政執行法人職員や特定地方独立行政法人職員のように、主務大臣(監督官庁の大臣)や設立団体の長に認可された予算に従って財・サービスの提供をする公務員も、使用者の管理・運営について団体交渉を行うことができないが、労働協約締結権を持っている。行政執行法人の労働関係に関する法律第8条第1項や地方公営企業等の労働関係に関する法律第7条第1項によってそう定められている。
ちなみに民間企業の労働組合は、使用者の管理・運営について団体交渉を行うことができ、労働協約締結権も持っている。
分かりやすく表にすると次のようになる。
使用者の管理・運営について団体交渉する権利 | 労働協約締結権 | |
非現業公務員(国会または地方議会に議決された予算に従って公権力の行使に関わる公務員) | × | × |
現業公務員(国会または地方議会に議決された予算に従って権力を行使せず財・サービスの提供をする公務員) | × | ○ |
行政執行法人職員や特定地方独立行政法人職員(主務大臣や設立団体の長に認可された予算に従って財・サービスの提供をする公務員) | × | ○ |
民間企業の労働者 | ○ | ○ |
日本において、自衛官・海上保安官・刑務官・入国警備官・警察官・消防士といった治安部門に属する公務員は、団結権を否定されており、その結果として労働三権をすべて否定される。
団結権が許されず労働組合が存在しないのだから、団体交渉権や「団体行動権の中の組合活動権」も発生しない。
治安部門に属する公務員の団結権を否定する法規と罰則は次のようになっている。
団結権を否定する法規 | 違反したときの罰則 | |
自衛隊員(自衛官) | 自衛隊法第64条第1項、第119条第2号 | 3年以下の懲役又は禁錮 |
海上保安庁において勤務する職員(海上保安官) | 国家公務員法第108条の2第5項と第110条第20号 | 3年以下の禁錮又は100万円以下の罰金 |
刑事施設において勤務する職員(刑務官) | ||
警察職員(警察官)の国家公務員 | ||
入国警備官 | 出入国管理及び難民認定法第61条の3の2第4項、国家公務員法第108条の2第5項と第110条第20号 | 3年以下の禁錮又は100万円以下の罰金 |
警察職員(警察官)の地方公務員 | 地方公務員法第52条第5項 | |
消防職員(消防士) |
治安部門に属する公務員は、国民の生命・財産の保護や社会の治安の維持に直接的に携わるためにきびしい服務規律を要求される。
しかし、労働組合は本来的に労働者・使用者の対抗関係を前提とするものである。このため労働組合の構成員であることは実際問題として上司との対抗関係を構築することを意味する。
ゆえに、上司の命令に絶対的に服従することを特に要求される職場では、労働組合の結成そのものを認める余地がないとされている。
治安部門に属する公務員のなかで、自衛官・海上保安官・刑務官・入国警備官・「警察官の中の国家公務員」といった国家公務員には労働組合の代わりとして人事院というものが用意されており、労働待遇に問題があると考えるときは人事院に相談することができる。
また「警察官の中の地方公務員」・消防士といった地方公務員には労働組合の代わりとして人事委員会または公平委員会というものが用意されており、労働待遇に問題があると考えるときは人事委員会または公平委員会に相談することができる。
日本国憲法 | |
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第1章 天皇 | 1 2 3 4 5 6 7 8 |
第2章 戦争の放棄 | 9 |
第3章 国民の権利及び義務 | 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 |
第4章 国会 | 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 |
第5章 内閣 | 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 |
第6章 司法 | 76 77 78 79 80 81 82 |
第7章 財政 | 83 84 85 86 87 88 89 90 91 |
第8章 地方自治 | 92 93 94 95 |
第9章 改正 | 96 |
第10章 最高法規 | 97 98 99 |
第11章 補則 | 100 101 102 103 |
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最終更新:2025/04/19(土) 04:00
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