日本国憲法第29条 単語

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日本国憲法第29条とは、日本国憲法第3章(国民の権利・義務)に存在する条文である。

概要

日本国憲法第29条は、国民の「財産権」を以下の通り保障し、規定している。[1]

  1. 財産権は、これを侵してはならない。
  2. 財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める。
  3. 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。

財産権は、18世紀末の近代社会において、フランス人権宣言17条「所有権は一つの神聖で不可侵の権利である」[2]との規定から窺い知れるように、不可侵の人権と考えられていた。同時に、基本的には奪われないものとして保障されている。これは日本においても同様であり、大日本帝国憲法第27条には「日本臣民ハ其ノ所有権ヲ侵サルヽコトナシ」[3]とある。

しかし、資本主義経済が発達、社会国家思想が進展すると、財産権は社会的な拘束を負うものと考えられるようになり、例えばワイマール憲法153条3項の「所有権は義務を伴う。その行使は同時に公共の福祉に役立つべきである」[4]という規定が、その典型である。第二次世界大戦後の憲法はそのほとんどがこの思想に基づいている。そして、現行憲法である日本国憲法では、広く「財産権」一般を保障している。

この財産権の保障は、日本国憲法第22条の職業選択の自由と居住移転の自由と併せて経済的自由権と称される。

解釈

財産権の保障

第29条1項は、財産権は侵してはならないものだと規定している。その意味は以下の2つ。

  1. 個人が現に有している財産上の権利の保障。
  2. 私有財産制(個人が財産権を享有しうる法制度)の保障。

つまり、この項では「財産権」と「財産権の制度」の2つを保障している、と考えられる。なお、財産権には、物権以外にも、債権や知的財産権などが含まれる。

財産権の制限

第29条2項は、財産権は公共の福祉に適合するように法律で定められるものだと規定している。

これは1項で保障された財産権が、法律によって制約されうることを明らかにしたもの。公共の福祉とは、第12条、第13条第22条にも用いられる用語で、その意味についてはしばしば争われるが、概ね国民全体の利益と解釈される人権の制約原理である。

奈良県ため池条例事件[5] - 1963年

1954年に制定された、奈良県の条例に関わる事件。
ため池の多い奈良県において、ため池の決壊などによる災害を未然に防ぐためにため池の堤塘(土手)での農耕行為を禁じたが、これに違反し耕作を続けた被告は罰金刑を科された。
条例によって財産権を制限されることを不服とした被告に対し、最高裁は公共の福祉のためにこれを受忍するべきであるとした。

財産権の制限と補償

第29条3項は、正当な補償の下、私有財産を公共のために用いることができると規定している。つまり、強制的に財産を制限ないし収用することができる。ただし、正当な補償をする必要がある。

この「正当な補償」については以下のような考え方が併存している。

  1. 補償の要否(補償が必要かどうか)について
    1. 2項・3項分離説:公共の福祉による一般的制限であれば補償は不要だが、公用収用の場合は必要。
    2. 特別犠牲説(従来の通説):公共の福祉による制限であっても、特定の個人ないし団体に、強制的な制限・収用によって財産権を著しく侵している場合は適宜考慮し判断する。
    3. 実質的要件説(近年の有力説):権利者に受忍するべき理由がなく、受忍限度を超えた侵害はもちろん、そうでなくとも特定の公益を目的として無関係に偶然に課せられる規制である場合は補償を要する。
  2. 補償の程度(どの程度補償すれば正当な補償といえるのか)について
    1. 完全補償説:当該財産の客観的な市場価格を全額補償すべきである。
    2. 相当補償説:合理的に算出された相当の額であれば市場価格を下回っても正当な補償であるといえる。

例えば道路拡幅により店舗の移転を余儀なくされた場合に、補償が必要だと判断され、完全補償説が採られれば、財産の市場価格に加えて移転料や営業上の損失などの付随する損失も含めて補償される。

関連項目

  • 日本国憲法
  • 人権
  • 知的財産権
  • 法律に関する記事の一覧

脚注

  1. *日本国憲法
  2. *Déclaration des droits de l'homme et du citoyen de 1789 邦訳から抜粋
  3. *大日本帝国憲法第二章
  4. *Weimarer Verfassung 邦訳から抜粋
  5. *奈良県ため池条例事件 上告審判決
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