ヒカルイマイ 単語


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ヒカルイマイ

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ヒカルイマイとは、1968年生まれの競走馬。1971年の春の二冠馬である。

物凄い成り上がり物語の持ち主として有名。

主な勝ち鞍
1971年:皐月賞(八大競走)、東京優駿(八大競走)、きさらぎ賞、NHK杯

概要

父シプリアニ 母セイシュン 母父ヴィーノーピュローという血統。

この血統がまず酷い。いや、父のシプリアニはヒカルイマイ誕生時点では無名だったが、その後トウメイの父ともなり現在では名種牡馬として評価されているからまぁ、良いとしよう。問題はセイシュンである。この馬、地方競馬で未勝利である上、五代母にミラ(競走馬)を持つ、いわゆるサラ系だったのだ。つまり、ヒカルイマイはサラブレッドと認められないサラ系馬として誕生したのである。

生まれたところも酷い。なんか貧乏農家が片手間にサラブレッドも育てていますみたいなところだったそうな。生まれてからもほったらかし。放し飼い。馴致なんて知らんという状態。

見栄えも悪く、気性も荒く、セリに出したものの当然主取り。つまり売れん。仕方なく肉屋に売られる寸前に、なぜか買いたいという人が現れてぎりぎりヒカルイマイは競走馬になる事が出来た。しかもその時、肋骨がくぼんでいるからと言い値の200万円から50万円も値切られた上、デビューできるかもわからんということで、とりあえず半額で買い取って、デビューできたら残りを支払うということになった。すなわち、75万円という破格の安値であった。

無事、栗東の谷八郎厩舎に入ったものの、鞍さえ付けた事が無かったらしいヒカルイマイの調教は困難を極めた。なにせ、人を乗せたがらない。コーナーは曲がらない。いやいや、よくも関係者は匙を投げなかったなと。

どうにかこうにか形を付けて、ヒカルイマイは二歳10月にデビュー。期待?無い無い。という5番人気だったのだが、凄まじい末脚を披露して5馬身差圧勝。え~?びっくりした馬主は残りの75万円と合わせて「肋骨分」50万円を生産者に支払ったという。

続けざまに三連勝。翌年のきさらぎ賞で重賞初勝利してクラシックの有力馬に名乗りを上げる。しかし、気性が悪く、馬ごみに入るとやる気が無くなる難儀な馬であったらしく鞍上の田島良保騎手は試行錯誤の末、きさらぎ賞から後方待機策をヒカルイマイの「型」とすることを決める。

そして皐月賞。ムラのあるレース振りが嫌われたかヒカルイマイは4番人気。しかしレースは鮮やかだった。3コーナーから捲り気味に行ったヒカルイマイは直線、大外から先行馬をまとめて交わして優勝。150万円の馬がついにクラシックホースに上り詰めたのだった。なんという下克上。

現在なら当然ダービー直行なのだが、ヒカルイマイはNHK杯に出走。ここではやはりダービーを意識してか、直線早めに抜け出す作戦を取るが、辛勝。田島騎手はこのレースでダービーの腹を決めたに違いない。

そしてダービー。皐月賞馬であり、前走にもきっちり勝っているのにヒカルイマイは二番人気だった。血統や見栄えのしない馬体が嫌われたのか、はたまたダービー初騎乗の田島騎手が不安視されたのか。それにしてもNHKで負かしたダコタを一番人気に推した連中は何を考えていたのか・・・。

フルゲートのダービー。18頭じゃないよ、28頭だからね!馬場一杯に並んだ各馬が一斉にスタート。どーっと第一コーナーに殺到する。

この頭数では、道中で前の馬をさばくのは大変に難しい。つまり、第一コーナーでの位置取りでそのまま直線に向かう事になり易い。そのため、第一コーナーでの位置取りを10番手以内にすることがダービーに勝つには絶対に必要だと言われそれが「ダービーポジション」と名づけられていた。「ダービーは運の良い馬が勝つ」と言われたのは、枠順やスタートの失敗でダービーポジションを確保出来ず、人気馬が勝て無い例がままあったからである。

ところが、われらがヒカルイマイはまったく急がず、第一コーナーを22~23頭目くらいで通過していった。おいおい。この当時の常識ではもうヒカルイマイは絶望。やっぱり買わないで良かったと胸をなでおろしたファンが大勢いたらしい。

案の定、ヒカルイマイの前には20頭以上の馬が壁になっていて前には行けない状態。ペースも速くなく、追い込み馬に有利とは言えない。しかし田島騎手は慌てる様子も無く、4コーナーでは馬を大外に持ち出した。流石にこんなところまで来れば前には馬はいませんよというくらいの大外も大大外であった。そこで密かに末脚に着火していたヒカルイマイ。

だが、大観衆はそんなことは知らなかった。前ではハーバーロイヤルが逃げ馬を競り落として堂々先頭。ダコタはどこだ?もう。ハーバーロイヤルでこれは決まったろう。ファンは新しいダービー馬に拍手を送り大歓声で讃えた・・・。

と思ったら、なんか大外から飛んでくる黄色い帽子。は?誰だよ?

他に誰がいるものか。ヒカルイマイである。ヒカルイマイは他の馬が歩いているように見える末脚を繰り出し、その勢いのままハーバーロイヤルを並ぶ間もなくぶっこ抜いてしまったのである。府中はあまりの鬼脚に言葉を失い、ヒカルイマイの切れ味はその瞬間伝説となった。

直線だけで20頭以上もぶち抜いたダービー馬は前代未聞であった。鞍上の田島騎手は23歳初騎乗でのダービー制覇。「俺はダービーに乗ったんじゃない。ヒカルイマイに乗ったんだ」(脚色あり)の名台詞はダービー史に燦然と輝いている。

二冠を制したヒカルイマイ。これは三冠馬間違い無し!と盛り上がったのだが、秋は体調を崩して凡走。挙句に屈腱炎を発症。三冠はならなかった。一説では削蹄ミスという残念な理由での体調不良であった。復帰を目指して色々調整が続けられたが結局引退。ダービー後に一度も勝てなかった二冠馬の一頭になってしまった。

追い込みで有名な三冠馬ミスターシービーもダービーでは最後方追走のダービーポジション無視を行っているが、頭数がやや少なかった上、3コーナーから捲り直線入り口では好位につけている。それに対してヒカルイマイは純然たる直線「だけ」の追い込みである。鮮やかさはヒカルイマイの方が勝るだろう。強さを感じさせるダービー馬は他にも色々いるが「物凄いレース」という意味ではヒカルイマイのダービーが一番衝撃的なのではないかと思う。

引退後、種牡馬入りしたヒカルイマイであったが、サラ系の烙印が災いして成功出来ず、北海道から鹿児島に流れてくる。ここで出会ったのがニルキング牧場を営む服部文男氏であった。実はこの時、服部氏が食肉も扱っている事で「ヒカルイマイが肉にされる!」と驚いたファンが「ヒカルイマイの会」を結成して服部氏に真意を質しに行くという騒動が起きている。だが、服部氏はヒカルイマイを肉にすることなど考えてもおらず、種牡馬として成功させるために手立てを尽くした。

ヒカルイマイの会もただ声を出すだけではなく、積立貯金をして支援をしたという。服部氏はそのお金で牝馬を買うなどしてヒカルイマイに細々と種牡馬生活を続けさせた。牝馬の質が低すぎて大物は出なかったが中央で三勝した馬が出たというのだから、種付け機会が多ければもっと大きな成功を収めたかもしれない。

1992年。25歳で死亡。ヒカルイマイの会は積立金の残りを服部氏に送り、服部氏はそのお金で牧場内に立派なお墓を建立した。

安馬からダービー馬に、そして種牡馬失格から愛情に包まれた晩年へ。波乱万丈を絵に描いたような、規格外の生涯であった。

血統表

*シプリアニ
1958 黒鹿毛
Never Say Die
1951 栗毛
Nasrullah Nearco
Mumtaz Begum
Singing Grass War Admiral
Boreale
Carezza
1953 鹿毛
Rockefella Hyperion
Rockfel
Canzonetta Turkhan
Madrigal
サラ系
セイシュン
1954 栗毛
Ntb ミラ牝系
*ヴィーノーピュロー
1931 栗毛
Polemarch The Tetrarch
Pomace
Vainilla San Jorge
Verona
サラ系
安俊
1940 栗毛
月友 Man o'War
*星友
サラ系
竜玉
*チャペルブラムプトン
サラ系 第三ミラ
競走馬の4代血統表

クロスMan o'War 4×5(9.38%)

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関連項目

  • 競馬
  • 競走馬の一覧
  • ミラ(競走馬)・・・サラ系の牝祖の一頭。立派なサラブレッドなんだけどね。
  • トウメイ・・・同父。下克上っぷりがそっくり。
  • 1971年クラシック世代
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